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子供時代
No.3 サングラスを作ってくれた人
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お父さんは走った。自分が走るときよりずっと速い。
お父さんの胸に顔を押し付けているから詳しくはわからないけれどなんだかサッサッと草を踏んでいくような音がする。
木がいっぱいある『森』の中にいるんだろうか。
今まで走っていたお父さんが、急に歩き始めた。
僕は悪いことだとわかっていたけれどどうして歩いているのか気になってしまって、お父さんに内緒で前を向いた。
向いた先にあったのは『森』ではなく土が盛り上がっている『山』だった。今は登っているみたいだ。『山』では走っちゃいけないんだろうか。
__風が僕の顔を吹きつけた。とても強い風だった。頭がかぶりものから出てしまった。直そうと思ったけれど、僕の体はお父さんにがっちりと抱かれていて、腕は動かなかった。
僕は焦った、だってかぶりものを着ないと外に出ちゃいけないんだ。
でも、かぶりものが外れる前よりとっても気持ちがいい。顔がポカポカする。
「フランクリン!顔をお父さんの方に向けてと言っただろう?かぶりものが外れてしまっているじゃ無いか」
怒られてしまった。
お父さんは珍しく険しい顔をして、急いで僕にかぶりものを被せようと素早く手を動かしている。
でも、かぶりものを外していた方がずっと気持ちがいいのにどうして外しちゃダメなんだろうか。
「でも、かぶりものを外した方がずっと気持ち良いよ!どうして外しちゃダメなの!!僕外したくない!」
そう言うとお父さんは手を止めた。
言いすぎた。折角外に出してくれたのに我儘を言うだなんて。
「お父さん!我儘言ってごめんなさい!」
僕は自分が酷いことを言っているのに気づいて、すぐ謝った、だけれどお父さんは何も言ってくれない。僕のかぶりものを持ったまま、ずっと固まっている。
「お父さん……?ねぇお父さん!なんで動かないの!」
そう言ってもお父さんは何も言ってくれない。
__とても怒らせてしまったんだろう。僕はとても怖くなった。
このまま僕と話してくれなくなったらどうしよう……
「ごめんなさい……」
もう一度謝っても、お父さんは動かない。
お母さんを呼ぼうと思っても僕は靴を持っていないし、道も知らない。
「お父さん!!どうしたら許してくれるの……?」
そう叫んでも、お父さんは固まったままだ。
涙が出てきた。もしもこのままだったら?……どうなるんだろう?
「ん?どうして泣いているんだ」
後ろから声がした、振り返るとお父さんよりがっしりとした体格の男の人が僕を見て立っている。
「だれ?」
そう聞いたけれど男の人は答えずに、僕とお父さんを交互に見ている。
「……?」
僕は困惑した。どうして男の人は僕を見るんだろうか。目の前の男の人は驚いたような顔をして、ボソッとなにかを言った。
「おじさんだれ?」
僕はもう一度聞いた。
「おじさんはフレディ・ゴッダードって名前だ、お父さんから教えてもらっただろう」
やっと答えてくれた。ゴッダードさんだ。目の前にいる人はゴッダードさんなんだ!
「ゴッダードさん!お父さんが動かなくなっちゃったの!僕がお父さんを怒らせちゃったから……」
涙がボタボタと溢れ出てくる。
「ちょっとこっちへおいで、お父さんは腰を痛めたんだ。あまりの痛さに喋れていないだけだ。君の所為じゃない。おじさんが治してあげるよ」
お父さんは治るんだ!嬉しい。それにしても、喋れないくらい痛いってどんな感じなんだろう。
僕がタンスに足をぶつけて物凄く痛かった時も大声を出した記憶がある。喋れなくなるだなんて大変だ。
ゴッダードさんは自分の家より一回り小さい家に案内してくれた。
「お父さんを治してくる、ここで待っていて」
「うん、僕良い子にするよ」
ゴッダードさんはそのままお父さんの所へ行ってしまった。
__自分の家とはだいぶ違う感じの物がある。
家にある物より小さい瓶がたくさん置いてあるし、ベッドは家にあるのより硬い。
僕はそのままこの家の中を歩き回ることにした。
僕の家の中以外を見るのは初めてだったからとてもワクワクした。
長くて木で蓋がされているジュースや、誰かの絵が壁にかかってたりした。絵本より大きい。
これらにも名前があるんだろうか。
お父さんは知っているんだろうか。
__お父さんとゴッダードさんが戻って来たみたいだ、ドアが開けられる音がする。
「お父さん!大丈夫?腰を痛めちゃったんでしょう?」
「あぁ、大丈夫だよフランクリン、もうなんともない。心配させてすまないな」
良かった、いつものお父さんに戻っている。
僕に笑いかけてずっと見てくれている。戻ってくれたんだ。
「ねぇお父さん、ここって誰の家なの?」
「ここはゴッダードさんの家だよ、フランクリン」
じゃあ、この家にある全てのことを教えて貰おう。もう涙は出ていなかった。
「ねえねえゴッダードさん!お父さんがゴッダードさんは物知りだって言ってた!色々教えて!」
ゴッダードさんは僕を見て、そしてお父さんのことを見た。
どうしたんだろう、なんだか驚いているみたいだ。
「良いよ、教えてやろう。知りたいことを教えて__」
それからゴッダードさんは色々教えてくれた。ヤギにはどうして角が付いているのか。
クリームはどうやって作るのか。
長くて木で蓋がされているジュースは『ワイン』と言うらしい。
飲んでみたいと言ったけれど、僕は飲んではいけないらしい。止められてしまった。
代わりに『ぶどう』と言う果物でできたジュースを渡された。少しだけ、ワインに似た味がするらしい。
飲んでみたけれどなんだかキシキシして僕はあまり好きじゃなかった。
「ゴッダードさん!すっごくキシキシする、僕は好きじゃないな……」
ゴッダードさんはまた驚いた顔をした。
お父さんはそんなゴッダードさんをみて笑っている。ゴッダードさんはそんなお父さんを見て怒っている。
「どうしたの」
そう聞くとお父さんはなんでもないよとでも言うように手を横に振った。僕はなんだか置いてかれている気がして嫌な気分になり頬を膨らませた。
そうするとお父さんは僕を持ち上げて膝の上に乗せ、ゴッダードさんは口を開けて大きく笑った。
そんな状況が楽しくて楽しくてしょうがなく、僕もクスクスと笑ってしまった。
それから2、3個色んなことを教えてもらい、初めて聞くことばかりで嬉しくて、足をバタつかせた。
__急に眠くなってきた。まだ聞きたいことがいっぱいあるのに、体が言うことを聞かない。
「眠くなってきた……」
お父さんが何か言っている。でも今僕は眠すぎてお父さんが何を言っているかわからない。
__気づいた時には自分の家のベッドに寝転がっていた。
お父さんの胸に顔を押し付けているから詳しくはわからないけれどなんだかサッサッと草を踏んでいくような音がする。
木がいっぱいある『森』の中にいるんだろうか。
今まで走っていたお父さんが、急に歩き始めた。
僕は悪いことだとわかっていたけれどどうして歩いているのか気になってしまって、お父さんに内緒で前を向いた。
向いた先にあったのは『森』ではなく土が盛り上がっている『山』だった。今は登っているみたいだ。『山』では走っちゃいけないんだろうか。
__風が僕の顔を吹きつけた。とても強い風だった。頭がかぶりものから出てしまった。直そうと思ったけれど、僕の体はお父さんにがっちりと抱かれていて、腕は動かなかった。
僕は焦った、だってかぶりものを着ないと外に出ちゃいけないんだ。
でも、かぶりものが外れる前よりとっても気持ちがいい。顔がポカポカする。
「フランクリン!顔をお父さんの方に向けてと言っただろう?かぶりものが外れてしまっているじゃ無いか」
怒られてしまった。
お父さんは珍しく険しい顔をして、急いで僕にかぶりものを被せようと素早く手を動かしている。
でも、かぶりものを外していた方がずっと気持ちがいいのにどうして外しちゃダメなんだろうか。
「でも、かぶりものを外した方がずっと気持ち良いよ!どうして外しちゃダメなの!!僕外したくない!」
そう言うとお父さんは手を止めた。
言いすぎた。折角外に出してくれたのに我儘を言うだなんて。
「お父さん!我儘言ってごめんなさい!」
僕は自分が酷いことを言っているのに気づいて、すぐ謝った、だけれどお父さんは何も言ってくれない。僕のかぶりものを持ったまま、ずっと固まっている。
「お父さん……?ねぇお父さん!なんで動かないの!」
そう言ってもお父さんは何も言ってくれない。
__とても怒らせてしまったんだろう。僕はとても怖くなった。
このまま僕と話してくれなくなったらどうしよう……
「ごめんなさい……」
もう一度謝っても、お父さんは動かない。
お母さんを呼ぼうと思っても僕は靴を持っていないし、道も知らない。
「お父さん!!どうしたら許してくれるの……?」
そう叫んでも、お父さんは固まったままだ。
涙が出てきた。もしもこのままだったら?……どうなるんだろう?
「ん?どうして泣いているんだ」
後ろから声がした、振り返るとお父さんよりがっしりとした体格の男の人が僕を見て立っている。
「だれ?」
そう聞いたけれど男の人は答えずに、僕とお父さんを交互に見ている。
「……?」
僕は困惑した。どうして男の人は僕を見るんだろうか。目の前の男の人は驚いたような顔をして、ボソッとなにかを言った。
「おじさんだれ?」
僕はもう一度聞いた。
「おじさんはフレディ・ゴッダードって名前だ、お父さんから教えてもらっただろう」
やっと答えてくれた。ゴッダードさんだ。目の前にいる人はゴッダードさんなんだ!
「ゴッダードさん!お父さんが動かなくなっちゃったの!僕がお父さんを怒らせちゃったから……」
涙がボタボタと溢れ出てくる。
「ちょっとこっちへおいで、お父さんは腰を痛めたんだ。あまりの痛さに喋れていないだけだ。君の所為じゃない。おじさんが治してあげるよ」
お父さんは治るんだ!嬉しい。それにしても、喋れないくらい痛いってどんな感じなんだろう。
僕がタンスに足をぶつけて物凄く痛かった時も大声を出した記憶がある。喋れなくなるだなんて大変だ。
ゴッダードさんは自分の家より一回り小さい家に案内してくれた。
「お父さんを治してくる、ここで待っていて」
「うん、僕良い子にするよ」
ゴッダードさんはそのままお父さんの所へ行ってしまった。
__自分の家とはだいぶ違う感じの物がある。
家にある物より小さい瓶がたくさん置いてあるし、ベッドは家にあるのより硬い。
僕はそのままこの家の中を歩き回ることにした。
僕の家の中以外を見るのは初めてだったからとてもワクワクした。
長くて木で蓋がされているジュースや、誰かの絵が壁にかかってたりした。絵本より大きい。
これらにも名前があるんだろうか。
お父さんは知っているんだろうか。
__お父さんとゴッダードさんが戻って来たみたいだ、ドアが開けられる音がする。
「お父さん!大丈夫?腰を痛めちゃったんでしょう?」
「あぁ、大丈夫だよフランクリン、もうなんともない。心配させてすまないな」
良かった、いつものお父さんに戻っている。
僕に笑いかけてずっと見てくれている。戻ってくれたんだ。
「ねぇお父さん、ここって誰の家なの?」
「ここはゴッダードさんの家だよ、フランクリン」
じゃあ、この家にある全てのことを教えて貰おう。もう涙は出ていなかった。
「ねえねえゴッダードさん!お父さんがゴッダードさんは物知りだって言ってた!色々教えて!」
ゴッダードさんは僕を見て、そしてお父さんのことを見た。
どうしたんだろう、なんだか驚いているみたいだ。
「良いよ、教えてやろう。知りたいことを教えて__」
それからゴッダードさんは色々教えてくれた。ヤギにはどうして角が付いているのか。
クリームはどうやって作るのか。
長くて木で蓋がされているジュースは『ワイン』と言うらしい。
飲んでみたいと言ったけれど、僕は飲んではいけないらしい。止められてしまった。
代わりに『ぶどう』と言う果物でできたジュースを渡された。少しだけ、ワインに似た味がするらしい。
飲んでみたけれどなんだかキシキシして僕はあまり好きじゃなかった。
「ゴッダードさん!すっごくキシキシする、僕は好きじゃないな……」
ゴッダードさんはまた驚いた顔をした。
お父さんはそんなゴッダードさんをみて笑っている。ゴッダードさんはそんなお父さんを見て怒っている。
「どうしたの」
そう聞くとお父さんはなんでもないよとでも言うように手を横に振った。僕はなんだか置いてかれている気がして嫌な気分になり頬を膨らませた。
そうするとお父さんは僕を持ち上げて膝の上に乗せ、ゴッダードさんは口を開けて大きく笑った。
そんな状況が楽しくて楽しくてしょうがなく、僕もクスクスと笑ってしまった。
それから2、3個色んなことを教えてもらい、初めて聞くことばかりで嬉しくて、足をバタつかせた。
__急に眠くなってきた。まだ聞きたいことがいっぱいあるのに、体が言うことを聞かない。
「眠くなってきた……」
お父さんが何か言っている。でも今僕は眠すぎてお父さんが何を言っているかわからない。
__気づいた時には自分の家のベッドに寝転がっていた。
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