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第4章―念願のアカデミー
アカデミーの授業#1
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アカデミーは6年制の高等学院だ。身分にかかわらず、入学試験に合格した人にはその門戸が開かれる。
一、二年のうちは各学問の基礎を幅広く学び、三年から専攻を選んで専門的なことを学んでいく形だ。
俺とダニエルはもう専攻は科学技術にすると決めているけど、それ以外の学問も学びたい気持ちはあるから他の授業もとても楽しみだ。
でも俺にはどうしても出来ない科目がある。それは魔法に関連する科目だ。
マナ不適合症である俺には魔法は扱えない。普通の人でも魔法は使えない人がほとんどだそうだけど、魔法が込められた魔術道具の扱い方を学ぶ魔術学なんて科目もある。それは必修科目の一つだった。
でも俺は魔術道具は触れないので、その授業は免除されることになっている。その代わり、別授業で魔術学のことを紙面上で学ぶ予定だ。
その他にも魔法薬学とか、マナがあるものを扱う授業は免除で、代わりのペーパーテストで補う、俺だけの特別カリキュラムが組まれている。
実は俺が一年遅れで入学することになったのって、この特別カリキュラムを組むための準備を待つ意味もあったんだよね。
その特別カリキュラムで授業を受けること約一か月。まだ慣れないことも多いし何度か体調を崩して休む日もあったけど何とかここまで順調に学校生活を送ることが出来ていた。
「ねえ、ダニエル。次の授業何だっけ」
「えーと、魔法薬学(実技)だ」
「あ、じゃあ僕は……」
「うん、また後で。途中で行き倒れないようにね」
「ちょっ、そこまで弱くないから!!」
ダニエルにからかわれつつ、俺は教材を持って専用の教室へと向かった。
その途中でのことだ。
――ビシャっ。
「わっ、」
歩いている途中で、突然横から顔に何かがかかった。
「……水?」
触ってみるとそれは水だった。触ったところが少しぴりつく気がしたが、匂いを嗅いでもどう見ても水だったため、持っていたハンカチでそれを拭った。
「なんで水が?……まあいいか」
突然水が顔にかかって不思議だったが、授業に遅れるわけにはいかないので深くは考えずに教室へと向かった。
――だが、それからというもの。
一人で歩いているとき、必ずと言っていいほど顔に水がかけられるようになった。でも、ダニエルと一緒に居るときは何もない。
ここまで来ると流石の俺も、誰かが嫌がらせで水を掛けてきていると気付いたが、でもどうしようもなかった。
多分……その誰かには、俺だけ特別扱いされているように見えてるんだろう。実際そうだし。
特別扱いされているのは間違いないから、仕方ないかと俺はずっと黙っていた。嫌がらせも水を掛けられるだけだったので。
今日も一人で歩いていたら水がかけられた。
「……はあ」
最近はタオルを用意している。ハンカチより良く拭けるからだ。
溜息を吐きながら顔を拭いていると、どこからかくすくすと笑い声が聞こえてきた。しかし姿を見せないあたり、結構陰湿である。
でも意気地なしだ。俺がダニエルと仲いいことは知っているから、証拠が残るようなことはしてこない。証拠が残るとダニエルにすぐに伝わると犯人はわかっているのだ。
だが残念だな!俺は前世じゃもっとどぎつい嫌がらせもされたことあるんだよ!この程度は屁でもないわ!
「――ねえ、ミハル。最近顔色悪いよ。大丈夫?」
「え、そ、そうかな?でも大丈夫だよ?」
そうはいっても地味な嫌がらせは、少しずつ精神を消耗させていく。
ついに今日はダニエルに顔色の悪さを指摘されてしまった。なるだけ平然を装っていたのだけど、最近は嫌がらせにプラスでちょっと息苦しさが強くなっていて、それが顔に出てしまったのかもしれない。
「あ、ほら、次魔術学だし。僕教室行かなきゃ!また後で!」
「あっ、ミハル!」
ダニエルに引き留められる前に、俺は教材を持って逃げるようにその場を去った。
「っ、はあ、はあ……ゲホゴホッ!……ハア……ゴホッ!」
ダニエルに気付かれたくなくてつい小走りしてしまったら、余計に息苦しさが増してしまった。ヤバい、やらかした……。
「ハア、ハアっ、ゲホッ、……はあ、はあっ……ゲホゲホッ!」
何とか息を整えようとその場でうずくまるも、中々息は整わなかった。それどころか息苦しさは増していく。
……あー、これ不味い。このままだと発作起きそう……
そのときだった。バシャン!と蹲る俺の頭上に比較的多めの水がかけられた。
ぼたぼたと頭から水が垂れ落ちるのに気付いた時、俺は息苦しさがさらに増したのを感じた。
「っ、う、ゲホゲホッ、ゴホッ!ゲホッ……!」
途端に咳が溢れ出た。完全に発作が始まってしまった。常備している薬を吸おうにも息苦しさが酷くてそれすらままならない。
先程までは発作が起きそうだったとは言え、ここまでじゃなかった。だというのに、水がかけられた途端息苦しさが増して発作になってしまった。
まさかこの水、ただの水じゃないのか……?
しかし今の俺にそれを考えている余裕はなかった。早くどうにかしないと、やばい……!
「――!?ミハル!?」
意識が朦朧としてきたそのとき、その場に現れたのは……
「れ、れなる……ゲホッ!」
「ミハル!しっかりしろ!今、医務室に連れてくから!」
レナルドは俺を抱え上げると、そのまま医務室へと運んでくれたのだった。
一、二年のうちは各学問の基礎を幅広く学び、三年から専攻を選んで専門的なことを学んでいく形だ。
俺とダニエルはもう専攻は科学技術にすると決めているけど、それ以外の学問も学びたい気持ちはあるから他の授業もとても楽しみだ。
でも俺にはどうしても出来ない科目がある。それは魔法に関連する科目だ。
マナ不適合症である俺には魔法は扱えない。普通の人でも魔法は使えない人がほとんどだそうだけど、魔法が込められた魔術道具の扱い方を学ぶ魔術学なんて科目もある。それは必修科目の一つだった。
でも俺は魔術道具は触れないので、その授業は免除されることになっている。その代わり、別授業で魔術学のことを紙面上で学ぶ予定だ。
その他にも魔法薬学とか、マナがあるものを扱う授業は免除で、代わりのペーパーテストで補う、俺だけの特別カリキュラムが組まれている。
実は俺が一年遅れで入学することになったのって、この特別カリキュラムを組むための準備を待つ意味もあったんだよね。
その特別カリキュラムで授業を受けること約一か月。まだ慣れないことも多いし何度か体調を崩して休む日もあったけど何とかここまで順調に学校生活を送ることが出来ていた。
「ねえ、ダニエル。次の授業何だっけ」
「えーと、魔法薬学(実技)だ」
「あ、じゃあ僕は……」
「うん、また後で。途中で行き倒れないようにね」
「ちょっ、そこまで弱くないから!!」
ダニエルにからかわれつつ、俺は教材を持って専用の教室へと向かった。
その途中でのことだ。
――ビシャっ。
「わっ、」
歩いている途中で、突然横から顔に何かがかかった。
「……水?」
触ってみるとそれは水だった。触ったところが少しぴりつく気がしたが、匂いを嗅いでもどう見ても水だったため、持っていたハンカチでそれを拭った。
「なんで水が?……まあいいか」
突然水が顔にかかって不思議だったが、授業に遅れるわけにはいかないので深くは考えずに教室へと向かった。
――だが、それからというもの。
一人で歩いているとき、必ずと言っていいほど顔に水がかけられるようになった。でも、ダニエルと一緒に居るときは何もない。
ここまで来ると流石の俺も、誰かが嫌がらせで水を掛けてきていると気付いたが、でもどうしようもなかった。
多分……その誰かには、俺だけ特別扱いされているように見えてるんだろう。実際そうだし。
特別扱いされているのは間違いないから、仕方ないかと俺はずっと黙っていた。嫌がらせも水を掛けられるだけだったので。
今日も一人で歩いていたら水がかけられた。
「……はあ」
最近はタオルを用意している。ハンカチより良く拭けるからだ。
溜息を吐きながら顔を拭いていると、どこからかくすくすと笑い声が聞こえてきた。しかし姿を見せないあたり、結構陰湿である。
でも意気地なしだ。俺がダニエルと仲いいことは知っているから、証拠が残るようなことはしてこない。証拠が残るとダニエルにすぐに伝わると犯人はわかっているのだ。
だが残念だな!俺は前世じゃもっとどぎつい嫌がらせもされたことあるんだよ!この程度は屁でもないわ!
「――ねえ、ミハル。最近顔色悪いよ。大丈夫?」
「え、そ、そうかな?でも大丈夫だよ?」
そうはいっても地味な嫌がらせは、少しずつ精神を消耗させていく。
ついに今日はダニエルに顔色の悪さを指摘されてしまった。なるだけ平然を装っていたのだけど、最近は嫌がらせにプラスでちょっと息苦しさが強くなっていて、それが顔に出てしまったのかもしれない。
「あ、ほら、次魔術学だし。僕教室行かなきゃ!また後で!」
「あっ、ミハル!」
ダニエルに引き留められる前に、俺は教材を持って逃げるようにその場を去った。
「っ、はあ、はあ……ゲホゴホッ!……ハア……ゴホッ!」
ダニエルに気付かれたくなくてつい小走りしてしまったら、余計に息苦しさが増してしまった。ヤバい、やらかした……。
「ハア、ハアっ、ゲホッ、……はあ、はあっ……ゲホゲホッ!」
何とか息を整えようとその場でうずくまるも、中々息は整わなかった。それどころか息苦しさは増していく。
……あー、これ不味い。このままだと発作起きそう……
そのときだった。バシャン!と蹲る俺の頭上に比較的多めの水がかけられた。
ぼたぼたと頭から水が垂れ落ちるのに気付いた時、俺は息苦しさがさらに増したのを感じた。
「っ、う、ゲホゲホッ、ゴホッ!ゲホッ……!」
途端に咳が溢れ出た。完全に発作が始まってしまった。常備している薬を吸おうにも息苦しさが酷くてそれすらままならない。
先程までは発作が起きそうだったとは言え、ここまでじゃなかった。だというのに、水がかけられた途端息苦しさが増して発作になってしまった。
まさかこの水、ただの水じゃないのか……?
しかし今の俺にそれを考えている余裕はなかった。早くどうにかしないと、やばい……!
「――!?ミハル!?」
意識が朦朧としてきたそのとき、その場に現れたのは……
「れ、れなる……ゲホッ!」
「ミハル!しっかりしろ!今、医務室に連れてくから!」
レナルドは俺を抱え上げると、そのまま医務室へと運んでくれたのだった。
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