記憶にない思い出

戸笠耕一

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記憶なき女Ⅳ 傀儡

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 3時間が経った。緒方は獣の本性のままに沙良を蹂躙した。全身を舐めまわし、噛みつくように唇にキスをして、つかみ取るように胸にしゃぶりついた。

「ずいぶんアグレッシブね」

 沙良は笑ってあげる。
 何度も煽って、脳のアドレナリンを刷り切らせるまで男を酷使する。敏夫は疲れたようにベッドに横になった。

「奥さんにもこんな風にしたのかしら?」

「なんで? 奥さん……」

「左手の薬指が他の指に比べて少し細い。奥さんがいた証拠じゃない?」

 敏夫はじっと沙良をにらんでいた。

「あなたが私の正体に気づいたように、私もあなたの正体がわかっている。もっと言いましょうか。あなたは奥さんにⅮⅤをしている」

 目に驚きが走る。

「こんなことで驚かないで。手のひっかき傷は最近できたものね。首筋もヒートネックで隠しているから気になったの。奥さんが抵抗してできた傷じゃないかな?」

「何が目的だ?」

「ちょっと協力してほしいの。お礼はするわ」

「金なんていい。俺は……」

「たんまりやらせてあげたのにまだ満足できないの。獣ねえ」

「あんたのインタビュー記事や動画は何度も見たし、聞いたよ。あんたを見ていると」

 敏夫はひん曲がった笑顔になる。征服欲にあふれた男の蒙昧。力を示せば弱い者は従うという誤認があふれていた。

「一発やりたかったのね」

 敏夫は沙良にムササビのように飛び掛かろうとした。沙良には動きが読めていた。相手の股間を蹴り飛ばした。

「その代償を払ってもらおうかしら」

 く、と敏夫は股間を押さえていた。

「何しやがる!」

「まだやるつもり?」

 沙良は胸を突かれて敏夫は痙攣していた。

「じゃあ手伝っていただけるかしら?」

 男なんて単純だ。ただ一人を除いては、、
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