異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

間章―レナちゃんの生誕パーティー

おまけ モブ視点＃２

「公爵様、ご無沙汰しております……」
「おお、バルトの。久しいな。エレナの為にここまで来てくれて感謝する」

主人が公爵様と話をしている間、私は側に控えつつも、目線をそっと公子様方へと向けた。

「それでね、リリがね、うでにのってきたかとおもったら、わたしが抱いてたぬいぐるみをパシンってはらって、落としちゃったの！それをさらにふみつけたんだよ！？ひどいよね！」
「ふふっ、リリは、気難しい、猫ちゃん、なんだね」
「ホントよ！わたしのぬいぐるみまでふむことないのに！」
「たぶん、リリは、レナに、もっと、かまってほしかったんじゃないかな？……ぬいぐるみに、嫉妬、したの、かもよ？」
「えー、そうなのかな？」

エレナ様はこちらに目もくれず、隣に座るミハル様と楽しそうに会話をしていた。
しかし矢継ぎ早に話すエレナ様に比べ、ミハル様の話し方はゆっくりで、途切れ途切れだ。長く息が続かないのか、一つ一つの単語を話すたびに、ひゅうと苦し気に息を吸っているのが印象的だった。

「わたしはリリもぬいぐるみもだいすきなのに……」
「リリと、遊ぶ……、けほっ……ときは、ぬいぐるみは、ちがうところにいて……、ごほっ……、もらったほうが、いいかも……ケホ、ゲホッ」
「あっ……、おにいさま、苦しい？ごめんなさい、たのしくて話しすぎちゃった……」
「ゲホッ……、ううん、僕こそ、ごめ……ッゴホッ、ゴホゴホッ、ゲホッ！」
「ミハル」

話そうとするも上手くいかず咳き込み始めてしまったミハル様の口へ、すかさず横に居たアルフレッド様が背中をさすりながら吸入器を差し入れる。
何度か薬を吸ったミハル様の咳は程なくして収まった。

「っけほっ……アル兄さま、ありがとう」
「気にしなくていい」
「おにいさま……苦しいなら、もう……」
「ううん……大丈夫だよ。僕、パーティー、初めて来たから、最後まで、居させてほしいな……迷惑、かもしれない、けど」
「そんな、おにいさまがめいわくなんて、ありえない！大丈夫なら、最後までいてほしい！」
「レナ、ありがとう」

そしてミハル様は抱き付いてきたエレナ様を優しく撫でた。
言動とその態度から彼はとても思慮深くそして妹思いな方であるのが伝わってきた。
自分とパーティーの最後まで一緒に居たいという妹の気持ちを汲みつつ、自分の体調を妹が気に病まないよう配慮した言葉に、私は感銘を受けた。
しかしミハル様の横に居るアルフレッド様は少し複雑そうな表情をしていた。

アルフレッド様の表情を見るに、ミハル様は家族の前ではいつもこういう感じなのかもしれない。
自分のことよりも相手のことを優先して考えるミハル様。人としてはとても素晴らしいが、見守る家族としては毎日気が気ではないだろうな、と思った。


やがて主人の挨拶が終わったので私も一緒にその場を離れた。主人は未だ挨拶の続くブラックウェル家の方々を見ながら、感慨深げに呟いた。

「まさか今日、成長されたミハル様に会えるとは思っていなかったな。あの……小さかったミハル様に」
「……旦那様はミハル様にお会いしたことがあったのですか？」
「ああ、お前は知らなかったか。実は、ミハル様が生まれてすぐの頃にな」

ミハル様が生まれた13年前。未熟児として生まれた彼は呼吸器が弱かったことも相まって、その命はすぐにでも消えてしまいそうなほどか弱かったそうだ。
その命を繋ぎとめるため、父君で医者であるウィリアム様と同じく医者であった主人は共にミハル様と過ごした時期があったという。

「あのときは正直、あの子が13年も生きられるとは思っていなかったよ。ただその命を繋ぎとめるのに必死で……だが、ウィリアム様と共に尽力したあの頃は無駄ではなかったようだ」

家族の中で楽しそうに過ごすミハル様を見ながら、主人はそう呟いた。

「ミハル様に関して根も葉もない噂が流れていたことは気になっていたが……この分ならばその噂もすぐ消えるだろうな」
「ええ、そうだと思います」
「これからも……なるだけ健やかに成長していっていただきたいな」
「そうですね……」

今日初めてパーティーに出られたとはいえ、先程の様子から見ても、彼の状態は健康とは程遠いように思えた。彼はこれからもその身体の弱さに苦しめられる日が続くだろう。
しかし一介の側仕えの私ができることといったら、少しでもその苦しみが減ることを願うことだけだった。