異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん

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第1章―新しい人生

初めての遠出#2

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次の日は、父の調合してくれた酔い止め薬を飲んだので、昨日よりは快適に移動することができた。

「ミハル。着いたよ」

うとうととしていたら、父に起こされて馬車の窓を覗くと、活気づいた街並みが見えた。

「おお……!」

ブラックウェル家領地よりも沢山の建物が建ち並び、様々な身なりをした人たちが沢山歩いていた。
流石首都だ。流石に、前世の日本の東京ほどではないけど。
だが、ヨーロッパ風の街並みは、現代日本人だった俺にとっては新鮮で興奮する。

「どう?初めての首都は」
「沢山の人がいてすごいですね!」
「たしかにブラックウェル領地よりは多いかもね」

馬車はそのまま首都の街中を進み、やがてブラックウェル家の首都にある別邸に着いた。

「今日からはここで体を休めて、一週間後には陛下に謁見するからね」
「はい、わかりました」
「うん、じゃあゆっくりお休み」

父に部屋に連れてきてもらい、一人になったところで、俺は重くなった体をベッドにうずめた。ほぼ丸二日かけて移動したのは初めてのことだったので、思った以上に疲れたようだ。

そう、俺がここまでわざわざ来た理由は、この国を治める皇帝に謁見するためだ。
俺が転生したこの国――名前はブリアント帝国という。
ブリアント帝国は、大昔魔族に支配されていた、やがて皇族となったゴールドバーク家と、四つの公爵家――ブラックウェル家、レッドグレイヴ家、グリーンウッド家、リリーホワイト家の先祖が魔族を滅ぼして解放した土地が元となった国である。
魔族は、人間よりも寿命も長く丈夫で魔法にも長けている種族だったが、唯一、5つの特別な魔力を宿す鉱石から繰り出される魔法が弱点であった。
それを見つけた今の皇族と公爵家が、その鉱石を利用し魔族を滅ぼした。それ以来、5つの家門は今も特別な一族として位置している。

ブリアントが興った頃の5つの家門の勢力は同じだったが、時代が経つにつれ、力関係は変化した。
魔族との戦争の後は、他国間での勢力争いとなり、その勢力争いにて最も英雄となった者を輩出したゴールドバーク家が、ブリアント帝国を皇族として治めるようになったのだ。後の4つの家門はゴールドバーク家を支える形で、公爵家として各領地を治めることになった。

そういうわけで、今の皇族と4つの公爵家は深いつながりがあるので、一族に属する者が増えた場合――つまり子供が生まれた場合には必ず皇帝に報告をするという決まりがあるのだ。
しかし、子供は生まれてもすぐに死んでしまう場合もあるので、報告は一つの子供の成長の節目である6歳になってから、ということになっている。
だから無事……とは言えないが6歳になった俺も、ブラックウェル家に属したというわけで、その報告で首都に来たのだった。

本当は、ブラックウェル公爵である母が俺を紹介するべきなのだが、母は今身重の状態なので、父が代理として紹介してくれることになっているのだが、その際は俺も自分の口で挨拶をしなければならない。
皇帝と会うなんて、前世でもなかったことだから、今から緊張する。
一応前世で社会人だったから、目上の人への挨拶自体はともかくとしても……主に体調面において不敬をしてしまわないかが心配だ。
どうか、突然発作起こしたり、吐いたりしませんように……。

……あ、やばい、これフラグ立てたか?

いや、フラグじゃないので!どうか無事に謁見終わりますように!!


***


「ミハル~!久しぶりー!ミハルの誕生日のとき以来だね!」
「ユリアス兄さま!」

首都にきてから一週間後。皇帝との謁見当日の朝、ブラックウェル家の首都の邸宅に、アカデミーの寮に居るユリアスがやってきた。
俺の初めての皇帝との謁見ということで、わざわざ来てくれたらしい。
ユリアスは会うなり俺を抱きしめ頬擦りした。

「馬車、大丈夫だった?移動大変だったでしょう」
「あ、最初の日は酔っちゃったのですが、次の日はお父さまが薬をくれたので、大丈夫でした」
「そう?ならよかった。体調はどう?」
「……平気です!」

体調のことを聞かれぎくっとしたが、笑って誤魔化した。
昨日緊張しすぎてあまり眠れなかったなんて言えない……。

「……つらくなったらすぐ言うんだよ?」
「は、はい。ちゃんと言います」

でも、ユリアスには俺の誤魔化しなどバレている気がする……。


朝食後、謁見用の服に着替えた。いつも着ている服より装飾が沢山あって少し動きにくい。

「準備できたようだね。それじゃそろそろ行こうか」
「はい」

同じく謁見用の服に身を包んだ父に、ユリアスとアルフレッドとともに、馬車で皇帝のいる皇宮へと向かった。
やがて皇宮への入り口となる門に着き、そこで身分確認をされ、馬車は皇帝の居る本宮へと動き出す。
門をくぐったし、そろそろ着くだろう。

「ミハル、着いたよ。起きて」
「……え?あっ?」

――と、思ったらいつの間にか寝ていた。本城はうたた寝できてしまうほど遠かった。

「門から本城まで、いつも思うけど本当に遠いよね。無駄なんだよなあ」

ユリアスが馬車の外の景色を見ながらそんなことを言っていた。
ブラックウェル家の敷地もとんでもない広さだったけど、皇宮の敷地はそれ以上のようだ。

馬車から降りると、本宮の使用人に、待機室へと案内された。

「謁見の許可が下り次第、お呼びいたしますのでこちらでしばらくお待ちください」

そう言われて、待機室で待つこと約一時間。ようやく謁見の許可が下りた。
いや、流石に待たせすぎじゃないのか……。皇帝ともなると、そう簡単に会えないくらい忙しいのだろうか。
でも、事前にアポ取ってるのにこれはないだろ……。
待ち過ぎてここまでで大分体力を消耗したが、ここからが本番だった。

「はあ、ようやくか……。それじゃあ行こうか、ミハル」
「はい……」

謁見の間へ行けるのは、俺と父の二人だけだ。なので、兄たちにはここでさらに待っていてもらうことになる。

「ミハル、父さんについて行けば大丈夫だからね。挨拶は、陛下に言われてからね」
「はい、わかってます。いってきますね」

心配そうな兄たちに見送られながら、俺は父と共に、皇帝の待つ謁見の間へと向かった。

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