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間章―レナちゃんの生誕パーティー
おまけ2 アルフレッド視点#2
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その後も何度かミハルは発作を起こしかけたが、薬のお陰で大事に至ることはなく、パーティーの最後まで出席することができた。
パーティーが無事終わり、会場にて来賓方の見送りをする母上とユリアス兄様以外は屋敷に戻った。
「ミハルおにいさま!アルおにいさま、おとうさま!今日は、ほんとうにありがとう!わたし、きょうのパーティーが一番たのしかった!」
「ふふ、よかったね、レナ」
「うん!それじゃ、おやすみなさい!」
「おやすみ、レナ。いい夢見るんだよ」
「おとうさまたちもね!」
最後までミハルと共に居れたレナは満足そうに、メイドに連れられ自室へと戻っていった。
そしてレナの姿が扉の向こうへ消えた直後、ミハルが身を折って激しく咳き込み始めた。
「ッゲホッ、ゴホゴホッ、ゲホッ!……ゔ……ッゲホッ、ゲホゴホッ!」
「ミハル!アル、吸入!」
一瞬で父の顔から医者の顔へと変わった父上へ、俺は懐の薬を急いで手渡した。
父上が薬を吸わせる横で、俺はミハルの背をひたすらさすり続けた。
今回の発作は強力な発作止めを以てしても中々収まらなかったが、しばらくしてようやく薬が効いたようで、ミハルの発作は少しずつだが収まっていった。
「はあ、はあ……ごめ、なさ……ゴホッ、」
「大丈夫だよ、つらかったね。……もしかしてずっと我慢してたの?」
「……レナが、たのしそうだったから、水差したく、なくて……けほっ」
どうやらずっとレナの側では激しく咳き込まないように抑えていたようだが、レナが自室へ戻ったことで気が抜け、発作が起きてしまったようだ。
「レナのために頑張ってくれたのは偉いけど、苦しい時は我慢しちゃ駄目っていつも言ってるでしょ」
「……う、ごめんなさい」
「もうパーティーは終わったからいいけどね。……さ、部屋戻ろうか」
初めてのパーティー参加に加え重めの発作を起こしてしまったミハルはとても疲れたようで、自室へ戻った直後に気を失うように寝入ってしまった。
眠るミハルを父上と二人がかりで着替えさせ、ベッドの上で穏やかに眠っているのを見て、ようやく二人、肩の力を抜いた。
「ふう……今日一日、大丈夫かなと思ってたけど、なんとかなって良かった。アルも、ミハルのこと見ててくれてありがとうね。疲れたでしょう」
「いえ……俺は大丈夫です。ミハルの方が疲れたと思います」
「まあそれはそうだろうけど……。そうやって隠そうとするところ、やっぱり兄弟だなあ、君たちは」
父上はそう言って苦笑すると、俺の頭をぽんぽんと撫でた。父上に頭を撫でられたのは久しぶりだった。
「よく頑張ったね、お疲れ様。ミハルは僕が見てるから、部屋戻っていいよ。ゆっくりお休み」
「……はい、わかりました。おやすみなさい」
父上に一礼して、俺はミハルの部屋を後にした。
自室へ戻った直後、俺は上着も脱がずにベッドの上へ倒れこんだ。
父上と話したときは本当に疲れを感じていなかったけど、自室に帰ってきた途端疲れがどっと押し寄せてきた。
自分が思った以上に疲れていたらしい。駄目だと思いながらも瞼が勝手に下がってくる。
瞼を閉じると浮かぶのは、今日のパーティーの光景。
母上と父上、兄様、楽しそうなレナと……その横で笑うミハル。
それから、小さい頃、ミハルと二人で庭で遊んだときの記憶。
疲れるといつも浮かんでくる――後悔の記憶。
俺が連れ出した先で倒れこんだ幼いミハルの姿が、ずっと頭から離れない。
どうして俺はあのとき、ミハルを連れ出したのか。ミハルから目を離してしまったのか。
この記憶は決して、忘れてはならない。俺の後悔。俺の罪。
だけど思い出すのが嫌でつらくて、ミハルを避けるようになってしまった、弱い俺。
久しぶりにミハルとこんなに長く一緒に居たから今日は特に濃く、鮮明に思い出させられる。
「――ごめん、ごめんなさい……ミハル」
ミハルは俺が強いって言ってくれたけど、全然そんなことない。
俺は本当は、ミハルがいないところで、一人で馬鹿みたいに謝ることしかできない、弱い意気地なしなんだよ。
俺はその日久しぶりに泣きながら眠り、朝起きて着替えもせず寝てしまったことを後悔したのだった。
俺はいつも後悔ばっかりだ……。
パーティーが無事終わり、会場にて来賓方の見送りをする母上とユリアス兄様以外は屋敷に戻った。
「ミハルおにいさま!アルおにいさま、おとうさま!今日は、ほんとうにありがとう!わたし、きょうのパーティーが一番たのしかった!」
「ふふ、よかったね、レナ」
「うん!それじゃ、おやすみなさい!」
「おやすみ、レナ。いい夢見るんだよ」
「おとうさまたちもね!」
最後までミハルと共に居れたレナは満足そうに、メイドに連れられ自室へと戻っていった。
そしてレナの姿が扉の向こうへ消えた直後、ミハルが身を折って激しく咳き込み始めた。
「ッゲホッ、ゴホゴホッ、ゲホッ!……ゔ……ッゲホッ、ゲホゴホッ!」
「ミハル!アル、吸入!」
一瞬で父の顔から医者の顔へと変わった父上へ、俺は懐の薬を急いで手渡した。
父上が薬を吸わせる横で、俺はミハルの背をひたすらさすり続けた。
今回の発作は強力な発作止めを以てしても中々収まらなかったが、しばらくしてようやく薬が効いたようで、ミハルの発作は少しずつだが収まっていった。
「はあ、はあ……ごめ、なさ……ゴホッ、」
「大丈夫だよ、つらかったね。……もしかしてずっと我慢してたの?」
「……レナが、たのしそうだったから、水差したく、なくて……けほっ」
どうやらずっとレナの側では激しく咳き込まないように抑えていたようだが、レナが自室へ戻ったことで気が抜け、発作が起きてしまったようだ。
「レナのために頑張ってくれたのは偉いけど、苦しい時は我慢しちゃ駄目っていつも言ってるでしょ」
「……う、ごめんなさい」
「もうパーティーは終わったからいいけどね。……さ、部屋戻ろうか」
初めてのパーティー参加に加え重めの発作を起こしてしまったミハルはとても疲れたようで、自室へ戻った直後に気を失うように寝入ってしまった。
眠るミハルを父上と二人がかりで着替えさせ、ベッドの上で穏やかに眠っているのを見て、ようやく二人、肩の力を抜いた。
「ふう……今日一日、大丈夫かなと思ってたけど、なんとかなって良かった。アルも、ミハルのこと見ててくれてありがとうね。疲れたでしょう」
「いえ……俺は大丈夫です。ミハルの方が疲れたと思います」
「まあそれはそうだろうけど……。そうやって隠そうとするところ、やっぱり兄弟だなあ、君たちは」
父上はそう言って苦笑すると、俺の頭をぽんぽんと撫でた。父上に頭を撫でられたのは久しぶりだった。
「よく頑張ったね、お疲れ様。ミハルは僕が見てるから、部屋戻っていいよ。ゆっくりお休み」
「……はい、わかりました。おやすみなさい」
父上に一礼して、俺はミハルの部屋を後にした。
自室へ戻った直後、俺は上着も脱がずにベッドの上へ倒れこんだ。
父上と話したときは本当に疲れを感じていなかったけど、自室に帰ってきた途端疲れがどっと押し寄せてきた。
自分が思った以上に疲れていたらしい。駄目だと思いながらも瞼が勝手に下がってくる。
瞼を閉じると浮かぶのは、今日のパーティーの光景。
母上と父上、兄様、楽しそうなレナと……その横で笑うミハル。
それから、小さい頃、ミハルと二人で庭で遊んだときの記憶。
疲れるといつも浮かんでくる――後悔の記憶。
俺が連れ出した先で倒れこんだ幼いミハルの姿が、ずっと頭から離れない。
どうして俺はあのとき、ミハルを連れ出したのか。ミハルから目を離してしまったのか。
この記憶は決して、忘れてはならない。俺の後悔。俺の罪。
だけど思い出すのが嫌でつらくて、ミハルを避けるようになってしまった、弱い俺。
久しぶりにミハルとこんなに長く一緒に居たから今日は特に濃く、鮮明に思い出させられる。
「――ごめん、ごめんなさい……ミハル」
ミハルは俺が強いって言ってくれたけど、全然そんなことない。
俺は本当は、ミハルがいないところで、一人で馬鹿みたいに謝ることしかできない、弱い意気地なしなんだよ。
俺はその日久しぶりに泣きながら眠り、朝起きて着替えもせず寝てしまったことを後悔したのだった。
俺はいつも後悔ばっかりだ……。
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