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間章―レナちゃんの生誕パーティー
おまけ モブ視点#1
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――私はブラックウェル家傘下・バルト伯爵家当主様に仕える者だ。
先日、ブラックウェル家の末の長女、エレナ=ブラックウェル公女の6歳の生誕パーティーが、ブラックウェル邸にて開催された。
そのパーティーに招待された主人に付いて、私もパーティーに参加した。侍従として。
ブラックウェル家はほとんどこういった催しを大々的に行うことがない。それは現在のブラックウェル家当主の方針もあるが、一番の理由は、病弱な三番目の子供――ミハル=ブラックウェル公子への配慮であるとのことがもっぱらの噂である。
ミハル様は屋敷の外には出られない程の病弱で、彼の生誕を祝うパーティーにも一度も本人が参加したことはなく、ブラックウェル家臣も領地の者もミハル様の姿は今まで誰も見たことがなかった。
だから公になっていない、謎に包まれたブラックウェル家三男の姿に、様々な憶測が飛び交っていた。
実は病弱と言うのは嘘で、とても醜悪な姿であるのを隠しているからだとか……
実は嫡出子ではなく卑しい血の混じった子供だからブラックウェル家が隠して冷遇してるからだとか……
そもそも存在自体疑っている者さえ居るほどだ。
――だがそんな憶測は、先日のパーティーで全て覆されることになった。
「そういえば、まだ公爵夫君がいらっしゃっていないな?」
「ああ、言われてみれば。それに、第二公子様も居ませんね」
「本当だ。何かあったのだろうか」
主人と他の招待客との会話で、私も公爵夫君のウィリアム=ブラックウェル様と第二公子であるアルフレッド=ブラックウェル様が居ないことに気付いた。
夫君と、若くしてブラックウェル騎士団の一小隊を任されているアルフレッド様が揃って居ないので、領地内で何かあったのかと勘繰ってしまうのも無理はない。
そのときだった。
突如会場内が騒がしくなったのだ。
『ウィリアム=ブラックウェル公爵夫君とアルフレッド=ブラックウェル公子……そして、ミハル=ブラックウェル公子の入場です!』
そしてそんな声が聞こえた後、会場内のどよめきはさらに強くなった。
「ミハル=ブラックウェル公子だって……?」
「病弱の三男のことか?」
「そんな、まさか!だって公子は一度だって公の場に顔を出したことはないんだぞ」
そんな風にさざめきあっていた招待客たちだったが、開け放たれた会場の扉の先に居た方の姿を見て、そんなさざめきはすぐに止んだ。
穏やかに微笑む公爵夫君と、その横に立つ精悍な佇まいのアルフレッド公子。その彼に車椅子を押される形で姿を見せたのは……天使と見紛うほど美しくて華奢な少年だった。
父君譲りの指通りのよさそうなさらさらとした金髪に、母君であるブラックウェル公爵と同じ紫色の瞳を持った少年。その顔立ちは両親二人の良いところが綺麗に反映されており、非常に整っていた。
彼は隣に立つ父のように穏やかに微笑みながら、会場の奥に居る母と兄妹の下へ車椅子を押されて向かっていく。
その姿を、会場に居る誰もが茫然と見ていた。
やがてエレナ公女と公爵、ユリアス公子の下に着いた三人は、次々にエレナ公女へ祝いの言葉を贈る。
驚いたのは、エレナ公女が嬉しそうにミハル公子へ抱き付いたところだ。公女様があのようにはしゃいだ様子で誰かに甘えている姿は、私も他の招待客も見たことがなかったからだ。
彼女は例年のパーティーでは、楽しそうにしていつつも何処か寂し気な表情を見せていたから。
でも、今はその表情の意味がわかる。彼女は、ずっと待っていたのだ。――大好きな兄が自分のパーティーに来られる日を。
「あれが、ミハル様……」
「あんなにお美しい方だったとは」
「誰だ、実は醜悪な姿だなんて言ったの」
「父君と母君の特徴を綺麗に受け継いでおられますわね」
「ご兄妹方とも仲がよろしいようですわ」
「あの見た目で病弱ならそりゃ、過保護にもなるわな」
ややあってようやく衝撃から戻ってきた客が次々に話を始めた。
会場の奥で楽しそうにやり取りをしているブラックウェル家の方たちと、家族に囲まれて同じように笑っているミハル様の姿に、もう彼がブラックウェル家で冷遇されているだなんて思えるわけがない。
――彼は間違いなく、ブラックウェル家の一員なのだった。
ブラックウェル家の方たちが全員揃い、公女様の生誕パーティーは再開した。
家族間での会話が落ち着いた頃を見計らい、数々の招待客がブラックウェル家の方々へ挨拶をしようと群がっていった。
勿論あれは挨拶のためだけじゃない。初めて姿を見せたミハル様のことを近くで見たいという気持ちの表れだった。
「我々も行こうか」
「はい」
私も主人に付いて、ブラックウェル家の方々への挨拶に赴いた。
先日、ブラックウェル家の末の長女、エレナ=ブラックウェル公女の6歳の生誕パーティーが、ブラックウェル邸にて開催された。
そのパーティーに招待された主人に付いて、私もパーティーに参加した。侍従として。
ブラックウェル家はほとんどこういった催しを大々的に行うことがない。それは現在のブラックウェル家当主の方針もあるが、一番の理由は、病弱な三番目の子供――ミハル=ブラックウェル公子への配慮であるとのことがもっぱらの噂である。
ミハル様は屋敷の外には出られない程の病弱で、彼の生誕を祝うパーティーにも一度も本人が参加したことはなく、ブラックウェル家臣も領地の者もミハル様の姿は今まで誰も見たことがなかった。
だから公になっていない、謎に包まれたブラックウェル家三男の姿に、様々な憶測が飛び交っていた。
実は病弱と言うのは嘘で、とても醜悪な姿であるのを隠しているからだとか……
実は嫡出子ではなく卑しい血の混じった子供だからブラックウェル家が隠して冷遇してるからだとか……
そもそも存在自体疑っている者さえ居るほどだ。
――だがそんな憶測は、先日のパーティーで全て覆されることになった。
「そういえば、まだ公爵夫君がいらっしゃっていないな?」
「ああ、言われてみれば。それに、第二公子様も居ませんね」
「本当だ。何かあったのだろうか」
主人と他の招待客との会話で、私も公爵夫君のウィリアム=ブラックウェル様と第二公子であるアルフレッド=ブラックウェル様が居ないことに気付いた。
夫君と、若くしてブラックウェル騎士団の一小隊を任されているアルフレッド様が揃って居ないので、領地内で何かあったのかと勘繰ってしまうのも無理はない。
そのときだった。
突如会場内が騒がしくなったのだ。
『ウィリアム=ブラックウェル公爵夫君とアルフレッド=ブラックウェル公子……そして、ミハル=ブラックウェル公子の入場です!』
そしてそんな声が聞こえた後、会場内のどよめきはさらに強くなった。
「ミハル=ブラックウェル公子だって……?」
「病弱の三男のことか?」
「そんな、まさか!だって公子は一度だって公の場に顔を出したことはないんだぞ」
そんな風にさざめきあっていた招待客たちだったが、開け放たれた会場の扉の先に居た方の姿を見て、そんなさざめきはすぐに止んだ。
穏やかに微笑む公爵夫君と、その横に立つ精悍な佇まいのアルフレッド公子。その彼に車椅子を押される形で姿を見せたのは……天使と見紛うほど美しくて華奢な少年だった。
父君譲りの指通りのよさそうなさらさらとした金髪に、母君であるブラックウェル公爵と同じ紫色の瞳を持った少年。その顔立ちは両親二人の良いところが綺麗に反映されており、非常に整っていた。
彼は隣に立つ父のように穏やかに微笑みながら、会場の奥に居る母と兄妹の下へ車椅子を押されて向かっていく。
その姿を、会場に居る誰もが茫然と見ていた。
やがてエレナ公女と公爵、ユリアス公子の下に着いた三人は、次々にエレナ公女へ祝いの言葉を贈る。
驚いたのは、エレナ公女が嬉しそうにミハル公子へ抱き付いたところだ。公女様があのようにはしゃいだ様子で誰かに甘えている姿は、私も他の招待客も見たことがなかったからだ。
彼女は例年のパーティーでは、楽しそうにしていつつも何処か寂し気な表情を見せていたから。
でも、今はその表情の意味がわかる。彼女は、ずっと待っていたのだ。――大好きな兄が自分のパーティーに来られる日を。
「あれが、ミハル様……」
「あんなにお美しい方だったとは」
「誰だ、実は醜悪な姿だなんて言ったの」
「父君と母君の特徴を綺麗に受け継いでおられますわね」
「ご兄妹方とも仲がよろしいようですわ」
「あの見た目で病弱ならそりゃ、過保護にもなるわな」
ややあってようやく衝撃から戻ってきた客が次々に話を始めた。
会場の奥で楽しそうにやり取りをしているブラックウェル家の方たちと、家族に囲まれて同じように笑っているミハル様の姿に、もう彼がブラックウェル家で冷遇されているだなんて思えるわけがない。
――彼は間違いなく、ブラックウェル家の一員なのだった。
ブラックウェル家の方たちが全員揃い、公女様の生誕パーティーは再開した。
家族間での会話が落ち着いた頃を見計らい、数々の招待客がブラックウェル家の方々へ挨拶をしようと群がっていった。
勿論あれは挨拶のためだけじゃない。初めて姿を見せたミハル様のことを近くで見たいという気持ちの表れだった。
「我々も行こうか」
「はい」
私も主人に付いて、ブラックウェル家の方々への挨拶に赴いた。
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