上 下
8 / 28

無事、ギルドの採用試験を通過しました

しおりを挟む
「やるじゃない――とりあえず、問題については合格でいいんじゃないかしら」
「今の、本当にギルドの採用試験?」

 今の問題、ずいぶん簡単だった気がする。最後の魔術式については、基本的な知識の確認の実だろうけれど。

「当たり前でしょ。あのねえ、あなた、自分がおかしいって理解してる?」
「おかしいって?」
「あなた、今までギルド職員になりたいなんて一度も言ったことないじゃない。参考書だって、借りに来たことないし。それで、全問正解。しかも、魔術式まで」

 ぴらぴらと、レミリアの前でメグは問題用紙を振る。

(や、やらかした……!)

 前回の人生、レミリアはまともな勉強はしたことがなかった。ギルドの受付係になるために基本的に押さえておかねばならないことは、全部前回の人生での実戦経験からだ。

「シスター・グレースのところに、本がたくさんあったので」

 その言葉を信じているのかいないのか。メグは半眼でこちらを見る。

「これだけの逸材、私は逃しちゃいけないと思うけど。あとはギルドマスターとの面接ね。これは決まりだから」

 そういうものでいいんだろうか。とりあえず、一山越えたということでいいんだろうか。

(まあ、合格ってことでいいわよね。王都のギルドの方が、情報が集まってくる気がするんだけど……いきなりあっちには行けないから)

 王都ブライアルの冒険者ギルドは、この国の冒険者ギルドの中でも中心的な存在だ。地方のギルドには流れない情報も、王都のギルドには届いている可能性もある。

(まあ、王都のギルドに入る方法もいろいろあるしね)

 王宮に入り込んだみたいに、転移魔術を使って中の様子を探りに行ってもいい。
  もちろん、侵入者を防ぐための結界は張ってあるだろうが、レミリアの前では、そんなものなんの役にも絶たない。

「よしよし、新しいギルド職員な――って、シスター・グレースのとこのレミリアか。まさか、お前がギルド職員になりたがるとは思わなかったぞ」

 試験が終わった頃合いを見計らっていたのだろうか。
 レミリアとメグが話をしている部屋に入ってきた背の高い男性は、この町ホルストの冒険者ギルドマスターのカティアスだ。
 引退した冒険者でもあるカティアスは、敵を引き付け、敵の攻撃を巨大な盾で防ぎ、仲間達を守る盾師でもあった。
 シスター・グレースは治癒魔術を使えるから、教会にはしばしば冒険者が運び込まれてくる。その関係で、レミリアとカティアスは、互いに顔見知りだったのである。

「無理だと思います?」
「いや、いいんじゃねぇか? お前さん、根性はありそうだしな。シスター・グレースの手伝いなら人柄も保証されているし、むしろこっちから頼みてぇわ。よろしく頼むな」
「頑張ります……」

 差し出されたカティアスの右手に、こわごわと自分の右手を重ねる。
 こうやって、真正面からカティアスと向き合っていると、なんとなく居心地が悪い。レミリアが、ここの人達を利用しているから、だろうか。

(でも……ライムント様を、二度と死なせたくないから)

 目の前で、彼が血を流し倒れた時の絶望感。彼となら、明るい未来を築くことができるだろうと疑っていなかった。

(……それに、この国をあの二人に任せるわけにはいかない。ライムント様をだまし討ちした、王太子とマルセリナには)

 今回の人生では、ライムントに会うつもりはないけれど。ベルナルドとマルセリナには、相応の報いを受けてもらわなければならない。
 今すぐ復讐に行かないのは、この国の人達を巻き込まないためだ。庶民として育ったレミリアは、王宮が騒がしくなった時、罪もない民達が巻き込まれるのは許せなかった。
  復讐する相手を間違えてはいけない。あの時、魔王の前に一緒に立ったあいつらだけが、レミリアの復讐対象者だ。

「じゃあ、明日から来てくれる? まずは、私が教育係になるから」
「よろしくお願いします、メグさん」

 メグと固い握手をかわしながら改めて誓う。
  無事にギルド職員になったのだ。ライムントを、殺させるような真似はしない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

本当は、愛してる

双子のたまご
恋愛
私だけ、幸せにはなれない。 たった一人の妹を失った、女の話。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

処理中です...