異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん

文字の大きさ
上 下
35 / 80
第4章―念願のアカデミー

アカデミーの授業#1

しおりを挟む
アカデミーは6年制の高等学院だ。身分にかかわらず、入学試験に合格した人にはその門戸が開かれる。
一、二年のうちは各学問の基礎を幅広く学び、三年から専攻を選んで専門的なことを学んでいく形だ。

俺とダニエルはもう専攻は科学技術にすると決めているけど、それ以外の学問も学びたい気持ちはあるから他の授業もとても楽しみだ。

でも俺にはどうしても出来ない科目がある。それは魔法に関連する科目だ。
マナ不適合症である俺には魔法は扱えない。普通の人でも魔法は使えない人がほとんどだそうだけど、魔法が込められた魔術道具の扱い方を学ぶ魔術学なんて科目もある。それは必修科目の一つだった。
でも俺は魔術道具は触れないので、その授業は免除されることになっている。その代わり、別授業で魔術学のことを紙面上で学ぶ予定だ。
その他にも魔法薬学とか、マナがあるものを扱う授業は免除で、代わりのペーパーテストで補う、俺だけの特別カリキュラムが組まれている。

実は俺が一年遅れで入学することになったのって、この特別カリキュラムを組むための準備を待つ意味もあったんだよね。


その特別カリキュラムで授業を受けること約一か月。まだ慣れないことも多いし何度か体調を崩して休む日もあったけど何とかここまで順調に学校生活を送ることが出来ていた。

「ねえ、ダニエル。次の授業何だっけ」
「えーと、魔法薬学(実技)だ」
「あ、じゃあ僕は……」
「うん、また後で。途中で行き倒れないようにね」
「ちょっ、そこまで弱くないから!!」

ダニエルにからかわれつつ、俺は教材を持って専用の教室へと向かった。
その途中でのことだ。

――ビシャっ。

「わっ、」

歩いている途中で、突然横から顔に何かがかかった。

「……水?」

触ってみるとそれは水だった。触ったところが少しぴりつく気がしたが、匂いを嗅いでもどう見ても水だったため、持っていたハンカチでそれを拭った。

「なんで水が?……まあいいか」

突然水が顔にかかって不思議だったが、授業に遅れるわけにはいかないので深くは考えずに教室へと向かった。


――だが、それからというもの。
一人で歩いているとき、必ずと言っていいほど顔に水がかけられるようになった。でも、ダニエルと一緒に居るときは何もない。
ここまで来ると流石の俺も、誰かが嫌がらせで水を掛けてきていると気付いたが、でもどうしようもなかった。
多分……その誰かには、俺だけ特別扱いされているように見えてるんだろう。実際そうだし。

特別扱いされているのは間違いないから、仕方ないかと俺はずっと黙っていた。嫌がらせも水を掛けられるだけだったので。


今日も一人で歩いていたら水がかけられた。

「……はあ」

最近はタオルを用意している。ハンカチより良く拭けるからだ。
溜息を吐きながら顔を拭いていると、どこからかくすくすと笑い声が聞こえてきた。しかし姿を見せないあたり、結構陰湿である。
でも意気地なしだ。俺がダニエルと仲いいことは知っているから、証拠が残るようなことはしてこない。証拠が残るとダニエルにすぐに伝わると犯人はわかっているのだ。

だが残念だな!俺は前世じゃもっとどぎつい嫌がらせもされたことあるんだよ!この程度は屁でもないわ!


「――ねえ、ミハル。最近顔色悪いよ。大丈夫?」
「え、そ、そうかな?でも大丈夫だよ?」

そうはいっても地味な嫌がらせは、少しずつ精神を消耗させていく。
ついに今日はダニエルに顔色の悪さを指摘されてしまった。なるだけ平然を装っていたのだけど、最近は嫌がらせにプラスでちょっと息苦しさが強くなっていて、それが顔に出てしまったのかもしれない。

「あ、ほら、次魔術学だし。僕教室行かなきゃ!また後で!」
「あっ、ミハル!」

ダニエルに引き留められる前に、俺は教材を持って逃げるようにその場を去った。



「っ、はあ、はあ……ゲホゴホッ!……ハア……ゴホッ!」

ダニエルに気付かれたくなくてつい小走りしてしまったら、余計に息苦しさが増してしまった。ヤバい、やらかした……。

「ハア、ハアっ、ゲホッ、……はあ、はあっ……ゲホゲホッ!」

何とか息を整えようとその場でうずくまるも、中々息は整わなかった。それどころか息苦しさは増していく。
……あー、これ不味い。このままだと発作起きそう……

そのときだった。バシャン!と蹲る俺の頭上に比較的多めの水がかけられた。
ぼたぼたと頭から水が垂れ落ちるのに気付いた時、俺は息苦しさがさらに増したのを感じた。

「っ、う、ゲホゲホッ、ゴホッ!ゲホッ……!」

途端に咳が溢れ出た。完全に発作が始まってしまった。常備している薬を吸おうにも息苦しさが酷くてそれすらままならない。
先程までは発作が起きそうだったとは言え、ここまでじゃなかった。だというのに、水がかけられた途端息苦しさが増して発作になってしまった。
まさかこの水、ただの水じゃないのか……?

しかし今の俺にそれを考えている余裕はなかった。早くどうにかしないと、やばい……!


「――!?ミハル!?」

意識が朦朧としてきたそのとき、その場に現れたのは……

「れ、れなる……ゲホッ!」
「ミハル!しっかりしろ!今、医務室に連れてくから!」

レナルドは俺を抱え上げると、そのまま医務室へと運んでくれたのだった。

しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

はるはう
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに溺愛されます

はるはう
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。 睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。 驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった! そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・ フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

処理中です...