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第五章 動き出す人々
第六十六話 孤軍の葛藤
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裸体の彼氏。しかも三人。
相変わらずいい体格をしているなと、感心してしまう。会場にいた女性たちが熱い視線を送るわけだと納得する。神様が愛した造形美は、細部まで各々の魅力を詰め込んでいるのだから目に悪い。
破壊力が凄まじいと、顔が赤く染まるだけならいい。自分の魅力が全然添えていなくて、申し訳なくなる。
それでも、彼らの中央にいるのが許されるのは自分だけがいいと思ってしまう。
そうでありたいと願ってしまう。
「アヤが洗ってくれるのか?」
「……うん」
ランディから順番に泡に包んでいくことにした。一番ボディソープのポンプに近かったのがランディなだけで他意はない。
アヤはいつも彼らがしてくれるように、手のひらでそれを泡立てて、ランディの身体に問答無用で塗りたくった。
「いいな」
何がいいのか。嬉しそうな空気を出さないでほしい。
そんなことでムカつきは晴れないのだと伝えるために、アヤは「ふんっ」と鼻を鳴らして、その空気を全面無視することに決めた。
「動かないの!!」
首筋、鎖骨、肩、腕、お腹、太もも、膝、すね。まずは表面だけを済ませていく。ランディに次いで、スヲンもロイも。
折り返しは、背中とお尻。それから足裏。
さんざん見てきたはずで、触ってきたはずなのに、変な緊張感が先程からずっとまとわりついている。
ドキドキする。手のひらからこの感情が伝わらないことを願うしかない。
速攻で「負け」の弱みを握られるのだけは避けたい。どちらがより惚れているのか。今回はその勝敗がかかっている。
「アヤ。ひとついい?」
「な…っ…なに?」
心臓が止まるかと思った。
今から肝心な部分に入るというときに声をかけないでほしい。犯人は、両手が触れるロイの肌。
一人気合いを入れ直そうとしていたアヤは、吐くはずの息を飲み込んで、怪訝な顔でロイを見つめた。
「髪は?」
「…………あ」
一生の不覚。しかも呆然と固まっている間、ちょっと目を離した隙に、スヲンとランディが移動している。
人が必死に動いているのに、なんて自由なのかと脱力しそうになる気持ちをこらえてロイに視線を戻すことにした。
泡だらけの彼氏たちは浴槽でくつろぎ始めている。お湯も張ってない浴槽でよくも気ままにいられるものだと、アヤは自分の頭を差し出してくるロイに白けた目を落とした。
「わっ、忘れてたわけじゃないから!!」
洗ってもらってばかりで、してあげたことはほぼない。自分の身体すら、ここ数日は自分で洗っていなかったと言っても過言ではない。
誰だって失敗は付き物だと、アヤは孤軍奮闘の声で泡だらけの彼氏たちを一喝した。
「……気持ちいい?」
結局、スヲンとランディに続いて浴槽の内側に移動したロイの頭を揉みながら聞いてみる。浴槽に背中を預けて優雅にくつろぐロイは、目を閉じて、上機嫌に組んだ足先を揺らしているが、泡まみれの姿で何がそんなに楽しいのかはわからない。
指を休めること無くロイの返答を待っていれば、止まった足先と同時に、ロイの目がじっと見上げてくる。
「とっても」
嬉しそうな顔。
ものすごく認めたくない。可愛いと思ってしまった自分が負けた気持ちになる。愛嬌のある顔で懐かれるとぞわぞわと神経が刺激されて、好きだと思い知らされる。
濁音をつけた「う」を飲み込んで、アヤは誤魔化しのお湯をロイの頭にぶちまけた。
「……ゴホッ…アヤ、ひどい」
うるうるとした視線を結んだ唇で追いやって、アヤはスヲンを近くに呼び寄せる。
大人しく従ってくれるのはいいことのはずなのに、なぜだろう。あまり調子にのらせないほうがいい気がする。
「うう、アヤに意地悪された」
「かわいそうに」
「ああ、ひどいな」
「スヲンもランディも気を付けてね。アヤ、すっごく怒ってるみたい」
三人が結託するとろくなことがない。
悪ノリだとわかっていても、怒ることも、突っ込むこともできない。
そこでふと我に返る。
調子にのりたいなら、のらせておけばいい。それに自分が屈しなければいいだけのこと。彼女として振り回すのは自分の方だと、いじけた心が手つきを雑に変えていく。
意地になったアヤは素直になれずに、手に取ったシャンプーでスヲンの頭を泡立てていた。
「俺はアヤのいうことを聞くから優しくしてほしい」
「……やだ」
「うん、優しくなった。気持ちいい」
「…………流します」
とりあえず、シャワーを頭にかけると宣言してあげた。ロイが「ずるい」だのなんだの文句を言っているが、華麗なるスルースキルは全員が会得している。
「アヤ、ありがとう」
不貞腐れるロイを横目に、目を閉じて泡を流し終えたスヲンが髪をかきあげる。
カッコいい。
いちいち目に毒な色気は三者三様。それを自分だけが眺められる事実に、嫉妬も大半がどこかへ消える。
「つ、次は、ランディ」
「意地悪はしないでくれよ」
「してないもん」
意地悪はしていない。いじめてもいない。
でも、この流れはすでにアヤを不利な立場に追いやることが決定しているような気がしてならない。だからこそ、ランディの頭は丁寧に洗ってあげた。
相変わらずいい体格をしているなと、感心してしまう。会場にいた女性たちが熱い視線を送るわけだと納得する。神様が愛した造形美は、細部まで各々の魅力を詰め込んでいるのだから目に悪い。
破壊力が凄まじいと、顔が赤く染まるだけならいい。自分の魅力が全然添えていなくて、申し訳なくなる。
それでも、彼らの中央にいるのが許されるのは自分だけがいいと思ってしまう。
そうでありたいと願ってしまう。
「アヤが洗ってくれるのか?」
「……うん」
ランディから順番に泡に包んでいくことにした。一番ボディソープのポンプに近かったのがランディなだけで他意はない。
アヤはいつも彼らがしてくれるように、手のひらでそれを泡立てて、ランディの身体に問答無用で塗りたくった。
「いいな」
何がいいのか。嬉しそうな空気を出さないでほしい。
そんなことでムカつきは晴れないのだと伝えるために、アヤは「ふんっ」と鼻を鳴らして、その空気を全面無視することに決めた。
「動かないの!!」
首筋、鎖骨、肩、腕、お腹、太もも、膝、すね。まずは表面だけを済ませていく。ランディに次いで、スヲンもロイも。
折り返しは、背中とお尻。それから足裏。
さんざん見てきたはずで、触ってきたはずなのに、変な緊張感が先程からずっとまとわりついている。
ドキドキする。手のひらからこの感情が伝わらないことを願うしかない。
速攻で「負け」の弱みを握られるのだけは避けたい。どちらがより惚れているのか。今回はその勝敗がかかっている。
「アヤ。ひとついい?」
「な…っ…なに?」
心臓が止まるかと思った。
今から肝心な部分に入るというときに声をかけないでほしい。犯人は、両手が触れるロイの肌。
一人気合いを入れ直そうとしていたアヤは、吐くはずの息を飲み込んで、怪訝な顔でロイを見つめた。
「髪は?」
「…………あ」
一生の不覚。しかも呆然と固まっている間、ちょっと目を離した隙に、スヲンとランディが移動している。
人が必死に動いているのに、なんて自由なのかと脱力しそうになる気持ちをこらえてロイに視線を戻すことにした。
泡だらけの彼氏たちは浴槽でくつろぎ始めている。お湯も張ってない浴槽でよくも気ままにいられるものだと、アヤは自分の頭を差し出してくるロイに白けた目を落とした。
「わっ、忘れてたわけじゃないから!!」
洗ってもらってばかりで、してあげたことはほぼない。自分の身体すら、ここ数日は自分で洗っていなかったと言っても過言ではない。
誰だって失敗は付き物だと、アヤは孤軍奮闘の声で泡だらけの彼氏たちを一喝した。
「……気持ちいい?」
結局、スヲンとランディに続いて浴槽の内側に移動したロイの頭を揉みながら聞いてみる。浴槽に背中を預けて優雅にくつろぐロイは、目を閉じて、上機嫌に組んだ足先を揺らしているが、泡まみれの姿で何がそんなに楽しいのかはわからない。
指を休めること無くロイの返答を待っていれば、止まった足先と同時に、ロイの目がじっと見上げてくる。
「とっても」
嬉しそうな顔。
ものすごく認めたくない。可愛いと思ってしまった自分が負けた気持ちになる。愛嬌のある顔で懐かれるとぞわぞわと神経が刺激されて、好きだと思い知らされる。
濁音をつけた「う」を飲み込んで、アヤは誤魔化しのお湯をロイの頭にぶちまけた。
「……ゴホッ…アヤ、ひどい」
うるうるとした視線を結んだ唇で追いやって、アヤはスヲンを近くに呼び寄せる。
大人しく従ってくれるのはいいことのはずなのに、なぜだろう。あまり調子にのらせないほうがいい気がする。
「うう、アヤに意地悪された」
「かわいそうに」
「ああ、ひどいな」
「スヲンもランディも気を付けてね。アヤ、すっごく怒ってるみたい」
三人が結託するとろくなことがない。
悪ノリだとわかっていても、怒ることも、突っ込むこともできない。
そこでふと我に返る。
調子にのりたいなら、のらせておけばいい。それに自分が屈しなければいいだけのこと。彼女として振り回すのは自分の方だと、いじけた心が手つきを雑に変えていく。
意地になったアヤは素直になれずに、手に取ったシャンプーでスヲンの頭を泡立てていた。
「俺はアヤのいうことを聞くから優しくしてほしい」
「……やだ」
「うん、優しくなった。気持ちいい」
「…………流します」
とりあえず、シャワーを頭にかけると宣言してあげた。ロイが「ずるい」だのなんだの文句を言っているが、華麗なるスルースキルは全員が会得している。
「アヤ、ありがとう」
不貞腐れるロイを横目に、目を閉じて泡を流し終えたスヲンが髪をかきあげる。
カッコいい。
いちいち目に毒な色気は三者三様。それを自分だけが眺められる事実に、嫉妬も大半がどこかへ消える。
「つ、次は、ランディ」
「意地悪はしないでくれよ」
「してないもん」
意地悪はしていない。いじめてもいない。
でも、この流れはすでにアヤを不利な立場に追いやることが決定しているような気がしてならない。だからこそ、ランディの頭は丁寧に洗ってあげた。
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