異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん

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第6章―研究会

入会#4

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――活動二日目。その日の最後の授業は、俺は特別カリキュラムの授業だった。校外学習前の出来事があってから俺を一人にしないように配慮してくれているレナルドが特別教室まで迎えに来てくれたので、彼と一緒に活動部屋へ行ったら、なんか部屋が人で溢れかえっていた。

「……あれ?部屋間違った?」
「いや合ってる……」

レナルドと部屋の扉を確認したが、間違いなく「科学技術研究会」と貼られていた。
何事かと入り口にて固まっていたら、先に来ていたダニエルが部屋の中から声を掛けてくれた。

「あ、ミハルとレナルド。お疲れ」
「……あ、うん。お疲れ……あの、ダニエル……なんか人、増えてない?」
「どこからか、僕が研究会を立ち上げたのが漏れたらしくて……」

ダニエルはそう言って困ったように頬を掻いた。その表情は何処か複雑そうだ。
どうやらこの沢山居る人たちは皆、正義の天才児ことダニエルが研究会を立ち上げたと聞いてやってきた人たちのようだ。
ダニエルはグリーンウッド家当主だし、ダニエルと繋がりを作りたい人は多いんだろう。たとえやることが科学技術の研究だとしてもだ。
でもダニエルとしては複雑だろう。ここに来た人たちが皆、純粋に科学技術に興味を持ってきてくれたとは限らないのだから。

「ここに居る人たち……皆研究会に入れるの?」
「いや、そのつもりはないよ。僕目当てに来た奴は振るい落とす。入会試験で」
「もしかして、昨日来たジル=ブラン先輩に言ってた簡単な試験のこと?」
「そう。昨日試験問題作ってきたからこれをやってもらうよ」

そう言ってダニエルは一枚の紙を渡してきた。
内容は前世なら小学生の理科くらい……だけど、この世界だと、科学技術に興味があって少しでもかじってなければわからないくらいの難易度のテストだった。


そしてその場でダニエルのテストを受けてもらった結果、溢れかえっていた人はほぼ居なくなった。
残ったのは昨日入りたいと来てくれたあの、ジル=ブラン先輩だけだった。

「いやぁ、合格できて良かったです」

どうやら彼が科学技術に興味があるというのは本当だったようで、テストはほぼ満点だった。

「……中々やるな……」

その結果には、流石のダニエルも先輩への見る目を変えざるを得なかったようだ。


「……全然わかんなかった……」

一方でレナルドのテスト結果はゼロ点だった。レナルドはまあ……仕方がない気がする。

「言っとくけどそれ、基礎中の基礎だからね」
「み、見てろ!次は満点取ってやるからな!」
「次満点じゃなかったら君も除名ね」

相変わらずレナルドに厳しいな、ダニエル。

ちなみにテストは俺も一応受けた。内容は前世の小学校の理科レベルだから流石に間違わなかった。
俺のテスト結果を見たダニエルは満足そうにしてたけど、あくまで前世の知識だし、なんだか申し訳ない気分になった。

「貴方も満点だったんですね!流石、ダニエル様と一緒に居らっしゃるだけはありますね」
「そ、そうですかね?」

ブラン先輩からも褒められたが、やっぱりズルな気がして手放しに喜べるものではなかった。

「あの、ところで貴方は……ミハル=ブラックウェル様でいいんですよね?」

するとブラン先輩が伺うように俺に聞いてきた。そういえば俺、まだ先輩に自己紹介してなかった。

「あ、はい。そうです。昨日の時点で自己紹介しなくてすみません」
「やっぱり!ここでまさかあの、ブラックウェルの『泡沫の姫公子』に会えるとは思いませんでした!」
「……え?あの、今、なんて?」
「『泡沫の姫公子』です!」

先輩の言い放った言葉に俺は思わず噴いた。なんだその恥ずかしい二つ名みたいなのは!!

「……それ、僕のことですか……?」
「僕ら下級貴族の間では一年半前くらいから話題になってますよ!ブラックウェルの幻の三男はまるで泡沫ような美しさと儚さを持った姫のような方だって!そこから付けられたのが『泡沫の姫公子』です」

俺はそれを聞いて今すぐ窓を破って外に飛び出したくなった。
そんな風に呼ばれてたなんて知らなかった。そりゃ今までは屋敷から一歩も出てなかったし知らないのは当たり前なんだけど。
誰だよそんな呼び名付けた奴。

横を見るとダニエルが俺から顔を逸らしながらぷるぷると肩を震わせていた。

「……ダニエル、知ってたの?」
「い、いや……ブフッ、しらな……ぐふっ」
「笑うならちゃんと笑って?」

変に笑い堪えられる方が羞恥心が増す。

「お、オレは良いと思うぞ!!ミハル!」
「なら代わりに呼ばれてみる?レナルド」
「……。ごめん」

即座に断るなら半端な慰めはしないでほしい。

「えー、とても良い通称だと思うんですが……特徴をよく表してません?実際にミハル様とお会いして、付けた人素晴らしい!と僕は思いましたよ!」
「やめてください本当に」

目を輝かせながら迫ってきた先輩に俺は顔を引き攣らせた。
今度帰省したら絶対に母かユリアスに頼んで出所を探ってもみ消してもらおうと俺は決意した。あんな恥ずかしい通称はブラックウェルの沽券にも関わる。


「――本当……まるで泡沫のようですね。貴方のその身体」

とにかく恥ずかしい通称をもみ消さなければと思っていた俺は気付かなかった。
――ブラン先輩がそんな意味深な言葉を呟いていたことなんて。


***


研究会の時間が終わり、ジル=ブランはミハルらと別れて自身の寮へと帰る――のではなく、アカデミー敷地内の人気のない建物の裏へと向かった。
彼は周りに誰も居ないことを確認すると、指を鳴らして自身の周りに魔法で結界を張った。

そして、懐から手のひらほどの大きさの水晶――通信用の魔法具を取り出した。
魔法具に触れ、しばらく経つと水晶から声が聞こえた。

『――ジルか?』
「はい、そうです。何とか潜り込みましたよ。――ミハル=ブラックウェルの入った研究会に」
『そうか。よくやった』

通信の相手は淡々とした口調でそう言った。

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