異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん

文字の大きさ
上 下
41 / 80
第5章―似た者兄弟

校外学習#3

しおりを挟む

「すごい!アル兄さま、馬車の運転上手ですね!ここまで全然酔いませんでした!」
「っ……」

感動して思わずアルフレッドの手を握ったら、アルフレッドは肩を強張らせて固まってしまった。

「あれ?アル兄さま?」
「……別に、これくらい、普通だから」
「そんなことないですよ!僕が全く酔わないなんて、普通あり得ないんですから!」

ブラックウェルの御者の運転でもやっぱりどうしても少しは酔っちゃうのに、こんなに快適に馬車に乗れたのは初めてだったのだ。
だからアルフレッドの馬車の運転技術はとんでもないということになる。
その技術を称讃する意味で言ったのだが、アルフレッドの表情が何故か曇った。

「ミハル……いつも馬車に乗ってたとき、酔ってたのか」
「あ、でも、今は昔ほどひどくないですよ?ちょっと気持ち悪くなるくらいなので……」
「なんでお前はいつもそう、何も言わないんだ……」

アルフレッドが若干震えながら言った言葉に、俺は困惑した。
言うほどのことでもないから言ってなかっただけなんだけど、なんだか深刻に捉えられているようだ。

「に、兄さま……?」
「……っ、なんでも、ない」

アルフレッドは何かを飲み込むようにそう呟くと、「行くぞ」と言って博物館の入り口へと歩き出した。
俺は慌ててそれに着いて行った。


「――おお~、すごい!」

博物館へと入場するなり、俺は無限に広がるかのような厳かな内装に感嘆の声を上げた。
パンフレットを受付で貰って館内図を見ると、やはりとても広かった。流石は国立の博物館だ。見どころは沢山ありそう。
回れるものならすべてのところを回りたいが、今の俺にはそれは無理なので、見たいと思うところを選んでいくことにした。

「どこに行きたいんだ?」
「うーん……そうですね」

この博物館は骨董品とかが置いてあるブースだけじゃなくて、前世でいう自然博物館とか歴史博物館のようなブースもあるようだ。
この世界における自然や生き物の展示とか、世界の成り立ちと歴史を紹介するコーナーもある。魔法具の歴史と書いてある場所もあるな。俺は絶対行けないけど。

「やっぱり……ここかなぁ」

俺はアルフレッドへパンフレットに書かれているブースの内の一つを示した。
それはこの世界の自然――その中でも植物を紹介しているブースだ。

「ミハル……やっぱり植物好きなんだな」

俺が示したところを見たアルフレッドは、どこか懐かしむような声でそう言った。

そう、転生してから俺は、植物が好きになった。
それは、体調が悪くて部屋の中にしか居られなくても、窓から外を見て季節毎に咲く草花を見れば、季節を感じることができたからだ。
家の中にばっかりいると、やっぱりなんだか少し世の中に取り残されてる気分になるけど、草花が季節ごとに咲いては枯れて、また咲いていくその時間の流れを見ることで、俺も間違いなくこの世界で生きているんだということを実感できた。
だから、そういう実感をくれる植物が、俺は好きになったのだ。

「じゃあ、そこに行こう」
「はい!」

俺はアルフレッドと共に植物の展示ブースへと向かった。


「……は、はあ……っ、はあ……」

しかし植物の展示ブースは入り口から結構離れていた。国内最大とも名高いこの博物館は建物の中とは思えない程広く、俺は案の定途中でバテた。

「……ミハル、平気か」
「ご、ごめんなさい……だ、だいじょうぶ、です」

歩いてもすぐ息切れしてしまって、その度にアルフレッドを待たせてしまうのが申し訳なかった。

「やっぱり、もっと、入り口に、近いとこにすれば、良かったですね……ごめんなさい」
「……そんなこと気にする必要ない。ミハルが見たいところに行けばいい」

申し訳なさから謝ると、アルフレッドはそう言ってくれた。
たとえ俺のことが嫌いでも、こうやって気遣ってくれるからやっぱりアルフレッドは優しい。
だというのに昔の俺ときたら……純粋無垢な幼いアルフレッドにトラウマを植え付けてしまって……。
だからこの校外学習の間に何としても、4歳の頃の出来事を謝って、アルフレッドと仲直りをするのだ。

俺は改めて決意を固めた。

しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

はるはう
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに溺愛されます

はるはう
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。 睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。 驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった! そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・ フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

処理中です...