14 / 28
嫉妬
しおりを挟む私は現在尋問されている。
誰からか。
相手は目の前に座る、なぜか不機嫌そうなレオンさんです。
始めはただ、私のバイト先の話をしていただけだった。
図書館でバイトが任される業務は本の貸出・返却処理と返却された本の整理が主だけど、よく質問されるのが蔵書の確認だった。タイトルがわかっていれば検索機で探すけど、たまにうろ覚えな情報だけで検索を頼んでくる利用者もいる。そんな時に頼りになるのが勤続10年だというベテランの司書さんだった。彼女は空き時間でもジャンルを問わず常に本を読んでいて、もはや住んでるんじゃないかって囁かれるほどいつ行ってもいる。そんな彼女は本を探すエキスパートでもあり、全然掠ってもいないキーワードからなぜか目的の蔵書を見つけてくるのだ。本人曰くひらめきと直感らしいけど、参考履歴として残している過去の事例を見せてもらったらお腹が捩れるほど笑った。人の記憶って本当に面白い。
そんな話をしていたはずなのに、レオンが例の高校生の話を振ってきてから雲行きが怪しくなってきた。
思わず目が泳いでしまって、私の一瞬の動揺を見逃さなかったレオンは食事の手を止めてじっとこっちを見ている。
顔はにこやかだけど、目が笑っていない。
レオンのこんな表情は初めてかも。
「あの待ち伏せ男が何かしてきた?」
いや、言い方。まぁその子なんだけど。
「ええと、こないだバイト終わりにちょっと、捕まって、」
「それで?」
娘を追求するお父さんみたいな圧を感じる。
一瞬言い淀んでから、告白された、と小さく付け加えた。
レオンが深いため息を吐く。悪いことをしたわけでもないのに何でか居た堪れなくて椅子の上で縮こまった。
「そう言う輩は諦めが悪い。次、がある可能性も腹立たしいが、二度と血迷わないよう身の程を明確に思い知らせるべきだ。」
私がそこに行けるのなら徹底的に分からせるのに、そう言って悔しそうに唇を噛む。
言葉がいつものレオンらしくない。ちょっと物騒だし大袈裟だと思うけど、心配してくれる気持ちはありがたいから黙って聞いておく。
そうしてレオンは懐から何かを徐に取り出した。
「次からはこれを私だと思って肌身離さず持っていて欲しい。」
そういって渡されたのは、抜き身の短剣だった。
レオンの持ち物にしては装飾もなくシンプルだ。いや、そうじゃなくて、
「こんなの持ち歩けないよ!私が危ない人だと思われちゃう!どこから出したの!?」
さっきまで何も持ってなかったよね、というかいつもうちにそんなもの持ってきてたの?!
いつになく過激なレオンを見るときりっとした表情で見返された。
「常に有事に備えておくのが私の信条だ。」
「そんなかっこよく言ってもダメなものはダメ。」
私捕まっちゃうから。高校生にナイフをちらつかせて追い払う自分を想像して青褪めればいいのか笑えばいいのかわからなくなる。笑い事じゃないけど。
この国には銃刀法というものがある事を丁寧に説明すると、しぶしぶ短剣をどこかに仕舞っていた。ほんとどこに仕舞ってるのそれ。
「それにたぶん、もう来ないと思う。」
「なぜそう言い切れるんだ?」
「今年受験だって言ってたし、最後すっきりした顔してたから。それにまた来ても大丈夫なようにバイトの曜日ずらしてもらったし、叔父さんから貰った防犯ブザーも持ってるからね。」
コロンとしたフォルムの赤い防犯ブザーを見せる。
叔父さんも過保護だけど、レオンはさらに上をいく過保護かもしれない。しかも過激派だ。
あの子は記念告白みたいなものだと思う。だからそんなに心配しなくても大丈夫だよ。
これ以上暴走する前に安心させるように言えばレオンの眉が下がった。今日はレオンの珍しい表情がたくさん見れる日だ。
「すまない、少し大人気なかった。初めての感情で少し冷静さを欠いてしまっていた・・・。これが・・・か。」
「え?なに?」
最後の方が聞き取れなくて聞き返すけど、何でもないと苦笑しながら首を振る。
「りりながそう言うのなら信じよう。だが、私がこの世界にいない間、りりなの事が心配なのは本心だよ。」
「うん、ありがとう。何かあったら相談するね。」
「・・・叔父さんよりも前に?」
え、もしかして叔父さんに張り合ってる?なにこの可愛い人。ちょっとにやけそうになったけど、黙ってこくこくと頭を縦に振るとやっと満足したのか少し冷めたカフェオレに口をつける。
でも、確かに私がレオンの立場だったらと考えるとちょっと、・・・かなり嫌かもしれない。
というかそもそも。
「レオンは、そういう人いるの?」
「そういう人?」
「その、よく会う人とか・・・」
なんとなくレオンの顔が見れなくて手元のマグをいじりながら言う。
「いないよ。」
期待した返事に勢いよく顔を上げてしまった。
レオンは少し逡巡したあと言葉を続ける。
「変な事を聞くが、りりなは、その、何か人と違うと思ったことはある?」
「違うって?」
「例えば、植物に関することで、りりなが近づくと成長が早くなる、とか。」
???
急な話の方向転換に思いっきり頭に疑問符が浮かんだ。久々のファンタジー要素だ。
「魔法が使えるのは、レオンの世界だけだよ。」
この世界では使えない。レオンが忘れているわけないと思うけど念のため言ってみる。植物と特別相性がいいと思った記憶はない。お花は人並みに好きだけど、切花は買っても植木鉢で育てたことはなかった。
「例の魔法陣の事なんだが、こちらで詳しい者に調べさせていくつか分かったことがある。まず、あの魔法陣は時間と座標をあえてここに設定している。連日、寸分違わず同じだ。乱れひとつない。驚異的なことだよ。
それと、魔法には一人一人異なる波長のようなものがある。魂に刻まれている物で、私たちはそれを法紋と読んでいるが、その形が先代の花姫と一致していることがわかった。」
「花姫?」
「花の乙女、花姫、呼び名はいくつかあるが、大地を癒し世界を豊かにする存在で、女神アリストティリアと並び豊穣と幸福、癒しの象徴だ。」
「・・・じゃあ、レオンをここに読んだのは、その花姫っていう事?」
よく話がわからないけど、魔法陣からその人の法紋が出ているのならそういう事なんだろう。
「まだ分からない。・・・私は、起こる全ては必然であり、必要だと考えている。このタイミングで私とりりなが出会ったことも、こうしてここにいることも、全て意味があるんだと思う。
・・・また何か分かり次第りりなにも必ず話すよ。」
レオンは少し困ったよう微笑んだ。
私はこの時、レオンの表情の意味をもっと考えるべきだった。
なんで私に花姫の話をしたのか。
魔法陣と花姫、そして私がどう関係しているのか。
どうして聞いておかなかったのかを、深く悔やむことになる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「シュミット、一見そうとは分からない見た目の暗器が欲しい。女性でも扱えるような。」
「リリナ嬢の許可が取れたら探しますね。」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる