むかし沈んだ船の殺人

戸笠耕一

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ストーリー

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 傑は元の事件現場に戻ると理佐を含めた四人から冷たいまなざしを感じた。

「ずいぶん遅いじゃないか?」

「船長室をみっちりと調べてところですよ」

「陰惨な事件現場で待たせるとは、もう少し気遣いというものはないのかね?」

「とにかくカメラはありましたから、現場保存をします。離れてください」

 パシャと写真音が鳴り響いた。これぐらいでいいだろう。

「おい、そろそろ移動しないか? 7階のラウンジにでも行こう。ここよりマシだ」

「構いませんよ。しかし悠長なことは言っていられません。船はいずれ沈みますから」

「どういうことだ?」

「爆弾です。私はこちらの女性と」

 自己紹介で彼女は尾坂理佐と名乗る。名前を複数個も持てば色々使い分けるのが大変になると教えたつもりだが、理佐は教えた通りにやらない。傑が知っているのは理佐の別名は本名を含めて3つだった。新出の尾坂理佐を含めると4つになるが。

「船内を探索していたら一階の機関室に爆弾が仕掛けられていると知りました」

「解体はしていないのか!」

「数の多さと機材もないのに不可能です。僕らが見たときにはざっと2時間前。あともって1時間で爆発します。確実に沈みますね」

 まったく使えないと3人の航海士はそれぞれ悪態をついた。

 6人はぞろぞろと移動する。七階のラウンジの開いている席に座る。だが明らかに全員に焦りがあった。

「あんた、探偵だろ? 教えてくれよ、3年前に海の底へ沈んだ船がどうして航海しているのかを」

 能勢は横柄な口調で傑に言った。予期せぬ依頼であるが、適任者は他にいない。

「船は3年前の航海で海難事故に遭って沈んだはずです。ご存じですよ」

 傑の記憶が正しい。豪華客船「山川丸」は氷山にぶつかる海難事故に遭い沈没している。ここにいる人間は事故の遭遇者だ。だから「山川丸」と銘打った船は一体何か。答えは空とのやり取りで分かっていた。

 寝心地の悪いベッドに、素材がむき出しになったソファ、寄り掛かると砕けたフェンス、船首のフェンスに残った結び目の痕。山川丸の全長。

 あらゆる情報が1つに集約されて解が現れて新井傑は瞬時に答えを出していた。

「レプリカです」

 全員がさっと傑の顔を見る。

「私たちが山川丸と思っていた船は山川丸のレプリカなんです」

 あぜんとする中で里村が口を開いた。

「レプリカがどうして海の上にいるんだ」

「船首に行けばわかりますよ。レプリカは曳航されて洋上に私たちを乗せて連れてきたわけです」

「だれがそんなことを」

「亡霊船への招待者と呼ぶべきでしょうね」

「もったいぶった言い方はいい。犯人がいるなら教えてくれ」

「落ち着いてください。事態は少々複雑なのです」

 傑は事情をどこまで説明しようか考えていた。爆弾のタイマーは理佐と一緒に発見には1時間なのだ。あれから日は傾いている。だいぶ時間がたった。蹴りを付ける時間だなと傑は思った。

 先ほどの調査でもうすでにわかっていた。謎は解明されていた。
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