20 / 58
ビジョン5 調査
1
しおりを挟む
5月16日。
2年生になった。貴子からすれば沙良とクラスが一緒になれることはとても嬉しかった。2年生は希望している学部に沿ったクラス編成になっている。やりたいことができる。貴子は文学部を志望していて沙良も同じ道を進む進路でいた。
沙良と貴子は一年生の時から知り合いだ。経緯は図書委員になってからだ。手に難しい本を重ねて持った姿に確かな知性の光を持っていた。知的好奇心に強く、どこまでも優しい沙良。理性的な瞳は沙良の可憐でほっそりとした顔を際立たせる。可愛いだけでない。知に裏打ちされた素顔に貴子は惹かれた。
クラスが一緒になったため、より二人の関係性は深くなる。沙良は話を合わせる天性の才も持っていて、貴子の読んでいる本をすべて知っていた。沙良の口から飛び出る言葉は高い教養をもって得たものだと肌感覚でわかる。
一方で沙良には近寄りがたい雰囲気が表れている。誰とも仲良くするわけではない。気づいた者だけが沙良と仲良くなれる。
貴子は沙良を独占できるはずだった。しかし運命は皮肉なもので、沙良は両親を失い、大けがを負った。四十人いるクラスは三十九名でしばらく運営が続いた。
楽しそうにしているほかの生徒が何だか恨めしかった。
沙良のいない日常、沙良のいない学校、沙良のいない教室。そこに何の意味があるのか。貴子は沙良を排除するすべてを呪った。
屋代綾香。沙良を生徒会から追いやり学校での人気は一番になった。何であんな女がと貴子はがんを付けた。
沙良、早く戻ってきてよ……
あと1週間後が待ち遠しい。
放課後。
「ちょっと顔貸しなよ」
貴子は帰ろうとしたら呼び止められた。綾香グループの鈴城麗華だった。平均以上の体格で、接近したら何も言えなくなった。
地下三階の体育倉庫に連れてかれた。中には綾香グループの中核が数名待っていて、全員が冷ややかな目で見ていた。
バタンと倉庫室の厚い扉はしまった。
「あんたさ、いつも私たちをにらんでいるけど何かあるの?」
貴子は帰ろうとしたが、行く手を阻まれた。
「何帰ろうとしているの?」
貴子は突き飛ばされ、床に転んだ。起き上がろうとすると上履きで抑えつけられる。
「あんた病院のときも悪口言っていたよね。綾香は振りだって。あれどういう意味?」
扉はグイッと擦れる音がして開いた。
「お待たせしました。お連れしてくれたの?」
「連れてきたよ。でもずっと黙ってばかり」
「高村さん。転んでしまったの。ここには色々なものがありますから。お気をつけて」
綾香は床に倒れていた貴子を憐れむように気遣った。
「何の用?」
貴子は立ち上がり啖呵を切った。
「は、何の用じゃないけど? あんた綾香をにらんでいるけど、なんかあるの?」
「何の話? そろそろ忙しいから帰るね」
「待てよ。いい加減にしな」
押し問答が続いた。綾香はクスっと笑って話し出した。
「どうやら、私が香西さんのお見舞いに来たことがよろしくないようね?」
「よろしくありませんね」
「ごめんなさい。やっぱり素敵なお時間をお邪魔して申し訳なかったわ」
「デリカシーないよねー。生徒会長やめたほうがいいと思うけど」
周りが詰め寄った。沙良が戻ってきたら、あんたらはゴミだと言ってやる。貴子には沙良がいた。
「今日お呼びしたのは、もうじき香西さんが帰ってくるから和解したいと思ってあなたをお呼びしたの。せっかく同じクラスに慣れたのにいがみ合っては残念でしょ。もっと仲良くしません」
にこにこした綾香の顔をみて貴子は面白いことを考えた。つかつかと近寄りプッと貴子は綾香の品のある顔に近づき唾を吐いた。
「あんたなんかと沙良が対等に付き合えると思っているの?」
貴子のつばが綾香の顔からどろりとブレザーに落ちた。
2年生になった。貴子からすれば沙良とクラスが一緒になれることはとても嬉しかった。2年生は希望している学部に沿ったクラス編成になっている。やりたいことができる。貴子は文学部を志望していて沙良も同じ道を進む進路でいた。
沙良と貴子は一年生の時から知り合いだ。経緯は図書委員になってからだ。手に難しい本を重ねて持った姿に確かな知性の光を持っていた。知的好奇心に強く、どこまでも優しい沙良。理性的な瞳は沙良の可憐でほっそりとした顔を際立たせる。可愛いだけでない。知に裏打ちされた素顔に貴子は惹かれた。
クラスが一緒になったため、より二人の関係性は深くなる。沙良は話を合わせる天性の才も持っていて、貴子の読んでいる本をすべて知っていた。沙良の口から飛び出る言葉は高い教養をもって得たものだと肌感覚でわかる。
一方で沙良には近寄りがたい雰囲気が表れている。誰とも仲良くするわけではない。気づいた者だけが沙良と仲良くなれる。
貴子は沙良を独占できるはずだった。しかし運命は皮肉なもので、沙良は両親を失い、大けがを負った。四十人いるクラスは三十九名でしばらく運営が続いた。
楽しそうにしているほかの生徒が何だか恨めしかった。
沙良のいない日常、沙良のいない学校、沙良のいない教室。そこに何の意味があるのか。貴子は沙良を排除するすべてを呪った。
屋代綾香。沙良を生徒会から追いやり学校での人気は一番になった。何であんな女がと貴子はがんを付けた。
沙良、早く戻ってきてよ……
あと1週間後が待ち遠しい。
放課後。
「ちょっと顔貸しなよ」
貴子は帰ろうとしたら呼び止められた。綾香グループの鈴城麗華だった。平均以上の体格で、接近したら何も言えなくなった。
地下三階の体育倉庫に連れてかれた。中には綾香グループの中核が数名待っていて、全員が冷ややかな目で見ていた。
バタンと倉庫室の厚い扉はしまった。
「あんたさ、いつも私たちをにらんでいるけど何かあるの?」
貴子は帰ろうとしたが、行く手を阻まれた。
「何帰ろうとしているの?」
貴子は突き飛ばされ、床に転んだ。起き上がろうとすると上履きで抑えつけられる。
「あんた病院のときも悪口言っていたよね。綾香は振りだって。あれどういう意味?」
扉はグイッと擦れる音がして開いた。
「お待たせしました。お連れしてくれたの?」
「連れてきたよ。でもずっと黙ってばかり」
「高村さん。転んでしまったの。ここには色々なものがありますから。お気をつけて」
綾香は床に倒れていた貴子を憐れむように気遣った。
「何の用?」
貴子は立ち上がり啖呵を切った。
「は、何の用じゃないけど? あんた綾香をにらんでいるけど、なんかあるの?」
「何の話? そろそろ忙しいから帰るね」
「待てよ。いい加減にしな」
押し問答が続いた。綾香はクスっと笑って話し出した。
「どうやら、私が香西さんのお見舞いに来たことがよろしくないようね?」
「よろしくありませんね」
「ごめんなさい。やっぱり素敵なお時間をお邪魔して申し訳なかったわ」
「デリカシーないよねー。生徒会長やめたほうがいいと思うけど」
周りが詰め寄った。沙良が戻ってきたら、あんたらはゴミだと言ってやる。貴子には沙良がいた。
「今日お呼びしたのは、もうじき香西さんが帰ってくるから和解したいと思ってあなたをお呼びしたの。せっかく同じクラスに慣れたのにいがみ合っては残念でしょ。もっと仲良くしません」
にこにこした綾香の顔をみて貴子は面白いことを考えた。つかつかと近寄りプッと貴子は綾香の品のある顔に近づき唾を吐いた。
「あんたなんかと沙良が対等に付き合えると思っているの?」
貴子のつばが綾香の顔からどろりとブレザーに落ちた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生だった。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

江戸時代改装計画
華研えねこ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる