七宝物語

戸笠耕一

文字の大きさ
上 下
78 / 156
第2章 前夜

5

しおりを挟む
 いい夢と悪い夢を同時に見ていた気がした。目が覚めた先は、当たり前だが、現実だった。だが、何かが自分の中に入り込んできたようだ。それで中を見られた。

「よかった。帰ってきた」

 目の前にいる女は、弐の王夕美。そうだ。この女に連れてこられたのだ。西王が呼んでいるからと言われ。

「おめでとう。流星」

 西王。この世の最高権力者。

「あなたは王の儀を乗り切ったわ。これであなたは王よ。第五の宝を手にした」

 彼女は淡々とした喋りをした。

「なんだ? あれはいったい?」

「宝に巣くう悪霊が、あなたを見定めた。で、あなたは認められたの」

 王だと? 私がなぜだ?

 床に仰向けになった自分の体の横に紫のステッキが置かれていた。これが宝なのか?

 彼は自然とそれをつかみ取った。なんだ、何の変哲もない杖じゃないか?

 笑った。どうやら夢を見ていたらしい。

 『もう、わしを忘れたのか?』

 突然、声がした。流星は、はっとなった。忘れもしない声だ。

「お前……」

『さあなすべきことをなそうではないか? お前の使命とやらを果たせ。そして奪い返せ。己の者を取り返し、今度は根こそぎ奪い取れ!』

 彼の心は一瞬目まぐるしく変わる情景に追い付かなくなっていた。

 だが彼はすぐに思い出し、フッと笑った。これまでにないほど満足していた。体中からみなぎるものを感じる。欲しかった力だ。

「終わったようね。6人になっていた王がこれで7人になったわ。みんなにあなたのことを紹介するわ」

 西王は手をパンとたたき、その場を仕切りなおした。

「誰か私を待っているのか?」

「今日は私の館に王が集うのよ。烈王打倒に向けての作戦会議よ」

 彼女はクスリと笑う。

 烈王。あのゆがんだ者に今度こそ鉄槌を下すことができる。手にしたステッキをぎゅっと握りしめて、彼は己のうちに燃え盛る復讐の炎をたぎらせた。
しおりを挟む

処理中です...