日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第一章『脱出篇』

第十四話『醜態』 急

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 はっしゅうが乗って来た自動車は、が航を初めて案内した時と同様に、格納庫に通じる入り口のシャッター内部に駐車してある。

しゅりょうДデー、この度は誠に申し訳御座いませんでした」

 しゅりょうДデーことどうじょうふとし、その娘の椿つばきよう、息子のどうじょうかげに対して深々と頭を下げた。
 今後の事をおもうと首領の覚えを悪くする訳には行かず、いたずらに自分の落ち度を否定するのは得策でないだろう。

きみが気に病む事ではないよ。わたり君の指示だったのだろう? 責任は彼に有るのではないかね?」
「恐縮です」

 しゅりょうДデーを追求するつもりは無いようだ。
 既に娘から大方の事情を聞いているらしい。

「扇さんがわたりのやり方に口を挟むのも当然だね。あいつ、ちゃちゃだよ。それに、職権を乱用されてひどい目に遭わされたんだろう? そりゃ、口も悪くなる」
ようじょうさまにも大変失礼申し上げました。四方や首領のれいじょうとは露知らず……」

 ようは苦虫をつぶしたような表情を浮かべ、顔を伏せた。
 血縁関係に話が及んだ事に何か思うところがあるのだろうか。

「娘と言っても元妻に引き取られて以来会えなかったのだがね。そのせいか父親として我輩をあまり慕ってはくれないのだよ。しかし素質は本物でね。熱心に説得して、最近やっと革命に参加してもらえるようになった」
ようで御座いますか……」

 どうじょう家の家庭事情をこれ以上詮索すべきではないと考え、話題を変えることにした。

「素質と言えば、しゅりょうДデーわたり様は本来指導教官などではなく純粋な戦士として実力を認められ、はっしゅうに選ばれたと、そうお伺いしておりますが……」
「そうだね。彼ははっしゅうでも我輩に次ぐ戦闘能力の持ち主だ。もっとも、それも繰り上がりなのだがね」
「繰り上がり?」

 つまり、わたり以上の実力を持っていたものが他にも居たと、そうしゅりょうДデーほのめかしたのだ。
 にとって、大いに気になる発言だった。
 彼女が探し求めている姉・は剣術にいて男女混合で高校こうこく一に輝く程の実力者である。
 もしかすると、とどうしても考えてしまう。

「あの、しゅりょうДデー……」

 しゅりょうДデーに声を掛けようとした、その時だった。
 首領の電話端末が振動した。

「おや、電信が入ったようだね。知らない番号だ……」

 彼は内容を確認すると、ためいき吐いた。

わたり君は電話を紛失したのかね、全く……」

 の電話にもわたりからのメッセージが入っていた。
 そこには暫定での新しい連絡先が記されていた。

「どうなさるのかと思いましたが、何方どなたかの電話を拝借することにしたようですね」
「ああ、彼がきみの電話に出た事がに落ちたよ。これは彼の扱いについて、真剣に考えるべきかも知れないね」

 は内心ほくそ笑んだ。
 わたりが失脚すれば、はっしゅうへの昇格も近付く。
 しかし、この場で姉の事をき出してしまえば、はやその必要も無い。

「ところで、首領」
「ん、ああそうだったね。きみの話の途中だった。何かね?」
「はい、先程おっしゃったわたり様繰り上がりの話、すなわち、それ以前に首領に継ぐ力を持っていた者のこと、わたくしは初耳でして……」

 しゅりょうДデーけんしわを寄せた。
 一瞬、不興を買ったかと焦りを覚えただったが、ゆうだった。

「ああ、もう良いかも知れないね。いわ支部まで時間も掛かる。道すがら話すのも悪くないだろう」
「然様で御座いますか、恐縮です。では、運転はお任せください」

 いよいよ姉の事が聞けるかも知れない――そう高鳴る胸を押さえつつ、は運転席に乗り込んだ。



    ⦿⦿⦿



 あおもり州からいわ州・みや州を経てふくしま州上空に入り、わたるは焦っていた。

くそ、引き離せない!」

 わたるは肌感覚で、現在の速度が限界だと分かっていた。
 しかし、後方の敵も同じ速度で追って来ている。
 このまま乗り捨てようにも、減速した瞬間に追い付かれてしまうだろう。

 その時、わたるの第六感が警告を発した。
 直後、前方に障害物が現れた。

「うおっ!?」

 三機の回転翼機ヘリコプターだった。
 わたるはこれをとっに回避したが、急激な動きだったため、同乗者は壁面に体をぶつけて悲鳴を上げた。
 しんは人間の基礎的な能力を向上させ、それは認識能力にも影響する。
 どうしんたいを実戦起動状態で操縦しているわたるは、必然的に第六感も大幅に高められていたのだ。

「すまん、大丈夫かみんな?」
「っ危ねえな、なんだよ今のヘリ?」
「ヘリだと? よくわかったな、あぶ。俺には見えなかったのだよ」

 動体視力もまた、しんによって向上する。
 だが、それによって障害物が回転翼機ヘリコプターだと認識出来たのはあぶしんだけだったようだ。
 総合的なしんの習熟度では後れを取っているものの、固有の特技を持っていたらしい。

 しかし、わたるは更にがくぜんとする事実に気が付いた。

「なんてこった! あの野郎、ヘリを突っ切りやがったな! 距離が縮まってる!」

 更に、背中にけるような害意を感じ取ったわたるは、再度回避行動を取った。
 光の筋が後方から前方に伸びる。
 どうやら敵が光線砲を撃ってきているようだ。
 一筋、二筋と、わたるは攻撃をギリギリのところでかわし続ける。

(距離が詰まって、狙いを付けられるようになったのか!)

 戦うしかないのか……?――わたるは同乗する仲間に負担が掛かる事を懸念し、覚悟を決めかねていた。

(あまりちゃな動きは出来ない。しんに守られているからぶつけて死ぬ心配は低いが、限度はある。少なくとも、こんな状態じゃ地上戦は絶対に出来ない。空を飛んだままやり合うか?)

 とその時、後から明後日の方向に光線が伸び、前方で爆煙が上がった。
 何事かと驚いたわたるだったが、それはすぐに判明する。
 飛行する目下に、敵機の光線砲に焼き払われた住宅街がよぎったのである。

「野郎……!」

 わたるには、これが挑発だと解っていた。
 しかし、そんな目的で平然と民間人を虐殺するような相手、放っておけはしなかった。

「悪いみんな、少しだけぼくに命を預けてくれ」

 わたるはミロクサーヌ改を旋回させ、後方のガルバケーヌ改と向き合わせた。

    ⦿

 土生はぶあきは前を行く目標の動きに感心した。

「咄嗟に回転翼機ヘリを躱すとは、やるじゃないか。だが愚かだな」

 土生はぶはガルバケーヌ改の腕を前方に向け、光線砲で回転翼機ヘリコプターを撃墜した。
 回避と直通の差で生じた経路の分だけ、二機の距離は縮まった。

「今のはわたりの指示か。最悪の命令だが役には立ったな。そして今の動き……ただ停止したところでなおだまを回収するだけでは面白くない。どうせなら真向勝負でとしてみたくなったぞ」

 なおだまさえ無事に残っていれば、ミロクサーヌ改は元通りに再生出来る。
 そういう思惑から、土生はぶはどうにかわたるを自分との戦いに向かせようと光線砲で挑発を繰り返した。

「チッ、器用に避けるじゃないか。だが、首領の話では的外れな正義感を持った激情の男だとう。ならば、これでどうだ!」

 土生はぶの殺意がの民が住まう住宅街へと向けられ、一瞬にして大量の命が消え去った。
 そしてその破壊を目の当たりにしたとおぼしき目標は、土生はぶの思惑通りに旋回して向かって来た。

「ははは、そう来なくっちゃな! 組織じゃ長らく実戦が無くて退屈していたところだ! そうせんたいおおかみきば撃墜王エースパイロット土生はぶあきとガルバケーヌ改の力、冥土の土産にとくと拝ませてやる! 本物の操縦士の実力をな!」

 一三:五五、ミロクサーヌ改及びガルバケーヌ改の両機は、あおもり支部より南に約二千キロとち州の山岳地帯上空にて激突する。



    ⦿⦿⦿



 こうこくあおもり州のとある工場、そこは経営をそうせんたいおおかみきばが掌握し、工員の転勤と称して自治体を乗っ取る人員を送り込む為の機械部品生産工場である。
 それと同時におおかみきばへ卸す製品を生産する有人施設でもある。
 わたるは人を巻き込まないように、この場所の破壊は避けていた。
 事実、ここで働く社員はおおかみきばの関係者ばかりではなく、何も知らない一般人も多く居たので、罪も無い者を手に掛けなかったわたるの選択は正しかったと言えるだろう。

 だがこの場所は今、おびただしい血に染まっていた。
 息のある者は一人だけ、それも部外者の男のみだった。

 突如飛んできた、伸縮自在のやりず九人が刺し貫かれて死亡した。
 更に、その後飛んで来た男は、怒りの声を上げる者も、逃げ惑う者も、ただ一人の例外も無くその場に居た者達を皆殺しにしてしまったのだ。

 犠牲者総数、八十六名。
 繰り返すが、その中の大部分はそうせんたいおおかみきばとは何の関係も無い。
 これはまさに、血に飢えた悪魔の所業だった。

「これで電話は手に入った……。罪ならばさきもりに擦り付ければ良い……」

 さつりくを行った男・わたりりんろうまみれの電話端末をポケットにんだ。

「愚かな子供達よ……。親と同じ夢を見られないのなら、死ね!」

 わたりは狂気に満ちた目で闇をにらんでいた。
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