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第5章―似た者兄弟
校外学習#3
しおりを挟む「すごい!アル兄さま、馬車の運転上手ですね!ここまで全然酔いませんでした!」
「っ……」
感動して思わずアルフレッドの手を握ったら、アルフレッドは肩を強張らせて固まってしまった。
「あれ?アル兄さま?」
「……別に、これくらい、普通だから」
「そんなことないですよ!僕が全く酔わないなんて、普通あり得ないんですから!」
ブラックウェルの御者の運転でもやっぱりどうしても少しは酔っちゃうのに、こんなに快適に馬車に乗れたのは初めてだったのだ。
だからアルフレッドの馬車の運転技術はとんでもないということになる。
その技術を称讃する意味で言ったのだが、アルフレッドの表情が何故か曇った。
「ミハル……いつも馬車に乗ってたとき、酔ってたのか」
「あ、でも、今は昔ほどひどくないですよ?ちょっと気持ち悪くなるくらいなので……」
「なんでお前はいつもそう、何も言わないんだ……」
アルフレッドが若干震えながら言った言葉に、俺は困惑した。
言うほどのことでもないから言ってなかっただけなんだけど、なんだか深刻に捉えられているようだ。
「に、兄さま……?」
「……っ、なんでも、ない」
アルフレッドは何かを飲み込むようにそう呟くと、「行くぞ」と言って博物館の入り口へと歩き出した。
俺は慌ててそれに着いて行った。
「――おお~、すごい!」
博物館へと入場するなり、俺は無限に広がるかのような厳かな内装に感嘆の声を上げた。
パンフレットを受付で貰って館内図を見ると、やはりとても広かった。流石は国立の博物館だ。見どころは沢山ありそう。
回れるものならすべてのところを回りたいが、今の俺にはそれは無理なので、見たいと思うところを選んでいくことにした。
「どこに行きたいんだ?」
「うーん……そうですね」
この博物館は骨董品とかが置いてあるブースだけじゃなくて、前世でいう自然博物館とか歴史博物館のようなブースもあるようだ。
この世界における自然や生き物の展示とか、世界の成り立ちと歴史を紹介するコーナーもある。魔法具の歴史と書いてある場所もあるな。俺は絶対行けないけど。
「やっぱり……ここかなぁ」
俺はアルフレッドへパンフレットに書かれているブースの内の一つを示した。
それはこの世界の自然――その中でも植物を紹介しているブースだ。
「ミハル……やっぱり植物好きなんだな」
俺が示したところを見たアルフレッドは、どこか懐かしむような声でそう言った。
そう、転生してから俺は、植物が好きになった。
それは、体調が悪くて部屋の中にしか居られなくても、窓から外を見て季節毎に咲く草花を見れば、季節を感じることができたからだ。
家の中にばっかりいると、やっぱりなんだか少し世の中に取り残されてる気分になるけど、草花が季節ごとに咲いては枯れて、また咲いていくその時間の流れを見ることで、俺も間違いなくこの世界で生きているんだということを実感できた。
だから、そういう実感をくれる植物が、俺は好きになったのだ。
「じゃあ、そこに行こう」
「はい!」
俺はアルフレッドと共に植物の展示ブースへと向かった。
「……は、はあ……っ、はあ……」
しかし植物の展示ブースは入り口から結構離れていた。国内最大とも名高いこの博物館は建物の中とは思えない程広く、俺は案の定途中でバテた。
「……ミハル、平気か」
「ご、ごめんなさい……だ、だいじょうぶ、です」
歩いてもすぐ息切れしてしまって、その度にアルフレッドを待たせてしまうのが申し訳なかった。
「やっぱり、もっと、入り口に、近いとこにすれば、良かったですね……ごめんなさい」
「……そんなこと気にする必要ない。ミハルが見たいところに行けばいい」
申し訳なさから謝ると、アルフレッドはそう言ってくれた。
たとえ俺のことが嫌いでも、こうやって気遣ってくれるからやっぱりアルフレッドは優しい。
だというのに昔の俺ときたら……純粋無垢な幼いアルフレッドにトラウマを植え付けてしまって……。
だからこの校外学習の間に何としても、4歳の頃の出来事を謝って、アルフレッドと仲直りをするのだ。
俺は改めて決意を固めた。
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