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第6章―研究会
街を散策#1
しおりを挟む~ミハル視点~
研究会活動を始めて一週間経った。
「買い出しに行くよ」
ブラン先輩も加わり、秋の研究発表会に出展するものをどうするかと考えていた矢先、ダニエルが突然そう言った。
「買い出し?」
「だってここ何もないでしょ?せめて簡単な実験器具くらいは用意しないとね」
「ああ……」
今活動場所として使っているこの部屋はかつて科学技術の研究をしていたという教授の使っていた部屋だが、実験器具類はその教授がアカデミーを去った際にほとんどが処分されてしまったそうで、部屋にはほぼ何も残っていなかった。でもこれでは研究も何もない。
だからダニエルはそれを調達しに行きたいと言っているのだろう。
「行くのは良いけどそもそも実験器具なんて売ってるところあんのか?」
参考書片手に唸っていたレナルドがそう言って首を傾げた。レナルドはこの前の入会テストが全くわからなかったことを気にしており、この一週間かなり熱心に勉強をしていた。
レナルドは本当に努力家だな。5歳のときからそうだったけど。
「あてがあるからそこに行くよ。ついでに街で買い物でもしようかなって」
「何か買うものがあるの?」
「うーん、ていうか、息抜きも兼ねてかな?僕は今まで当主業が忙しくて首都を回ったことはあまりなかったからね。折角今は首都に居るんだし、ミハルだって街を散策したくない?」
「街を……散策……」
それは今までの俺がずっとしてみたいと思っていたことだった。
昔ダニエルにも言ったことがある――かつての俺のささやかな夢。
「い、行きたい!絶対に行く!」
「でしょ?だから行こうよ。買い出しついでにさ」
そう言ってダニエルは柔らかく微笑んだ。
その表情を見て俺は気付いた。ダニエルは俺の昔言った夢を叶えてくれようとしているのだと。
「ダニエル……ありがとう」
「別にお礼を言われるようなことじゃないよ」
やっぱり俺はダニエルには頭が上がらない。
――俺に大切なことを気付かせてくれただけでなく、夢まで叶えてくれるんだから。
***
数日後、俺達はアカデミーの授業が半日である日を利用して、終業後に首都の中心街へ行くこととなった。
まずはダニエルが言っていた「あて」へ行ってから、街の散策をすることになっている。
そしてその「あて」とは……
「――ミハル~!よく来たね!」
――俺の父であるウィリアム=ブラックウェルが所属している科学技術研究所だった。
父は俺のために開発していたマナを弾くアイテムの実用品が誕生した後も、さらなるアイテムのアップデートの為に首都で研究を続けていた。
更には魔法に頼らない生活基盤構築の為の科学技術の研究も未だに続けていた。
父は俺を見るなり満面の笑みで抱きしめてきた。
「体調はどう?問題ないかい?」
「はい、元気ですよ」
「それは良かった……うん、本当に」
父は身体を離して俺の身体を上から下まで見やった後、目を潤ませた。
「ううっ……。ミハルの制服姿……いつ見ても泣けてくるね……」
「お父さま……」
「――本当に、元気になって良かった」
目を潤ませる父の姿に、俺はアカデミーの入学式の日のことを思い出した。
入学式が終わった後、家族は皆、わざわざ首都まで来てくれて、俺の入学を祝ってくれた。
普段は領地に居る母とユリアス、エレナまで来て祝ってくれたのだ。その時の両親――特に父は号泣していて宥めるのが大変だったのをよく覚えている。
それくらい家族は皆、俺が屋敷から出てアカデミーに入れるくらいにまで回復することを願っていてくれたのだと、俺は改めて感じたのだった。
「ダニエル君、ありがとうね。ミハルの制服姿を見れたのも君のお陰だよ」
「――いえ、僕は自分がしたいことをしただけなので」
「それでも、君のお陰でマナを弾くアイテムが完成したのは事実だからなあ」
父は後ろの方で待機していたダニエルにも声を掛けた。
「本当にお古の実験器具を格安で譲るだけでいいの?むしろ僕としては最新のを買って寄付したいくらいなんだけどねぇ」
「いえ、科学技術研究会が認められるためには、そこはきちんとしないといけないので。お気持ちだけ貰います」
「本当君はしっかりしてるなぁ……」
毅然とした態度で父の申し出を断ったダニエルに、父は苦笑していた。
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