異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん

文字の大きさ
上 下
30 / 80
間章―レナちゃんの生誕パーティー

おまけ2 アルフレッド視点#2

しおりを挟む
その後も何度かミハルは発作を起こしかけたが、薬のお陰で大事に至ることはなく、パーティーの最後まで出席することができた。
パーティーが無事終わり、会場にて来賓方の見送りをする母上とユリアス兄様以外は屋敷に戻った。

「ミハルおにいさま!アルおにいさま、おとうさま!今日は、ほんとうにありがとう!わたし、きょうのパーティーが一番たのしかった!」
「ふふ、よかったね、レナ」
「うん!それじゃ、おやすみなさい!」
「おやすみ、レナ。いい夢見るんだよ」
「おとうさまたちもね!」

最後までミハルと共に居れたレナは満足そうに、メイドに連れられ自室へと戻っていった。
そしてレナの姿が扉の向こうへ消えた直後、ミハルが身を折って激しく咳き込み始めた。

「ッゲホッ、ゴホゴホッ、ゲホッ!……ゔ……ッゲホッ、ゲホゴホッ!」
「ミハル!アル、吸入!」

一瞬で父の顔から医者の顔へと変わった父上へ、俺は懐の薬を急いで手渡した。
父上が薬を吸わせる横で、俺はミハルの背をひたすらさすり続けた。
今回の発作は強力な発作止めを以てしても中々収まらなかったが、しばらくしてようやく薬が効いたようで、ミハルの発作は少しずつだが収まっていった。

「はあ、はあ……ごめ、なさ……ゴホッ、」
「大丈夫だよ、つらかったね。……もしかしてずっと我慢してたの?」
「……レナが、たのしそうだったから、水差したく、なくて……けほっ」

どうやらずっとレナの側では激しく咳き込まないように抑えていたようだが、レナが自室へ戻ったことで気が抜け、発作が起きてしまったようだ。

「レナのために頑張ってくれたのは偉いけど、苦しい時は我慢しちゃ駄目っていつも言ってるでしょ」
「……う、ごめんなさい」
「もうパーティーは終わったからいいけどね。……さ、部屋戻ろうか」

初めてのパーティー参加に加え重めの発作を起こしてしまったミハルはとても疲れたようで、自室へ戻った直後に気を失うように寝入ってしまった。
眠るミハルを父上と二人がかりで着替えさせ、ベッドの上で穏やかに眠っているのを見て、ようやく二人、肩の力を抜いた。

「ふう……今日一日、大丈夫かなと思ってたけど、なんとかなって良かった。アルも、ミハルのこと見ててくれてありがとうね。疲れたでしょう」
「いえ……俺は大丈夫です。ミハルの方が疲れたと思います」
「まあそれはそうだろうけど……。そうやって隠そうとするところ、やっぱり兄弟だなあ、君たちは」

父上はそう言って苦笑すると、俺の頭をぽんぽんと撫でた。父上に頭を撫でられたのは久しぶりだった。

「よく頑張ったね、お疲れ様。ミハルは僕が見てるから、部屋戻っていいよ。ゆっくりお休み」
「……はい、わかりました。おやすみなさい」

父上に一礼して、俺はミハルの部屋を後にした。
自室へ戻った直後、俺は上着も脱がずにベッドの上へ倒れこんだ。
父上と話したときは本当に疲れを感じていなかったけど、自室に帰ってきた途端疲れがどっと押し寄せてきた。
自分が思った以上に疲れていたらしい。駄目だと思いながらも瞼が勝手に下がってくる。

瞼を閉じると浮かぶのは、今日のパーティーの光景。
母上と父上、兄様、楽しそうなレナと……その横で笑うミハル。

それから、小さい頃、ミハルと二人で庭で遊んだときの記憶。
疲れるといつも浮かんでくる――後悔の記憶。

俺が連れ出した先で倒れこんだ幼いミハルの姿が、ずっと頭から離れない。
どうして俺はあのとき、ミハルを連れ出したのか。ミハルから目を離してしまったのか。

この記憶は決して、忘れてはならない。俺の後悔。俺の罪。
だけど思い出すのが嫌でつらくて、ミハルを避けるようになってしまった、弱い俺。

久しぶりにミハルとこんなに長く一緒に居たから今日は特に濃く、鮮明に思い出させられる。

「――ごめん、ごめんなさい……ミハル」

ミハルは俺が強いって言ってくれたけど、全然そんなことない。
俺は本当は、ミハルがいないところで、一人で馬鹿みたいに謝ることしかできない、弱い意気地なしなんだよ。

俺はその日久しぶりに泣きながら眠り、朝起きて着替えもせず寝てしまったことを後悔したのだった。

俺はいつも後悔ばっかりだ……。

しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

はるはう
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに溺愛されます

はるはう
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。 睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。 驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった! そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・ フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

処理中です...