孤島に浮かぶ真実

平野耕一郎

文字の大きさ
38 / 50
第二部

28

しおりを挟む
 翌日、試験最終日は雨だった。陽が雲で隠れ、少しだけ暑い気温を引き下げてくれて、涼しさを感じた。ただ晴れれば、ジメジメとした湿気が体を火照らすはずだ。海上に、雲の切れ端から陽が差し込んでいるから、すぐに雨は止んでしまうかもしれない。

 数学、物理、音楽。これが今日の試験日程だった。最終日ということもあって気抜けした感覚とも、戦わなくてはならなかった。

 無事試験は終了。今日から部活再会。試験期間になれば、休みになる部活も、また元通りになる。

 メイがやってきた。手に何かの資料を携えて。

「はい、これ。8月の部活の日程表と、合宿の資料!」

「合宿ぅー? えー行かない」

 彩月のたれた顔。

「ええぇぇーなんでー?」

 メイはオーバーに反応した。

「どこか行くの?」私は何ともなく聞いた。

「東京行って、そのままパパの別荘に行く」

「そう、なんだ」

「明美は? どっか行かないの?」

 私は、まだ予定はないとだけ言っておいた。

「あー別荘いいなあー。うらやまー」

「部活の合宿、新潟なんだー」

資料には、新潟県魚沼と書いてあった。

「は、絶対行かない!」

「来てよ、サッチーいないとつまんねえー」

「遠すぎでしょ? あーはいはい、行きません」

 島を出て1日。バスに乗って数時間。確かに、移動で大変だ。それに選抜の予選大会がある。今年は、ぜひ面影高等学校から一名でも予選に出場させ、あわよくば本線へというのが、学校側の気持ちらしい。

「ちぇ」

「明美さんにでも、構ってもらいな」

 彩月の態度はそっけない。東京か、私は前に住んでいた土地や家、あのごみごみしたあの密集地帯の情景を忘れかけていた。少なくとも、大勢の人間が窮屈そうに暮らす世界に私は興味を失いかけていた。

 今にも壊れそうな屋根瓦、わずか数センチばかりしか離れていない居住、モダンな、でも画一的な家々。それらは私に何の価値を与えたのだろうか?

 ただいつか私も大人になったら、この島を出ていくんだろう。ただ今は、そんなこと考えたくもない――色々なことは起こっているが。

 私はこの島の人間として生き人生を送っていきたい。それが心から感じた気持ちだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...