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第三章 それぞれの素性
第三十九話 不法侵入者たち
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快適。
二十七年間、眠りを守ってくれている愛用の寝具が、夢を見ないほどの心地よさを与えてくれている。
外は猛暑に違いない。蝉の声が朝からうるさく聞こえてくる。それでもクーラーを効かせた室内に問題はない。
今日は土曜日。
仕事も予定もなにもない休日。
「やばい、なにこの生き物。ダサすぎて、逆に可愛すぎる」
「新種発見だな」
「アヤは仕事中とのギャップが激しいな」
見ないはずの夢の中で声が聞こえる。
「本来の姿はこうなのか」
「スヲンってば観察しすぎ。普段から観察しすぎだけど、今日はまあアヤの寝顔もいつもより数割り増しで不細工可愛いから仕方ないか」
「ロイ、それは褒めてるのか?」
「やだな、ランディ。ボクはこのアヤをプリントアウトした抱き枕だって欲しいくらいだよ」
カシャ。
カシャカシャカシャッ。
連打する音が数回続いて、しばらく無言になったあと、クスクス笑い合う雰囲気が近付いてくる。
「ボクたちがいないともっとダメな子にしたくなっちゃう」
「アヤは素質があるからいけそうだな」
「こういうのは、手がかかる子ほど可愛いというらしい」
「出た。ランディの日本のことわざ…っ、あ、アヤが起きそう」
「んー」と低くうめいて顔をこする。
気持ちよく眠っていたのに、相変わらず早起きだなと三人の声を聞いていて思う。今日は休日なのだからゆっくり寝ていればいいのに。
「んにゃ!?」
変な声が出た。
自分の部屋なことを思い出して狼狽える。そう、今日は土曜日。昨夜は久しぶりに実家にある自分の部屋で眠った。
いや、過去形はおかしい。
現在進行形でそこに横たわっている。
それなのにどうしてここに美形の彼氏が勢揃いしているのかと、アヤは声にならない悲鳴と共に飛び起きた。
「な…っ…なななな」
英語も日本語も出てこない。
「や、待って……ちょ、えっ……は、えっ!?」
少女マンガの主人公のような可愛い寝起きとは程遠い現実。ボサボサの髪、くたびれた服、一番見られたくなかった無防備な姿。
「なんで!?」
色々すっ飛ばして質問だけを叫ぶ。
黒いサングラスをかけた三人はあわてふためく彼女がそんなに面白いのか、クスクスと隠しきれていない笑い声を漏らしていた。
「おはよう、アヤ。もうお昼まわってるから、『コンニチワ』が正しいのかも?」
わざわざ日本語でお昼の挨拶を繰り返したロイの言葉で時計をみる。
たしかに。
時刻は13時目前。
鳴いていると思ったセミの声もいつの間にか止んでいる。
「……ぅぅ…どうして、ここに?」
「デートに誘おうと思ったんだよ。外はいい天気……だと言いたいけど、日本の夏は暑すぎる」
「そうだな。外は息苦しい」
「その点、アヤの部屋は快適だよね。時間を潰せそうな面白いものがいっぱいあるし、観光地よりも日本の文化に触れている気分」
スヲン、ランディ、ロイがくつろぐ姿勢を見せ始めている。
外は猛暑に違いない。おまけに日差しが眩しいのだろう。サングラスをはずす仕草さえ似合いすぎるのもズルい話だか、寝起きからサングラスの三人を見る羽目になった心境を想像してもらいたい。
まだ心臓が変な音を奏でている。
「もー……やだ」
アヤは枕に顔をうずめて深い息を吐いた。
自分ばかりが惚れさせられていく気がしてならない。日を追うごとに『かっこいい』と内心で叫んで、抱きつきたくなるもどかしさに悔しくなる。
「ていうか、よく家に入れたね?」
父親は百貨店勤務。母親は近くの商店街にある老舗チェーン店でパートをしている。
土曜日はもちろん、世間一般の休日はむしろ忙しい。とっくに二人は家にいないはずで、玄関にはカギがかかっているはず。
「アヤのママが入れてくれた」
「……お母さん」
嫁入り前の娘が寝ていると知っていて三人を招いた神経に頭痛がする。いくら見た目がタイプだからといって、協力する姿勢を見せすぎではないかとタメ息も吐きたくなる。
「それより、アヤ。何か忘れてない?」
「なに?」
まだ起き上がれない身体に、スヲンの影が重なり落ちてくる。
間一髪。アヤは唇を塞ぐことに成功した。
「手、どけて」
「やだ、スヲン。顔、洗ってからじゃないと……キスできな…ッ…」
「へぇ。キスって誰も言ってないのに、ちゃんとわかったんだ」
無駄に顔がいい。
額を合わせて覗き込んでくる黒い瞳だけでも美しい。それが余裕の笑みで問いかけてくる迫力は、寝起きから拝むものじゃないとアヤの鼓動は跳びはねている。
「か…っ…顔を洗ってくるから、三人ともそこから動かないで!!」
捨て台詞を吐いて自室を飛び出す。
先にトイレを済ませて洗面台に直行して、顔を洗って、歯を磨いて、ようやくそこで鏡を見て落ち着いた。
「……うぅっ…」
いまさら手ぐしで髪を整えても遅いことはわかってる。
「寝癖…枕の跡…っ…最悪」
それでもなんとか、自分のなかで許せる範囲になった。
出来ることなら三人のところへ戻りたくないが、服も化粧品も全部、自分の部屋。とぼとぼと、重たい足取りで自室の扉をあけると、言った通り三人はそのままの場所で待っていてくれた。
「おかえり、アヤ」
「……ただいま」
目があったランディに声をかけられて、足を踏み入れるのを戸惑う。
「こっちにおいで」
「アヤは朝から百面相だね。そういうところがボクたちを誘うんだけど」
二度訪れただけで、すでに我が家のような安定感を出せる技を知りたい。
自分の太ももを数回叩いたスヲンに呼ばれて近付けば、ロイに腕を引かれて強制的に座らされる。自分の部屋の、それも自分の定位置のはずなのに、なぜこんなにも緊張するのかわからない。
「………」
本当はわかっている。
何を求められているのか、痛いほどにわかる自分が悔しい。
「誰からでもいいよって言ってあげたいけど、アヤが困るだろうから待っている間に順番は決めておいたよ」
「な、なにの?」
「何のだと思う?」
ロイと見つめ合って数秒。勝てる見込みのない勝負に意味はない。
アヤは、ごくりと喉を鳴らしてそのままロイに「おはようのキス」を重ねた。続いて、スヲン、ランディの順番にキスをする。
代わり映えがないようで、きちんとじゃんけんで決まった順番らしい。
「真っ赤だな」
「だって、恥ずかしい」
ランディの腕の中で囁かれるとキスも特別な気がしてくる。
自分から重ねた唇は少し触れてすぐに離れたはずなのに、ランディがあごに手を添えて促してくるキスは、触れるだけでもドキドキしてくるのだからタチが悪い。
「アヤ」
低音で名前を呼ばれるとキスだけじゃ足りなくなる。
「……っ…ん…」
舌を入れる行為を許せば、ゆっくりと抱きしめられていく。
ランディの大きな体は常に安定していて身をゆだねやすく、後頭部や背中に回った腕に包み込まれて行く感覚が心地いい。
「アヤ、ボクにもちょうだい」
「……ん…っ…ぁ」
ランディの横から伸びてきたロイの腕の中に移動する。
形のいい唇はほどよく薄くて、丁寧に動く。舌先で遊ぶように唇の表面を舐められると、思わずビクリと肩が緊張した。
「はい、そこまで」
「ッ……スヲ…ン」
ロイの腕の中にいながら、スヲンに顔ごと奪われる。
首だけ右方向に直角に曲げることは難しいと告げたくても、すでに口内を蹂躙されるキスはアヤの声まで奪っている。
「…っ…~~~~んんンッ」
さすがに長すぎる。
このまま窒息死させる気か。
そう訴えようとした瞬間、アヤの唇は解放されて「はぁ」と深い吐息が零れ落ちた。
「ねぇ、アヤ……」
「ダメ」
「……まだ何も言ってないんだけど」
不服そうなロイの視線が物語る「ねぇ」を鵜呑みにするわけにはいかない。
口では何も言っていなくても、先ほどから全身でキスの続きを求められているのだからさすがにわかる。
土曜日の昼下がり。寝起きのダサいかっこうはこの際諦めるとして、場所が自分の部屋というのが変な気分でしかない。両親の帰宅は心配いらない。ふたりとも土曜日の帰りは大抵遅い。
「じゃあ、確認させてくれる?」
「確認ってな…ッ…ぁ…ヒァッ」
履き古した短パンで過ごしていた昨夜の自分を改めたい。
「ロイ…ぅ、ヒッ…ちょ…ぁ」
胡坐をかいて座る方法をどこで学んできたのか。
おかげで膝立ちでまたがる足が閉じてくれない。ロイの腕は強く押さえつけていないのに、アヤの割れ目は下腹から短パンの中に差し込まれたロイの手を許してしまう。
「可愛い、朝立ちしてるみたい」
「ッ…やっ」
「いつからこんなに勃起させてたの?」
「……してな…ぅ…ぁ…」
「嘘はダメだよ、アヤ。自分でわかるでしょ」
第一関節だけで器用に撫でてくるロイの顔が近すぎてつらい。
覗き込んでくる瞳が直視できなくて、上半身は逃げたがるのに、下半身がなぜかロイの指先に甘えている。
「ひァッ!?」
これはお尻側から手を突っ込んだスヲンの奇行にあげた悲鳴。
「待っ…ぁ…スヲンまで…ッん」
「アヤ、手が邪魔。ロイの肩でも持ってな」
思わず反射的に抑えてしまったスヲンの手首からそれは剥がされ、ロイの肩を持つように促してくる。
身体が従うことを覚えている以上、暴れて抵抗するなんてことは毛頭ない。アヤは素直にロイの肩に手を添えて、二人の愛撫を受け入れていた。
「朝からこんなところまで濡らして」
「…ン…や…ッ…ぁ」
膣口を指の腹で叩くスヲンの動きに合わせて、ぴちぴちと可愛い音が聞こえてくる。
濡らしていたわけでも、期待していたわけでもなかったのに、こうして触れてしまえば溢れてくるのは止めようがない。
「…ッ…んっ……もっと…」
「ん?」
「もっと…触って…ぁ」
スヲンとロイにねだるように腰を動かす。
意思ではなく、本能で。もっと刺激が欲しいと口が吐息に混ぜて繰り返す。
「ァッ…ン…ひっ」
背中側から胸を揉んできたランディに服の上から掴まれて、こすれた乳首が神経を震わせいく。
衣擦れの音が、見慣れた自分の部屋で静かに響く。机も、ベッドも、見飽きた本も、携帯も、眠る前と変わらない位置にあるのに、自分だけが部外者みたいな声を零している。
「腰振って、やらしいな」
「ラン…デ…ぃ…言わな…ッ…で」
「アヤ、どうされたい?」
「スヲン…ぁ…指、いれ…~~ンんッ」
もどかしさが全身をくねらせる。
服も息も乱さない男たちの輪の中で、確実に乱れていく異様さに溺れていく。
だけど、もう限界は近かった。
「ああ、アヤ。すごく可愛い、ボクたちの指だけで溶けちゃいそうな顔してる」
「ロイっ…イキた、い…イ…かせて…ぁ…」
「うん、いいよ」
「イクッ…ぃ…ぁ…アァァッァアッ」
盛りのついたメス犬のように腰を振って果てる。ロイの肩に食い込ませていた指を放して、ロイの頭ごと抱きしめたかったが、スヲンとランディにも自分の姿をなぜか見られたかった。
ひとりではなく、全員に。
感じているとちゃんと、伝えたかった。
「…ぁ…っ…はぁ…はぁ…」
ロイのあぐらの上に腰を下ろしたアヤの頭をランディが後方から抱えてキスをしてくる。
全力疾走したあとに似た余韻を呼吸で誤魔化しながら静かに目を閉じたアヤの様子に、三人ともどこか優越の笑みを浮かべていた。
「アヤ、ご飯何食べたい?」
手の甲に触れるだけのキスをしたスヲンに問いかけられて目を開ける。
「…んっ…ぅ…作る」
まだ外に出る気分にならない。太陽の陽射しが強い時間帯に、わざわざ外に出るなんて馬鹿げていると、アヤは黙る三人の内から腰をあげて衣服の乱れを整えた。
「……なに?」
続きをするつもりだったのか。
まったくそういう気配や素振りには思えなかったと、部屋の扉に向かって足を踏み出したアヤの顔だけが疑問に振り返る。
そこには、まさしく目が点といった状態の三人の姿。「どうかした?」と再度問いかけようとした矢先、ロイがおもむろに口を開いた。
「……アヤって、料理できるの?」
二十七年間、眠りを守ってくれている愛用の寝具が、夢を見ないほどの心地よさを与えてくれている。
外は猛暑に違いない。蝉の声が朝からうるさく聞こえてくる。それでもクーラーを効かせた室内に問題はない。
今日は土曜日。
仕事も予定もなにもない休日。
「やばい、なにこの生き物。ダサすぎて、逆に可愛すぎる」
「新種発見だな」
「アヤは仕事中とのギャップが激しいな」
見ないはずの夢の中で声が聞こえる。
「本来の姿はこうなのか」
「スヲンってば観察しすぎ。普段から観察しすぎだけど、今日はまあアヤの寝顔もいつもより数割り増しで不細工可愛いから仕方ないか」
「ロイ、それは褒めてるのか?」
「やだな、ランディ。ボクはこのアヤをプリントアウトした抱き枕だって欲しいくらいだよ」
カシャ。
カシャカシャカシャッ。
連打する音が数回続いて、しばらく無言になったあと、クスクス笑い合う雰囲気が近付いてくる。
「ボクたちがいないともっとダメな子にしたくなっちゃう」
「アヤは素質があるからいけそうだな」
「こういうのは、手がかかる子ほど可愛いというらしい」
「出た。ランディの日本のことわざ…っ、あ、アヤが起きそう」
「んー」と低くうめいて顔をこする。
気持ちよく眠っていたのに、相変わらず早起きだなと三人の声を聞いていて思う。今日は休日なのだからゆっくり寝ていればいいのに。
「んにゃ!?」
変な声が出た。
自分の部屋なことを思い出して狼狽える。そう、今日は土曜日。昨夜は久しぶりに実家にある自分の部屋で眠った。
いや、過去形はおかしい。
現在進行形でそこに横たわっている。
それなのにどうしてここに美形の彼氏が勢揃いしているのかと、アヤは声にならない悲鳴と共に飛び起きた。
「な…っ…なななな」
英語も日本語も出てこない。
「や、待って……ちょ、えっ……は、えっ!?」
少女マンガの主人公のような可愛い寝起きとは程遠い現実。ボサボサの髪、くたびれた服、一番見られたくなかった無防備な姿。
「なんで!?」
色々すっ飛ばして質問だけを叫ぶ。
黒いサングラスをかけた三人はあわてふためく彼女がそんなに面白いのか、クスクスと隠しきれていない笑い声を漏らしていた。
「おはよう、アヤ。もうお昼まわってるから、『コンニチワ』が正しいのかも?」
わざわざ日本語でお昼の挨拶を繰り返したロイの言葉で時計をみる。
たしかに。
時刻は13時目前。
鳴いていると思ったセミの声もいつの間にか止んでいる。
「……ぅぅ…どうして、ここに?」
「デートに誘おうと思ったんだよ。外はいい天気……だと言いたいけど、日本の夏は暑すぎる」
「そうだな。外は息苦しい」
「その点、アヤの部屋は快適だよね。時間を潰せそうな面白いものがいっぱいあるし、観光地よりも日本の文化に触れている気分」
スヲン、ランディ、ロイがくつろぐ姿勢を見せ始めている。
外は猛暑に違いない。おまけに日差しが眩しいのだろう。サングラスをはずす仕草さえ似合いすぎるのもズルい話だか、寝起きからサングラスの三人を見る羽目になった心境を想像してもらいたい。
まだ心臓が変な音を奏でている。
「もー……やだ」
アヤは枕に顔をうずめて深い息を吐いた。
自分ばかりが惚れさせられていく気がしてならない。日を追うごとに『かっこいい』と内心で叫んで、抱きつきたくなるもどかしさに悔しくなる。
「ていうか、よく家に入れたね?」
父親は百貨店勤務。母親は近くの商店街にある老舗チェーン店でパートをしている。
土曜日はもちろん、世間一般の休日はむしろ忙しい。とっくに二人は家にいないはずで、玄関にはカギがかかっているはず。
「アヤのママが入れてくれた」
「……お母さん」
嫁入り前の娘が寝ていると知っていて三人を招いた神経に頭痛がする。いくら見た目がタイプだからといって、協力する姿勢を見せすぎではないかとタメ息も吐きたくなる。
「それより、アヤ。何か忘れてない?」
「なに?」
まだ起き上がれない身体に、スヲンの影が重なり落ちてくる。
間一髪。アヤは唇を塞ぐことに成功した。
「手、どけて」
「やだ、スヲン。顔、洗ってからじゃないと……キスできな…ッ…」
「へぇ。キスって誰も言ってないのに、ちゃんとわかったんだ」
無駄に顔がいい。
額を合わせて覗き込んでくる黒い瞳だけでも美しい。それが余裕の笑みで問いかけてくる迫力は、寝起きから拝むものじゃないとアヤの鼓動は跳びはねている。
「か…っ…顔を洗ってくるから、三人ともそこから動かないで!!」
捨て台詞を吐いて自室を飛び出す。
先にトイレを済ませて洗面台に直行して、顔を洗って、歯を磨いて、ようやくそこで鏡を見て落ち着いた。
「……うぅっ…」
いまさら手ぐしで髪を整えても遅いことはわかってる。
「寝癖…枕の跡…っ…最悪」
それでもなんとか、自分のなかで許せる範囲になった。
出来ることなら三人のところへ戻りたくないが、服も化粧品も全部、自分の部屋。とぼとぼと、重たい足取りで自室の扉をあけると、言った通り三人はそのままの場所で待っていてくれた。
「おかえり、アヤ」
「……ただいま」
目があったランディに声をかけられて、足を踏み入れるのを戸惑う。
「こっちにおいで」
「アヤは朝から百面相だね。そういうところがボクたちを誘うんだけど」
二度訪れただけで、すでに我が家のような安定感を出せる技を知りたい。
自分の太ももを数回叩いたスヲンに呼ばれて近付けば、ロイに腕を引かれて強制的に座らされる。自分の部屋の、それも自分の定位置のはずなのに、なぜこんなにも緊張するのかわからない。
「………」
本当はわかっている。
何を求められているのか、痛いほどにわかる自分が悔しい。
「誰からでもいいよって言ってあげたいけど、アヤが困るだろうから待っている間に順番は決めておいたよ」
「な、なにの?」
「何のだと思う?」
ロイと見つめ合って数秒。勝てる見込みのない勝負に意味はない。
アヤは、ごくりと喉を鳴らしてそのままロイに「おはようのキス」を重ねた。続いて、スヲン、ランディの順番にキスをする。
代わり映えがないようで、きちんとじゃんけんで決まった順番らしい。
「真っ赤だな」
「だって、恥ずかしい」
ランディの腕の中で囁かれるとキスも特別な気がしてくる。
自分から重ねた唇は少し触れてすぐに離れたはずなのに、ランディがあごに手を添えて促してくるキスは、触れるだけでもドキドキしてくるのだからタチが悪い。
「アヤ」
低音で名前を呼ばれるとキスだけじゃ足りなくなる。
「……っ…ん…」
舌を入れる行為を許せば、ゆっくりと抱きしめられていく。
ランディの大きな体は常に安定していて身をゆだねやすく、後頭部や背中に回った腕に包み込まれて行く感覚が心地いい。
「アヤ、ボクにもちょうだい」
「……ん…っ…ぁ」
ランディの横から伸びてきたロイの腕の中に移動する。
形のいい唇はほどよく薄くて、丁寧に動く。舌先で遊ぶように唇の表面を舐められると、思わずビクリと肩が緊張した。
「はい、そこまで」
「ッ……スヲ…ン」
ロイの腕の中にいながら、スヲンに顔ごと奪われる。
首だけ右方向に直角に曲げることは難しいと告げたくても、すでに口内を蹂躙されるキスはアヤの声まで奪っている。
「…っ…~~~~んんンッ」
さすがに長すぎる。
このまま窒息死させる気か。
そう訴えようとした瞬間、アヤの唇は解放されて「はぁ」と深い吐息が零れ落ちた。
「ねぇ、アヤ……」
「ダメ」
「……まだ何も言ってないんだけど」
不服そうなロイの視線が物語る「ねぇ」を鵜呑みにするわけにはいかない。
口では何も言っていなくても、先ほどから全身でキスの続きを求められているのだからさすがにわかる。
土曜日の昼下がり。寝起きのダサいかっこうはこの際諦めるとして、場所が自分の部屋というのが変な気分でしかない。両親の帰宅は心配いらない。ふたりとも土曜日の帰りは大抵遅い。
「じゃあ、確認させてくれる?」
「確認ってな…ッ…ぁ…ヒァッ」
履き古した短パンで過ごしていた昨夜の自分を改めたい。
「ロイ…ぅ、ヒッ…ちょ…ぁ」
胡坐をかいて座る方法をどこで学んできたのか。
おかげで膝立ちでまたがる足が閉じてくれない。ロイの腕は強く押さえつけていないのに、アヤの割れ目は下腹から短パンの中に差し込まれたロイの手を許してしまう。
「可愛い、朝立ちしてるみたい」
「ッ…やっ」
「いつからこんなに勃起させてたの?」
「……してな…ぅ…ぁ…」
「嘘はダメだよ、アヤ。自分でわかるでしょ」
第一関節だけで器用に撫でてくるロイの顔が近すぎてつらい。
覗き込んでくる瞳が直視できなくて、上半身は逃げたがるのに、下半身がなぜかロイの指先に甘えている。
「ひァッ!?」
これはお尻側から手を突っ込んだスヲンの奇行にあげた悲鳴。
「待っ…ぁ…スヲンまで…ッん」
「アヤ、手が邪魔。ロイの肩でも持ってな」
思わず反射的に抑えてしまったスヲンの手首からそれは剥がされ、ロイの肩を持つように促してくる。
身体が従うことを覚えている以上、暴れて抵抗するなんてことは毛頭ない。アヤは素直にロイの肩に手を添えて、二人の愛撫を受け入れていた。
「朝からこんなところまで濡らして」
「…ン…や…ッ…ぁ」
膣口を指の腹で叩くスヲンの動きに合わせて、ぴちぴちと可愛い音が聞こえてくる。
濡らしていたわけでも、期待していたわけでもなかったのに、こうして触れてしまえば溢れてくるのは止めようがない。
「…ッ…んっ……もっと…」
「ん?」
「もっと…触って…ぁ」
スヲンとロイにねだるように腰を動かす。
意思ではなく、本能で。もっと刺激が欲しいと口が吐息に混ぜて繰り返す。
「ァッ…ン…ひっ」
背中側から胸を揉んできたランディに服の上から掴まれて、こすれた乳首が神経を震わせいく。
衣擦れの音が、見慣れた自分の部屋で静かに響く。机も、ベッドも、見飽きた本も、携帯も、眠る前と変わらない位置にあるのに、自分だけが部外者みたいな声を零している。
「腰振って、やらしいな」
「ラン…デ…ぃ…言わな…ッ…で」
「アヤ、どうされたい?」
「スヲン…ぁ…指、いれ…~~ンんッ」
もどかしさが全身をくねらせる。
服も息も乱さない男たちの輪の中で、確実に乱れていく異様さに溺れていく。
だけど、もう限界は近かった。
「ああ、アヤ。すごく可愛い、ボクたちの指だけで溶けちゃいそうな顔してる」
「ロイっ…イキた、い…イ…かせて…ぁ…」
「うん、いいよ」
「イクッ…ぃ…ぁ…アァァッァアッ」
盛りのついたメス犬のように腰を振って果てる。ロイの肩に食い込ませていた指を放して、ロイの頭ごと抱きしめたかったが、スヲンとランディにも自分の姿をなぜか見られたかった。
ひとりではなく、全員に。
感じているとちゃんと、伝えたかった。
「…ぁ…っ…はぁ…はぁ…」
ロイのあぐらの上に腰を下ろしたアヤの頭をランディが後方から抱えてキスをしてくる。
全力疾走したあとに似た余韻を呼吸で誤魔化しながら静かに目を閉じたアヤの様子に、三人ともどこか優越の笑みを浮かべていた。
「アヤ、ご飯何食べたい?」
手の甲に触れるだけのキスをしたスヲンに問いかけられて目を開ける。
「…んっ…ぅ…作る」
まだ外に出る気分にならない。太陽の陽射しが強い時間帯に、わざわざ外に出るなんて馬鹿げていると、アヤは黙る三人の内から腰をあげて衣服の乱れを整えた。
「……なに?」
続きをするつもりだったのか。
まったくそういう気配や素振りには思えなかったと、部屋の扉に向かって足を踏み出したアヤの顔だけが疑問に振り返る。
そこには、まさしく目が点といった状態の三人の姿。「どうかした?」と再度問いかけようとした矢先、ロイがおもむろに口を開いた。
「……アヤって、料理できるの?」
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