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不思議なお話NO7

ちょっとだけ不思議な出会い(No4の悪ガキの件)

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 「ちょっとだけ不思議な話」と題したのは、単なる偶然だと言われれば、そうかもしれないと僕自身思う訳で、とは言うものの「不思議なお話No4」に登場した悪ガキとの縁について、後で書くと述べましたので、ここに紹介する次第です。

 悪ガキ、竹村郁夫君のイジメは小学2年くらいまで続きました。それ以降は僕の体が大きくなり、友人らから力持ちと評されるようになったためか、郁夫君のイジメは鳴りを潜めてきたものの、彼とその仲間たちの顔に浮かぶ冷笑には耐え難いものがありました。
 殴ってやろうかとも何度も思ったのですが、お○○こ野郎などと連呼されたら、それこそ赤っ恥だし、陰に回って言いふらされて冷笑仲間がこれ以上増えるのも考えものですから、ただ、じっと耐えるしかなかったのです。
 その郁夫君と同じじクラスになったのは小学校五年生の時です。始業式の前日、ずいぶんと悩んだのですが、蓋を開けてみれば、何事もなかったように親しげに話しかけて来たのは郁夫君の方で、クラスの野球チームに入らないかという誘いでした。僕は野球は大嫌いだったのですが、しつこく誘われて、しかたなく仲間に加わり、それ以来、既に62年の歳月を友人としてつきあってきました。
 
 さて、今から20年ほど前のことです。僕が車を車庫に入れ門扉を閉めているところに、中学生くらいの女の子が、つかつかと近づいて来て、いきなり声を掛けてきたのです。
「私、郁夫の娘です。私は郁代って言います」
上気した顔を僕に向けています。僕は驚いて答えます。
「郁夫って、竹村郁夫君のこと?」
「はい、そうです」
 ふと、彼女の背後を見ると、前の家の娘がにこにこしながら佇んでいます。名前はサクラちゃん。僕の大好きな子で、母親が離婚して乳飲み子のサクラちゃんを抱いて実家に帰って来た頃から可愛がっていました。そのサクラちゃんに、
「サクラちゃんのお友達?」
と聞くと、ええと答えて、またにこにこを続けています。僕は「そうなの!」と言ったきり言葉が続かず、そうこうしている間に二人は家の中に入ってしまいました。
  気の利いた言葉一つ掛けられなかった自分を大いに反省したのですが、それより、郁夫君がずいぶん前に離婚していること、そして男兄弟は郁夫君の元に、末っ子の女の子は母親に引き取られていたことを思い出しました。その末っ子が、よりによって僕の可愛がっていたサクラちゃんのお友達だということに、やはり不思議な縁を感じたのです。

 その数日後、サクラちゃんの母親、良子さんとバス停で一緒になり話を聞くことが出来ました。サクラちゃんと郁夫君の娘は大親友とのことで、家にもよく泊まりにくるらしく、サクラちゃんの部屋の押入には郁代ちゃん用の布団も用意しているというのです。
 それを聞いて、僕らが彼女たちと同じ年の頃、僕の家(今の家に引っ越す前の隣町にあった僕の家)の庭にあったプレハブの部屋に入り浸りだった郁夫君を思いだして、不思議な思いに捕らわれました。

 それから数年後のことです。バス停でサクラちゃんの母親、良子さんと会ったおり、思いがけない話を聞くことになりました。それは、郁代ちゃんが精神的におかしくなっているというのです。その原因が、母親の情緒不安定が娘に影響していて、このままでは彼女が壊れてしまうと言い、こう続けたのです。
「お父さんの竹村さんとはお友達なんでしょう。だったら淳さん、お父さんに郁代ちゃんのこと相談してくれないかしら。彼女には精神的に支えてあげる人が必要なのよ」
 僕がその日のうちに郁夫君と連絡をとり、会って話したのは言うまでもありません。勿論、お酒を飲みながらですけどね。その後、郁代ちゃんは父親の家に週の半分は泊りに行くようになり、その後、良子さんの話では、精神的に安定してきたというので、僕もほっと胸をなでおろしたのです。

 ところで、誰にでも記憶に残る場面、忘れられないシーンがあると思いますが、この後の出来事は僕にとって大切な思いでのシーンとなりました。

 それは、日曜の剣道の朝練を終え、車を車庫に入れ、門扉を閉めている時でした。
「淳さん」と声を掛けられ振り向くと、いつの間に出てきたのか、良子さんと、艶やかな晴れ着に身を包んだサクラちゃん、郁代ちゃんの3人が僕に微笑みかけていたのです。
「おー」と驚きの声を上げると、
「やっと成人式なの」と良子さん。
 「やっと」という言葉に万感の思いが込められていました。祖父母の協力はあったとしても、外資系企業の第一線で働き続けるのは大変な苦労だという話をバスの中でよく聞かされていました。
 二人の娘は、晴れがましい顔をしてこにこしています。晴れ着姿の自分たちを褒めてほしいのです。ありったけの賛辞を呈したのは言うまでもありません。
 しばらくして、ひときわ大きな声が響きました。
「淳ちゃん?」
 僕を「ちゃん」付けで呼ぶのは、小学校以来の仲間だけですが、その仲間の奥さんも僕をそう呼ぶようになるのは、致し方ないことです。そう、その声の主は郁夫君の元妻でした。十数年ぶりの再会です。懐かしさがこみ上げてきて、またしても「おー」と声を張り上げてしまいました。
 良子さんに頼まれて、二人を成人式の会場まで車で送るというのです。その時、二人の母親の手のカメラに気づきました。
「ちょっと待ってて、まだ時間はある?」
 二人が頷きます。僕は、剣道着をジャージに着替えて戻ってくると、二人のカメラを奪いました。
「今日、このシーンを記念に残そう」
と言って、カメラを構え、何枚も何枚も写真を撮りまくりました。
郁夫君の元妻が
「こんな瑞々しい肌の娘と一緒に撮ったら、年取ったのがばれちゃう」
なんて言うから、
「馬鹿野郎、娘と競ってどうする」
と叱り飛ばし、有無を言わせず遠くから近くから何度もシャッターを切りました。するとやはり熟女は違います。イヤイヤしながらも、シャッターを切る段になると妖艶なカメラ目線を向けてきす。また、娘たちは娘たちで慣れない着物もものともせず派手なポーズで応じます。
 しまいには、良子さんの母親まで出てきてモデルに加わり、しわがれ声を張り上げていましたし、娘たちのはしゃぐ声も成人式を迎える年とは思えないほど幼さを感じさせたのです。本当に楽しい、心温まる一時で、僕が大切にしているワンシーンです。
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