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日常
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目の前の数字をじっと睨みつける。
信じたくなくてもう一度試してみるけど、表示される数字はさっきとちっとも変わらなかった。
この短期間でまさかこんな結果を招くなんて。
自分なりに気をつけていたはずだった。
現実から目を背けたくなるけど、突きつけられた事実に唇を噛み締める。
鏡を見ても特に変化は感じなかったのに。
「・・・・・・太った。」
ポツリとつぶやいた言葉が虚しく部屋に響いた。
私が太った元凶は一つしかない。レオンである。
普段はレオンが来る前にご飯は済ませているけど、一度バイトが押してしまってギリギリになったとき、話している時に盛大にお腹が鳴ってしまったのだ。
穴があったら入りたいくらい恥ずかしかったけど、配慮が足りなかったとなぜかレオンに謝られ、自分のことは気にせず食事を取るように言われた。
かといって私だけ食べるのもちょっとどうかと思ってレオンの分も用意したら、それ以来バイトがある日だけ食事を一緒にするようになったのである。
それだけならよかったけど、初めて一緒に食べた時、私のお皿に乗っているチキンソテーとサラダを見たレオンに何か変なスイッチが入ってしまったらしい。
「それだけなのか?この後食べるわけではなく?」
「晩御飯をそんなに何度も食べないですよ。バイトも図書館の書棚整理だからそんなに動かないし、このくらいがちょうどいいんです。」
「それにしたって少なすぎる。だからそんなに痩せているんだ。もっと肉を増やした方がいい。」
どっちの意味なんだろう。
そんなに眉根を寄せながら言われても、女の子の食べる量なんてこんなもんだし、夜だから多少はセーブしているけど、自分なりにバランスよく食べるよう心がけているつもりだ。
その場ははいはいと流したけど、それ以来レオンは何かしら手土産持参で来るようになってしまった。
いつも食事をご馳走になっているお礼だというけど、絶対それだけじゃない。
私にはわかる。
この人、私を太らせようとしている。
魂胆が透けて見えるけど、純粋に心配してくれているのは感じるのでその気持ちは嬉しいし、何よりくれるお菓子が毎回ものすごく美味しかった。
「今日は昨日話したクッキーを持ってきた。開封後は早めに食べた方がいいらしい。」
「・・・いつもありがとう。いまお茶を入れますね。」
穏やかな笑みを浮かべながら差し出された包みを苦笑して受け取る。
レオン専用になりつつあるカップに紅茶を注ぎ彼の前に置けば、慣れた動作で口をつける。音一つ立てずにソーサーに戻す仕草を見て、綺麗な人だなぁと改めて感じた。
最初の頃はあまりのイケメン具合にドギマギしたものだけど、一週間もたてばだいぶ慣れてきてたまに見惚れるくらいにおさまってきた。
あれから毎日顔を合わせて気づいたことがある。
言葉は自動で翻訳されているようだけど、食べ物の名前などはこちらの世界にあるものに置き換わるようで、オレンジといって渡されたものがピンク色の梨っぽかったり、マドレーヌと言っていたのがシフォンケーキのようなふわふわの生地にジャムが挟んであったりする。
悔しいけど、予想と違う見た目だったりお菓子にまつわる話をされながら渡されるとついつい食べすぎてしまう。
レオンの職場にはシュミットさんというやたらお菓子に詳しい人がいるらしく、今回のクッキーも何ヶ月も予約待ちのものをツテを使って買ってきてくれたらしい。
お礼を伝えてもらえるようレオンに言うとにこりと微笑まれた。
なんかいつもより笑顔が固かった気がするけどなんだったんだろう・・・?
包みを開けると中には手のひらほどの綺麗な箱が入っていた。お菓子が入ってるとは思えないほど凝った箱だ。リボンを解いて蓋を開けると中には半透明のコロコロしたものが入っている。
一つ摘んでみるとそれは薄い飴玉のようで、中には赤い花びらが入っていた。
見ると飴玉は一つ一つ入っている花びらの色が違うようで、薄い飴越しに見える色とりどりの花びらが宝石のようにキラキラと光っていた。
「食べるのが勿体無い。」
「それは困るな。」
カップに口をつけつつ可笑しそうに笑いながら言われる。
この一週間でだいぶ打ち解けたように思う。
最初はお互いの国のことを中心に話していたけど、今ではその日に何があったかを話している時間の方が長い気がするし、何より最初の印象よりもレオンはずっと話しやすかった。
何気ない話でも着眼点が違うからか思いもよらない方向に話が広がって楽しいし、私が話しやすいように質問してくれる姿に経験の深さを感じる。
それでいてレオンには、話が途切れても苦にならない雰囲気があって一緒にいてとても楽だった。
日々の些細な話ができるこの時間を心待ちにするようになったのいつからだろう。
「はい。:
飴玉を手渡すと不思議そうな顔で受け取るレオンに、口の端を上げて言う、
「私にだけお肉をつけさせようとしてもそうはいかないです。死なば諸共、ですよ。」
レオンはイタズラがバレた子供のような顔をした後、笑いを堪えるような表情で頬杖をつきながらこちらを見る。
「そういった意図があったことは否定しないが、最近は街を歩いていてりりなが好きそうだと思うとつい買ってしまう。君が私の日常になってきたからかな。」
その言い方はずるい。
太ったことの文句を言おうと思ってたのに。ぐっとつまる。
「・・・たまになら、買ってきてもいいですよ。」
何故だかレオンの目が見れなくて横を見たままそう言うと、今度こそレオンは嬉しそうに笑った。
信じたくなくてもう一度試してみるけど、表示される数字はさっきとちっとも変わらなかった。
この短期間でまさかこんな結果を招くなんて。
自分なりに気をつけていたはずだった。
現実から目を背けたくなるけど、突きつけられた事実に唇を噛み締める。
鏡を見ても特に変化は感じなかったのに。
「・・・・・・太った。」
ポツリとつぶやいた言葉が虚しく部屋に響いた。
私が太った元凶は一つしかない。レオンである。
普段はレオンが来る前にご飯は済ませているけど、一度バイトが押してしまってギリギリになったとき、話している時に盛大にお腹が鳴ってしまったのだ。
穴があったら入りたいくらい恥ずかしかったけど、配慮が足りなかったとなぜかレオンに謝られ、自分のことは気にせず食事を取るように言われた。
かといって私だけ食べるのもちょっとどうかと思ってレオンの分も用意したら、それ以来バイトがある日だけ食事を一緒にするようになったのである。
それだけならよかったけど、初めて一緒に食べた時、私のお皿に乗っているチキンソテーとサラダを見たレオンに何か変なスイッチが入ってしまったらしい。
「それだけなのか?この後食べるわけではなく?」
「晩御飯をそんなに何度も食べないですよ。バイトも図書館の書棚整理だからそんなに動かないし、このくらいがちょうどいいんです。」
「それにしたって少なすぎる。だからそんなに痩せているんだ。もっと肉を増やした方がいい。」
どっちの意味なんだろう。
そんなに眉根を寄せながら言われても、女の子の食べる量なんてこんなもんだし、夜だから多少はセーブしているけど、自分なりにバランスよく食べるよう心がけているつもりだ。
その場ははいはいと流したけど、それ以来レオンは何かしら手土産持参で来るようになってしまった。
いつも食事をご馳走になっているお礼だというけど、絶対それだけじゃない。
私にはわかる。
この人、私を太らせようとしている。
魂胆が透けて見えるけど、純粋に心配してくれているのは感じるのでその気持ちは嬉しいし、何よりくれるお菓子が毎回ものすごく美味しかった。
「今日は昨日話したクッキーを持ってきた。開封後は早めに食べた方がいいらしい。」
「・・・いつもありがとう。いまお茶を入れますね。」
穏やかな笑みを浮かべながら差し出された包みを苦笑して受け取る。
レオン専用になりつつあるカップに紅茶を注ぎ彼の前に置けば、慣れた動作で口をつける。音一つ立てずにソーサーに戻す仕草を見て、綺麗な人だなぁと改めて感じた。
最初の頃はあまりのイケメン具合にドギマギしたものだけど、一週間もたてばだいぶ慣れてきてたまに見惚れるくらいにおさまってきた。
あれから毎日顔を合わせて気づいたことがある。
言葉は自動で翻訳されているようだけど、食べ物の名前などはこちらの世界にあるものに置き換わるようで、オレンジといって渡されたものがピンク色の梨っぽかったり、マドレーヌと言っていたのがシフォンケーキのようなふわふわの生地にジャムが挟んであったりする。
悔しいけど、予想と違う見た目だったりお菓子にまつわる話をされながら渡されるとついつい食べすぎてしまう。
レオンの職場にはシュミットさんというやたらお菓子に詳しい人がいるらしく、今回のクッキーも何ヶ月も予約待ちのものをツテを使って買ってきてくれたらしい。
お礼を伝えてもらえるようレオンに言うとにこりと微笑まれた。
なんかいつもより笑顔が固かった気がするけどなんだったんだろう・・・?
包みを開けると中には手のひらほどの綺麗な箱が入っていた。お菓子が入ってるとは思えないほど凝った箱だ。リボンを解いて蓋を開けると中には半透明のコロコロしたものが入っている。
一つ摘んでみるとそれは薄い飴玉のようで、中には赤い花びらが入っていた。
見ると飴玉は一つ一つ入っている花びらの色が違うようで、薄い飴越しに見える色とりどりの花びらが宝石のようにキラキラと光っていた。
「食べるのが勿体無い。」
「それは困るな。」
カップに口をつけつつ可笑しそうに笑いながら言われる。
この一週間でだいぶ打ち解けたように思う。
最初はお互いの国のことを中心に話していたけど、今ではその日に何があったかを話している時間の方が長い気がするし、何より最初の印象よりもレオンはずっと話しやすかった。
何気ない話でも着眼点が違うからか思いもよらない方向に話が広がって楽しいし、私が話しやすいように質問してくれる姿に経験の深さを感じる。
それでいてレオンには、話が途切れても苦にならない雰囲気があって一緒にいてとても楽だった。
日々の些細な話ができるこの時間を心待ちにするようになったのいつからだろう。
「はい。:
飴玉を手渡すと不思議そうな顔で受け取るレオンに、口の端を上げて言う、
「私にだけお肉をつけさせようとしてもそうはいかないです。死なば諸共、ですよ。」
レオンはイタズラがバレた子供のような顔をした後、笑いを堪えるような表情で頬杖をつきながらこちらを見る。
「そういった意図があったことは否定しないが、最近は街を歩いていてりりなが好きそうだと思うとつい買ってしまう。君が私の日常になってきたからかな。」
その言い方はずるい。
太ったことの文句を言おうと思ってたのに。ぐっとつまる。
「・・・たまになら、買ってきてもいいですよ。」
何故だかレオンの目が見れなくて横を見たままそう言うと、今度こそレオンは嬉しそうに笑った。
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