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冒険者となった彼にはまだ慣れない
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最初に覚えるのはカウンター業務だが、簡単な鑑定もできるようにならなくてはいけない。
(鑑定は、難しいから……)
鑑定魔術を使えば、ある程度は判断することができるのだが、魔術を使うと、魔力の流れで察知されてしまうかもしれない。
レミリアはあくまでも、"ものすごい自主学習を頑張ったただの女の子"として冒険者ギルドに属しているのでそれでは困る。
「ん? んんんん……」
受付カウンターが暇になったのをいいことに、鑑定の責任者ポーリーのところで、練習させてもらう。
ポーリーは、このギルドで長い間働いている職員だ。先祖にドワーフの血が混じっているそうで、少々ぽっちゃり気味である。このあたりでは、エルフやドワーフと言った人間に近い種族はほとんど見ることはない。
「……魔道具よね、これ……水の魔石がはめ込まれている。魔力を流し込んでもいいの?」
「駄目に決まってるでしょ。これがどんなものか私は知ってるけど、普通は何かわからない魔道具にいきなり魔力を流し込んだりしないの」
「やっぱりだめかぁ……」
鑑定魔術を発動することさえできれば、どんな魔道具なのか瞬時に判断できる。だが、今のレミリアは、魔術を使えないということになっているので、鑑定魔術を使うわけにはいかないのだ。
必然的に、魔道具の構造、使われている魔石の種類や大きさなどから、どんなものなのかを鑑定しなくてはならない。
「水の魔石だけじゃなくて、この魔石は風……かなぁ」
うんうんと唸りながら、魔道具を鑑定する。目の前にいるポーリーが、勝ち誇った顔をしているのが、なんだか悔しい。
(絶対に、どんな魔道具か鑑定してやる……!)
何をムキになっているのか自分でもわからない。
ぐぬぬ、とかうぬぬ、とかわけのわからないうめき声を発しながら魔道具を凝視していたら、ポーリーがケタケタと笑った。
「あはははは、わからないかぁ!」
「いきなりこんなものを見せられてもね!」
実際のところ、鑑定業を極める必要もないのだが、一度ギルドの職員として勤めると決めた以上、手は抜きたくない。手を抜いてしまったら、自分に負けたような気になるからだ。
「うふーん、少しだけサービスしちゃおうかなぁ。ヒントあげる!」
「サービスって何よ、サービスって!」
ヒントをもらわないと、どんな魔道具か鑑定もできないというのはかなり悔しい。
「大丈夫だもん、一人でできるもん!」
水の魔石、風の魔石……と繰り返しながら魔道具をにらみつけていたら、脇からぷぷっと笑う声が聞こえてきた。
パッと顔を上げれば、エリンがそこに立っている。
(見、見、見られた……!)
ふくれっ面をしているところを見られてしまった。いや、エリンにぜんぜんかまわないのだ。レミリアが子供なことくらい皆知っている。
だが、その後ろにいるのがライムントであることに気づいてしまえば一気に頭に血が上った。
「ぎゃあっ!」
なんとも色気のない声を上げて、カウンターから逃げ出そうとする。だが、ポーリーに首根っこを掴んで引き戻された。
「何逃げてるの。ほら、冒険者が冒険を終わって戻って来たんだから鑑定しなさいよ、鑑定」
「うぅぅぅ……」
あんなところを見られてしまったので、非常に気まずい。ちらりと顔を見上げてみても、ライムントは気にしている様子は見せなかった。
(……なんなんだろうな、本当)
ライムントに近づかなければ、彼がもう一度巻き込まれることにはならないと思った。
せめて、彼だけは平和に生きて行ってほしかったのに。
だが、無表情にレミリアを見つめるライムントの心の内を読み取ることなんてできるはずもない。
(……そうよね、ギルドの受付係、なんだから)
できる限り口角を上げて、愛想のよい声を出す。
「依頼、終わりました?」
「終わった。ゴブリンの討伐証明書はここだ。確認を頼む。それから、オオヤリ菊の採取の依頼も片づけたぞ」
「かしこまりました。少々お待ちくださいね」
どうしたってライムントを目の前にすると、肩に力が入ってしまう。そんなレミリアの様子が、はたから見ているポーリーやエリンには面白くてしかたないらしい。
ゴブリンの討伐は文句なかった。討伐部位とされている耳が、指定の数だけ揃っている。
「……花もちょうどいい頃だし、葉もきちんと持ってきてる。三十本……だったよね」
本数を覚えていなかったので、オオヤリ菊採取の依頼表を確認。オオヤリ菊とは、その名の通り花は菊の花に似ているのだが、葉が槍のような形をしている植物だ。
花の部分は肉体を回復させるポーションに、葉の部分は虫刺されの薬と、冒険者達が野営の時に使う防虫剤の材料となる。
どちらにしても、冒険者達には必需品であり、冒険者向けの品を扱っている店では重宝される品の材料だ。
定期的にこれらの採取依頼は出されているが、これだけいい状態で持ち込まれることは少ない。
「はい、問題ありません。では、完了の手続きしちゃいますね!」
白竜の盾のメンバーが差し出してきたギルドカードを受け取り、完了手続きをする。ライムントとは、目が合わないようにしてしまった。
「そうだ、メグ。ちょっといいか?」
隣のカウンターにいたメグをルークが手招きして呼び寄せる。
「オオヤリ菊、数が減ってるみたいなんだよ。しばらく採取は控えた方がいいかもしれん」
「……ありがとう、ギルドマスターと相談してみる」
オオヤリ菊は、必要とされるだけに時に採取しすぎてしまうこともある。基本的に育てるのが難しい植物だから基本的には採取するしかないのだが。
「困ったわねぇ……」
ポーションの材料をよそから入手するなり、出来上がったものを買うなりしなければならないわけだが、そうなると費用の面で問題が発生してしまう。
メグがため息をつくのも、おかしくはなかった。
(鑑定は、難しいから……)
鑑定魔術を使えば、ある程度は判断することができるのだが、魔術を使うと、魔力の流れで察知されてしまうかもしれない。
レミリアはあくまでも、"ものすごい自主学習を頑張ったただの女の子"として冒険者ギルドに属しているのでそれでは困る。
「ん? んんんん……」
受付カウンターが暇になったのをいいことに、鑑定の責任者ポーリーのところで、練習させてもらう。
ポーリーは、このギルドで長い間働いている職員だ。先祖にドワーフの血が混じっているそうで、少々ぽっちゃり気味である。このあたりでは、エルフやドワーフと言った人間に近い種族はほとんど見ることはない。
「……魔道具よね、これ……水の魔石がはめ込まれている。魔力を流し込んでもいいの?」
「駄目に決まってるでしょ。これがどんなものか私は知ってるけど、普通は何かわからない魔道具にいきなり魔力を流し込んだりしないの」
「やっぱりだめかぁ……」
鑑定魔術を発動することさえできれば、どんな魔道具なのか瞬時に判断できる。だが、今のレミリアは、魔術を使えないということになっているので、鑑定魔術を使うわけにはいかないのだ。
必然的に、魔道具の構造、使われている魔石の種類や大きさなどから、どんなものなのかを鑑定しなくてはならない。
「水の魔石だけじゃなくて、この魔石は風……かなぁ」
うんうんと唸りながら、魔道具を鑑定する。目の前にいるポーリーが、勝ち誇った顔をしているのが、なんだか悔しい。
(絶対に、どんな魔道具か鑑定してやる……!)
何をムキになっているのか自分でもわからない。
ぐぬぬ、とかうぬぬ、とかわけのわからないうめき声を発しながら魔道具を凝視していたら、ポーリーがケタケタと笑った。
「あはははは、わからないかぁ!」
「いきなりこんなものを見せられてもね!」
実際のところ、鑑定業を極める必要もないのだが、一度ギルドの職員として勤めると決めた以上、手は抜きたくない。手を抜いてしまったら、自分に負けたような気になるからだ。
「うふーん、少しだけサービスしちゃおうかなぁ。ヒントあげる!」
「サービスって何よ、サービスって!」
ヒントをもらわないと、どんな魔道具か鑑定もできないというのはかなり悔しい。
「大丈夫だもん、一人でできるもん!」
水の魔石、風の魔石……と繰り返しながら魔道具をにらみつけていたら、脇からぷぷっと笑う声が聞こえてきた。
パッと顔を上げれば、エリンがそこに立っている。
(見、見、見られた……!)
ふくれっ面をしているところを見られてしまった。いや、エリンにぜんぜんかまわないのだ。レミリアが子供なことくらい皆知っている。
だが、その後ろにいるのがライムントであることに気づいてしまえば一気に頭に血が上った。
「ぎゃあっ!」
なんとも色気のない声を上げて、カウンターから逃げ出そうとする。だが、ポーリーに首根っこを掴んで引き戻された。
「何逃げてるの。ほら、冒険者が冒険を終わって戻って来たんだから鑑定しなさいよ、鑑定」
「うぅぅぅ……」
あんなところを見られてしまったので、非常に気まずい。ちらりと顔を見上げてみても、ライムントは気にしている様子は見せなかった。
(……なんなんだろうな、本当)
ライムントに近づかなければ、彼がもう一度巻き込まれることにはならないと思った。
せめて、彼だけは平和に生きて行ってほしかったのに。
だが、無表情にレミリアを見つめるライムントの心の内を読み取ることなんてできるはずもない。
(……そうよね、ギルドの受付係、なんだから)
できる限り口角を上げて、愛想のよい声を出す。
「依頼、終わりました?」
「終わった。ゴブリンの討伐証明書はここだ。確認を頼む。それから、オオヤリ菊の採取の依頼も片づけたぞ」
「かしこまりました。少々お待ちくださいね」
どうしたってライムントを目の前にすると、肩に力が入ってしまう。そんなレミリアの様子が、はたから見ているポーリーやエリンには面白くてしかたないらしい。
ゴブリンの討伐は文句なかった。討伐部位とされている耳が、指定の数だけ揃っている。
「……花もちょうどいい頃だし、葉もきちんと持ってきてる。三十本……だったよね」
本数を覚えていなかったので、オオヤリ菊採取の依頼表を確認。オオヤリ菊とは、その名の通り花は菊の花に似ているのだが、葉が槍のような形をしている植物だ。
花の部分は肉体を回復させるポーションに、葉の部分は虫刺されの薬と、冒険者達が野営の時に使う防虫剤の材料となる。
どちらにしても、冒険者達には必需品であり、冒険者向けの品を扱っている店では重宝される品の材料だ。
定期的にこれらの採取依頼は出されているが、これだけいい状態で持ち込まれることは少ない。
「はい、問題ありません。では、完了の手続きしちゃいますね!」
白竜の盾のメンバーが差し出してきたギルドカードを受け取り、完了手続きをする。ライムントとは、目が合わないようにしてしまった。
「そうだ、メグ。ちょっといいか?」
隣のカウンターにいたメグをルークが手招きして呼び寄せる。
「オオヤリ菊、数が減ってるみたいなんだよ。しばらく採取は控えた方がいいかもしれん」
「……ありがとう、ギルドマスターと相談してみる」
オオヤリ菊は、必要とされるだけに時に採取しすぎてしまうこともある。基本的に育てるのが難しい植物だから基本的には採取するしかないのだが。
「困ったわねぇ……」
ポーションの材料をよそから入手するなり、出来上がったものを買うなりしなければならないわけだが、そうなると費用の面で問題が発生してしまう。
メグがため息をつくのも、おかしくはなかった。
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