異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん

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第1章―新しい人生

6歳の誕生日#2

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~ユリアス視点~

首都から半日かけ、ブラックウェル家領地に帰ってきた俺は、着いて早々湯浴みをし、身体を念入りに洗ったのち、新しい服に着替えて、愛しい末の弟の部屋へと向かった。
首都から着ていた服も自分の体も、どんな菌が付いているかわからない。俺達には大したものじゃないだとしても、ミハルにはどんな影響を及ぼすかわからないからだ。
今の秋から冬にかけての時期は、ミハルは特に体調を崩しやすいので、普段以上に気にかける必要がある。

『こほっ……ケホケホッ、ゲホッ……あー、キツイ……ごほっ』

部屋の扉をノックしようとしたとき、部屋の中から苦しそうな声と、咳が聞こえた。
やはり例年通り、体調を崩しているようだ。声からしても、つらいのだということがよくわかる。
しかし、ノックをして中に入ると、ミハルは嬉しそうに笑って俺を迎えてくれた。
身体がつらいのではないかと問うと、ミハルは俺に会えたからつらくなくなったと言った。
弟にそんな風に言ってもらえて嬉しくないわけがないが、兄としては、もう少し甘えてほしいと思う。

この末弟は、決して俺達家族に対して、つらいだとか苦しいだとか、そういった弱音を吐いたことは一度もなかった。
今よりも幼かったころから一度もだ。
それどころか、俺達を気遣ってくれる始末。何をどうしたら、こんな健気な子に育つのだろうか。

アカデミーに入学して、ミハルのような子は希少なのだと知った。
他の貴族の子息といったら、苦しい思いなど微塵もしたくないといった態度で、楽な方へと逃げようとするものが多いったらない。
特に、首都の恵まれた環境で育った貴族の子供に多かった。
そういう奴に、ミハルの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

治癒魔法とこっそり同時にかけた睡眠魔法で、眠りについたミハルの顔を見つめながら、思わず泣きそうになる。
あと数日で、ミハルも6歳だ。生まれたばかりの頃は、6歳どころか一年持つかもわからないと言われていたので、今回の誕生日は特に感慨深いものがある。

これ以上睡眠の邪魔をしたらよくないなと部屋を出たところで、もう一人の弟と出くわした。

「居たんだ、アル。ミハルの様子を見に来たの?」
「……いえ、たまたま通りがかっただけです」

アルフレッドはぎくりと固まったのち、そそくさとその場から立ち去ってしまった。

「アル……」

あの様子だと、未だに彼はミハルに対して引け目を感じているようだ。

あれは、ミハルが4歳、アルフレッドが6歳のときのことだ。
その日はミハルの体調が良かったため、アルフレッドがこっそりと一人でミハルを庭へと連れ出したのだ。
しばらく二人で遊んでいたのだが、途中でミハルが疲れてしまったため、アルフレッドはミハルをガゼボにて休ませ、飲み物を持ってこようとその場を離れた。
だが、アルフレッドが離れたその短い間に、ミハルが発作を起こして倒れてしまったのだ。
すぐにアルフレッドが戻り、すぐに父さんを呼んだため大事には至らなかったが、アルフレッドはこっそりミハルを外へ連れ出したことや目を離したことを父さんにこっぴどく叱られた。

よほどこの出来事が堪えたらしく、それ以来、アルフレッドはミハルに会うことを極端に避けるようになってしまった。
俺としては、確かに軽率に外に連れ出し、目を離したことよくなかったとは思うけども、未だにそれを理由にミハルを避けるのは違うのではないかと思っている。
身体を理由に避けられるのが、ミハルは一番嫌であるようだから。
つらくても弱音を吐かず頼ってこない末弟に、必要以上に責任を感じ弟を避けているもう一人の弟。
兄として、そんな弟たちに何をしてあげられるのか。自分の部屋に戻る間、俺はずっと考えていた。

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