記憶にない思い出

戸笠耕一

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年老いた狼Ⅲ 見出した答え

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 白金大学付属高校を出ると板倉は次の行き先を秋山に言う。

「さっさと行くぞ」

「今度はどこへ?」

 秋山は面倒くさいという態度を示してきた。よくわからないあだ名で呼ばれるのは実際不快だった。

「決まっているだろ? 事件現場だよ」

「学校の担任に聞いて何の意味がありました? 白金は僕らの管轄じゃないから怒られますよ」

 事件現場は未だに立ち入り禁止の黄色いテープが貼られている。

「現場の証拠は鑑識が全部持って行っちゃいましたよ。今更何もないでしょ? 近所で発生した放火事件にかからな
いと」

「風井空が犯人と決めてかかったが。これだけ見つからないとなると違う線も考えてみる必要があるだろ?」

「とむさん、今年で定年でしょ。他の奴に任せてもういいでしょ?」

「人が死んでいる! 最後まで追いかけるのが刑事ってもんだろ!」

 板倉の肩を掴むと激しく秋山を叱責した。死者の無念を晴らさないでどうする。定年なんて関係ない。板倉は十年前に自分が解決に導けなかった事件を思い出していた。

「俺たちは刑事だ。事件という餌に食らいつく犬だ」

「全く飼い主を困らせる犬ですね。これがもう最後ですから。約束してください。振り回されるのは真っ平です!」

 秋山はじっとにらんできたので、板倉は冷静になった。いくら何でも度が過ぎているのはわかる。

「お前が怒る気持ちもわかる。ただ香西沙良は俺が追っていた事件の被害者だ。ああ、何かの因果だな」

「とむさんが前に言っていた十年前に解決できなかった事件のですか?」

 秋山には話していたことがある。いつだったか忘れた。

「どういう経緯か知らん。俺はあの娘に犯人は捕まえると約束した。実に恥ずかしい。刑事が約束を破ってどうする?」

「香西沙良は今回の事件にどう関係あります?」

「あるかどうかは尾坂家にあると俺は見ている。お前は尾坂家に俺を置いたら帰れ」

「最後まで付き合うのがペアでしょ? もう一度言いますが、これが最後ですからね」

「わかった。これきりお前を振り回すことはしねえ。男の約束だ。頼む」

 少しは刑事らしくなったか。OJTはどうやら終わりのようだ。こいつを一人前に育て上げることが俺の使命だと板倉は今気が付いた。
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