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一章 子どもは親を選べない

2 やさぐれたのは誰のせい

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 父とふたりの生活に戻ってから七年が経ち、冬馬は高校二年生になった。
 今年は残暑が長引いて、十一月に入ってからようやく秋らしい風とすれ違う。十月末に中間テストを終えたばかりということもあり、学生らは中だるみの真っ最中だ。

 冬馬はというと、数か月前に野球の試合中に骨折した左足がようやく完治したばかりで、順風満帆とは言い難い半年間。
 不便なギプスに、臭いも気になったし、良くなったかと思うとズキリと痛んだりして、もう骨折はこりごりと思う程度には長い闘いだった。

 あれから野球はやっていない。
 休部扱いにしているが、来年は受験だし、そこまで執着もしていないから、もう部に顔を出すことは多分ない。

「お~す、藤川」
「うっす」

 昇降口で級友の岡崎と挨拶を交わし、下駄箱の蓋を開けた。

「……チッ」
 上履きの上に薄い桃色の洋封筒が乗っていた。
 思わず舌打ちが漏れる。

「なぁに? うわ、ラブレター? つか今、チッて、おまえ……」

 下駄箱を覗きこんでくる岡崎を手で払い、上履きだけを引っ張り出して乱暴に蓋を閉めた。
 歩き出した冬馬の後に岡崎も続いたが、気がかりそうに下駄箱の方を何度も振り返っては、冬馬にからかうような視線を投げてくる。

「おい、手紙は? せめて読んでやれよ」
「知るか」
「いつもの子かな? よく遠巻きにこっち見てる……お前のファン」
「違う。ただのストーカー」
「これだから贅沢なイケメンはよぉ。いいなー、俺もラブレター貰ってみてえなぁ。バレンタインもチョコ入れてくれたりするんだろうなー、ずりーなぁ」
「靴と一緒にされた食い物なんか食えるか」

 カッコイイと言われる父の血を受け継いだせいか家系の呪いなのか、冬馬は高校生になって頻繁に女子から好意を寄せられるようになった。
 しかし愚父のところへ押し寄せる女性、大人たちの醜態を目の当たりにしてきた過去ゆえに、冬馬は一方的に押し付けられる好意なんて、気持ちが悪いと思っている。

 待ち伏せするやつ。泣くやつ。物で釣ろうとしてくるやつ。
 好意を返してもらえる理由なんて一片もないのに、なぜそうも前向きになれるのか。「ありがとう、嬉しいよ」なんて言うとでも思っているのか。

(バカなんじゃないか? 結局、自分に酔ってるだけだろ)

 放課後になっても、「好意」はその場から消えずに、朝見たときのまま下駄箱に寂しく居残っていた。

 仕方なくつまみだした手紙は、帰路の途中にあるコンビニのゴミ箱に捨てた。
 よこした本人がどこかで見てるかもしれないが、知ったことじゃない。
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