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第1章―新しい人生

家族#2

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「――ミハル!おはよう!」
「ミハルー!おはよー!」

元気な声と共に、10歳と、5歳の男児が顔を出した。
彼らは俺の兄だ。
実は俺には兄が居た。初めてこの世界に来た時、母が言っていたような気もするが、俺は最近までそのことを気にかける余裕もなかったし、母も俺の負担にならないよう、兄たちを最近まで意図的に会わせていなかったようだ。

「ユリアスにいしゃま、アルにいしゃま。おはよ、ごじゃいましゅ」
「ミハルすごい!よく言えたね!可愛い!天才!」

俺が3歳児のつたない口調で挨拶すると、10歳の方が抱き付いてきた。口調はどうしても体に引っ張られてしまう。
彼の名は長男のユリアス=ブラックウェル。母のストレート黒髪と美貌を受け継いでいるが、性格はどちらかというと父よりだった。すぐ可愛いとか天才とか言うあたりが。

「にいさまばっかりミハルに触っててずるい!ぼくも抱っこする!」

そして5歳の方、次男の名前はアルフレッド=ブラックウェル。こちらは父譲りの金髪であるがやはり、整った容姿をしていた。性格はやんちゃで年相応といった感じだが。

「アルはダメ。ちゃんと力の加減できないでしょ」
「もうできるよ!」
「そう言ってこの前もフォーク曲げてたからダメ」
「う、うう……」

しかも次男は、母の遺伝子もしっかり受け継いでおり、5歳のくせにすでにとんでもない身体能力を持っているらしい。
フォーク握ったら曲げちゃう5歳児ってどんだけだよ。
恐ろしい怪力だが、しょんぼりと沈んでしまったアルフレッドが可哀そうに思えてきたので、俺の方から次男の顔に手を触れた。
するとアルフレッドは途端に目を輝かせた。可愛い。

立場的には俺が弟だが、精神年齢は俺が上なので、アルフレッドが可愛い弟のように思えて仕方がない。
長男の方も精神的には年下なのだが、10歳とは思えないほどしっかりしているので、アルフレッドほど可愛いとは思えない。可愛いというよりは頼りになる兄という感じだ。

「今日はミハル、調子がいいみたいだし、お兄ちゃんとお庭に出てみる?」
「いいの?」
「ちょっとなら大丈夫だよ。なにかあったらすぐ父さんのところに飛ぶからさ」
「うん!」

飛ぶ、とは転移魔法のことだ。名前の通り、行きたいところに一瞬で移動する魔法だ。
ユリアスは、10歳にして魔法を使いこなしているらしい。魔法は一部の才能ある者しか使えないものなので、天才児と巷ではもっぱらの評判となっているそうだ。
長男といい、次男といい、この家は天才しかいないのか。

そんなわけで、俺は兄に庭に連れて行ってもらうことになった。

三歳になってからは、調子のいい日はこうやって庭に出してもらえるようになった。それでも外に出られるのはほんの数分だけなのだが。
初めて外に出られたときは、外ってこんなに気持ちよかったんだなと感動したものだった。花が咲いているのを見るだけでも気分が高揚する。

「はい、お庭に着いたよ」

ユリアスに抱えられた状態で、庭に出る。アルフレッドは既に庭を駆け回っていた。
流石公爵家の家の庭と言うべきか、庭の敷地は実にサッカーコート並か、それ以上はある。その何処もが、選りすぐりの庭師によって整えられ、四季折々で様々な花々を咲かせていた。
今は春だから、全体的に淡い雰囲気の溢れる庭になっており、春の日差しも相まって、ふわふわと温かい気分になる。

「気持ちいい?ミハル」
「うん!」
「よかった」

ユリアスはふわりと笑うと、俺の頭を撫でた。イケメンが笑ったことでさらに輝きが増した。これは将来有望ですわ……。

「ミハル!これあげる!」

そして先程まで庭を走り回っていたアルフレッドが戻ってきていたかと思ったら、背丈以上もある木を根こそぎ取ってきていた。
いや待って。

「アル……何やってるの?」
「ミハル、お花好きだから!この木、きれいなお花咲いてるでしょ?だからもってきた!」
「でもそれは駄目」
「なんで!?」

俺が絶句していると、ユリアスが言った。

「そんなのミハルの部屋に入らないでしょ。もっと小さいのならいいけど」

……ユリアスさん?まさか部屋に入るなら入れるつもりなの?
やばい、このままだと部屋に木が生える。

「あ、あの、ぼく、それはいい……」
「どうして?ミハルお花見るの好きじゃない」
「おはなは、おそとにいるほうがげんきになるから。おへやのなかにいれて、ぼくみたいに、げんきじゃなくなったらかなしいから……」

なんとか子供らしく、だが兄たちの気遣いを潰さぬように言い訳したら、ユリアスにより強く抱きしめられた。

「ユリアスにいさま?」
「ごめんね。ミハルの気持ち、ちゃんと考えてあげれてなかった……」

そう言ったユリアスの声は少し震えていた。

「う、うっ……ごべんなざい!ぼく、ごれがえじでぐる!」

そしてアルフレッドが泣きながら一目散に木を戻しに行った。まずい、5歳児を泣かせてしまった……。
部屋に木が持ち込まれるのを阻止するために適当に言っただけなのに、思った以上に深刻に受け止められてしまったようだ。
なんか申し訳ない……。

その後、木を抜いたことがバレたアルフレッドは母から叱られ、さらに泣いていた。
木を抜いたのは流石にやりすぎだったが、俺の為にしてくれたことだと思うと、申し訳ない気分になる。
そんなアルフレッドを何とか慰めてあげたかったが、咳が出始めてしまったので俺は部屋に戻されてしまったのだった。
明日会うときには、元気になっているといいんだけど……。

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