七宝物語

戸笠耕一

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第三部 戦争裁判

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 益川は、今日の審議後にホテルを抜け出し目の前の聖都公園にいた。公園の中央のお堂の裏手。そこが待ち合わせ場所だ。

 しばらく一人でいると、じゃりじゃりと無尽蔵に置かれた小石を踏む音が聞こえ、黒い革靴が見えた。

「やあ、早いですね」

 黒服の男が来た。

「いえ」

「それで、どうです? 審議の方は?」

「まとまりがない。というか割れました」

「何対何で?」

「二対二です」

「二ノ国と伍の国は、罪人を重罪とする方針。まあ最高刑の死刑の適応を求めています」

「ほう、それで?」

「六の国は、人道主義の立場から死刑は反対。むしろ罪人を今回の罪状からは、裁くことはできないと。烈王については、全ての法の観点から照らし合わせても終身刑。その他大臣閣僚については全ての罪状に対して、無罪と」

「無罪……」

「大臣閣僚にかけられた今回の罪状、領地侵略の罪、人道の罪、戦争犯罪の三点は、侵略と人道については連合国が、戦後に追加した法であり、事後法といっています。烈王についても、三点については無罪。裁くとしても、聖女に対する罪と王法に関してだけとしています」

「到底受け入れられませんね。危険な発想だ」

「ええ、ですから多数派を結成し、審議を早めようと考えています」
「裁判長はどうです?」

「これが、二度ほど裁判は遅々のないようにと言いましたが、合議で決めると一点張り。このままでは審議は長引くでしょう」

「あなたを二ノ国の代表として送り込んだそうならないためですが?」

「ええ、最悪委員会が彼を更迭し、いい人材を選び直す場合も」

「それは厳しいな。政本は、西王が推薦した。彼を下ろすとなると、王の威信に傷がつく、いやだめだ」

 益川は、一度黙った。王の威信。

「あなたが、多数派を作るしかないだろう。政本は、人道主義なのか?」

「いや、審議をきっちりやりたいだけですよ。世論の感情に流されず、事実を追求していきたいという。一見正しいですが」

「審議はむろん、当たり前だがしっかりやるのは正しい。だがこまめに法を、まめに調べて意見を聞き、決を下すというやり方では、時間はいくらあっても終わらない」

「ええ。期待は、態度を明らかにしていないもう一人の男……七の国の裁者を、こちら側に付かせれば」

「何だ? 七の国は、壱の国と同盟を結び、王同士の婚姻まで結んでいるのに」

「王は、裁者に指示はせず、独自に動けと命じているようで。謎ですね。うまく動きを見てみますよ。まだ始まった
ばかりだ」

「そうですね。よろしく頼みますよ」

「ええ」

 男は、向きを変え夕暮れ時の影の中に消えていった。益川は、二ノ国より送り込まれた使者。他国の動きを上に報告し、現場を調整する役割を与えられている。裁判は、早く終わらせるようまとめるのが務めだ。 
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