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くる ひなた

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番外編

余計な贈り物(R18)

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 毎週金曜日の夜。
 忍が綾子を自宅マンションに泊めるのは恒例となっていた。

 この日も仕事が終わると、忍は綾子を愛車の助手席に乗せた。
 マンションに到着したのは午後八時。まずは、夕食を作る。
 綾子はどんな高級店に連れて行くよりも忍の手料理に喜ぶので、作り甲斐があるのだ。
 綾子が手伝いを申し出る。
 ピーラーでジャガイモの皮を剥く手付きが危なっかしくて、忍がはらはらするのはいつものこと。
 彼女に包丁を持たせるような勇気は、とてもじゃないがまだ出ない。
 そうして、二人で作った夕食を二人で食べる時間は、忍にとってこの上なく幸せで安らぐ時間だった。
 食後の珈琲は、綾子が淹れてくれる。
 毎朝、Mon favriのオフィスで社長に珈琲を淹れる彼女には、お手のものだ。
 洗い物を食器洗浄機に放り込んで、しばしの珈琲タイム。
 その後入浴を済ませてから、寝るには少し早い時間なので、二人はリビングで寛ぐことにした。
 忍と並んでソファに座り、冷たい麦茶で喉を潤すパジャマ姿の綾子。
 と、彼女ははっと何かを思い出した様子で立ち上がると、ソファの脇に置いていた自分のバッグを漁った。

「どうした?」

 忍はよく冷えた缶ビールに口を付けながら、首を傾げる。
 すると、綾子はバッグの中から取り出した物を手に持って、彼の隣に戻ってきた。

「えっと、昨日実家から届いた荷物に、お兄ちゃんからの贈り物が入ってて……」
「うん? どっちのお兄さん?」
「コタロー兄ちゃんの方です」

 虎太郎といえば、綾子の下の兄である。
 金髪頭でガタイのいい、なかなか気さくな人物で、現在里谷自動車整備工場の現場責任者を務めている。 

「荷物開けようとしたら、コタロー兄ちゃんから電話が掛かってきて。贈り物は忍ちゃんへのものだから、開封しないで渡せって」
「ふむ」

 忍は一つ頷くと、綾子が差し出したものを受け取った。
 それはA5サイズの、何の変哲もない茶封筒。
 外から触った感じでは、四角い形の薄くて固い物が入っている。
 中身に見当がついた忍は、封筒の封を手で切って開けた。
 そうして現れたのは、透明なプラスチックケースに入った円盤。

「CD……いや、DVDだな」
「何のDVDでしょうか?」

 白いラベルの上には何も記されていない。
 映像が入って売っている市販のDVDではないのだろう。
 忍はそれをケースから取り出すと、「試しに見てみようか」と言ってセットした。
 そのとたん――

「ん?」
「――っ!!?」

 いきなり画面いっぱいに広がったもの。
 それは、見知らぬ男女のあられもない姿だった。
 さすがの忍も目を丸くし、隣の綾子に至ってはぴょんと飛び上がるほど驚いた。

「な、ななな、これっ……!?」
「あー……AVか……」
「ええ、ぶいっ……!?」
「綾子は、見るの初めて? まあ、女の子はあんまりこういうものは見ないか」
「し、しし、忍ちゃん……」

 ふむと顎に片手を当て、冷静な顔で画面を眺める忍に綾子は困惑する。
 その時、忍の携帯電話が鳴った。

「――もしもし」
「おー、どうもー、忍ちゃん。俺からの贈り物、受け取ってくれた?」
「ああ、今まさに、再生しているところ」
「マジで!」

 相手は、DVDの贈り主である綾子の次兄、虎太郎だった。
 忍は顔を真っ赤にして目のやり場に困っている綾子に苦笑しながら、彼との会話を続ける。

「それで、これっていったい、どういう贈り物?」
「先週の俺の誕生日に、忍ちゃん、たくさんビールくれたじゃん? そのお返しー」
「へえ」
「姉ちゃんがさぁ、忍ちゃんが喜びそうなもん自分で考えて送れって言うから、俺なりに考えた結果」
「なるほど」

 忍は悪びれた様子のない電話相手に苦笑した。
 虎太郎の言う通り、先週彼の誕生日に、忍はビールの詰め合わせを贈っていた。
 彼が無類のビール好きであると知っていたからだ。
 その礼として、まさかこんな変化球が返ってくるとは想像もしていなかった。

「忍ちゃんの喜びそうなもんっつったら、綾子以外に思いつかんかった。せっかくだから、色っぽいのをセットでね」
「ふむ」
「つーか、せっかく神編集に仕上がった俺のコレクションを、忍ちゃんにもお裾分け」
「それはどうも」
「兄ちゃんにも見せてやったんだけどさぁ、ゴミを見るような目をしやがるの! ひどくね?」
「はは」

 件のDVDが、まどろっこしい前置き部分を省略していきなり本番から始まったのは、虎太郎が編集し直したからのようだ。
 まさしくそれは、実用性に特化した代物だった。
 忍は苦笑を深める。
 電話の向こうの虎太郎は、少し声を潜めて続けた。

「あ、姉ちゃんには黙っててね。バレたら俺、ぶっ殺されるから。綾子にも口止めしといて」
「はいはい」

 そんな風に、忍が虎太郎と電話をしている間も、リビングの大型液晶画面では裸の男女が艶かしく絡み合っている。
 DVDのリモコンはというと、忍が片手に握り込んでいた。

「忍ちゃん……これ、消してください」
「ん? 待ってね、綾子」

 おずおずと綾子は訴えるが、忍はそれを笑顔でかわす。
 すると、電話の向こうから笑いを含んだ声がかかった。

「なー、綾子のヤツ、今どんな顔してる?」
「可哀想なほど真っ赤になって狼狽してるよ」
「ははー! 初々しいねぇ、うちの妹は!」
「そこがまた可愛いんだけどね」

 忍の惚気に、虎太郎は「ひひ」と笑う。
 その時、電話の向こうから、「虎太郎?」と彼を呼ぶ声が聞こえた。
 どうやら背後に姉の蔦子が現れたようだ。

「じゃーね、忍ちゃん! 綾子のこと、よろしくっ!!」

 虎太郎はそう叫ぶように告げると、一方的に電話を切った。

「コ、コタロー兄ちゃん、なんて?」
「ああ、えーっと、送るもの、間違えたって」
「え?」

 忍は、しらじらしい嘘をついた。
 天下の箱入り娘も、さすがに疑うような目をする。
 ただし、彼女はとにかく、いまだに上映中のわいせつ動画の方が問題のようだ。
 綾子は液晶画面から顔を背けて、再び忍に訴えた。

「し、忍ちゃん。止めてください」
「うん?」
「DVD、止めましょうよ!」
「ん―……」

 ところが、忍は生返事をするばかりで、一向にDVDを止めようとしない。
 それどころか、彼は綾子の腰に腕を回して抱き寄せると、のんびりと画面を眺め始めたではないか。

「し、忍ちゃんってば!」

 綾子は慌てて抗議の声を上げる。
 ところが、忍はそれを意に返さないばかりか、綾子の口を塞ぐようにキスをした。
 無防備だった唇の隙間を割って、彼の舌が侵入する。
 そして、びっくりして奥に引っ込みそうになった綾子のそれを捕まえ、絡み付く。
 綾子は、そんな忍のキスに応えるので精一杯。
 それをいいことに、忍はさりげなく、片手を彼女のパジャマのズボンの中に忍び込ませた。

「――!!?」

 びっくりした綾子が固まる。
 そのすきに、忍の手はさらにショーツの中まで侵入した。

「あっ……」
「おや、濡れてる?」

 綾子の足の間を弄った指先が、かすかな潤いを感知する。
 忍はにやりと口の端を持ち上げると、綾子の耳に唇を擦り付けるようにして囁いた。

「エッチなの見て、興奮しちゃった?」

 意地悪な忍の問いに、綾子はびくりと身体を震わせた。
 身を捩って逃れようとするも、腰にはがっちりと彼の腕が回ってしまっている。
 忍は、綾子を自分の足の間に座らせると、後ろから抱きかかえた。
 そして、画面が見えるように彼女を固定した上で、ショーツの中を無遠慮に弄った。

「ほら、綾子。あのDVDの女の子と君と、どっちが気持ちいい顔してるかな?」
「し、忍ちゃん、いやっ……」
「俺も、あの男優に負けてられないからね」
「や、やあっ……」

 綾子は、画面を見ないようにと俯いた。
 スピーカーからは、アンアン、と演技臭い嬌声が響く。
 対して、綾子は唇を噛み締め、必死に声を抑えようとした。
 それなのに、忍の指が秘所を探る艶かしい音が、彼女の耳を打つ。

 ――アッ

 突如、スピーカー越しに甲高い悲鳴が上がった。
 綾子ははっとして、思わず顔を上げる。
 すると、モザイク入りのまぐわう肌色が、画面いっぱいに映し出されていた。
 綾子はひっ、と喉の奥で悲鳴を上げた。
 と、同時に……

「――ひあっ……!」

 忍は、いきなり指を二本、強引に彼女の中に押し込んだ。
 まだ狭い通路を押し広げるようにして、奥へ奥へと進む。
 そうなると、もう綾子は声を抑えられなくなってしまった。

「あっ! や、ああっ……!」

 そんな綾子の嬌声は忍をひどく昂らせた。
 画面で男に組み敷かれる女のそれとは、比べ物にならない。

「ほら、綾子。彼女と君と、どっちが先にイクかな?」
「や、やだっ、やだあっ……!」

 恥ずかしがってイヤイヤと首を振る綾子に、忍の嗜虐心はますますくすぐられる。
 彼は指を入れたまま、もう一方の手でもって、ショーツの上から綾子の粒をグリッと押した。

「ひ、あああっ――っ!」

 とたんに、ビクビクと身体を震わせて綾子が達した。
 同時にテレビの中の男女も、一度目のクライマックスを迎えていた。
 忍は腕の中でくたりとした綾子を抱き締めると、その耳元に掠れた声で囁いた。

「惜しい、綾子。引き分けだね」

 その言葉に、綾子はべそをかいたような顔を忍に向ける。
 それがまた、とてつもなく可愛らしくて、忍はたまらなかった。
 そして、たまらないのは彼の分身も同じである。
 忍は抵抗する暇も与えず、綾子からパジャマのズボンとショーツを剥ぎ取った。
 さらに、逸る気持ちを必死に押さえつつ、自分の衣服も寛げる。
 ところが、ここで問題が発覚した。
 忍と綾子がいるのは、リビングである。
 この場所に、忍はコンドームを置いていないのだ。
 もちろん、綾子にリスクを背負わせかねないので、避妊をせずに交わるつもりはない。
 だがしかし、正直寝室まで待てない。
 ギリギリに保った理性の中で悩んだ忍は、ふとあることを思い出した。

「綾子、出して」
「……え?」
「財布に、ゴム一個入れてるでしょ。あれをちょうだい」
「え、えっ……?」

 突然の忍の要求に、綾子はきょとんとした顔をした。
 一瞬、彼が何のことを言っているのか分からなかったのだ。
 しかし……

「……ない、なんて言わないよね? 綾子」
「え……」
「俺との時には使っていないはずだ。まさか――他の誰かと使ったなんて、言わないよな?」

 忍は鋭く綾子を見据え、凍えた声でそう問いつめる。
 綾子は涙目になり、慌てて首を横に振った。

「つ、使ってません! ちゃんと、財布に入ったままです!」
「そう。じゃあ、出して」

 結局、こうして物事は忍の思い通りに進んでいくのだ。
 忍が腕を伸ばしてソファの脇からバッグを取ると、綾子はしぶしぶ財布を取り出した。
 そして、中にしまっていたコンドームを摘まみ上げる。
 それは、忍と出会ってすぐの頃、彼の秘書である山本から、「自分の身は自分でしっかり守りなさい」と言い聞かされて持たされたもの。
 忍はそれを受け取ると、にこりと微笑んで綾子をソファに横たわらせた。
 そして、彼女の足の間に自分の腰を割り込ませてから、コンドームの袋を開ける。

 ――ピリリッ

「んっ……」

 パッケージを開ける音にさえ、綾子の身体は反応してしまうらしい。
 この後自分の身に何が起こるのか、彼女はもう知っているのだ。
 まるでパブロフの犬のように、綾子の秘所は甘い予感によだれを垂らした。
 そこに、忍は準備が整った自身を押しあてる。
 ぐっと前のめりになると、その先端が綾子の入り口を覗いた。

「うっ……ん、んんっ……」

 指とは比べ物にならないほどの質量が、指では届かなかった綾子の奥までをみっちりと満たす。
 それが苦しくて、綾子は懸命に唇を噛み締めた。
 しかし、やがて忍がゆるゆると動き始めれば、綾子の口から漏れる声が艶めいた。
 二人の荒い息づかいに加え、粘った水音がリビングに響く。
 ソファの向かいの液晶画面では、いまだ偽りの愛の営みが続いている。
 控えめな綾子の嬌声に対し、画面の中の女はとにかく姦しい。
 ソファに転がされた綾子は、ちらりとそれを横目で確認する。
 そして、困ったように眉を八の字にして、覆いかぶさる忍に向かって請うた。

「しのぶ、ちゃん……あれ、消して……っ」

 ところが忍はまたしても、綾子の懇願を受け流す。
 彼は綾子の唇を啄みながら「大丈夫」と告げる。
 そして、彼女の両脚を抱え上げて大きく開かせた。
 無防備に晒された綾子の花芯には、忍自身が深々と突き刺さっていた。
 その光景に、彼の興奮はいや増す。

「あんなの……すぐに、気にしていられなくなるから」

 忍は掠れた声でそう宣言すると、綾子の身体をずんと強く突き上げた。

「い、あっ……!」

 それからは、もう忍の耳には、綾子の声しか届かなくなった。
 側の大画面で繰り広げられる光景からも、彼の意識は完全に隔離されてしまった。
 忍はとにかく、自分の下で愛らしく鳴く綾子に夢中だった。
 そしてまた綾子の方も、忍が宣言した通り、画面を気にしている余裕などなくなった。
 激しく身体の中を突き上げられ、掻き回され、翻弄される。
 あられもない嬌声は、いくら耳を塞ごうとも聞こえてくる。
 何故ならそれは、綾子自身の口から発せられているのだから。

「っ、はっ……綾子、綾子っ……!」
「ひうっ! ……あ、ああっ――!」

 荒々しい二人の息づかいが重なる。
 ぎゅっと互いを抱き締め合い、溶け合って――

 やがて、一緒に高みへと上り詰めた。




 ようやく忍が綾子との交わりを解いた頃には、画面は真っ暗になって沈黙していた。

「……忍ちゃんの、バカ……」

 ソファの上に横たわり、背もたれに向かって丸まった綾子は、ぽつりとそう呟いた。

(これは、完全に拗ねさせてしまったな)

 しかるべき処理を終えた忍は、彼女と同じソファに腰を下ろして苦笑する。
 散々乱された綾子の格好も、忍の手によって元通りのパジャマ姿に戻っていた。
 綾子はぐすんと鼻をすすると、忍を見ずに言った。

「コタロー兄ちゃんが間違えてあれを送ってきたって、嘘でしょう」
「ん?」

 忍の誤魔化しも、今回ばかりは通じなかったようだ。
 忍は膨れっ面の綾子を宥めようと、彼女の頭を優しく撫でる。
 その手を拒む様子はないものの、綾子の曲がったヘソはそう簡単に元には戻らないようだ。
 なにしろ、生々しい他人の情事を見せられて精神的に消耗した上に、忍に好き勝手されて身体的にも疲労困ぱいなのだ。
 プンプンの綾子は、忍から顔を背けたまま、宙を睨むようにして言った。

「コタロー兄ちゃんも……あんなの送ってくるなんて、信じられない! お姉ちゃんに、言いつけてやります!」

 綾子の姉、蔦子は最強だ。
 ずっと図体の大きい虎太郎も、彼女の説教を受ける際には小さく縮こまるという。
 綾子が陳情すれば、姉はきっと彼を叱ってくれるにちがいない。
 そう確信した綾子は、虎太郎に向かって心の中で「ざまあみろ」と舌を出す。
 ところが…… 

「うん、なんて?」
「え?」
「蔦子さんに、なんて言うの? 綾子」
「えっと……」

 忍は綾子の顔を覗き込み、ぷくりとした頬にキスを落としながら問うた。

「蔦子さんに、言っちゃうの? 虎太郎君が送ってきたAVを見ながら、リビングで俺にめちゃくちゃに抱かれたって?」
「!?」

 綾子の復讐計画は、忍のそんな指摘によって瞬く間に暗礁に乗り上げてしまった。
 もちろん、今さっきまで忍としていたことを、姉に話して聞かせるなんてできない。
 虎太郎が、こうこう、こんなDVDを送りつけてきたと、内容を口にするのもためらわれる。
 結局、綾子は泣き寝入りするしかないのであった。

「うう~」

 悔しい綾子は唇を噛み締めて唸ると、さらにソファの上で身体を丸めてしまう。

「綾子」

 忍は、くく、とさも愉快そうに喉の奥で笑った。
 そして、覆いかぶさるようにして彼女を抱き締める。
 髪の間からのぞく綾子の耳は、真っ赤だ。
 忍はその耳たぶを優しく食むと、耳の中に吐息を吹き込むようにして囁いた。
 
「また、一緒に見ようね、綾子」
「もう、絶対、見ませんっ!」


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