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第3章 諸王の会議
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会議の間は、宮殿にありながら聖女の所有の部屋ではなかった。ここだけは特別であり、王たち七人のものである。
部屋の内部に、円形のテーブルが置かれ椅子が七つ用意されている。
各自椅子に腰かけると、さっそく議題に移る。まずは各国の領土統治のあり方居ついて。その後の内容は、専ら昨今の領土戦争に話が自動的に移行した。
早速非難の矛先を受けたのは、火の国と言われた参の国と支援国である四の国である。糾弾者は弐ノ国王であった。
「なあ、酷いじゃないか。初めて参席する会合なのに、ずいぶんな言われようだな。もっと暖かい歓待を待ち望んだのだが?」
「本人に責任があるように見えるけど」
「ほう、さっきから言っている伍の国侵略の件か?」
「ずいぶんと壱の国にもね」
「あら」
「本音を言うと世界中に戦争を吹っかけて敵に回しているわけよ、あんたたち二人」
弐ノ国王の声は冷たい。
「最悪の場合、あんたたち二人には退位してもらい、身分はこちらで預かることになるわね」
弐ノ国王が放つ言葉に一同沈黙する。
「ほお、退位ね」
「ずいぶんと重い処分だね。猛留はこの会議は初めてだし、王の誓約をまだ理解していない?」
「変ね。暴れん坊の彼はともかくあなたは長いこと王という存在を見てきたわけだし、何かと助言ができたのでは?」
「何だって! 僕が王としての役割を完全に理解しているかだって? 僕はずっと何百年間西王の側近だった。僕にだって分からないことは一杯あるさ」
「まあまあ、ともかくここは穏便に互いの領土を治めていこうじゃないか。君たちの国は巨大だし、強い。一方、僕の国は矮小で大した資源もない。いたずらに兵を出し、野放図に土地を強奪するのはよくない」
仲裁に入ったのは六の王だ。
「なに? いつお前のとこの国を侵略した?」
「だからね――」
「いつ襲ったかって聞いている!」
「いや……」
「我々小国には小国なりの処世術というものがある。君たちのような大国が少し動くと小国は――ほら、振り子時計みたいに右に左に大揺れってわけ」
振り子時計は、会議の終わりまで左右に揺れ音を鳴らす。そして止まれば会議は終了する。
「そうか。残念だったな」
彼は意に介さない。
「考えてくれないのは、残念というものだよ。ねえ?」
七の王は夕美に話を振る。
「あら、あなたは強い者に媚びへつらって、裏では何を考えているのか知れたものじゃないし、あんまり信用が置けないわ」
七の王はクスッと笑う。期待が外れたのだ、笑うしかなかった。
「僕の妻は西王だよ? 彼女につくしている身だ。裏なんてないよ」
「そういう割には、参の国へ女性の人身売買の疑いがあるわよ」
「いやだな。僕は女性には優しいけど」
「知らないの? 人を売り買いするのは禁止されているって」
「そこまで。妙な勘ぐりあいはやめましょう」
手を上げて、話を止めたのは座長である西王であった。
「時間も少なくなってきました。そろそろまとめましょう」
「各自の領土統治、つつがなく進んでいるという報、よく分かりました」
しかし、と西王は落ち着いた様子で話を続ける。
「いささか我が国もそうですが、紛争が絶えない。特に我が国の重要な戦略拠点の占拠、参の国による伍の国へいたずらに兵を出して駐留したこと遺憾に思います」
「あれは、違うよ、違う」
「先の王、逝去に伴う動揺を抑えるための駐留というのは、いささか勝手と存じます。参の王は少なくとも聖都に一報入れるべきでした」
「あのねえ」
烈王の言い分は、全て遮られる。西王は話をやめない。
「聖都に一報入れるのは、聖女陛下への忠誠への証を示すことになる。なのに、そうしなかった」
烈王はすでに王足る行いを放棄した。資格のない王は王ではない。ならば速やかに王の宝を返上して、退位することが望ましいと締めくくられるとみんなが考えた。
烈王、四ノ国王を除く諸王の思いを西王は代弁した。
「今回については、あまりにも常識から外れ、参の王が玉座に座り日が浅いこと、未だ浅慮に走りがちとなったとはいえ、ゆゆしき事態です。もはや退位しか選択はありません」
彼女の言葉はそこでいったん途切れた。あとには、静まり返った空気だけが残る。
「会議はこれぐらいね。少し早いけど、終わりにしましょう」
彼女はパンと手を叩くと、振り子時計を止めた。
みんなが、当然の締めくくりだと思った。まあ烈王と四ノ国王を除いて。
会議が閉会すると、夕美は立ち上がり、聡士の傍によった。彼女は手で弟の頭を机に叩きつけた。
「何をする! 痛いじゃないか!」
頭を押さえつけられた聡士は、苦悶の表情を浮かべた。夕美は会議が終わると同時にすぐさま聡士のところに行き、力で抑える。
「くだらない演技はもう結構。話し合いは終わったし、色々吐いてもらうことは山ほどあるわ。さあ、もう入ってきていいわ!」
すると閉じていた扉がバンと開き、ぞろぞろと黒服に身を包んだ親衛隊が入ってきた。聡士の腕をつかみ引き立てようとした。
「一国の王をこんな風に扱うのはどうかと思うけど?」
「あ、残念だけど。私の言うことなら彼らは何でも聞くの。聖女への謀反容疑だから、たとえ王であっても取り調べは可能なの」
彼女の顔はにこやかで、不気味なほど冷淡だ。
「いいわ、連れて行って」
聡士は会議の間から消えた。
「俺はいいのかな?」
「ええ」
「あんまり痛い目に遭わせないでほしいなあ。相棒だからさ」
「そう、あんまりいい相棒じゃないから解消した方がいいわ」
「余計なお世話だな」
夕美はさっさと部屋を後にした。
「さてと、会議は終わりだ。武器を返してくれないか?」
「まあせっかく帰った故郷ですからゆっくりしてきなさいな。部屋は用意してあるわ」
西王・萌希の声は終始冷静で落ち着いていた。実に落ち着いた声色に苛立ちながら返事をした。
「嫌だね」
交渉が決裂した瞬間だった。
部屋の内部に、円形のテーブルが置かれ椅子が七つ用意されている。
各自椅子に腰かけると、さっそく議題に移る。まずは各国の領土統治のあり方居ついて。その後の内容は、専ら昨今の領土戦争に話が自動的に移行した。
早速非難の矛先を受けたのは、火の国と言われた参の国と支援国である四の国である。糾弾者は弐ノ国王であった。
「なあ、酷いじゃないか。初めて参席する会合なのに、ずいぶんな言われようだな。もっと暖かい歓待を待ち望んだのだが?」
「本人に責任があるように見えるけど」
「ほう、さっきから言っている伍の国侵略の件か?」
「ずいぶんと壱の国にもね」
「あら」
「本音を言うと世界中に戦争を吹っかけて敵に回しているわけよ、あんたたち二人」
弐ノ国王の声は冷たい。
「最悪の場合、あんたたち二人には退位してもらい、身分はこちらで預かることになるわね」
弐ノ国王が放つ言葉に一同沈黙する。
「ほお、退位ね」
「ずいぶんと重い処分だね。猛留はこの会議は初めてだし、王の誓約をまだ理解していない?」
「変ね。暴れん坊の彼はともかくあなたは長いこと王という存在を見てきたわけだし、何かと助言ができたのでは?」
「何だって! 僕が王としての役割を完全に理解しているかだって? 僕はずっと何百年間西王の側近だった。僕にだって分からないことは一杯あるさ」
「まあまあ、ともかくここは穏便に互いの領土を治めていこうじゃないか。君たちの国は巨大だし、強い。一方、僕の国は矮小で大した資源もない。いたずらに兵を出し、野放図に土地を強奪するのはよくない」
仲裁に入ったのは六の王だ。
「なに? いつお前のとこの国を侵略した?」
「だからね――」
「いつ襲ったかって聞いている!」
「いや……」
「我々小国には小国なりの処世術というものがある。君たちのような大国が少し動くと小国は――ほら、振り子時計みたいに右に左に大揺れってわけ」
振り子時計は、会議の終わりまで左右に揺れ音を鳴らす。そして止まれば会議は終了する。
「そうか。残念だったな」
彼は意に介さない。
「考えてくれないのは、残念というものだよ。ねえ?」
七の王は夕美に話を振る。
「あら、あなたは強い者に媚びへつらって、裏では何を考えているのか知れたものじゃないし、あんまり信用が置けないわ」
七の王はクスッと笑う。期待が外れたのだ、笑うしかなかった。
「僕の妻は西王だよ? 彼女につくしている身だ。裏なんてないよ」
「そういう割には、参の国へ女性の人身売買の疑いがあるわよ」
「いやだな。僕は女性には優しいけど」
「知らないの? 人を売り買いするのは禁止されているって」
「そこまで。妙な勘ぐりあいはやめましょう」
手を上げて、話を止めたのは座長である西王であった。
「時間も少なくなってきました。そろそろまとめましょう」
「各自の領土統治、つつがなく進んでいるという報、よく分かりました」
しかし、と西王は落ち着いた様子で話を続ける。
「いささか我が国もそうですが、紛争が絶えない。特に我が国の重要な戦略拠点の占拠、参の国による伍の国へいたずらに兵を出して駐留したこと遺憾に思います」
「あれは、違うよ、違う」
「先の王、逝去に伴う動揺を抑えるための駐留というのは、いささか勝手と存じます。参の王は少なくとも聖都に一報入れるべきでした」
「あのねえ」
烈王の言い分は、全て遮られる。西王は話をやめない。
「聖都に一報入れるのは、聖女陛下への忠誠への証を示すことになる。なのに、そうしなかった」
烈王はすでに王足る行いを放棄した。資格のない王は王ではない。ならば速やかに王の宝を返上して、退位することが望ましいと締めくくられるとみんなが考えた。
烈王、四ノ国王を除く諸王の思いを西王は代弁した。
「今回については、あまりにも常識から外れ、参の王が玉座に座り日が浅いこと、未だ浅慮に走りがちとなったとはいえ、ゆゆしき事態です。もはや退位しか選択はありません」
彼女の言葉はそこでいったん途切れた。あとには、静まり返った空気だけが残る。
「会議はこれぐらいね。少し早いけど、終わりにしましょう」
彼女はパンと手を叩くと、振り子時計を止めた。
みんなが、当然の締めくくりだと思った。まあ烈王と四ノ国王を除いて。
会議が閉会すると、夕美は立ち上がり、聡士の傍によった。彼女は手で弟の頭を机に叩きつけた。
「何をする! 痛いじゃないか!」
頭を押さえつけられた聡士は、苦悶の表情を浮かべた。夕美は会議が終わると同時にすぐさま聡士のところに行き、力で抑える。
「くだらない演技はもう結構。話し合いは終わったし、色々吐いてもらうことは山ほどあるわ。さあ、もう入ってきていいわ!」
すると閉じていた扉がバンと開き、ぞろぞろと黒服に身を包んだ親衛隊が入ってきた。聡士の腕をつかみ引き立てようとした。
「一国の王をこんな風に扱うのはどうかと思うけど?」
「あ、残念だけど。私の言うことなら彼らは何でも聞くの。聖女への謀反容疑だから、たとえ王であっても取り調べは可能なの」
彼女の顔はにこやかで、不気味なほど冷淡だ。
「いいわ、連れて行って」
聡士は会議の間から消えた。
「俺はいいのかな?」
「ええ」
「あんまり痛い目に遭わせないでほしいなあ。相棒だからさ」
「そう、あんまりいい相棒じゃないから解消した方がいいわ」
「余計なお世話だな」
夕美はさっさと部屋を後にした。
「さてと、会議は終わりだ。武器を返してくれないか?」
「まあせっかく帰った故郷ですからゆっくりしてきなさいな。部屋は用意してあるわ」
西王・萌希の声は終始冷静で落ち着いていた。実に落ち着いた声色に苛立ちながら返事をした。
「嫌だね」
交渉が決裂した瞬間だった。
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