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第3章 戦い開始
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烈王の炎が全身を焼き焦がしたのか。彼はすっかり痛みを感じずにいた。きっと死んだのだ。黒焦げになった死体が大地に転がり、肥料にでもなるのだろう。さしずめ自分はあの世にいるのだと、流星は思った。
「こうなると思った」
聞いたことのある声だ。夕美か。
「あなたは何も理解していない」
なんだ、自分は死んでいないのか?
「烈王に通常の物理攻撃は効かないのに。馬鹿ね、あなたって人は」
「なぜ、ここへ……」
「そんなのどうだっていいわ。まずあなたは、王の力の使い方を学ばないとね」
「杖のことか?」
「ええそれよ。あなた杖の中の悪霊をどう使いこなすの?」
「いろいろコケにされていますよ。お前の信念はそんなものかとか、なんだのと」
「早速悪霊のいいなりなのね。それじゃ困るでしょう?」
「こいつは一体何者何です?」
「影」
「影とは?」
「影は影よ。物体は皆影を持つ。それを操る力が杖にはある。私の、これは闇を司る」
夕美は右手につけた黒い腕輪を差し出した。
「あなたはてっきり水の使い手かと」
「王の特性を知れば、水でもなんでも生かせるわ。水以外でも、大地に生い茂る森、高くそびえる山、深い海もなんでも」
「森や、山、海が一体闇とどういうつながりが?」
「大ありよ。闇はどこにでも潜むもの。日差しが届かない深い樹林に、深い海の底に闇は潜んでいる。闇は至る所にいる。人の心にも闇は根差すし、私はそれらを大いに利用している」
「私は? 自分の王の力を生かせていないと?」
「ええ全くね。影を一体も召喚しないし、何よりもそれをただの棒切れのように振り回しているだけだから」
「どうすればこいつを使えこなせると?」
「それはあなた次第よ。生憎私は影使いではないから。王の宝に巣くう悪霊に聞くしかない。ただ、悪霊の言うことを聞いていると肉体を乗っ取られ最後は魂ごと食いつくされることになる」
「なるほど……恐ろしい。命は粗末にしたくない」
「次期に王の命は尽きるから遅かれ早かれ魂を差し出す羽目になるけど、使いこなせれば、当分は生きられるわ」
「どれぐらい?」
「百年でも、千年でも……」
「あなたはどれほど生きながらえていますか?」
「さあ忘れたわ。あなたには関係の無いことでしょう?」
「一度ならず、二度も救われるとは」
「もう助けないわ。あと、ゆめゆめ聖都に戻らない事ね。西王が与えた軍は、全滅。あなたは戻っても軍法会議にかけられるわ」
「全滅……」
「己が何をしたか思い返しなさい。自分の部下を置いて、烈王に単身決闘を挑んだ愚かさを振り返ることね」
「全滅」
「あなた一人で南都は落とさないといけないのよ? もはや烈王軍が次期に聖都にやってくる。他国の支援をしている暇はない」
「孤立無援ですね。かえってやりやすいか」
「まあどうするかはあなた次第よ。じゃあね、幸運を祈っているわ。王様」
夕美はそう言って消え去った。相変わらず足が速い。あれも闇の力なのか。わからない。脚力と闇が何の接点があるのか?
『お困りのようだな? 青二才よ』
「まったく。人が不愉快な時に、現れる……」
『俺はお前が望んだ時にしか現れんよ』
「王の力、影の力というやつを教えてくれないか?」
『ほう、ようやく王の特性について質問が出たな』
「早くしてくれ。俺にはやることがある」
『まあそう急くな。仇討ちなどじっくり時間をかけて……』
「伍の国の民は、こうしている間に耐え難い苦しみの中にいる。悠長なことは言っていられない。早くしてくれ」
『ほお、敵討ちはあきらめたか! なるほど、慈善活動でもやるのか』
影は大きくはしゃいだ。
「優先順位だ。まずは民を悪の手から救い出し、民意を得る。その後正式に玉座につき、他国と連携し、烈王の首を取る。その算段で行く」
『少しは理性的になったようだな』
「そういうことだ、早くしてくれ。杖で俺は何ができる?」
『できることといえば、生きとし生けるものの影を操れることかな』
「具体的に?」
『なら逆に聞く。他人の影を操れるとしたらお前は何をしたい?』
「影を操れるならだと?」
『そうだ。王の力は、学校の教科書のように、指南してくれる物があるわけではない。まずは己の意思だ。お前が影を使ってどうしたいか言わなければ、俺は何もしてやれん。今のままでは、杖はただの棒切れだ』
影を操るだと?
流星は戸惑った。夢にも思ってもみなかった。
『お前の言う通りこれはまず優先順位だ。国民の救済、烈王の討伐という御大層なことより、まずはやるべきことがあるな』
「他人の影を切り取り、剣にする。実体のない影ならいくらでも加工可能だろう?」
「剣にしてどうする?」
「相手を切る」
影は流星の意見を聞き、笑い転げる。
『あーはは! お前ときたら斬ることしか頭にないのだな』
「そういう人生だ」
『ま、少し知恵を授けてやろう。確かに斬ることも可能だ。人も家も大方のものは切り刻めるな。だが火や、水、といったとらえどころのないものはどうする?』
「そうか」
「わかったか? 烈王は火の使い手と言われただろう? 影を刀に見立てたところで、切れるのか?」
流星は首を横に振る。ならどうする?
『さあ考えろ。お前の矮小な脳みそで答えを出してみるがいい』
「こうなると思った」
聞いたことのある声だ。夕美か。
「あなたは何も理解していない」
なんだ、自分は死んでいないのか?
「烈王に通常の物理攻撃は効かないのに。馬鹿ね、あなたって人は」
「なぜ、ここへ……」
「そんなのどうだっていいわ。まずあなたは、王の力の使い方を学ばないとね」
「杖のことか?」
「ええそれよ。あなた杖の中の悪霊をどう使いこなすの?」
「いろいろコケにされていますよ。お前の信念はそんなものかとか、なんだのと」
「早速悪霊のいいなりなのね。それじゃ困るでしょう?」
「こいつは一体何者何です?」
「影」
「影とは?」
「影は影よ。物体は皆影を持つ。それを操る力が杖にはある。私の、これは闇を司る」
夕美は右手につけた黒い腕輪を差し出した。
「あなたはてっきり水の使い手かと」
「王の特性を知れば、水でもなんでも生かせるわ。水以外でも、大地に生い茂る森、高くそびえる山、深い海もなんでも」
「森や、山、海が一体闇とどういうつながりが?」
「大ありよ。闇はどこにでも潜むもの。日差しが届かない深い樹林に、深い海の底に闇は潜んでいる。闇は至る所にいる。人の心にも闇は根差すし、私はそれらを大いに利用している」
「私は? 自分の王の力を生かせていないと?」
「ええ全くね。影を一体も召喚しないし、何よりもそれをただの棒切れのように振り回しているだけだから」
「どうすればこいつを使えこなせると?」
「それはあなた次第よ。生憎私は影使いではないから。王の宝に巣くう悪霊に聞くしかない。ただ、悪霊の言うことを聞いていると肉体を乗っ取られ最後は魂ごと食いつくされることになる」
「なるほど……恐ろしい。命は粗末にしたくない」
「次期に王の命は尽きるから遅かれ早かれ魂を差し出す羽目になるけど、使いこなせれば、当分は生きられるわ」
「どれぐらい?」
「百年でも、千年でも……」
「あなたはどれほど生きながらえていますか?」
「さあ忘れたわ。あなたには関係の無いことでしょう?」
「一度ならず、二度も救われるとは」
「もう助けないわ。あと、ゆめゆめ聖都に戻らない事ね。西王が与えた軍は、全滅。あなたは戻っても軍法会議にかけられるわ」
「全滅……」
「己が何をしたか思い返しなさい。自分の部下を置いて、烈王に単身決闘を挑んだ愚かさを振り返ることね」
「全滅」
「あなた一人で南都は落とさないといけないのよ? もはや烈王軍が次期に聖都にやってくる。他国の支援をしている暇はない」
「孤立無援ですね。かえってやりやすいか」
「まあどうするかはあなた次第よ。じゃあね、幸運を祈っているわ。王様」
夕美はそう言って消え去った。相変わらず足が速い。あれも闇の力なのか。わからない。脚力と闇が何の接点があるのか?
『お困りのようだな? 青二才よ』
「まったく。人が不愉快な時に、現れる……」
『俺はお前が望んだ時にしか現れんよ』
「王の力、影の力というやつを教えてくれないか?」
『ほう、ようやく王の特性について質問が出たな』
「早くしてくれ。俺にはやることがある」
『まあそう急くな。仇討ちなどじっくり時間をかけて……』
「伍の国の民は、こうしている間に耐え難い苦しみの中にいる。悠長なことは言っていられない。早くしてくれ」
『ほお、敵討ちはあきらめたか! なるほど、慈善活動でもやるのか』
影は大きくはしゃいだ。
「優先順位だ。まずは民を悪の手から救い出し、民意を得る。その後正式に玉座につき、他国と連携し、烈王の首を取る。その算段で行く」
『少しは理性的になったようだな』
「そういうことだ、早くしてくれ。杖で俺は何ができる?」
『できることといえば、生きとし生けるものの影を操れることかな』
「具体的に?」
『なら逆に聞く。他人の影を操れるとしたらお前は何をしたい?』
「影を操れるならだと?」
『そうだ。王の力は、学校の教科書のように、指南してくれる物があるわけではない。まずは己の意思だ。お前が影を使ってどうしたいか言わなければ、俺は何もしてやれん。今のままでは、杖はただの棒切れだ』
影を操るだと?
流星は戸惑った。夢にも思ってもみなかった。
『お前の言う通りこれはまず優先順位だ。国民の救済、烈王の討伐という御大層なことより、まずはやるべきことがあるな』
「他人の影を切り取り、剣にする。実体のない影ならいくらでも加工可能だろう?」
「剣にしてどうする?」
「相手を切る」
影は流星の意見を聞き、笑い転げる。
『あーはは! お前ときたら斬ることしか頭にないのだな』
「そういう人生だ」
『ま、少し知恵を授けてやろう。確かに斬ることも可能だ。人も家も大方のものは切り刻めるな。だが火や、水、といったとらえどころのないものはどうする?』
「そうか」
「わかったか? 烈王は火の使い手と言われただろう? 影を刀に見立てたところで、切れるのか?」
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