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終章 決起
37.烈王の帰還
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また光が、烈王の火を遮る。あれを砕く事が出来なければ、自分は西王に勝てないと知っていた。獣の形になって人としての意識を保つのは厳しい。
あの女とケリを付けるときは、人として猛瑠としての姿でいたい。だが決闘は、熾烈なものになるはずだ。
まずは帰還し、態勢を立て直さなければいけない。多くの兵を失った。都に残された兵はそう多くはない。彼らの多くは地をのたまう浪人や金のない浮浪者たちばかりだ。彼らを火都に踏み止ませているは、自身への恐怖だ。
やつらに歯向かう力はない。また死の恐怖を与えてやれば、一層奮起して、連合軍の攻撃を防ぐだろう。
兵などいくらでも湧いてくる。この世には残念なことに力に恵まれていない者が多い。
彼らに自分は細やかな力を与えてやるのだ。力をめぐる争いを起こすことで、人は競い合い互いを押しのけ合うことだろう。彼が目指していたのは、そういう世界だった。
竜のいで立ちとなり、あっという間に火都に戻る。
彼の宮殿に戻る。久しぶりだ。しかし、閑散としている。王宮の衛兵たちの大半も西へ連れて行った。
人の姿に戻ると、必ず衣服を魔法で取り出さないといけない。服が竜になるときに敗れてしまうからだ。烈王は、
魔法を使うのが苦手だった。
そろそろと現れたのは、年老いた従者だった。
「お帰りなさいませ、殿下」
「殿下と呼ぶなと言っているだろう」
「は、陛下」
裸の彼は、やっと身に衣を身につける。軽装備な白い羽衣をまとう。彼自身は、奢侈を望んでいないから、いつも
通りの姿だ。
だが人が少ない。女共は一体どうしたのだ? それにいくら外征に出したとはいえ、衛兵の数も少なすぎる。これ
では丸裸同然だ。
「妾たちは?」
「それが……」
「どうした?」
「分かりませぬ……」
「どういうことだ?」
「貴方様の妃たちは、殿下、いえ陛下がいなくなってから一向に妃の間から姿を見せなくなり、中には居なくなった
ものもおるとか……」
なんだと、と彼は言いながらうなった。統制が全く取れていないとは。この時、烈王の頭に疑念がわいた。奴らが
この俺に従ったふりをするのは、その場限りで本心は別にあるのではないか? まさか、あれほど逆らえば死を与えると多くを見せしめにしてきたというのに、まだわからないとは。
「今すぐに呼んで来い! 主が帰ったのに何をしている!」
「は!」
従者は、丸まった背中を懸命に起こそうとしつつ、宮廷内を駆ける。その様は滑稽だが、彼に笑い飛ばす余裕はな
かった。
「殿下!」
また別の者が寄ってきた。今度はまともなやつかと思ったら、こいつも分かっていない。この国の仕来りを。自分
が王以上の存在だという事実を。
「何だ!」
「連合軍より、使者が参っております。黒門正面に殿下直々にお目通りを願っている由とのこと」
ふん、と烈王は鼻で笑う。今更和睦などあるはずがない。
「切り捨てろ」
「そ、それが……」
「なんだ?」
「使者は、四の王」
「なに!」
「い、いかが致しましょう?……」
聡士が? 俺の策を信じろと言いながらちっとも成功しない。あのろくでなしの詐欺師が戻ってきた? 何が目的
だ? やつが知らぬ間に参の国を捨て、隣国の四の国に戻ったと思いきや、本国も戻らず敵に降伏したのは知っていた。だがなぜやつが使者として姿を現す?
「通せ。話を聞かせろ、と伝えろ。ただし、誰も伴うなと言え」
「御意に」
「よし、行け」
斬るか? いや簡単に斬れる相手ではない。あいつの魔術は、一流だ。いくら自分とはいえ侮り難い。なら、どう
する? まずは話を聞いて……
彼の腸は煮えくり返っている。落ち着いて話など聞けるのか? おおよそ裏切られなければ、自分の軍がここまで追いつめられることもない。二人で一つ。一心同体とか言ったやつの言葉が、吐き気を催すほどおぞましかった。
まあいい。どんな面をして俺に会おうとするのか楽しみだ。
あの女とケリを付けるときは、人として猛瑠としての姿でいたい。だが決闘は、熾烈なものになるはずだ。
まずは帰還し、態勢を立て直さなければいけない。多くの兵を失った。都に残された兵はそう多くはない。彼らの多くは地をのたまう浪人や金のない浮浪者たちばかりだ。彼らを火都に踏み止ませているは、自身への恐怖だ。
やつらに歯向かう力はない。また死の恐怖を与えてやれば、一層奮起して、連合軍の攻撃を防ぐだろう。
兵などいくらでも湧いてくる。この世には残念なことに力に恵まれていない者が多い。
彼らに自分は細やかな力を与えてやるのだ。力をめぐる争いを起こすことで、人は競い合い互いを押しのけ合うことだろう。彼が目指していたのは、そういう世界だった。
竜のいで立ちとなり、あっという間に火都に戻る。
彼の宮殿に戻る。久しぶりだ。しかし、閑散としている。王宮の衛兵たちの大半も西へ連れて行った。
人の姿に戻ると、必ず衣服を魔法で取り出さないといけない。服が竜になるときに敗れてしまうからだ。烈王は、
魔法を使うのが苦手だった。
そろそろと現れたのは、年老いた従者だった。
「お帰りなさいませ、殿下」
「殿下と呼ぶなと言っているだろう」
「は、陛下」
裸の彼は、やっと身に衣を身につける。軽装備な白い羽衣をまとう。彼自身は、奢侈を望んでいないから、いつも
通りの姿だ。
だが人が少ない。女共は一体どうしたのだ? それにいくら外征に出したとはいえ、衛兵の数も少なすぎる。これ
では丸裸同然だ。
「妾たちは?」
「それが……」
「どうした?」
「分かりませぬ……」
「どういうことだ?」
「貴方様の妃たちは、殿下、いえ陛下がいなくなってから一向に妃の間から姿を見せなくなり、中には居なくなった
ものもおるとか……」
なんだと、と彼は言いながらうなった。統制が全く取れていないとは。この時、烈王の頭に疑念がわいた。奴らが
この俺に従ったふりをするのは、その場限りで本心は別にあるのではないか? まさか、あれほど逆らえば死を与えると多くを見せしめにしてきたというのに、まだわからないとは。
「今すぐに呼んで来い! 主が帰ったのに何をしている!」
「は!」
従者は、丸まった背中を懸命に起こそうとしつつ、宮廷内を駆ける。その様は滑稽だが、彼に笑い飛ばす余裕はな
かった。
「殿下!」
また別の者が寄ってきた。今度はまともなやつかと思ったら、こいつも分かっていない。この国の仕来りを。自分
が王以上の存在だという事実を。
「何だ!」
「連合軍より、使者が参っております。黒門正面に殿下直々にお目通りを願っている由とのこと」
ふん、と烈王は鼻で笑う。今更和睦などあるはずがない。
「切り捨てろ」
「そ、それが……」
「なんだ?」
「使者は、四の王」
「なに!」
「い、いかが致しましょう?……」
聡士が? 俺の策を信じろと言いながらちっとも成功しない。あのろくでなしの詐欺師が戻ってきた? 何が目的
だ? やつが知らぬ間に参の国を捨て、隣国の四の国に戻ったと思いきや、本国も戻らず敵に降伏したのは知っていた。だがなぜやつが使者として姿を現す?
「通せ。話を聞かせろ、と伝えろ。ただし、誰も伴うなと言え」
「御意に」
「よし、行け」
斬るか? いや簡単に斬れる相手ではない。あいつの魔術は、一流だ。いくら自分とはいえ侮り難い。なら、どう
する? まずは話を聞いて……
彼の腸は煮えくり返っている。落ち着いて話など聞けるのか? おおよそ裏切られなければ、自分の軍がここまで追いつめられることもない。二人で一つ。一心同体とか言ったやつの言葉が、吐き気を催すほどおぞましかった。
まあいい。どんな面をして俺に会おうとするのか楽しみだ。
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