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ストーリー
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けたたましい悲鳴が三人の耳に鳴り込んだ。他に人がいるわけだ。ただすこぶる悪い状況なのは想像がつく。ブリッジを出て、隣にある部屋が船長室だ。船の最高責任者は船長だからブリッジの近くにあるが、がら空きだった。
声は遠くない。
「下の階には何がある?」
「ラウンジやバーと、あとオフィサーの方の部屋があります」
順々に見ていくしかない。階段を下るとラウンジに出た。ソファが机を囲んでいた。ここにも人はいない。ラウンジを抜けて通路に出る。
「突き当たって左がバーです。右に行くと扉を開けるとオフィサーの部屋があるはずです」
バーにも人はいない。海風の香りを感じながら酒でも飲んでいたのだろう。残りは一つしかない。
「開けるよ」
扉は傑たちのスイートルームと同様に開きづらかった。蝶番の作りが酷い。
クルーキャビンは客室と異なりせせこましい印象だった。二人程度が通れる通路の先に人だかりができていた。まるであらぬものを見てしまったかのように、三名の男たちが驚きにあふれた顔で硬直していた。
視線の先に緑の絨毯を一本の太い赤い線が傑たちのほうに続いている。
「血だ」
背後にいた2人がえっと顔を見合わせた。
傑は血痕を避けながら進んでいく。3人の男たちは傑の登場に戸惑っていた。
「何事ですか?」
「あんたは誰だ?」
3人の中で1番年を取った男がじろりと傑をにらんだ。白髪交じりの白いシャツを着ている。歳は50代から60代だろうか。
「新井傑と言います。探偵です。これでも元刑事です」
血だまりの現場は久しぶりだ。開かれた部屋は壁やベッドに血が付いていた。
「ここはどなたの部屋です?」
「二等航海士の小野寺の部屋だ。私は能勢誠。山川丸の一等航海士で、副船長だったものだ。このひげ面の太った男が里村浩平。一番若いのが荒引正一だ」
三畳程度の広さにベッドとシャワー室、机が敷き詰められている。床の貼られたカーペットに染み付いた血だまりを除けば差し当たって特徴がない部屋だ。
相当な出血量だ。単に頭をぶつけてできた傷ではない。傑はしゃがみ込み血だまりに指を当てる。まだ湿っている。血に混じって脳梁がところどころ点在している。
何者かが小野寺を殴ってから時間は経っていない。
小野寺は殴られた後引きずられどこに行ったのか?
失礼と傑は言って血だまりの痕を追う。廊下を抜けると外に通じる扉を開ける。フッと海風が流れ込んだ。血だまりはフェンスに付着し消えていた。
「残念ですが、小野寺さんは船から転落した可能性があります」
その場にいた全員が目を丸くした。
「どうしてだ?」
「転落したというより、何者かに引きずられ遺棄されたというべきでしょうね」
「じゃあ殺されたっていうのかね」
「可能性としては高いですね」
「だったら犯人はこの中にいるのかしら?」
すっと理佐が前に進み出て思っていたことを代弁した。
馬鹿な、と能勢が吐き捨てるように言う。
「わからないぞ。忌々しいこの船がなぜ航海しているのか。そもそも誰がこの船に我々を招き入れたのか。不可解だ」
「現場の状況を保存したいと思います。どなたかで構いません。カメラなどありませんか?」
全員が自分たちの服のポケットを漁ったが、誰もが持っているはずの電子端末はなかった。
連れて来られたときに所有していたスマホは取られたらしい。
あの、と押し殺したような声がした。
白崎真由美の声だった。
「どうかしましたか?」
「ここに来る途中の船長室にカメラらしきものが見かけた気がします。新井さんたちと甲板で会う前に船長室ものぞいていたので」
「ありましたね。確認したいので、案内してください」
傑は真由美を連れて船長室に向かう。視線の先に理佐がいたからけん制もかねてお願いをした。
「理佐、君はこの人たちといて見張ってくれ」
傑は理佐という仮の名前で読んだ。
「男3人を女1人で見張るなんて無理があると思うけど」
「君なら大丈夫さ。頼む」
「いいわ。でも何かあればすぐに駆け付けてよね」
「約束しよう」
声は遠くない。
「下の階には何がある?」
「ラウンジやバーと、あとオフィサーの方の部屋があります」
順々に見ていくしかない。階段を下るとラウンジに出た。ソファが机を囲んでいた。ここにも人はいない。ラウンジを抜けて通路に出る。
「突き当たって左がバーです。右に行くと扉を開けるとオフィサーの部屋があるはずです」
バーにも人はいない。海風の香りを感じながら酒でも飲んでいたのだろう。残りは一つしかない。
「開けるよ」
扉は傑たちのスイートルームと同様に開きづらかった。蝶番の作りが酷い。
クルーキャビンは客室と異なりせせこましい印象だった。二人程度が通れる通路の先に人だかりができていた。まるであらぬものを見てしまったかのように、三名の男たちが驚きにあふれた顔で硬直していた。
視線の先に緑の絨毯を一本の太い赤い線が傑たちのほうに続いている。
「血だ」
背後にいた2人がえっと顔を見合わせた。
傑は血痕を避けながら進んでいく。3人の男たちは傑の登場に戸惑っていた。
「何事ですか?」
「あんたは誰だ?」
3人の中で1番年を取った男がじろりと傑をにらんだ。白髪交じりの白いシャツを着ている。歳は50代から60代だろうか。
「新井傑と言います。探偵です。これでも元刑事です」
血だまりの現場は久しぶりだ。開かれた部屋は壁やベッドに血が付いていた。
「ここはどなたの部屋です?」
「二等航海士の小野寺の部屋だ。私は能勢誠。山川丸の一等航海士で、副船長だったものだ。このひげ面の太った男が里村浩平。一番若いのが荒引正一だ」
三畳程度の広さにベッドとシャワー室、机が敷き詰められている。床の貼られたカーペットに染み付いた血だまりを除けば差し当たって特徴がない部屋だ。
相当な出血量だ。単に頭をぶつけてできた傷ではない。傑はしゃがみ込み血だまりに指を当てる。まだ湿っている。血に混じって脳梁がところどころ点在している。
何者かが小野寺を殴ってから時間は経っていない。
小野寺は殴られた後引きずられどこに行ったのか?
失礼と傑は言って血だまりの痕を追う。廊下を抜けると外に通じる扉を開ける。フッと海風が流れ込んだ。血だまりはフェンスに付着し消えていた。
「残念ですが、小野寺さんは船から転落した可能性があります」
その場にいた全員が目を丸くした。
「どうしてだ?」
「転落したというより、何者かに引きずられ遺棄されたというべきでしょうね」
「じゃあ殺されたっていうのかね」
「可能性としては高いですね」
「だったら犯人はこの中にいるのかしら?」
すっと理佐が前に進み出て思っていたことを代弁した。
馬鹿な、と能勢が吐き捨てるように言う。
「わからないぞ。忌々しいこの船がなぜ航海しているのか。そもそも誰がこの船に我々を招き入れたのか。不可解だ」
「現場の状況を保存したいと思います。どなたかで構いません。カメラなどありませんか?」
全員が自分たちの服のポケットを漁ったが、誰もが持っているはずの電子端末はなかった。
連れて来られたときに所有していたスマホは取られたらしい。
あの、と押し殺したような声がした。
白崎真由美の声だった。
「どうかしましたか?」
「ここに来る途中の船長室にカメラらしきものが見かけた気がします。新井さんたちと甲板で会う前に船長室ものぞいていたので」
「ありましたね。確認したいので、案内してください」
傑は真由美を連れて船長室に向かう。視線の先に理佐がいたからけん制もかねてお願いをした。
「理佐、君はこの人たちといて見張ってくれ」
傑は理佐という仮の名前で読んだ。
「男3人を女1人で見張るなんて無理があると思うけど」
「君なら大丈夫さ。頼む」
「いいわ。でも何かあればすぐに駆け付けてよね」
「約束しよう」
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