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ストーリー
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翌日、私は新井に肩を揺さぶられて目が覚めた。瞼が重たい。
「おい、起きろよ」
事件後というのは極めて眠れない一日を過ごすから絶不調だ。僕らは公僕ではないから怠けようと思えばいくらでもできる。
「我らがプリンセスが僕らのために朝ご飯を作って下さっているよ」
「朝ご飯だって」
鼻を嗅ぐとトーストとベーコンの香りが漂う。食欲をそそる匂いである。
「あら、おはよう。ずいぶんと遅いご起床ね」
ラウンジにはキッチンが付いている。秋月美果がお盆にトーストとハムエッグを皿にのせて運んできているところだった。
「今日は堀内さんの弁護士事務所に伺いたいんだ」
「兄さんに。あらら、何用かしら?」
「君が先日話してくれた遺言書の件だよ。どうなっているのか見てみたいのさ。だから君からお兄さんに僕らがそっちに伺うから見せてもらうよう言ってくれないか?」
弁護士には守秘義務があるため、その壁を突破するために美果からの依頼とすれば見ることができると新井は考えている。
「そう。でも私が教えてあげるわよ。財産は未来に1/2、兄さんに1/4、あとは他の人たちにあげるの」
「他の人たちというと、昨日パーティにいらした方々かな?」
「そうよ。咲子に雄一、夏帆と。あとは庭の手入れを手伝ってくれる富田さんかな」
美果はずいぶんと気前が良かった。愛する妹に財産をたっぷり残しておきたかったわけだ。あれほど愛していたわけだ。当然の対応だった。新井は
「ちなみに自宅は誰に?」
「ああ、ちょっともめていたのよ。未来も兄さんも要らないって言うから。私は絶対にこの家は手放したくなかったから。分からなくないけどね、色々ガタが来ているし、こんな広いだけの屋敷なんて家賃がかかるだけだから誰も相続なんてしたくないのよ」
「管理するとしたら誰が適任なのかな?」
「夏帆にしたの。富田さんたちはおじいちゃんおばあちゃんだからね」
ここで夏帆が出てくるのか。誰しもが美果から恩恵を得る機会はある。つまり殺害動機はあるというわけだ。
「遺言書を見せろと。要件は美果から連絡がありましたよ」
堀内はやれやれと首を振っていた。
「ご存じかと思いますがね。一介の探偵さんに見せるのはどうかと思っているんです。何せ弁護士にはね」
「ええ、分かっておりますよ。僕らは美果さんから依頼された探偵なんです。彼女から事件の捜査のために協力を惜しまないよう言われておりましてね」
新井は遮るようにして静かに要望を告げる。堀内は納得が言っていないという様子だった。
「その割には犯行を止められなかったようですけどね」
堀内は自身の手のけがを見せた。
「遺言書を偽装することは可能でしょうか?」
「そうならないよう万全の管理をしております」
本来、遺言書は自筆で、かつ手書きでなければならない。代筆も認められない。直筆の身なのでいわゆるワープロやパソコンを使用した作成は向こうである。ただ、遺言書には3つの種類があり「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」である。美果は「自筆証書遺言」を造り、堀内に預けたのだろう。
「密かに作っていたわけですね」
「ええ、おしゃべりな美果には誰にも言うなと伝えたはずですが。あなたには告げてしまい秘密ではななくなってしまった」
堀内は苦い顔つきになった。あのおてんば娘を説き伏せるのは四角四面な生き方しか知らないこの男には難しいだろう。
「くどいようで秘密ですから明かせないという前提を元に申し上げます。私たちにご一覧させて頂くことは可能でしょうか?」
いいでしょう、と堀内は部屋から出ていき遺言書を取りに行く。
「さて、どうなると思う?」
「おい、起きろよ」
事件後というのは極めて眠れない一日を過ごすから絶不調だ。僕らは公僕ではないから怠けようと思えばいくらでもできる。
「我らがプリンセスが僕らのために朝ご飯を作って下さっているよ」
「朝ご飯だって」
鼻を嗅ぐとトーストとベーコンの香りが漂う。食欲をそそる匂いである。
「あら、おはよう。ずいぶんと遅いご起床ね」
ラウンジにはキッチンが付いている。秋月美果がお盆にトーストとハムエッグを皿にのせて運んできているところだった。
「今日は堀内さんの弁護士事務所に伺いたいんだ」
「兄さんに。あらら、何用かしら?」
「君が先日話してくれた遺言書の件だよ。どうなっているのか見てみたいのさ。だから君からお兄さんに僕らがそっちに伺うから見せてもらうよう言ってくれないか?」
弁護士には守秘義務があるため、その壁を突破するために美果からの依頼とすれば見ることができると新井は考えている。
「そう。でも私が教えてあげるわよ。財産は未来に1/2、兄さんに1/4、あとは他の人たちにあげるの」
「他の人たちというと、昨日パーティにいらした方々かな?」
「そうよ。咲子に雄一、夏帆と。あとは庭の手入れを手伝ってくれる富田さんかな」
美果はずいぶんと気前が良かった。愛する妹に財産をたっぷり残しておきたかったわけだ。あれほど愛していたわけだ。当然の対応だった。新井は
「ちなみに自宅は誰に?」
「ああ、ちょっともめていたのよ。未来も兄さんも要らないって言うから。私は絶対にこの家は手放したくなかったから。分からなくないけどね、色々ガタが来ているし、こんな広いだけの屋敷なんて家賃がかかるだけだから誰も相続なんてしたくないのよ」
「管理するとしたら誰が適任なのかな?」
「夏帆にしたの。富田さんたちはおじいちゃんおばあちゃんだからね」
ここで夏帆が出てくるのか。誰しもが美果から恩恵を得る機会はある。つまり殺害動機はあるというわけだ。
「遺言書を見せろと。要件は美果から連絡がありましたよ」
堀内はやれやれと首を振っていた。
「ご存じかと思いますがね。一介の探偵さんに見せるのはどうかと思っているんです。何せ弁護士にはね」
「ええ、分かっておりますよ。僕らは美果さんから依頼された探偵なんです。彼女から事件の捜査のために協力を惜しまないよう言われておりましてね」
新井は遮るようにして静かに要望を告げる。堀内は納得が言っていないという様子だった。
「その割には犯行を止められなかったようですけどね」
堀内は自身の手のけがを見せた。
「遺言書を偽装することは可能でしょうか?」
「そうならないよう万全の管理をしております」
本来、遺言書は自筆で、かつ手書きでなければならない。代筆も認められない。直筆の身なのでいわゆるワープロやパソコンを使用した作成は向こうである。ただ、遺言書には3つの種類があり「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」である。美果は「自筆証書遺言」を造り、堀内に預けたのだろう。
「密かに作っていたわけですね」
「ええ、おしゃべりな美果には誰にも言うなと伝えたはずですが。あなたには告げてしまい秘密ではななくなってしまった」
堀内は苦い顔つきになった。あのおてんば娘を説き伏せるのは四角四面な生き方しか知らないこの男には難しいだろう。
「くどいようで秘密ですから明かせないという前提を元に申し上げます。私たちにご一覧させて頂くことは可能でしょうか?」
いいでしょう、と堀内は部屋から出ていき遺言書を取りに行く。
「さて、どうなると思う?」
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