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二章 モテる男は楽じゃない
2 当然、怒られました
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「藤川くん、ちょっと」
放課後、ホームルームが終わって帰り支度をしていた冬馬は、洋子に呼び止められた。そして連れていかれた進路指導室で、体育教師も加えて二対一で、こってり絞られることとなった。
体育教師の山田毅は、廊下で言い負かしてやった女子生徒の担任だ。丸太みたいな太い腕を胸の前で組んで、目を吊り上げて指導室で待ち構えていた。
「うちの学級委員を泣かせるたぁ、どういう了見だ」
知るか。
どうやら、ストーカー女に文句を言ったことが問題になっているらしい。
酷いことを言われたとでも教師に泣きついたのだろうか。なんてやつ、と冬馬は小さく愚痴った。逆恨みじゃないか。
事情をよくわかっていない洋子から説明を促され、冬馬は手短に答えた。
「しつこく手紙をよこしたりするので、迷惑だからやめてほしいと言いました」
「おまえ、なんだその態度は!」
顔つきが気にくわなかったのか、山田は倍ほど唾を飛ばす勢いで、説教をまくしたてた。
わぁわぁと大声をぶつけられたが、「彼女は傷ついている」とか「女を泣かすなんて恥だと思え」などの感情論が大半を占め、何を言っているのかよくわからない。
だが要するに、冬馬の心無い言動のせいで彼女が午後の授業をまともに受けられなくなったと非難されているらしい。
(そんなこと言われても――)
別にぶったりなんだりの暴力行為はしていない(当たり前だが)。
彼女と廊下で別れたあとは、各々教室に戻り、午後も普通に授業を受けた。
聞けば、あちらは授業が始まってからも何度も思い出し泣きをして、心配した友人が騒ぎ出し、ついには保健室送りになったという。
「知りませんよそんなこと……じゃあ迷惑を迷惑と言っちゃいけないんですか。好きでもないのに我慢して仲良くしろってことですか」
「そういうことじゃなくてだなぁ!」
「山田先生、落ち着いて。声がうるさいです」
洋子が体育教師をなだめ、能面なりに呆れた顔を冬馬に向けて言った。
「蓮田さんには、具体的に何を言ったのよ、藤川くん」
彼女は蓮田という名前だったか。まぁどうでもいいことだが。
「だから、つきまとったり、しつこく手紙をよこすのをやめろって。言っちゃあ悪いですけど、気持ち悪いだけなんで」
「言い方ってものがあるだろうが!」
山田はゴリラのような顔を赤くして、口をぱくぱくさせている。
「それだけじゃないんでしょう?」
洋子が先を促した。蓮田から少しは話を聞いているのかもしれない。
「……実は昨日、うちに無言電話がかかってきて。それも彼女の仕業かと思って、そういうのも止めてくれって言いました」
「無言電話? そんなのよくあることじゃないか」
普通はない。
だけどタイミング的に合致して、あれも彼女がやったことではないかと思ったのだ。
「証拠もないのに人を疑うのはよくないわね」
「そうだぞ。だいたい、おまえんちの電話番号なんて蓮田が知るわけないだろうが。クラスも違うのに」
冬馬は言葉に窮した。
確かに彼女は「そんなことはしていない」と蒼白になって否定していた。
それでさすがの冬馬も、頭の片隅に「まずかったかな」という思いは生まれたのだが、出した言葉は戻せない。頭に血がのぼっていたし、これで諦めてくれれば万々歳と、あえて放置した。
「今度やったら警察に突き出す」というようなことまで口走ってしまい、さすがに言い過ぎたとは、思っているのだが。
「……違ってたなら、すみませんでした。彼女に謝ればいいんですか」
「いいえ。謝らせるようにと騒いでいるのは彼女の友達で……。蓮田さんは、この事は貴方には言わないでほしい、貴方を責めないでほしいと言ってた。悲しくて涙が堪えられなかっただけだから、貴方は何も悪くないと」
蓮田が逆切れしたわけではないのか。
「けれどたぶん……無言電話は蓮田さんじゃないわね。そんなことをする子じゃないと思う。その事も含めて自分の行動が正しかったのか、きちんと反省してください。それから……無言電話の件だけど、これからも続くようなら私に相談して。ひとりで抱え込む必要はないから」
教師らしいことも言うんだな。洋子のことを、少し見直した。
もうひとりの方はまだ納得がいっておらず、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
だが洋子は構わず、きっぱりとした口調で場を締めくくり、冬馬は釈放されたのだった。
放課後、ホームルームが終わって帰り支度をしていた冬馬は、洋子に呼び止められた。そして連れていかれた進路指導室で、体育教師も加えて二対一で、こってり絞られることとなった。
体育教師の山田毅は、廊下で言い負かしてやった女子生徒の担任だ。丸太みたいな太い腕を胸の前で組んで、目を吊り上げて指導室で待ち構えていた。
「うちの学級委員を泣かせるたぁ、どういう了見だ」
知るか。
どうやら、ストーカー女に文句を言ったことが問題になっているらしい。
酷いことを言われたとでも教師に泣きついたのだろうか。なんてやつ、と冬馬は小さく愚痴った。逆恨みじゃないか。
事情をよくわかっていない洋子から説明を促され、冬馬は手短に答えた。
「しつこく手紙をよこしたりするので、迷惑だからやめてほしいと言いました」
「おまえ、なんだその態度は!」
顔つきが気にくわなかったのか、山田は倍ほど唾を飛ばす勢いで、説教をまくしたてた。
わぁわぁと大声をぶつけられたが、「彼女は傷ついている」とか「女を泣かすなんて恥だと思え」などの感情論が大半を占め、何を言っているのかよくわからない。
だが要するに、冬馬の心無い言動のせいで彼女が午後の授業をまともに受けられなくなったと非難されているらしい。
(そんなこと言われても――)
別にぶったりなんだりの暴力行為はしていない(当たり前だが)。
彼女と廊下で別れたあとは、各々教室に戻り、午後も普通に授業を受けた。
聞けば、あちらは授業が始まってからも何度も思い出し泣きをして、心配した友人が騒ぎ出し、ついには保健室送りになったという。
「知りませんよそんなこと……じゃあ迷惑を迷惑と言っちゃいけないんですか。好きでもないのに我慢して仲良くしろってことですか」
「そういうことじゃなくてだなぁ!」
「山田先生、落ち着いて。声がうるさいです」
洋子が体育教師をなだめ、能面なりに呆れた顔を冬馬に向けて言った。
「蓮田さんには、具体的に何を言ったのよ、藤川くん」
彼女は蓮田という名前だったか。まぁどうでもいいことだが。
「だから、つきまとったり、しつこく手紙をよこすのをやめろって。言っちゃあ悪いですけど、気持ち悪いだけなんで」
「言い方ってものがあるだろうが!」
山田はゴリラのような顔を赤くして、口をぱくぱくさせている。
「それだけじゃないんでしょう?」
洋子が先を促した。蓮田から少しは話を聞いているのかもしれない。
「……実は昨日、うちに無言電話がかかってきて。それも彼女の仕業かと思って、そういうのも止めてくれって言いました」
「無言電話? そんなのよくあることじゃないか」
普通はない。
だけどタイミング的に合致して、あれも彼女がやったことではないかと思ったのだ。
「証拠もないのに人を疑うのはよくないわね」
「そうだぞ。だいたい、おまえんちの電話番号なんて蓮田が知るわけないだろうが。クラスも違うのに」
冬馬は言葉に窮した。
確かに彼女は「そんなことはしていない」と蒼白になって否定していた。
それでさすがの冬馬も、頭の片隅に「まずかったかな」という思いは生まれたのだが、出した言葉は戻せない。頭に血がのぼっていたし、これで諦めてくれれば万々歳と、あえて放置した。
「今度やったら警察に突き出す」というようなことまで口走ってしまい、さすがに言い過ぎたとは、思っているのだが。
「……違ってたなら、すみませんでした。彼女に謝ればいいんですか」
「いいえ。謝らせるようにと騒いでいるのは彼女の友達で……。蓮田さんは、この事は貴方には言わないでほしい、貴方を責めないでほしいと言ってた。悲しくて涙が堪えられなかっただけだから、貴方は何も悪くないと」
蓮田が逆切れしたわけではないのか。
「けれどたぶん……無言電話は蓮田さんじゃないわね。そんなことをする子じゃないと思う。その事も含めて自分の行動が正しかったのか、きちんと反省してください。それから……無言電話の件だけど、これからも続くようなら私に相談して。ひとりで抱え込む必要はないから」
教師らしいことも言うんだな。洋子のことを、少し見直した。
もうひとりの方はまだ納得がいっておらず、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
だが洋子は構わず、きっぱりとした口調で場を締めくくり、冬馬は釈放されたのだった。
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