記憶にない思い出

戸笠耕一

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記憶なき女Ⅲ 名前

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「じゃあパソコン、借りるから」

 引き出しの上に置いてあったPCを借りて、部屋に戻った。念のために鍵を閉めることを忘れてはいけない。アルバイトなんて嘘だった。

 並び替えた名前をネットで検索してみる。もし記憶を失う前の自分がSNSなどに書き込んでいたら、自分のプロ
フィール写真が映るかもしれない。

 期待を込めて先ほど書き記した24の名前を検索していく。

 違う、これも違う、これも!

 自然とマウスとキーボードをたたく音が強くなる。焦ってもだめだ。自分の記憶はぐちゃぐちゃだったところを、ありもしない記憶を植え付けられたことで余計混同してしまっている。

 唯一の打開策は真実の名前を思い出すこと以外にない。ただ時間ばかりが過ぎていく。二十四通りの名前を検索し
ても自分とは違う顔写真が掲載されていた。

 もしかしたら漢字ではないのかもしれない。

 メモ帳に「おざきりさ」と書いてまた並び替えを行った。

 5文字ならば5*4*3*2*1で120通りだが、意味をなさない名前はすべて無視し、ネット検索をする。

 結果は同じだ。漢字でも、平仮名でもない。

 ならば何?

 額を叩いた。名前を並べ替えるだけではだめなのだろうか。何か他にしなければいけないはずが、男は名前が歪んでいる。正しい形にすればいいと言っていた。

 男がでたらめを言っているだけかもしれない。頭のおかしい人物が絡んできただけかもしれない。

 何なのよ……

「理佐ちゃん。タンシチューができたわよ。降りてきて温かいうちに食べなさい」

 部屋の扉に掛けられていたネームプレートがちらりと視界に入って足を止める。

 もう一つある。部屋で試していない形式がある。ローマ字だ。

 ネームプレートに書かれていた「O.Risa」。理佐の砕け散った記憶の断片は紐解かれ、形を結ばれていき奇麗な相似形を描く。男が言ったように名前は正しい順番になっていない。きちんと整列していなかった。正しい順序になっていなかった。事故に遭う前の出来事が脳裏を駆け抜けていく。

 すべて思い出した。

 あの日、あの場所で何があったのか。理佐は自分が何者なのかを全て取り戻した。
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