70 / 156
第1章 戦いの準備
1
しおりを挟む
この世には、一人の無垢な聖女と七人の王たちがいる。王は聖女に土地と人民の統治権を移譲されていた。多くの人民を一人の権力者が束ねれば、独裁になり、危うい。また人民による話し合いによる統治は、何事もはかどらない。結果、はるか昔に編み出された統治方法が、七人の王による分割統治だった。無垢な聖女を王が中心となって奉り、平和裏にこの世を統治していく。
しかし王が複数いればそのバランスが均衡になるのはむずかしく、大きな権限を与えられた彼らは人民を束ね、互いの領土を奪い合い始めた。時がたつほどに力を持たない聖女は存在の意義を失い、やがて血統があるとき途絶えてしまった。
争いは争いを生み、血を血で洗う時代が長く続き、大地は荒廃し海は汚れた。人々の心もすさみ、平和への願望が一層強くなった。ある時、西の地より新王が立った。新王は瞬く間にこの世を平定し、全土をおさめた。そして聖女を見出した。
新たに見つかった当時、聖女は幼子だった。だが、この無垢で可憐な少女は大衆の眼を避けて成長し、正式に聖女としてその地位に座った。人々はますます平和と希望を頭上に描き、夢見た。聖女は希和子という名前になった。都のはずれの貧民街にいた少女とその家族は一瞬にして、大いなる一族としてあがめられた。
西にある都が大いに平和の中で栄える一方で、東に放逐した禍根もまたじわじわと根を深く忍ばせていた。やがて悪しき果実が大きくなった。彼は、己の都を立て、自らを「烈王」と呼称し周辺国に争いを仕掛けた。その所業は、歴史を紐解いても例が見つからないほど、残酷に満ち溢れていた。
戦いが激しくなる中で、多くの血が流れ落ち、烈王の紅蓮の炎にあぶられた。その毒牙は聖女にも迫った。無用な戦いを聖女は疎んだ。しかしその思いとは裏腹に事態は悪くなり、悪魔は彼女のそばに差し迫り、ついに聖女をとらえた。
挙句の果てに聖女は死んだ。わずか即位して二年だった。はるか昔より血脈が途絶えたとされる聖女が再来し、争いを忌み平和と希望を思った国民と王が望んだ女性は、巧みに誘拐され、敵の手に渡った。その事実を国民は知らず、王の秘事とされていた。密かに奪還計画が立てられ、敵の住まう苛烈な炎が見舞う都へ二人の者が差し向けられた。王は、国民の動揺を恐れ、大胆な行動には出られず、これがあだとなった。聖女は敵の都から逃げ出す途中で、攻撃を受け負傷した。腹に宿った自身の後継者を案じながら、帰還した。聖都に帰り、安堵し、平和を夢見て息を引き取った。
国民は聖女の逝去を知り、大きな喪失感に襲われた。平和と希望。これこそが国民の願いであり、その象徴を奪われ心に大きな空白が生まれた。だが、空白には怒りという納得がいくまで消えることのない代物で埋め尽くされた。
聖女の国葬を終え、彼らは王や行政に報復を訴えていた。烈王への呪詛にも近い怒りが聖都を覆われる中で物語は始まることになる。
しかし王が複数いればそのバランスが均衡になるのはむずかしく、大きな権限を与えられた彼らは人民を束ね、互いの領土を奪い合い始めた。時がたつほどに力を持たない聖女は存在の意義を失い、やがて血統があるとき途絶えてしまった。
争いは争いを生み、血を血で洗う時代が長く続き、大地は荒廃し海は汚れた。人々の心もすさみ、平和への願望が一層強くなった。ある時、西の地より新王が立った。新王は瞬く間にこの世を平定し、全土をおさめた。そして聖女を見出した。
新たに見つかった当時、聖女は幼子だった。だが、この無垢で可憐な少女は大衆の眼を避けて成長し、正式に聖女としてその地位に座った。人々はますます平和と希望を頭上に描き、夢見た。聖女は希和子という名前になった。都のはずれの貧民街にいた少女とその家族は一瞬にして、大いなる一族としてあがめられた。
西にある都が大いに平和の中で栄える一方で、東に放逐した禍根もまたじわじわと根を深く忍ばせていた。やがて悪しき果実が大きくなった。彼は、己の都を立て、自らを「烈王」と呼称し周辺国に争いを仕掛けた。その所業は、歴史を紐解いても例が見つからないほど、残酷に満ち溢れていた。
戦いが激しくなる中で、多くの血が流れ落ち、烈王の紅蓮の炎にあぶられた。その毒牙は聖女にも迫った。無用な戦いを聖女は疎んだ。しかしその思いとは裏腹に事態は悪くなり、悪魔は彼女のそばに差し迫り、ついに聖女をとらえた。
挙句の果てに聖女は死んだ。わずか即位して二年だった。はるか昔より血脈が途絶えたとされる聖女が再来し、争いを忌み平和と希望を思った国民と王が望んだ女性は、巧みに誘拐され、敵の手に渡った。その事実を国民は知らず、王の秘事とされていた。密かに奪還計画が立てられ、敵の住まう苛烈な炎が見舞う都へ二人の者が差し向けられた。王は、国民の動揺を恐れ、大胆な行動には出られず、これがあだとなった。聖女は敵の都から逃げ出す途中で、攻撃を受け負傷した。腹に宿った自身の後継者を案じながら、帰還した。聖都に帰り、安堵し、平和を夢見て息を引き取った。
国民は聖女の逝去を知り、大きな喪失感に襲われた。平和と希望。これこそが国民の願いであり、その象徴を奪われ心に大きな空白が生まれた。だが、空白には怒りという納得がいくまで消えることのない代物で埋め尽くされた。
聖女の国葬を終え、彼らは王や行政に報復を訴えていた。烈王への呪詛にも近い怒りが聖都を覆われる中で物語は始まることになる。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる