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27.三日目・解決編(5)
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さらに一息に、話を進めていこう。
「黒須さんはこうして生存状態にあったため、イレギュラーな敵によって弱体化に追い込まれるも、ウイルス汚染されることはなかった。一方、目的を達成できなかった新たな犯人は、次のターゲットを探し始めます」
ステージは第三の事件へと移る。
「けれども、その時点で犯人がついた嘘に気づいてしまった人物がいた――それが、あーちゃんです。彼女はおそらく、自分の能力で違和感を鋭く察知したのだと思います」
「あーちゃんの能力って……超嗅覚のこと?」と宇佐美。
「そのとおりです」
あーちゃん本人から聞いたわけではないが、嗅覚に関するものだろうと想像はしていた。
宇佐美はあーちゃんと、互いの能力について明かしていたらしい。これで裏が取れた形だ。
「あーちゃんは、黒須さんが殺された直後、何かに気づいた様子でした。自信がないといって明言はしませんでしたが、おそらくは犯人の言動と、嗅覚による情報に齟齬があったのだと思います。
そして翌朝、自分が犯人に襲われたときに、自ら鼻に傷をつけた。あれは我々に何かの合図を送っていたのではないかと」
「その、合図っていうのは?」尋ねたのは、夢人。
黒須の殺害方法は撲殺。犯人はシーツを被せて犯行に及んだものの、現場にはかなりの量の血液が飛び散っていたことをふまえつつ、言葉を紡ぐ。
「姿は見えなくとも、凶器を持てるということは物質としてそこに存在しているということ。であれば、返り血を浴びて、血のニオイも体に染みついていたはずです。
犯人の立場になって想像すると、急いで部屋に戻ったあとは、まず服を着替えて、シャワーブースで洗い流すのが自然な行動だと思いませんか」
そこで自分の服の襟をつまみ、ぱたぱたと揺すって見せた。
「俺も部屋のシャワー機能を一度使いましたが、洗浄自体は一瞬で終わるものの、石鹸のにおいがしばらく香っているという特徴があります。ですが――黒須さん殺害のアリバイを皆さんに確認したとき、シャワーを浴びていたと言った人物はいなかった。寝ていたとか、考えの整理をしていたとかでしたよね」
ヒカルが首を傾げる。
「石鹸のにおいで、犯人がわかったってことか? そんなの、俺だって気づかなかったが」
「そこは超嗅覚ですから、能力でしかわからない粒子があったんでしょう。だけどその程度の違和感ですから、自信がなくてその場では言えなかった。けれど正直な彼女のこと、顔と行動には現れてしまった。そして犯人に狙われることに……」
宇佐美が悔しそうに俯く。
「一緒に行動していたのに、私が離れたりしたから……」
いずれにしろ、透明人間に狙われては、いつかは殺られていただろう。いくら仲良し同士でも、四六時中、一緒にいることはできない。
「あーちゃんは有人プレイヤーです。死体をとある方法で調べたら、ありました。不審なコードが。自分も機材なしでは解析できない、新しい言語でした。ということは、このままゲームを終了すれば、あーちゃんは脳に爆弾を抱えたまま現実に戻ることになる。また、今後ゲームに参加するプレイヤーにも、同様の被害を出すことになるでしょう。それは阻止せねばなりません」
「……誰なのよ、そんなわけのわからないことをする犯人は!」
金切り声を上げた宇佐美は、心底腹を立てているように見える。
食堂の壁に設置された時計を見ると、もう残り時間も少なかった。
幕切れになる前に、片をつけなければならない。
「黒須さんの事件では、エレノアさんと自分は展望エリアに一緒にいたことから、アリバイが成立している。ヒカルさん、夢人くん、宇佐美さんにはアリバイがない。黒須さんはくらげ化しているので除外します」
「それじゃあ、その三人に可能だということしか……」とエレノア。
「抽選で当選する一回こっきりのテストプレイで、有人プレイヤーにこんな計画が立てられるはずはない。先ほど、AIのバグという表現をしましたが、俺はこのゲームをかき乱したイレギュラーな犯人は、人工知能を持つNPCなんじゃないかと考えています。
そして、誰がNPCで誰が有人か――電子の悪魔の正体は、すでに判明している」
メンバーの中のひとりの顔を見つめて、言った。
「電子の悪魔は……あなたですよね?」
「黒須さんはこうして生存状態にあったため、イレギュラーな敵によって弱体化に追い込まれるも、ウイルス汚染されることはなかった。一方、目的を達成できなかった新たな犯人は、次のターゲットを探し始めます」
ステージは第三の事件へと移る。
「けれども、その時点で犯人がついた嘘に気づいてしまった人物がいた――それが、あーちゃんです。彼女はおそらく、自分の能力で違和感を鋭く察知したのだと思います」
「あーちゃんの能力って……超嗅覚のこと?」と宇佐美。
「そのとおりです」
あーちゃん本人から聞いたわけではないが、嗅覚に関するものだろうと想像はしていた。
宇佐美はあーちゃんと、互いの能力について明かしていたらしい。これで裏が取れた形だ。
「あーちゃんは、黒須さんが殺された直後、何かに気づいた様子でした。自信がないといって明言はしませんでしたが、おそらくは犯人の言動と、嗅覚による情報に齟齬があったのだと思います。
そして翌朝、自分が犯人に襲われたときに、自ら鼻に傷をつけた。あれは我々に何かの合図を送っていたのではないかと」
「その、合図っていうのは?」尋ねたのは、夢人。
黒須の殺害方法は撲殺。犯人はシーツを被せて犯行に及んだものの、現場にはかなりの量の血液が飛び散っていたことをふまえつつ、言葉を紡ぐ。
「姿は見えなくとも、凶器を持てるということは物質としてそこに存在しているということ。であれば、返り血を浴びて、血のニオイも体に染みついていたはずです。
犯人の立場になって想像すると、急いで部屋に戻ったあとは、まず服を着替えて、シャワーブースで洗い流すのが自然な行動だと思いませんか」
そこで自分の服の襟をつまみ、ぱたぱたと揺すって見せた。
「俺も部屋のシャワー機能を一度使いましたが、洗浄自体は一瞬で終わるものの、石鹸のにおいがしばらく香っているという特徴があります。ですが――黒須さん殺害のアリバイを皆さんに確認したとき、シャワーを浴びていたと言った人物はいなかった。寝ていたとか、考えの整理をしていたとかでしたよね」
ヒカルが首を傾げる。
「石鹸のにおいで、犯人がわかったってことか? そんなの、俺だって気づかなかったが」
「そこは超嗅覚ですから、能力でしかわからない粒子があったんでしょう。だけどその程度の違和感ですから、自信がなくてその場では言えなかった。けれど正直な彼女のこと、顔と行動には現れてしまった。そして犯人に狙われることに……」
宇佐美が悔しそうに俯く。
「一緒に行動していたのに、私が離れたりしたから……」
いずれにしろ、透明人間に狙われては、いつかは殺られていただろう。いくら仲良し同士でも、四六時中、一緒にいることはできない。
「あーちゃんは有人プレイヤーです。死体をとある方法で調べたら、ありました。不審なコードが。自分も機材なしでは解析できない、新しい言語でした。ということは、このままゲームを終了すれば、あーちゃんは脳に爆弾を抱えたまま現実に戻ることになる。また、今後ゲームに参加するプレイヤーにも、同様の被害を出すことになるでしょう。それは阻止せねばなりません」
「……誰なのよ、そんなわけのわからないことをする犯人は!」
金切り声を上げた宇佐美は、心底腹を立てているように見える。
食堂の壁に設置された時計を見ると、もう残り時間も少なかった。
幕切れになる前に、片をつけなければならない。
「黒須さんの事件では、エレノアさんと自分は展望エリアに一緒にいたことから、アリバイが成立している。ヒカルさん、夢人くん、宇佐美さんにはアリバイがない。黒須さんはくらげ化しているので除外します」
「それじゃあ、その三人に可能だということしか……」とエレノア。
「抽選で当選する一回こっきりのテストプレイで、有人プレイヤーにこんな計画が立てられるはずはない。先ほど、AIのバグという表現をしましたが、俺はこのゲームをかき乱したイレギュラーな犯人は、人工知能を持つNPCなんじゃないかと考えています。
そして、誰がNPCで誰が有人か――電子の悪魔の正体は、すでに判明している」
メンバーの中のひとりの顔を見つめて、言った。
「電子の悪魔は……あなたですよね?」
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