20 / 28
こんな申し出をされるとは思っていなかった
しおりを挟む
翌朝も、前日と同じ光景が繰り返された。
冒険者達が依頼を受注し、各自目的の場所に散っていく。早めに依頼を終えた冒険達は、依頼の完了処理を行い、場合によっては戦利品の鑑定だの売買だの、等級を上げられるかの確認だの――と次の仕事の準備にかかる。
「……それにしても、どえらい人気だわね。普通、F級の冒険者なんて見向きもしないのに」
メグと並んでカウンターに座っていたら、いきなりしみじみと言われた。
メグの視線を追えば、その先にいるのは"白竜の盾"。そして、その中央にいるのはライムントだ。
彼の周囲を囲んでいるのは女性の冒険者や、近隣の店で働いている少女達。要は、ライムントと同じ年ごろの女性ばかりである。
「そりゃまあ、王子様ですもんねぇ」
単なるF級冒険者ならともかく、容姿端麗頭脳明晰――まあ、今は表情が失われているが――に、王族というおまけがついてくる。
感情を失ったというのは、マイナス要素だけれど、呪いが解ければ、それも戻ってくる。早いうちに自分を売り込んでおこうということだろうか。
「レミリアは興味ないの?」
「んー……そうですねぇ。なんだか、いろいろ複雑ではあります」
レミリアの抱えている感情を、端的に言い表すのは難しい。ライムントには生きていてほしい、幸せになってほしい。
けれど、二度目の人生で彼に再会するつもりはなかった。心の準備ができないまま再会してしまって、まだ彼の存在に慣れていないというのもある。
(……それに、前のライムント様とはあまりにも違い過ぎて)
レミリアの知るライムントは、とても表情豊かな人だった。太陽のような笑みを惜しみなく振りまく人だった。
それが今は、まったく心を動かさない。感情を完全に失った――というよりは、表に出せなくなっているというだけな気もするが。
「複雑、ねぇ……」
頬杖をついたメグは、こちらに流し目をくれる。そんな目で見るのはやめてほしい。
(そう言えば、メグさんって……前回の人生でも会ってたな)
一度目の人生では、レミリアが冒険者ギルドに近寄ることはなかった。冒険者の中には荒くれ者もいる。彼らに関わり合うのが怖かったというのもその理由だ。
けれど、レミリアが聖女として啓示を受けたその時。
レミリアを王都まで見送ってくれたギルド職員の中に彼女がいたかもしれないということに不意に思い至る。
(……なんだか、変な感じ)
たしかにレミリアには一度目の人生の記憶がある。聖女となって、王宮に行って、そして魔王と戦うための訓練も受けた。
ろくな教育も受けていなかったレミリアは、訓練についていくことができず、何度も逃げ出したくなったし、くじけそうになったし、泣くこともあった。
魔王の前に立った記憶も、目の前でライムントが倒れた様も。そして、禁呪が、自らの身体を滅ぼした記憶もあるのに。
今、こうして二度目の人生を送っている。
二度目の人生は、一度目の人生とまるで違っていて――本来なら、まだライムントとは顔を合わせる時期ではない。
二度目の人生では、王宮に行くつもりもなかったし、国の派遣する魔王討伐作戦に参加するつもりもなかった。
しっかり自分に言い聞かせておかないと、今が二度目の人生だということを忘れてしまいそうだ。
「ね、お食事くらいならいいでしょう?」
派手目な服装をした魔術師が、ライムントの腕に自分の腕を搦めようとする。だが、するりとそれをかわしたライムントは、レミリアの座る受付カウンターの方に歩いてきた。
「な、なんでしょ?」
背筋を伸ばし、上ずった声で問いかける。ライムントを囲んでいた女性達の視線がいっせいにこちらに向けられる。
「待っているから、今日は一緒に帰ろう」
「ま、待ってるって!」
ライムントの誘いに、冒険者ギルド内に、声にならない悲鳴が飛び交った。
「夜道は危ない」
「だ、大丈夫ですよ! 教会、ここからすぐですし!」
昨日の今日で、こんな申し出をされることになるとは思ってもいなかった。
――どうしてこうなった。
冒険者達が依頼を受注し、各自目的の場所に散っていく。早めに依頼を終えた冒険達は、依頼の完了処理を行い、場合によっては戦利品の鑑定だの売買だの、等級を上げられるかの確認だの――と次の仕事の準備にかかる。
「……それにしても、どえらい人気だわね。普通、F級の冒険者なんて見向きもしないのに」
メグと並んでカウンターに座っていたら、いきなりしみじみと言われた。
メグの視線を追えば、その先にいるのは"白竜の盾"。そして、その中央にいるのはライムントだ。
彼の周囲を囲んでいるのは女性の冒険者や、近隣の店で働いている少女達。要は、ライムントと同じ年ごろの女性ばかりである。
「そりゃまあ、王子様ですもんねぇ」
単なるF級冒険者ならともかく、容姿端麗頭脳明晰――まあ、今は表情が失われているが――に、王族というおまけがついてくる。
感情を失ったというのは、マイナス要素だけれど、呪いが解ければ、それも戻ってくる。早いうちに自分を売り込んでおこうということだろうか。
「レミリアは興味ないの?」
「んー……そうですねぇ。なんだか、いろいろ複雑ではあります」
レミリアの抱えている感情を、端的に言い表すのは難しい。ライムントには生きていてほしい、幸せになってほしい。
けれど、二度目の人生で彼に再会するつもりはなかった。心の準備ができないまま再会してしまって、まだ彼の存在に慣れていないというのもある。
(……それに、前のライムント様とはあまりにも違い過ぎて)
レミリアの知るライムントは、とても表情豊かな人だった。太陽のような笑みを惜しみなく振りまく人だった。
それが今は、まったく心を動かさない。感情を完全に失った――というよりは、表に出せなくなっているというだけな気もするが。
「複雑、ねぇ……」
頬杖をついたメグは、こちらに流し目をくれる。そんな目で見るのはやめてほしい。
(そう言えば、メグさんって……前回の人生でも会ってたな)
一度目の人生では、レミリアが冒険者ギルドに近寄ることはなかった。冒険者の中には荒くれ者もいる。彼らに関わり合うのが怖かったというのもその理由だ。
けれど、レミリアが聖女として啓示を受けたその時。
レミリアを王都まで見送ってくれたギルド職員の中に彼女がいたかもしれないということに不意に思い至る。
(……なんだか、変な感じ)
たしかにレミリアには一度目の人生の記憶がある。聖女となって、王宮に行って、そして魔王と戦うための訓練も受けた。
ろくな教育も受けていなかったレミリアは、訓練についていくことができず、何度も逃げ出したくなったし、くじけそうになったし、泣くこともあった。
魔王の前に立った記憶も、目の前でライムントが倒れた様も。そして、禁呪が、自らの身体を滅ぼした記憶もあるのに。
今、こうして二度目の人生を送っている。
二度目の人生は、一度目の人生とまるで違っていて――本来なら、まだライムントとは顔を合わせる時期ではない。
二度目の人生では、王宮に行くつもりもなかったし、国の派遣する魔王討伐作戦に参加するつもりもなかった。
しっかり自分に言い聞かせておかないと、今が二度目の人生だということを忘れてしまいそうだ。
「ね、お食事くらいならいいでしょう?」
派手目な服装をした魔術師が、ライムントの腕に自分の腕を搦めようとする。だが、するりとそれをかわしたライムントは、レミリアの座る受付カウンターの方に歩いてきた。
「な、なんでしょ?」
背筋を伸ばし、上ずった声で問いかける。ライムントを囲んでいた女性達の視線がいっせいにこちらに向けられる。
「待っているから、今日は一緒に帰ろう」
「ま、待ってるって!」
ライムントの誘いに、冒険者ギルド内に、声にならない悲鳴が飛び交った。
「夜道は危ない」
「だ、大丈夫ですよ! 教会、ここからすぐですし!」
昨日の今日で、こんな申し出をされることになるとは思ってもいなかった。
――どうしてこうなった。
0
お気に入りに追加
688
あなたにおすすめの小説
【完結】二人の王子~あなたの事は私が幸せにしてみせます。
三園 七詩
恋愛
王子の影武者として生きてきた男…
彼は絶対に恋してはいけない相手を好きになってしまった。
しかし王子の婚約者にも何か秘密かありそうな…
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる