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こんな申し出をされるとは思っていなかった

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 翌朝も、前日と同じ光景が繰り返された。
 冒険者達が依頼を受注し、各自目的の場所に散っていく。早めに依頼を終えた冒険達は、依頼の完了処理を行い、場合によっては戦利品の鑑定だの売買だの、等級を上げられるかの確認だの――と次の仕事の準備にかかる。

「……それにしても、どえらい人気だわね。普通、F級の冒険者なんて見向きもしないのに」

 メグと並んでカウンターに座っていたら、いきなりしみじみと言われた。
 メグの視線を追えば、その先にいるのは"白竜の盾"。そして、その中央にいるのはライムントだ。
 彼の周囲を囲んでいるのは女性の冒険者や、近隣の店で働いている少女達。要は、ライムントと同じ年ごろの女性ばかりである。

「そりゃまあ、王子様ですもんねぇ」

 単なるF級冒険者ならともかく、容姿端麗頭脳明晰――まあ、今は表情が失われているが――に、王族というおまけがついてくる。
 感情を失ったというのは、マイナス要素だけれど、呪いが解ければ、それも戻ってくる。早いうちに自分を売り込んでおこうということだろうか。

「レミリアは興味ないの?」
「んー……そうですねぇ。なんだか、いろいろ複雑ではあります」

 レミリアの抱えている感情を、端的に言い表すのは難しい。ライムントには生きていてほしい、幸せになってほしい。
 けれど、二度目の人生で彼に再会するつもりはなかった。心の準備ができないまま再会してしまって、まだ彼の存在に慣れていないというのもある。

(……それに、前のライムント様とはあまりにも違い過ぎて)

 レミリアの知るライムントは、とても表情豊かな人だった。太陽のような笑みを惜しみなく振りまく人だった。
 それが今は、まったく心を動かさない。感情を完全に失った――というよりは、表に出せなくなっているというだけな気もするが。

「複雑、ねぇ……」

 頬杖をついたメグは、こちらに流し目をくれる。そんな目で見るのはやめてほしい。

(そう言えば、メグさんって……前回の人生でも会ってたな)

 一度目の人生では、レミリアが冒険者ギルドに近寄ることはなかった。冒険者の中には荒くれ者もいる。彼らに関わり合うのが怖かったというのもその理由だ。
 けれど、レミリアが聖女として啓示を受けたその時。
 レミリアを王都まで見送ってくれたギルド職員の中に彼女がいたかもしれないということに不意に思い至る。

(……なんだか、変な感じ)

 たしかにレミリアには一度目の人生の記憶がある。聖女となって、王宮に行って、そして魔王と戦うための訓練も受けた。
 ろくな教育も受けていなかったレミリアは、訓練についていくことができず、何度も逃げ出したくなったし、くじけそうになったし、泣くこともあった。
 魔王の前に立った記憶も、目の前でライムントが倒れた様も。そして、禁呪が、自らの身体を滅ぼした記憶もあるのに。
  
 今、こうして二度目の人生を送っている。

 二度目の人生は、一度目の人生とまるで違っていて――本来なら、まだライムントとは顔を合わせる時期ではない。
 二度目の人生では、王宮に行くつもりもなかったし、国の派遣する魔王討伐作戦に参加するつもりもなかった。
 しっかり自分に言い聞かせておかないと、今が二度目の人生だということを忘れてしまいそうだ。

「ね、お食事くらいならいいでしょう?」

 派手目な服装をした魔術師が、ライムントの腕に自分の腕を搦めようとする。だが、するりとそれをかわしたライムントは、レミリアの座る受付カウンターの方に歩いてきた。

「な、なんでしょ?」

 背筋を伸ばし、上ずった声で問いかける。ライムントを囲んでいた女性達の視線がいっせいにこちらに向けられる。

「待っているから、今日は一緒に帰ろう」
「ま、待ってるって!」

 ライムントの誘いに、冒険者ギルド内に、声にならない悲鳴が飛び交った。

「夜道は危ない」
「だ、大丈夫ですよ! 教会、ここからすぐですし!」

 昨日の今日で、こんな申し出をされることになるとは思ってもいなかった。
 ――どうしてこうなった。
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