世界を渡った彼と私

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イケメン再び

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鍵を開けてドアを薄く開き中を覗き込む。
耳を澄まして物音がしないことを確認してから静かに室内に滑り込んだ。
自宅なのに何でこんなコソコソしながら家に入らなきゃいけないのか。
原因は昨日突然現れたイケメンである。


――――――――――――――――――


昨夜、あれから彼が再び現れることはなかった。
しばらく呆然としていたが、はっと手に持っていたパスタの存在を思い出し、とりあえずダイニングテーブルに座って食べ始める。
食べながらも考えるのはさっきの男のことで。


あの男は何だったの?
幽霊?それにしては優雅なティータイムのひと時っていう雰囲気だった。なんかめっちゃ驚いてたけど。
あんな優雅な幽霊っているものなのかな?イギリスの貴族の霊とか?

そう、貴族っぽかった。貴族見たことないけど、いたらあんな感じなんだろうな。

食べ終わり家の中を見渡す。
叔父の持ち物であるこの家は家具や絨毯などが白と青でまとめられたモデルルームのようで、ここで暮らし始めた時は落ち着かなかったが2年たってやっと我が家だと思えるようになってきた。
タワーマンションのペントハウスのため窓が大きく、その向こうには東京タワーが遠くに見えている。
叔父は海外を飛び回っており一人で食べることに時折寂しさは覚えていたけど、見知らぬ外国人の幽霊と食事を共にしたいと思ったことはない。

いつも食後は向こうに見えるリビングのソファーでゴロゴロするけど、そんな気にもなれず早々に部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。

翌日の朝も何事もなく、いつも通り家を出て大学に向かい講義を受け、夕飯の材料を買って家に戻ってきたところで冒頭に戻る。



家の中はしんと静まり返っていて、いまのところ自分以外の気配はない。
残暑も落ち着き始め秋めいてきた最近は、エアコンをつけなくてもだいぶ涼しくなってきた。
廊下からそっとダイニングに繋がるドアを開ける。
手前にはダイニングテーブルがあり、その向こうにはリビングが広がっている。
ここも今朝家を出た時と変わりなく、ほっと詰めていた息を吐いた。


やっぱり昨日のは幽霊だったのかな。
初めて心霊現象にあっちゃった。
あとで叔父さんに報告しよう。あ、でも心配して帰ってきちゃうかな。


冷蔵庫に食材をしまって、少し考え、まずは課題を片付けてしまおうとテーブルに着いた。
明日提出期限のレポートがあとちょっと残っている。この教科の教授は1分でも遅れたら絶対に受け取ってくれないから今日中に仕上げちゃおう。
ノートPCを立ち上げて、大学で借りてきた参考書を開いた。




ふと、喉の渇きを覚えてマグカップに手を伸ばした。
飲もうとしたところでさっきのが最後の一口だったことを思い出し、ドリンクを取ってこようと顔を上げる。


昨日と同じ場所に例の男が立っていた。


立ちあがろうとした不自然な体制でぴしりと固まる。
昨日は座っていたから気づかなかったが、だいぶ長身らしい彼は、とても気まずそうな顔でこちらを見ていた。
幽霊のくせに相変わらずキラキラしている。

冷や汗が流れる。
思いっきり目が合っているけど、霊って目を合わせたらいけないんだっけ?
でも今更視線を外すのもそれはそれで怖い。
どうしよう。どうしたらいい?

ぐるぐる考えた結果。


「何か、思い残すことでも・・・?」


気まずそうな顔がちょっと困ったような顔になった。


「・・・ここは、」


あ、日本語喋るんだ。

そう思った瞬間、また彼の姿がかき消えた。

昨夜と同様、最初から存在しなかったかのように跡形もなく消えている。
数秒待って、思わず机に突っ伏した。


「なんなのよもー。」


いつからいたんだろう?
ちらっと時計を見ると短針と長針はちょうど19時を指していた。
確か昨日もこのぐらいの時間だった気がする。

・・・え、もしかして毎日くるの?


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