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第3章 諸王の会議
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「どうして――あなたが、こ、ここにいるの?」
希和子の震えた声が部屋に響き渡る。入ってきた者が、なぜどうしてここにいるのか。いやあり得ないことだ。そんな馬鹿なはずはない。
「やあ素晴らしかったよ。君の聖女としての在り方は立派だよ。歴代の中でも最高じゃないかなあ」
嬉しそうな顔をする聡士を前にして希和子は後ずさりをする。この男の笑顔は、彼が宮廷にいたときからずっと信じられなかった。表情の裏にある得体の知れないものが、希和子を恐れされた。
でもどうして彼がここにいる?
彼は会議の最中だ。なぜ? どうして?
「でもこうして二人で会うときは、いつも知っている桃ちゃんだ」
聡士は一歩彼女に詰め寄った。
「来ないで」
「ああ、またかい。僕をなぜ恐れているのか、ちっとも分らないなあ」
彼は困ったなあという表情を浮かべる。その様に希和子は引いた。対照的な感情のやり取りは、どこか滑稽でもあった。
「僕がここにいるのは、君が首に付けている時計にある。僕宝は、時計だ。会議中は宝を持てないから、事前に自分の魂の一部をそいつに移しておいたのさ。会議で話しているのは僕の分身ってわけ。僕は時計が身近にあればどんなことでもできる。そう、どんなことでもね」彼はせせら笑う。出来ないことは何一つないと言いたげだ。
懐中時計。聡士の宝は、極めて日常にありふれたものだ。彼には、自由自在に扱える道具だ。
「ああ、わかったよ。ポイントは外に兵たちがいるのになんで入って来られるか、かな?」
彼はポンと手を叩く。
「僕はね、時間を少しの間だけ止められるのさ。わずかな空間だけね。おかげで君の想い人も、他の兵も、皆ボケっと突っ立っているただのぼんくらになっちまったのさ」
希和子は恐ろしくなり、少なくとも首にかけた時計を外そうとする。だが首に巻き付いた環は、彼女を締め付け、外れない。息苦しい。
「やめなよ。君じゃ外せないよ」
「取って、取ってよ……」恐ろしいこんなものを身につけされるなんて。だけど変だ。贈り物のはず。どうして? 今は付けているのが恐ろしい。
「ごめんね。今、君にその時計を外してほしくないのさ」
ひんやりと冷めた言葉だ。そうか、と気づいた。彼の言葉には愛がない。希和子は、彼が表した親和な笑みの裏の正体を垣間見た。
ガチャリと音がして、部屋にまた誰かが入ってきた。
祥子だった。彼女を目にして、救世主が来たと思った。希和子は、別荘に行く途上で誘拐されかけたときに、彼女に飛びついたときのように、また泣きついた。
「ねえ助けて。この時計を外したいの!」
彼女にすがるしかない。頼れるのはわずかなのだ。
「これを取って!」
「分かっておりますとも」
「何とかして」
「ええ」
だが希和子は、彼女が慈愛に満ちた素振りを示すばかりで何もしてくれない。
「一先ず……」
祥子は手元から小瓶を取り出し中の匂いをかがす。完熟な甘さが、うっとうしいほど頭にこびりつき、クラリと意識が揺らぐ。
「ゆっくりお休みくださいまし」
夢を見ているのか。
分からない、全く分からない。自分に差し迫っていることが理解できない。冷静に分析できる力はない。
意識が混沌としていくなかで、希和子はまたいつもの夢に出たシーンを見た。草原の向こうにいる両親。その先には川がある。だが情景も揺らぐ。深い淵へと彼女は落ちた。
希和子の震えた声が部屋に響き渡る。入ってきた者が、なぜどうしてここにいるのか。いやあり得ないことだ。そんな馬鹿なはずはない。
「やあ素晴らしかったよ。君の聖女としての在り方は立派だよ。歴代の中でも最高じゃないかなあ」
嬉しそうな顔をする聡士を前にして希和子は後ずさりをする。この男の笑顔は、彼が宮廷にいたときからずっと信じられなかった。表情の裏にある得体の知れないものが、希和子を恐れされた。
でもどうして彼がここにいる?
彼は会議の最中だ。なぜ? どうして?
「でもこうして二人で会うときは、いつも知っている桃ちゃんだ」
聡士は一歩彼女に詰め寄った。
「来ないで」
「ああ、またかい。僕をなぜ恐れているのか、ちっとも分らないなあ」
彼は困ったなあという表情を浮かべる。その様に希和子は引いた。対照的な感情のやり取りは、どこか滑稽でもあった。
「僕がここにいるのは、君が首に付けている時計にある。僕宝は、時計だ。会議中は宝を持てないから、事前に自分の魂の一部をそいつに移しておいたのさ。会議で話しているのは僕の分身ってわけ。僕は時計が身近にあればどんなことでもできる。そう、どんなことでもね」彼はせせら笑う。出来ないことは何一つないと言いたげだ。
懐中時計。聡士の宝は、極めて日常にありふれたものだ。彼には、自由自在に扱える道具だ。
「ああ、わかったよ。ポイントは外に兵たちがいるのになんで入って来られるか、かな?」
彼はポンと手を叩く。
「僕はね、時間を少しの間だけ止められるのさ。わずかな空間だけね。おかげで君の想い人も、他の兵も、皆ボケっと突っ立っているただのぼんくらになっちまったのさ」
希和子は恐ろしくなり、少なくとも首にかけた時計を外そうとする。だが首に巻き付いた環は、彼女を締め付け、外れない。息苦しい。
「やめなよ。君じゃ外せないよ」
「取って、取ってよ……」恐ろしいこんなものを身につけされるなんて。だけど変だ。贈り物のはず。どうして? 今は付けているのが恐ろしい。
「ごめんね。今、君にその時計を外してほしくないのさ」
ひんやりと冷めた言葉だ。そうか、と気づいた。彼の言葉には愛がない。希和子は、彼が表した親和な笑みの裏の正体を垣間見た。
ガチャリと音がして、部屋にまた誰かが入ってきた。
祥子だった。彼女を目にして、救世主が来たと思った。希和子は、別荘に行く途上で誘拐されかけたときに、彼女に飛びついたときのように、また泣きついた。
「ねえ助けて。この時計を外したいの!」
彼女にすがるしかない。頼れるのはわずかなのだ。
「これを取って!」
「分かっておりますとも」
「何とかして」
「ええ」
だが希和子は、彼女が慈愛に満ちた素振りを示すばかりで何もしてくれない。
「一先ず……」
祥子は手元から小瓶を取り出し中の匂いをかがす。完熟な甘さが、うっとうしいほど頭にこびりつき、クラリと意識が揺らぐ。
「ゆっくりお休みくださいまし」
夢を見ているのか。
分からない、全く分からない。自分に差し迫っていることが理解できない。冷静に分析できる力はない。
意識が混沌としていくなかで、希和子はまたいつもの夢に出たシーンを見た。草原の向こうにいる両親。その先には川がある。だが情景も揺らぐ。深い淵へと彼女は落ちた。
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