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第四章 埋まりゆく外堀

第六十話 失った尊厳

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「ッ!?」


びくりと身体を強張らせたアヤが、ランディの腰が動き始めたことを告げる。
ぺたりとベッドのうえに座り込んで、先ほどスヲンがいた位置に移ったロイに背中を預けて、ランディのものを必死で咥え続ける。


「あー、可愛い。たまんない」


これはロイが先ほどから変態的な顔で呟いている言葉。確認することは不可能だが、たぶん相当緩んだ顔をしている。横目に映るスヲンがそうなのだから、絶対ロイもそうに違いない。
ランディですら欲に浮かされた瞳で息を切らせるのを知ってしまうと、どうしようもなく頑張りたい気持ちにさせられる。


「~~ッう」


継続は、心よりも先に身体が拒絶の意思を告げる。舌と気道が「これ以上は無理」だと口枷を拒絶して、胃液を吐き出そうと震えだす。ロイのときと同じく、ランディも深く押し込んで様子を伺ってくるが、そう長くは持ちそうになかった。


「もう限界だ。アヤを寄越せ」


珍しく、スヲンが切羽詰まった声でランディを止めさせた。ぬるりと唾液に濡れた剣が自分の口から出ていくのを半分以上無意識に眺めていたアヤは瞬間、右手をロイに掴まれる。


「さあ、アヤ。手はこっちね」

「片方はこっちな」


誘導された先は、天高く向いた雄々しいそれ。白濁を吐き出したいと主張し、血管を浮き上がらせて脈打っている男根。
左手はもれなくランディのを握らされた。
手で触れて改めて、よくこんなのが全部入ったなと恐ろしくなる。


「アヤ」


スヲンが聞いたことのない声で名前を呼んでくるのを背筋が粟立つ気持ちで迎え入れる。
上半身と下半身が入れ替わるはずもないのに、ぐちゃりと音を立てた口内の音は、まるで膣と同じだった。


「………ッ……や、ば」


顔を両手で掴んで、自分本意に腰を打ち付けてくるスヲンの行為に意識が飛びそうになる。いや、何回か飛んでいる。あまりの刺激にすぐ舞い戻ってくるだけで、衝撃はかき混ぜた脳を休めてはくれない。
おおよそ思いつく限りの擬音が可愛いと思えるほど、粘着した音が口のなかから聞こえてくる。だからきっと、混乱した脳は錯覚したのだろう。
それが、本来の場所で蠢いているのだと。
膣という名前を与えられた、本来それを迎え入れている場所で起こっているのだと。
体内の奥深く。待ちわびている子宮が悦びをあげているのだと。


「~~~~~ッぁ」


破裂したみたいな音が聞こえた。
両耳を塞がれた状態で、スヲンに最奥まで突かれたせいかもしれない。白濁の液体が喉を流れ体内に浸潤していくと同時に、生温かな何かが顔にべったりと放たれる。
どれほど時間がたったのか。ずるりとスヲンが抜けたのを理解するまでもなく、次いで、外された開口器に気付いたアヤは、自分でも訳がワカラナイほど暴れる身体を三人に力一杯抱き締められていた。


「もう大丈夫だよ。アヤ、最高に可愛かった。ありがとう」

「アヤ、落ち着け。もうしない、もう終わりだ」

「よく頑張ったな」


壊れた神経が成形を取り戻していく。
「うぁあ」と人語ではない言葉、咳き込んで震える声、嗚咽混じりの濁音。
新しい扉は、開けてはならないパンドラの箱だったに違いない。最後に残された希望にすがりついて、アヤは泣くことしか出来ずにいた。


「……ッ…ぅ、え……~~ゴホッ」


ランディが離れて、ロイが離れて、スヲンだけが最後まで抱き締めてくる。
確保しておかないと脱走するとでも思われているのか。両手を胸の前で合わせた姿勢で抱かれ、背中をとんとんされ続けていると、不思議と気持ちは落ち着いてくる。


「アヤ」

「ふぇ…ッ…ぅー」


あごが麻痺した。
何度も名前を呼んで頭頂部にキスをくれるスヲンに反論できない。顔の筋肉がうまく動いてくれないから文句のひとつも口にできない。
このまま一生、人間の言葉は吐き出せないかもしれない。


「うにゃッぅヴ」


なるほど。鳴き声は便利だ。
「もういい。離れて」を一言で訴えることが出来る。
伝わりはしなかったが。


「はい、アヤ。こっちに顔向けて」

「ニャ!?」

「精子まみれでいたいの?」


スヲンの腕のなかでロイに顔を拭かれる。抵抗は、やはり意味をなさない。先ほどとはうってかわって、優しく丁寧に触れてくれるのだから甘えてもバチは当たらないだろう。
むしろ、そうでなくては困る。
こっちは今すぐにでも噛みつきたい気分だ。


「ぅー」


アゴの力が戻ったらそうしようと、アヤはひとり唸ってロイの好きなようにさせていた。


「すねた顔も可愛いね」

「口の締まりがないのも可愛い」

「ぬッ!?」

「スヲンがそんなこと言うからアヤが怒ってるよ?」

「本当のことを言って何が悪い」

「ほらほら、アヤも暴れないの。おくちでイッちゃったのはアヤ自身でしょ、っ痛」

「なに?」

「アヤに蹴られた」


ロイが被害者ぶった顔でスヲンにすり寄る。腕は拘束されていても自由に動く足を忘れてもらっては困るとばかりに、アヤはロイを蹴っていた。


「……はっ」


びくりと身体が跳ね上がってしまったのは仕方がない。
すっかり忘れていた。
乙女の花園は強制解放で、門を開いたままでいる。


「そんな目をしても説得力ないよ、アヤ」

「夜にはこっちに入れような」

「~ッふ…ぁ…ァッ、ぇ…ニャッ」

「口が閉まらない代わりに声が出ちゃうね。キモチイイ?」

「お前ら風呂の用意出来たぞ……って、おいおい」


浴室から姿を見せた全裸のランディが、整った体躯を柔軟させながら呼んだ後で苦笑した。
それもそうだろう。
そろそろ来るだろうと思っていたのに、なかなかやってこないばかりか、様子を見にきてみればいつもこれだとランディの目が物語っている。


「まだやるのか?」

「アヤのクリトリスが勃起してるのが可愛いくて。つい」

「それはまた夜にな」


よしよしとランディに頭を撫でられて、アヤは惚けた顔で首を縦にふった。


「アヤもそれでいいな」


主導権は自分ではないことはわかっている。それでもいま、ランディの助言に賛成の意思を乗せておかないと、それこそ終わりが永遠に来ない気がして仕方ない。でなければ、無限に往復するロイ指先に導かれて、情けない姿のまま絶頂する羽目になるだろう。


「愛しの猫ちゃん。発情してくれて嬉しいけど、夜までお預けにしておこう」


スヲンの胸に顔をすり寄せて、ロイからもたらされる刺激を圧し殺したアヤの顔が真っ赤に染まる。
か細い息を噛みしめ、無意識に腰を揺らしていたなんて知りたくない。知られたくもない。おまけに絞まらない口からよだれが胸に糸を引いている。


「………っ」


穴があったら入りたい。
恥ずかしくて顔を見せたくないと呻いたアヤに、三人がくすくす笑って、とりあえず乙女の花弁を挟むクリップは取り外された。


「アヤ、口開けて。ゆすげる?」


風呂場までお姫様抱っこで運ばれるまではいい。スヲンがいつになく甲斐甲斐しくて、アヤはぎこちなく口を開けながらスヲンの行為をじっと見つめる。
けれど、瞬間。シャワーの刺激に驚いてげほごほとむせ返った。


「舌先がまだ敏感なんだろ」

「舌先って言うより口のなか全部なんじゃない?」


ボディーソープを手のひらで泡立てるランディを一度見た後で、背中を擦ってくれたロイが心配そうに覗き込んでくる。
泣いていいなら泣きたい。
スヲンが片手で作った手の器をコップがわりにうがいをしなければいけないなんて、女として以上に、人間としての尊厳が失われている気がする。これは至れり尽くせりを通り越したただの介護だと、情けなさが見えないアヤの耳を項垂れさせた。


「口のなか、痛いところはないか?」

「……ぅん」

「気持ち悪いとこは?」

「……な、ぃ」

「アヤ、首触るぞ」

「は、ぃ」


結局、文句を言えないままスヲン、ロイ、ランディに促されて、綺麗さっぱり洗い流される。そこまでくれば、いつもの要領でタオルに巻かれ、髪を乾かされ、ボディクリームを塗りたくられ、高級そうな化粧水でケアされるだけ。


「可愛い子猫ちゃんはそろそろ機嫌が戻ったかな?」


バスローブでお嬢様モードのアヤの隣に腰かけて、指先で頬を撫でてきたロイの顔が楽しそうに笑っている。
「ふんっ」と、鼻息を鳴らして不機嫌をアピールしたアヤに、ドライヤーを置いたランディと化粧水を塗り終えたスヲンまでロイに加勢の意思をみせた。


「機嫌が戻るも何も、あんなの二度と嫌だ」


そう言おうとした。三人が徒党を組んで「なかったこと」にしてくる前に釘を刺しておこうと、アヤは腕を組んで威厳を表現し、そう言おうとした。
たしかに、そう言おうとしたアヤの目の前に、美味しそうなものが色々。運んでくるのはもちろん、全員。


「アヤ、デザート食べたくない?」

「……食べ、た……い」

「何がいい?」


プリンを選択したのは、無言の訴え。タルトもシュークリームも「三人のせいで食べられない」という抗議の表明。


「アヤがプリンを選ぶと思ったから、マリゾフのプリンにして正解だった」

「マリゾフの……プリ……ン」

「アヤはわかりやすいな」

「プリンひとつで可愛いやつ」


関西発祥の有名な製菓メーカーが出しているガラスの器に入ったプリン。昔ながらの味を保ちつつ、現代受けも兼ね備えている人気の商品。しかも目の前にはプレーン、チョコ、抹茶、ティラミスが並んでいる。


「………っ」


食べ物ひとつで機嫌がなおるなんて、チョロいなと思われたに違いない。事実そうなのだが、ここは大人の女らしく寛大な心を決めた。
一口食べて、それからきっと誰も予想しなかっただろう。アヤは顔を盛大にしかめた。
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