異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん

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第2章―初めての友達

入院生活#2

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同室となった彼は、レッドグレイヴ家当主の四男の、レナルド=レッドグレイヴという名前だった。年齢は俺の一つ下らしい。
彼は、動いてはいけないという状況にかなり苛立っているようだった。

「なんで動いちゃ駄目なんだよ!」
「骨折されているからです公子様。治るまでは動いてはいけません。より治りが遅くなりますよ」

レナルドは診察に来る医者に対し、毎回のように抗議をしていた。最初は退屈だからなのかと思っていたけど、どうやらそういうわけでもなさそうだった。
医者に詰め寄る彼の表情に焦りの色が見えたからだ。

「なら、お前が早く治してくれよ!オレは早く剣の稽古に戻りたいんだ!」
「先にもお伝えいたしましたが、治癒の魔法を多用すると逆に治癒力が弱まるのです。公子様の怪我は命に係わるほどのものではありませんので、自然に治るのを待った方が良いのです」
「……っ」

医者に窘められたレナルドは悔しそうに歯噛みしていた。
どうやら、レナルドは剣の稽古に早く戻りたいようだ。5歳のうちから頑張っていてすごいな。兄のアルフレッドもそれくらいから剣の稽古を始めていたけど、俺なんか未だに剣どころか満足に走ることもできないのに……。


医者が去り、部屋は再び俺達二人だけになった。
とりあえず読みかけの本でも読もうかと手に取ったところで、レナルドがベッドから起き出した。
何をするのだろうかと見ていたら、彼に睨まれた。

「おい!なに見てんだよ!」
「え、あ。ごめんなさい、つい……」

何するのかちょっと気になっただけなのだが、彼は視線に敏感らしい。
レナルドはフンと鼻を鳴らすと、首にかけていた剣の形を象ったペンダントを外した。
そして彼がその剣のペンダントを握ると、何とペンダントが片手剣のサイズに変わった。

凄い!もしかして、サイズが変わる魔法の剣なのか!
なんか、この世界に転生して初めて魔法アイテムっぽいものを見た気がする。
感動して思わず拍手すると、また彼に睨まれた。

「おい!だから見んなって!」
「ご、ごめん!そういうの初めてみたから興奮して……」
「はあ?こんなの、武器屋に行けばいくらでもあるだろ?」
「へえ、そうなんだ。僕、武器屋行ったことないから……」

流石、魔法のある世界だ。伸縮自在の剣がどこにでもあるとは。

「お前、武器屋行ったことねえのかよ!?」
「え?うん。……あ、そういえば、外のお店自体行ったことないや」
「はあ!?マジかよ!?」

思い返せば、ほぼ家の中にしかいなかったな……。店に行かなくても、行商が来てくれるから行く必要なかったんだよね。
でも、流石にまずいのではないだろうか。このままだと引き籠りニート街道まっしぐらだ……。

「ありえねえ……。だからそんなひょろひょろなのかよ。剣くらいふれねえと、男としてなさけねえぞ」
「やっぱり、そうだよね……。僕も剣、買ってもらおうかな」

折角魔法の世界に居るんだし、俺も魔法アイテム欲しいな。父に頼めば、首都の武器屋に連れて行ってくれそうな気がする。その前に退院しなきゃならないんだけども。

「君のその剣は何処で買ったの?」
「レッドグレイヴ騎士団でよく使ってる武器屋だ。でも、これは量産のものだから……オーダーメイドの特別なやつは、父上から認められないともらえないんだ」

レナルドは、ぎゅうっと強く剣を握りしめた。再び、焦りの色が顔に浮かぶ。

「オレは、父上に認められるために、強くなりたい。だから早く稽古に戻りたいのに、こんな程度の怪我で止められるのが、気にくわねえんだよ!」

成程、毎回医者に食い掛っていたのは、そういうことだったのか。
子供らしい向上心と、父親に認められたいという思いが重なり、彼の焦りに繋がっていたようだ。

「なら尚更、今は休むべきだと思うよ。お医者さんも言ってたじゃん、動いたら治るの遅くなるって」
「でも!こうしてる間も、他の奴らは進んでるのに、オレだけ寝てるなんてできねえよ!」
「だったら、動かずにできることやったらいいんじゃない。体動かすだけが稽古じゃないと思うけどな」
「はあ?どーいうことだよ!」
「たとえば、他の人の動きを見て学ぶとか、剣以外の勉強するとか?強くなってお父さんに認められたいなら、剣以外のことも伸ばすべきだよね」

そう言うと、レナルドは目を瞬かせた。

「それは、思いつかなかった……」
「そう?」
「剣以外のこと……でも、なにやったらいいんだ?」
「戦術とか学んだりするのもいいんじゃない。戦いって、個人のスキルだけじゃないでしょ?たとえばチェスとかは、案外勉強になるかもよ」
「チェス……やったこと、ない」
「教えてあげようか?」
「ほんとか!?」
「うん」

実は俺、チェス含めボードゲームには自信がある。
前世ではチェスなんてやったこともなかったけど、転生してからこの方、俺が出来ることといったら、本を読むかボードゲームくらいしかなかったため、暇つぶしに一人チェスとか一人リバーシとかやりまくった結果、家族の誰よりもボードゲームに強くなってしまったのである。
あとはトランプタワーづくりにも自信がある。最高10段までいった。

この出来事がきっかけで、レナルドとボードゲームやカードゲームをやるようになった。
暇さえあればボードゲームに誘ってくるレナルドは、まるで弟のようで、俺も楽しい気分になった。
そういえば、同世代の子と遊ぶのは、今世では初めてだった。

前世では、伊月だけが俺の恋人であり親友だった。俺も伊月も、互いが居ればいいと思っていたし、自分たち以外の人間は信用できなかったから。

でも……、今考えると、もっと交友関係を増やしても良かったのかもな。
最初は俺を警戒していたレナルドも、今はこうして一緒に楽しく遊べているように、前世でも、俺達を攻撃してくる人以外も居たかもしれない。

そういう意味で、レナルドは俺にとって、初めての『友達』と言えるのかもしれない。
友達と遊ぶってことが、こんなに楽しかったんだって、知ることができたのが嬉しい。

惜しむらくは……今の俺の身体が、同世代の子供に比べ圧倒的に弱いことだった。

「――ミハル!チェスやろうぜ!」
「ケホッ……、ごめん、きょうは……ゴホッ、ゲホッ」
「……そっか、わかった」

レナルドが遊びに誘ってくれても、体調の所為で断らなければならないのが申し訳ない。

「……ごめ、ね……」
「いいって、あやまんなよ。元気になったらまたやろうぜ」

子供であるレナルドに気を使わせてしまっているし……情けない。
やっぱり、普通の子供くらいには健康になりたいな……。

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