七宝物語

戸笠耕一

文字の大きさ
上 下
79 / 156
第2章 前夜

6

しおりを挟む
 西王の館のある一室で、密かな会合が開かれていた。そこにいるのはこの世の権力者たち。すなわち王。彼らは互いの領土と人を束ねる存在だ。その力は絶対的で、ただ人では到底かなわない。

 諸王がなぜ集まったか。それはあまりにも暴虐で、無慈悲な王が東の国にいて、周辺に脅威を与えているからだ。これまでは王の中でも強大な力を持った三国が互いをけん制し合い平和を維持してきた。

 だが王とて永遠の存在ではなかった。南の大国の王が倒れた。抑止力をなくした世界に東の烈王は好機とばかりに軍を起こした。

 つかの間の平和を保った世界はまた分断された。特に空白地帯となった南の伍の国をめぐって議論が始まろうとしていた。

 その会合に、1人の男が姿を現す。

 流星は円卓のテーブルに集っている面々を見渡し、そこにいる者たちの平凡さに驚いていた。彼らが王なのかと。太った男、顔立ちのいい少々すました男、冷たい視線を送りつける女……

 なるほど、西王は別だ。女性でありながら王らしい。

 この中に私は入るというのか?

「さあ、あなたの席はそっち」

 西王が開いている席を指さして言う。席は7つあった。そのうち、3つが空白だった。2つは、火の都であった忌々しい顔ぶれが座るはずなのだろう。残された一席。そこが新王の席だ。

 考えていても仕方ないので、彼は言われた席に着くことにした。

「彼が新しい伍の王。名前は流星」

 西王がほかの王たちに彼の名前を教える。

「以後よろしく。それであなたにも申し訳ないけれども、のんきに自己紹介をしている場合ではないの。話を始めま
す」

「殿下、話など始めるまでもないでしょう」

 流星は、自分でも信じられない。言葉にしたことが誰に対して発せられたもので、そもそも問題なのは、内容だっ
た。

 流星の席は西王の右隣りにあって、西王の精工な美しい素顔がよく拝める。

 彼女は、怒ってはいなかった。ただ隣にいた流星を見つめていた。
「それはどういう意味なのかしら?」

 彼女は告げて微笑を浮かべる。

 流星は恐れていなかった。なぜならすでに彼には『力』があったからだ。

「私に兵をください。打って出るというなら、適任なのはこの私でしょう」

「おや、ずいぶんと即決だね」

 流星はその声の主を見て、何とも言えない感情を覚えた。彼のことは知らない。フフと笑った顔が、ニヒルで自分
には浮かべられない表情だ。

「いや失敬。決して揚げ足取りをしたわけじゃない。さあ、きみの意見を聞かせてくれ。流星――」

「私は伍の王。この世で狙われているのが伍の国。自分が納めるべき土地を守りに行くのは当然でしょうが」

「ただ?」

「私には兵がない。敵の数は数万。これを迎え撃つ兵が必要です」

「だから?」

「南の土地と民を助けるべく兵を壱の国よりお借りしたい」

 西王は、その澄んだ瞳を閉じ、彼の話を簡潔にまとめた。

「今の私は伍の王で、治めるべき土地と民を持っているが、兵がないので他国に貸してくださいというわけね?」

「はい」

 彼女はしばし沈黙する。誰もが、一言も発せずその返事を待っていた。

「ずいぶんと虫がいい話ね」

 西王が長い沈黙を破っていったのは、些末な一言だが、周りを震撼させるのにはじゅうぶんすぎるほどだった。

「あなたは、聖剣士。聖女をお守りする者のはずが彼女を守れず、大した成果もあげられず、挙句に土地と民が欲しいとぬかす……」

 小さくため息を彼女はついた。

「陛下も、ずいぶん難儀な男に惚れてしまったものね」

「いいでしょう。ですが貸せる兵は数千です」

「数千?」

「ええ。私もこの国の王として領土と民を守らねばなりません」

「それ以上は出せないとおっしゃいますか?」

「むろんです。大軍を率いて戦うには準備がいります。装備、補給……」

「南の領土の民は、どうなってもいいと?」

「南の民を守るのが、あなたの役目です。本来なら、あなた1人でなすべきことなのです」
 
 西王はぴしゃりと言った。

「それにもかかわらず、兵を貸すと言っている。あなたが王なら、敵がいくらいても関係ないでしょう」

 流星は、これほど朗らかな笑顔を始めてみた。そこには恐ろしいほどに狂気が潜んでいた。誰もが逆らえない圧倒的な力に裏打ちされた自信が、この場にいるもの全員を、部屋を、屋敷を、聖都を、いやこの世を支配しているかのようだ。

「話は、伍の国の領土は王が不在で、侵略を受けているからどうするか集まってもらいましたが、新王が立ちましたので安心です。すべてはあなたにお任せしましょう。伍王、流星」彼女は、笑顔を絶やそうとしない。

「わかりました。ならば、我が大地を切り取って見せましょう。兵をお貸しくださり、ありがとうございます」

「いいわよ。仰々しい。兵は貸すから夕美、いろいろと助けてあげて」

「了解」

「じゃ会議は終わりかな?」

「そういうこと」

「ならば我々は、部屋に帰り明日出立しよう」

「ええ、どうぞご自由に」

 彼女の返事は実に素っ気ない。丸雄と治樹は、早々に部屋を退出した。

「あなたも、いいのよ。わざわざ律義に残ってくれなくても」

「わかりました」

 西王の顔はどこか物憂げだったので、気になっていたが彼は部屋を出る。

「やあ」


 彼は背後声をかけられた。
「さっきはどうも。流星君」

「はあ」

 二人の男を見比べた。あまりにも対照的だったからだ。

「まあまあ、よく萌希にあれだけの口を聞けたものだ。我々感心していたところだ」

「そうですか」

「なあずいぶんとさえない返事じゃない」

 太っている男がゆっくりという。

「生憎お2人共仲良くしたいのですが、今は急いでおりますので……」

「まあいいさ。だが若くて気合に満ちた新王にこれだけは言っておくぞ。力にのまれないことだ」

「確かになあ」

「強大な力を得て、何を成し遂げた以下は知らんが、力は君を絶えず誘惑し、所有者を己の支配下に置こうとする」

「ええ、わかっています」

「そうかな? まあいい。わかっているならそれでいい。ならあとは好きにしなさい」

「使命を果たすため、そろそろよろしいでしょうか?」

「余計なおせっかいだったね。幸運を祈るよ。使命とやらを、期待している」

 治樹は、笑った。そして指をパチンと鳴らすと流星の視界から消えた。横にいた丸雄も同様にいなくなった。部屋には、夕美と西王の2人だけになった。役割を終え人が去った後の部屋は、もの悲しい。

「あなたは、流星の支援を。どうするかは任せるから」

「わかった」

 夕美は言って、部屋を後にする。

 1人残った西王は、腕にはめていた金の腕輪をそっとなでる。とても優しそうな目で。

「これが最後の戦いになるはずよ」

 彼女の口調はとても穏やかだった。

「平和な世やってくるわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

策が咲く〜死刑囚の王女と騎士の生存戦略〜

鋸鎚のこ
ファンタジー
亡国の王女シロンは、死刑囚鉱山へと送り込まれるが、そこで出会ったのは隣国の英雄騎士デュフェルだった。二人は運命的な出会いを果たし、力を合わせて大胆な脱獄劇を成功させる。 だが、自由を手に入れたその先に待っていたのは、策略渦巻く戦場と王宮の陰謀。「生き抜くためなら手段を選ばない」智略の天才・シロンと、「一騎当千の強さで戦局を変える」勇猛な武将・デュフェル。異なる資質を持つ二人が協力し、国家の未来を左右する大逆転を仕掛ける。 これは、互いに背中を預けながら、戦乱の世を生き抜く王女と騎士の生存戦略譚である。 ※この作品はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※本編完結・番外編を不定期投稿のため、完結とさせていただきます。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

転生したらついてましたァァァァァ!!!

夢追子
ファンタジー
「女子力なんてくそ喰らえ・・・・・。」 あざと女に恋人を奪われた沢崎直は、交通事故に遭い異世界へと転生を果たす。 だけど、ちょっと待って⁉何か、変なんですけど・・・・・。何かついてるんですけど⁉ 消息不明となっていた辺境伯の三男坊として転生した会社員(♀)二十五歳。モブ女。 イケメンになって人生イージーモードかと思いきや苦難の連続にあっぷあっぷの日々。 そんな中、訪れる運命の出会い。 あれ?女性に食指が動かないって、これって最終的にBL!? 予測不能な異世界転生逆転ファンタジーラブコメディ。 「とりあえずがんばってはみます」

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...