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第三部 戦争裁判
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戦後、連合軍は烈王の残党を探し抵抗する者は斬り、降伏する者を捕らえていった。日に日に、死体と捕虜の数が増えていく一方である。多くは、どこの生まれかもわからない兵卒は中位・下位の戦犯であり、罪を犯した
土地で裁きを受ける。
ただ問題は、烈王その人と配下で戦争を指導した閣僚以下高位に就く者たちの処遇だ。彼らは平和を脅かし、領地を侵略し、領民を殺し、それら三点について主導した責任がある。また烈王については。彼は王位を頂く者であり、三点に加えて王法を犯した罪でも裁かれることになる。
彼らは、世の感情をもってすれば裁判などせず即刻死刑にすべきとされるが、世の権力者である西王が、戦いが終結後『聖女と王と民衆と法の名において裁かれるべき』と告げ、復讐を防いだ。
戦争を企み、世の秩序を乱した敵は今まさに聖都に連行されている。先頭に烈王を入れた駕籠が歩き、背後に閣僚以下大臣又は軍の高官らが貨車に押し詰められている。さらに後ろに、位の高い者から低い者が続く。その数千名ほど。
彼らは数百の兵により脱走又は攻撃を受けぬよう警護されていた。無事に送り届け、正式な裁判を受けさせよ、という命令だ。捕虜はいささかも差別してはならぬ、とも言いつけられている。
兵士は愚直に命令に従う他になく、黙々と作業に当たった。
一方の捕虜は?
敵に頑強に抵抗するわけでなく、戦争に負けて涙するわけでもなく、彼らは不気味なほど静かにしていた。ただ彼の多くは、徒歩での移動のため疲労が顔に出ていた。なにせ、聖都までは二ヶ月かかる。それにこの人数だ。一日にわずかな距離しか移動できない。
捕虜の多くは、うつむいたまま神妙そうにしている。もはや世界を席巻しかけた時の面影は烈王の兵にはないのだ。
こうなってしまうと憎い相手でも、いささか不憫に思われる。いかに凶暴な獣も牙を抜き取られてしまえば、無力な存在だ。ほとんどが烈王の権力にかこつけて威張っていたやつらだ。主の権勢が消えれば、ただの人。今や小さな米粒のようだ。
護衛隊長の実次は、急ぎ南都に帰還した五王と火都にとどまりことになった弐王の名代として、馬上より捕虜を見渡す。
一列に並ぶ罪人の行列が、突然止まる。
列の左右を守る兵士たちがざわつく。
「静かにせよ。状況は?」
列の中間にいた実次が馬から重苦しい声を発する。また静かになる。
「地元の住民が、罪人を留めることを拒否している由にございます」
前の様子を確認しにいった兵士が戻り報告する。
やはり、と思った。聖女に刃を向けた逆賊を止めたいなどと思う者は、この世にあるまい。だがこの寒空の下、捕虜を連行し裁きを受けさせよという命を遂行する必要がある。
実次は懐をごそごそと探す。決して普段は見せず、いざという時にかざすべきもの。権力を借りたくはなかったが、使わざるを得ない。
一枚の白い紙。細い文字が書かれ、末尾に赤鳥の紋章が記されている。誰の印か、この世のものは知っている。王を統べる王である西王の印だ。五王より実次以下、限られたものに渡された。決して他人に見せず、隠し通し適した時に使えと言われていた。
「これを見せよ。捕虜を一度留めておく王命だ。私的な理由でこれを拒否することは出来ぬと通達しろ。もし拒めば、厳罰に処すると」
兵士は、神妙な面持ちで書状を受け取り、足早に去る。
あれを拒む者はいない。おそらく、移動中あらゆる土地で使う羽目になるだろう。嫌な仕事を賜ったものだと、彼は秘かにため息をついた。
土地で裁きを受ける。
ただ問題は、烈王その人と配下で戦争を指導した閣僚以下高位に就く者たちの処遇だ。彼らは平和を脅かし、領地を侵略し、領民を殺し、それら三点について主導した責任がある。また烈王については。彼は王位を頂く者であり、三点に加えて王法を犯した罪でも裁かれることになる。
彼らは、世の感情をもってすれば裁判などせず即刻死刑にすべきとされるが、世の権力者である西王が、戦いが終結後『聖女と王と民衆と法の名において裁かれるべき』と告げ、復讐を防いだ。
戦争を企み、世の秩序を乱した敵は今まさに聖都に連行されている。先頭に烈王を入れた駕籠が歩き、背後に閣僚以下大臣又は軍の高官らが貨車に押し詰められている。さらに後ろに、位の高い者から低い者が続く。その数千名ほど。
彼らは数百の兵により脱走又は攻撃を受けぬよう警護されていた。無事に送り届け、正式な裁判を受けさせよ、という命令だ。捕虜はいささかも差別してはならぬ、とも言いつけられている。
兵士は愚直に命令に従う他になく、黙々と作業に当たった。
一方の捕虜は?
敵に頑強に抵抗するわけでなく、戦争に負けて涙するわけでもなく、彼らは不気味なほど静かにしていた。ただ彼の多くは、徒歩での移動のため疲労が顔に出ていた。なにせ、聖都までは二ヶ月かかる。それにこの人数だ。一日にわずかな距離しか移動できない。
捕虜の多くは、うつむいたまま神妙そうにしている。もはや世界を席巻しかけた時の面影は烈王の兵にはないのだ。
こうなってしまうと憎い相手でも、いささか不憫に思われる。いかに凶暴な獣も牙を抜き取られてしまえば、無力な存在だ。ほとんどが烈王の権力にかこつけて威張っていたやつらだ。主の権勢が消えれば、ただの人。今や小さな米粒のようだ。
護衛隊長の実次は、急ぎ南都に帰還した五王と火都にとどまりことになった弐王の名代として、馬上より捕虜を見渡す。
一列に並ぶ罪人の行列が、突然止まる。
列の左右を守る兵士たちがざわつく。
「静かにせよ。状況は?」
列の中間にいた実次が馬から重苦しい声を発する。また静かになる。
「地元の住民が、罪人を留めることを拒否している由にございます」
前の様子を確認しにいった兵士が戻り報告する。
やはり、と思った。聖女に刃を向けた逆賊を止めたいなどと思う者は、この世にあるまい。だがこの寒空の下、捕虜を連行し裁きを受けさせよという命を遂行する必要がある。
実次は懐をごそごそと探す。決して普段は見せず、いざという時にかざすべきもの。権力を借りたくはなかったが、使わざるを得ない。
一枚の白い紙。細い文字が書かれ、末尾に赤鳥の紋章が記されている。誰の印か、この世のものは知っている。王を統べる王である西王の印だ。五王より実次以下、限られたものに渡された。決して他人に見せず、隠し通し適した時に使えと言われていた。
「これを見せよ。捕虜を一度留めておく王命だ。私的な理由でこれを拒否することは出来ぬと通達しろ。もし拒めば、厳罰に処すると」
兵士は、神妙な面持ちで書状を受け取り、足早に去る。
あれを拒む者はいない。おそらく、移動中あらゆる土地で使う羽目になるだろう。嫌な仕事を賜ったものだと、彼は秘かにため息をついた。
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