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第二章 共通の知人
第十九話 障壁の向こう側
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騎士。セイラがそういう噂されているとデイビッドから聞いたことがある。
片膝を立てて勲章をねだる格好が様になるセイラが勇ましい。
その真剣な様子が、変におかしくて、自分でも驚くほど嬉しい気持ちがこみあげてくる。自然と浮かんだ笑みのまま「喜んで」と重ねたセイラの手は、自分と同じ、若くて女性らしい指をしていた。
「あー、緊張した。やばいくらい緊張した」
「そんな大げさな」
「アヤにふられたらどうしようって、朝からそんなことばっかり考えたから。みて、ほら。手の汗がすごい」
セイラの勢いに声をあげて笑ってしまう。
年下なのに先輩で、しっかりしているように見えて、すごく脆い。赤から茶色に髪の色が変わっても、セイラはセイラなのだとアヤはその手を握りしめる。
「私もセイラに謝りたい」
「なにを?」
「付き合ってるってすぐに言えなくてごめんなさい」
本当は一番に報告するべきだった。そうすればもっと早く助けられたのにと続けるアヤに、セイラは肩から息を吐いて「そりゃ、そうでしょ」と言葉をかぶせた。
「あの三人だもん。あたしがアヤの立場でも言えないわ。だから謝ることじゃない」
「でも、セイラは私を支えてくれてたのに」
「あのときは組織の中で決められただけのペアよ。プライベートまで赤裸々に伝え合うって関係じゃない。仕事のうえでの悩みとか、生活面のサポートとか、それがあたしの仕事だったわけだし。アヤに義務は何もない。まあ、今からは別だけど」
「今から?」
「そ。アヤはあたしと友達になってくれたんでしょ?」
「……うん!!」
「もっと教えてよ、アヤのこと。あたしもアヤにもっと知ってもらいたいから」
大人になってから友達という存在が出来ると思わなかった。学生時代の友達も結婚とか出産とかで徐々に疎遠になり、会社の同僚くらいしか日々の付き合いはない。それも辞めてしまえば連絡先すら知らない人も大半で、すっかり鳴らなくなった携帯を連絡手段ではなく暇つぶしの道具にしてどれくらいがたつだろう。
しかもここは海外。
不思議な縁もあるものだと、アヤはセイラに頷いて、すっかり冷めたコーヒーを口に含んだ。
「だけど、アヤってばお人好しよね。それで救われたあたしがいうのもなんだけど。人に頼まれたからって危険なことに首を突っ込んだりしちゃダメよ。自分を大事にしてほしい。あたしもそうするから」
「大事にしてるよ?」
「……彼らの苦労が目に浮かぶわ」
「そうかな?」
「無自覚ってとこがアヤらしいけど。それで、会社ではやっぱり内緒にしておくの?」
「みんなは隠す必要はないっていうんだけど、どうなのかな」
「んー、男除けにはなるかもしれないし、あたしも内緒にする必要ないと思う。でも、あの取り巻きたちはちょっと面倒かもね」
「なるべくならバレたくないな」
「知ってるのはあたしだけ?」
「ううん。ハリソンも知ってる」
「は?」
止まっていた時間が動き出したみたいに話が弾む。
コーヒーを飲みながら他愛ない話をして過ごす時間はとても有意義で、アヤは再びセイラと一緒に過ごせる時間を心から楽しんでいた。
「それでね、セイラがね。結婚式の介添人になってほしいって」
夕食の時間。冷めない興奮のまま帰宅したアヤは、うんうんと話を聞いてくれる三人に向かって語り掛ける。
「アヤ、それさっきも言ってたよ」
「え、ほんと?」
「よかったね、アヤ。嬉しいのはわかったから、食べるものはちゃんと食べよう?」
よしよしと頭を撫でられて、口元に食事を運ばれる。素直に口を開いたところで放り込まれたのは、一口と呼ぶには大きすぎる肉の塊。
食べさせてくれるのは嬉しいけど、これは食べにくい。アゴが疲れそうだと口元を押さえながらアヤは咀嚼に奮闘していた。
「式はどっちがいい?」
「日本でするなら親族だけでも結構な移動になるから、場所が大変そうだな」
「両方でやりたいよね。ボクはアヤの着物も見たいし、ドレスも着せたい」
「ッ…ゴホ…っ、ごほ」
「アヤ、大丈夫か?」
スヲンがとんとんと背中をさすってくれるが、それどころじゃない。むせた理由が大きすぎる肉の塊だとでも思ったのか、ランディが皿の上の肉をさらに小さく切っているが、ロイがそれをフォークに差す前に聞いておきたいことがある。
「私の式じゃなグッ、ゥ」
「アヤは食べるのに集中。でしょ」
仲が良いのは有り難いが、こういうときばかり結託してくるからイヤになる。アヤはまた口の中に肉を放り込まれて、結局その話しには参加できなかった。
「というか、本人を前にして話すことじゃなくない?」
うかれた気分で食事を先に済ませてしまったせいで、お風呂までの時間を持てあます。ランディが食後の片付け、ロイはお風呂場にお湯の確認、スヲンは寝室に何かを取りに行った。たぶん寝巻きだろう。胃袋はすぐに消化しないのだからこうしてくつろぐのは仕方がないと、アヤはソファーの上でクッションを抱えながらその声を染み込ませていた。
「……結婚かぁ」
意識しないといえば嘘になる。
適齢期が晩婚化してるとはいえ、それなりに憧れもあるし、何よりずっと彼らといたい。
「それ以前に付き合ってることを言えるのかな」
浮かんだのは両親の顔。急に現実味が増して気分が落ち込む。
浮いたり沈んだり激しいが、こればかりは避けて通れない道だろうと薄々理解はしていた。
「アヤ、ほら。そんなところでうなだれてないで」
スヲンの声がソファーに重みを加えてくる。当たり前のように肩を抱き寄せてキスをくれるが、その感覚が離れがたくて、掴まっていたくて、スヲンの首にアヤは腕を回した。
触れるだけのキスを予定していたのだろう。
「待たせてゴメン」程度の意味しかない挨拶が、思わぬ方向で返ってきたことにスヲンの方が若干戸惑っているようだった。
「どうした?」
それでも嬉しそうなのは隠しようもない。
アヤを自分の膝のうえに乗せて、耳を撫でた指で後頭部を支える。
「…ンッ…ぅ…」
一瞬戸惑いに離れた唇がすぐに深く触れて、侵入してきた舌にこじ開けられる。初めから絡ませ合う舌はぴちゃぴちゃと可愛い水音をたてたものの、それはすぐに引きはがされた。
「アヤ、何してるの?」
風呂場からロイが戻ってきたらしい。スヲンにまたがってキスをせがる彼女を目撃してイラついたのかもしれないが、いうなれば、三人とも自分の彼氏なのだから問題はないはずだ。
「ロイもキス、して」
スヲンにまたがったまま、アヤは後方から肩に手を置くロイに唇を寄せる。
ロイは照れたような顔をしてから、それでも応えるように優しいキスを落としてくれた。
「なに、アヤ。このままここでしたいの?」
「…っ…ンッ…ぁ…」
ロイの声が含みをもった笑みに変わっていく。単純な質問はキスに甘えるアヤではなくスヲンに尋ねていたのか、その視線はソファーに座るスヲンに向けられている。
スヲンは「わからない」と肩をすかせてロイの視線に答えたが、アヤの腰を両手でつかんで確認するように自身のモノを服の上からこすりつける。
「なんだ、三人で楽しそうだな」
「ランディもどうだ?」
アヤの腰を掴んで上下に煽り始めたスヲンの声が、食後の片づけを終えたランディを呼び寄せる。スヲンの右隣にランディが腰かけ、そのままアヤの手に自分の指を絡ませた。
「アヤからの誘いか。珍しいな」
「わかりやすいといった方が正しいかもしれないけど」
「それは言えてる」
ランディは鑑賞するようにアヤの手を握る手とは逆の手を背もたれに乗せて、ロイとキスを交わし、スヲンの上で腰を動かすアヤを見つめる。
自発的にキスを求め、温もりを探すその仕草に色んな感覚を刺激されるが、絡ませる指先がわずかに震えていることにランディは気付いていた。
「アヤ、ずっと一緒だ」
ピクリとアヤの指先が反応して、視線だけがランディの方へ流れる。
口付けられた手の甲がほんのりと熱い。
「……ず、っと?」
「ああ。ずっとだ」
「焦らなくていい、俺たちは俺たちのペースでいこう」
「そうだよ、アヤ。ボクたちはアヤを愛している。それにたとえアヤが望んでも、もう手放してあげられないんだ。ゴメンね」
ロイから唇を離して、アヤは全員を順に眺めていた。
大好きだと日毎に増す思いが怖くなるときがある。
手放されたら、きっともう生きていけない。それほどまで欲している自分に戸惑う気持ちを隠せない。
「私も…愛して、る」
言葉にするのが照れくさい。
付き合う人が初めてというわけでもないのに、この感覚は慣れない。心臓がドキドキと音を立てて、まともに向けられなくなった視線が宙を彷徨う。
「ふぁっ」
ぎゅーと痛いくらいに三人同時に抱き着いてこられたアヤの声は、驚きのあとに安堵の息を吐いていた。
今はこれでいい。
スヲンのいうように、自分たちのペースで。
そう自分の中で答えが見つかると、さっきまでの不安が一気に去ったように心が軽くなる。心が軽くなると不思議なもので、アヤは中断していた生活を取り戻そうと、意識をお風呂に傾け始めた。
今日はまだ水曜日。明日も明後日も仕事がある。
「……ん?」
スヲンの上から降りて、浴室に向かおうと思っているのに、なぜか三人が離れてくれない。
中央のスヲンは身体全体を包み込んで、右側のランディは指を絡ませたまま右の首筋、左側のロイは顔を両手でつかんで至る所にキスをしてくる。
「…ッ、あの…ちょッ…ん?」
どうしてこうなっているのか。
わからない。
「ぅ…ンぁ、え?」
抜け出そうと必死になればなるほど彼らの腕が強くなっていくような気がする。
混乱しかけた思考回路をなだめようとした矢先、アヤはスヲンにブラジャーのホックを服の上から外されたことに気が付いた。
「待っ…ンッぁ…な、で」
顔を掴んだロイにキスをされて言葉が続かない。
左手でロイの手首をつかんで離そうとしてみてもビクともしないのだから、本当に意味がわからない。右手はランディと絡まり合ったまま。そのランディは首筋に埋めていた顔を少し傾けてぺろりと分厚い舌で舐めてくる。
「んンッ…っ…~~ぅ…あ」
服の上からスヲンに胸を揉まれ、ホックが外れて意味をなさなくなったブラジャーから零れ落ちる。目立つ突起を指で引っ掻かれて、思わず腰が逃げたところで、アヤはようやくこの行為が持つ意味を悟った。
「違…っぁ…私、そんなつもり、じゃ」
ロイが器用に髪をほどいて、スヲンが上の服を、ランディがスカートを脱がせに来る。
どうしてこういう流れになっているのか、状況が飲み込めないまま、アヤは身ぐるみをはがされて、ソファーの上に寝かせられていた。
「……あ、の?」
三匹のオスに囲まれて、上から熱を帯びた瞳でじっと見下ろされる事態に思わず表情筋が凍り付く。
「どうしようか、アヤ」
ロイが新しいおもちゃでも見つけたような口ぶりで聞いてくる。人の髪をくるくる指で遊んだあと口付けているが、甘く溶けそうな声とその目の差がゾクゾクと嫌な気配を連れてくる。
「…ど、どうしよう…と、は?」
なぜ、みんな無視して服を脱いでいるのだろう。
少しでも脱走するような素振りを見せれば一気に食べれられてしまうような気がして仕方がない。肉食動物に狙われた草食動物は、総じてこういう感覚を味わっているに違いない。
動けない。
過敏になった神経が動いてはいけないと警鐘を鳴らしている。
「…ッ…ぁ…」
「ああ、怖がらないで。アヤ」
目線を合わせるように近付いてくるスヲンの声も甘く響く。上体を起こされ、ソファーに座るよう促した身体を左から支えてくれるが、右にはなぜかロイが座って肩にかかる髪を耳にかけてくる。
「ヒッ、ぅ…ぁ…ッ」
手を祈るように胸の前で握りしめて固まったアヤの両サイドを陣取ったスヲンとロイは、当たり前のようにアヤの膝裏に手を突っ込んでその足を持ち上げる。
おかげでソファーに背を預けるアヤは、両側から開かれた足の中心をランディに見せつける形になってしまった。
「アヤは本当にどこまでもボクたちを溺れさせるのが上手だね」
「ッ…ぇ、な…ンッぅ」
「大事にしよう、優しくしようと思ってる俺たちを知っててわざとだよな?」
「ぁっ…ふ、ぅ…ァ、んっ」
言っている意味がわからない。ロイに疑問の顔を向けてみればキスをされ、視界から消えたスヲンは肩にキスマークをつけている。ところがそれ以上の刺激が下腹部に走って、アヤは反射的に足を閉じた。
「こら、足を閉じたらランディが舐めにくいだろ」
「アヤ。手、どけてくれないとおっぱいにキスできない。いい子だから大人しく、ね」
「片手が足を支えるので塞がってるんだ、協力しろ。アヤ」
「そうそう。スヲンの言うとおりだよ、アヤ」
ねじれた体が再び正面に座り、手をそれぞれ奪われるかわりに胸に二人の顔が埋まってくる。ちゅっと可愛い音がして、次いで訪れた強い刺激にアヤは声を殺して天を仰ぐ。
「~~~ふ、ッ…ぅ…ァッ」
右胸にロイのブロンドがかかり、左胸にスヲンの黒髪が触れている。その二人の頭部の向こう側には同じくランディの髪がかかり、その下では好きなように舌で味わっているに違いない。
唇で吸い上げ、歯で甘く噛み、舌で弾き、固く尖ったそれらの根元を指でつまんで離さない。縫い付けられたように動かない体は繊細な愛撫を受け入れ、穏やかな波に沈む腰を浮かせて快楽に打ち震えていく。
片膝を立てて勲章をねだる格好が様になるセイラが勇ましい。
その真剣な様子が、変におかしくて、自分でも驚くほど嬉しい気持ちがこみあげてくる。自然と浮かんだ笑みのまま「喜んで」と重ねたセイラの手は、自分と同じ、若くて女性らしい指をしていた。
「あー、緊張した。やばいくらい緊張した」
「そんな大げさな」
「アヤにふられたらどうしようって、朝からそんなことばっかり考えたから。みて、ほら。手の汗がすごい」
セイラの勢いに声をあげて笑ってしまう。
年下なのに先輩で、しっかりしているように見えて、すごく脆い。赤から茶色に髪の色が変わっても、セイラはセイラなのだとアヤはその手を握りしめる。
「私もセイラに謝りたい」
「なにを?」
「付き合ってるってすぐに言えなくてごめんなさい」
本当は一番に報告するべきだった。そうすればもっと早く助けられたのにと続けるアヤに、セイラは肩から息を吐いて「そりゃ、そうでしょ」と言葉をかぶせた。
「あの三人だもん。あたしがアヤの立場でも言えないわ。だから謝ることじゃない」
「でも、セイラは私を支えてくれてたのに」
「あのときは組織の中で決められただけのペアよ。プライベートまで赤裸々に伝え合うって関係じゃない。仕事のうえでの悩みとか、生活面のサポートとか、それがあたしの仕事だったわけだし。アヤに義務は何もない。まあ、今からは別だけど」
「今から?」
「そ。アヤはあたしと友達になってくれたんでしょ?」
「……うん!!」
「もっと教えてよ、アヤのこと。あたしもアヤにもっと知ってもらいたいから」
大人になってから友達という存在が出来ると思わなかった。学生時代の友達も結婚とか出産とかで徐々に疎遠になり、会社の同僚くらいしか日々の付き合いはない。それも辞めてしまえば連絡先すら知らない人も大半で、すっかり鳴らなくなった携帯を連絡手段ではなく暇つぶしの道具にしてどれくらいがたつだろう。
しかもここは海外。
不思議な縁もあるものだと、アヤはセイラに頷いて、すっかり冷めたコーヒーを口に含んだ。
「だけど、アヤってばお人好しよね。それで救われたあたしがいうのもなんだけど。人に頼まれたからって危険なことに首を突っ込んだりしちゃダメよ。自分を大事にしてほしい。あたしもそうするから」
「大事にしてるよ?」
「……彼らの苦労が目に浮かぶわ」
「そうかな?」
「無自覚ってとこがアヤらしいけど。それで、会社ではやっぱり内緒にしておくの?」
「みんなは隠す必要はないっていうんだけど、どうなのかな」
「んー、男除けにはなるかもしれないし、あたしも内緒にする必要ないと思う。でも、あの取り巻きたちはちょっと面倒かもね」
「なるべくならバレたくないな」
「知ってるのはあたしだけ?」
「ううん。ハリソンも知ってる」
「は?」
止まっていた時間が動き出したみたいに話が弾む。
コーヒーを飲みながら他愛ない話をして過ごす時間はとても有意義で、アヤは再びセイラと一緒に過ごせる時間を心から楽しんでいた。
「それでね、セイラがね。結婚式の介添人になってほしいって」
夕食の時間。冷めない興奮のまま帰宅したアヤは、うんうんと話を聞いてくれる三人に向かって語り掛ける。
「アヤ、それさっきも言ってたよ」
「え、ほんと?」
「よかったね、アヤ。嬉しいのはわかったから、食べるものはちゃんと食べよう?」
よしよしと頭を撫でられて、口元に食事を運ばれる。素直に口を開いたところで放り込まれたのは、一口と呼ぶには大きすぎる肉の塊。
食べさせてくれるのは嬉しいけど、これは食べにくい。アゴが疲れそうだと口元を押さえながらアヤは咀嚼に奮闘していた。
「式はどっちがいい?」
「日本でするなら親族だけでも結構な移動になるから、場所が大変そうだな」
「両方でやりたいよね。ボクはアヤの着物も見たいし、ドレスも着せたい」
「ッ…ゴホ…っ、ごほ」
「アヤ、大丈夫か?」
スヲンがとんとんと背中をさすってくれるが、それどころじゃない。むせた理由が大きすぎる肉の塊だとでも思ったのか、ランディが皿の上の肉をさらに小さく切っているが、ロイがそれをフォークに差す前に聞いておきたいことがある。
「私の式じゃなグッ、ゥ」
「アヤは食べるのに集中。でしょ」
仲が良いのは有り難いが、こういうときばかり結託してくるからイヤになる。アヤはまた口の中に肉を放り込まれて、結局その話しには参加できなかった。
「というか、本人を前にして話すことじゃなくない?」
うかれた気分で食事を先に済ませてしまったせいで、お風呂までの時間を持てあます。ランディが食後の片付け、ロイはお風呂場にお湯の確認、スヲンは寝室に何かを取りに行った。たぶん寝巻きだろう。胃袋はすぐに消化しないのだからこうしてくつろぐのは仕方がないと、アヤはソファーの上でクッションを抱えながらその声を染み込ませていた。
「……結婚かぁ」
意識しないといえば嘘になる。
適齢期が晩婚化してるとはいえ、それなりに憧れもあるし、何よりずっと彼らといたい。
「それ以前に付き合ってることを言えるのかな」
浮かんだのは両親の顔。急に現実味が増して気分が落ち込む。
浮いたり沈んだり激しいが、こればかりは避けて通れない道だろうと薄々理解はしていた。
「アヤ、ほら。そんなところでうなだれてないで」
スヲンの声がソファーに重みを加えてくる。当たり前のように肩を抱き寄せてキスをくれるが、その感覚が離れがたくて、掴まっていたくて、スヲンの首にアヤは腕を回した。
触れるだけのキスを予定していたのだろう。
「待たせてゴメン」程度の意味しかない挨拶が、思わぬ方向で返ってきたことにスヲンの方が若干戸惑っているようだった。
「どうした?」
それでも嬉しそうなのは隠しようもない。
アヤを自分の膝のうえに乗せて、耳を撫でた指で後頭部を支える。
「…ンッ…ぅ…」
一瞬戸惑いに離れた唇がすぐに深く触れて、侵入してきた舌にこじ開けられる。初めから絡ませ合う舌はぴちゃぴちゃと可愛い水音をたてたものの、それはすぐに引きはがされた。
「アヤ、何してるの?」
風呂場からロイが戻ってきたらしい。スヲンにまたがってキスをせがる彼女を目撃してイラついたのかもしれないが、いうなれば、三人とも自分の彼氏なのだから問題はないはずだ。
「ロイもキス、して」
スヲンにまたがったまま、アヤは後方から肩に手を置くロイに唇を寄せる。
ロイは照れたような顔をしてから、それでも応えるように優しいキスを落としてくれた。
「なに、アヤ。このままここでしたいの?」
「…っ…ンッ…ぁ…」
ロイの声が含みをもった笑みに変わっていく。単純な質問はキスに甘えるアヤではなくスヲンに尋ねていたのか、その視線はソファーに座るスヲンに向けられている。
スヲンは「わからない」と肩をすかせてロイの視線に答えたが、アヤの腰を両手でつかんで確認するように自身のモノを服の上からこすりつける。
「なんだ、三人で楽しそうだな」
「ランディもどうだ?」
アヤの腰を掴んで上下に煽り始めたスヲンの声が、食後の片づけを終えたランディを呼び寄せる。スヲンの右隣にランディが腰かけ、そのままアヤの手に自分の指を絡ませた。
「アヤからの誘いか。珍しいな」
「わかりやすいといった方が正しいかもしれないけど」
「それは言えてる」
ランディは鑑賞するようにアヤの手を握る手とは逆の手を背もたれに乗せて、ロイとキスを交わし、スヲンの上で腰を動かすアヤを見つめる。
自発的にキスを求め、温もりを探すその仕草に色んな感覚を刺激されるが、絡ませる指先がわずかに震えていることにランディは気付いていた。
「アヤ、ずっと一緒だ」
ピクリとアヤの指先が反応して、視線だけがランディの方へ流れる。
口付けられた手の甲がほんのりと熱い。
「……ず、っと?」
「ああ。ずっとだ」
「焦らなくていい、俺たちは俺たちのペースでいこう」
「そうだよ、アヤ。ボクたちはアヤを愛している。それにたとえアヤが望んでも、もう手放してあげられないんだ。ゴメンね」
ロイから唇を離して、アヤは全員を順に眺めていた。
大好きだと日毎に増す思いが怖くなるときがある。
手放されたら、きっともう生きていけない。それほどまで欲している自分に戸惑う気持ちを隠せない。
「私も…愛して、る」
言葉にするのが照れくさい。
付き合う人が初めてというわけでもないのに、この感覚は慣れない。心臓がドキドキと音を立てて、まともに向けられなくなった視線が宙を彷徨う。
「ふぁっ」
ぎゅーと痛いくらいに三人同時に抱き着いてこられたアヤの声は、驚きのあとに安堵の息を吐いていた。
今はこれでいい。
スヲンのいうように、自分たちのペースで。
そう自分の中で答えが見つかると、さっきまでの不安が一気に去ったように心が軽くなる。心が軽くなると不思議なもので、アヤは中断していた生活を取り戻そうと、意識をお風呂に傾け始めた。
今日はまだ水曜日。明日も明後日も仕事がある。
「……ん?」
スヲンの上から降りて、浴室に向かおうと思っているのに、なぜか三人が離れてくれない。
中央のスヲンは身体全体を包み込んで、右側のランディは指を絡ませたまま右の首筋、左側のロイは顔を両手でつかんで至る所にキスをしてくる。
「…ッ、あの…ちょッ…ん?」
どうしてこうなっているのか。
わからない。
「ぅ…ンぁ、え?」
抜け出そうと必死になればなるほど彼らの腕が強くなっていくような気がする。
混乱しかけた思考回路をなだめようとした矢先、アヤはスヲンにブラジャーのホックを服の上から外されたことに気が付いた。
「待っ…ンッぁ…な、で」
顔を掴んだロイにキスをされて言葉が続かない。
左手でロイの手首をつかんで離そうとしてみてもビクともしないのだから、本当に意味がわからない。右手はランディと絡まり合ったまま。そのランディは首筋に埋めていた顔を少し傾けてぺろりと分厚い舌で舐めてくる。
「んンッ…っ…~~ぅ…あ」
服の上からスヲンに胸を揉まれ、ホックが外れて意味をなさなくなったブラジャーから零れ落ちる。目立つ突起を指で引っ掻かれて、思わず腰が逃げたところで、アヤはようやくこの行為が持つ意味を悟った。
「違…っぁ…私、そんなつもり、じゃ」
ロイが器用に髪をほどいて、スヲンが上の服を、ランディがスカートを脱がせに来る。
どうしてこういう流れになっているのか、状況が飲み込めないまま、アヤは身ぐるみをはがされて、ソファーの上に寝かせられていた。
「……あ、の?」
三匹のオスに囲まれて、上から熱を帯びた瞳でじっと見下ろされる事態に思わず表情筋が凍り付く。
「どうしようか、アヤ」
ロイが新しいおもちゃでも見つけたような口ぶりで聞いてくる。人の髪をくるくる指で遊んだあと口付けているが、甘く溶けそうな声とその目の差がゾクゾクと嫌な気配を連れてくる。
「…ど、どうしよう…と、は?」
なぜ、みんな無視して服を脱いでいるのだろう。
少しでも脱走するような素振りを見せれば一気に食べれられてしまうような気がして仕方がない。肉食動物に狙われた草食動物は、総じてこういう感覚を味わっているに違いない。
動けない。
過敏になった神経が動いてはいけないと警鐘を鳴らしている。
「…ッ…ぁ…」
「ああ、怖がらないで。アヤ」
目線を合わせるように近付いてくるスヲンの声も甘く響く。上体を起こされ、ソファーに座るよう促した身体を左から支えてくれるが、右にはなぜかロイが座って肩にかかる髪を耳にかけてくる。
「ヒッ、ぅ…ぁ…ッ」
手を祈るように胸の前で握りしめて固まったアヤの両サイドを陣取ったスヲンとロイは、当たり前のようにアヤの膝裏に手を突っ込んでその足を持ち上げる。
おかげでソファーに背を預けるアヤは、両側から開かれた足の中心をランディに見せつける形になってしまった。
「アヤは本当にどこまでもボクたちを溺れさせるのが上手だね」
「ッ…ぇ、な…ンッぅ」
「大事にしよう、優しくしようと思ってる俺たちを知っててわざとだよな?」
「ぁっ…ふ、ぅ…ァ、んっ」
言っている意味がわからない。ロイに疑問の顔を向けてみればキスをされ、視界から消えたスヲンは肩にキスマークをつけている。ところがそれ以上の刺激が下腹部に走って、アヤは反射的に足を閉じた。
「こら、足を閉じたらランディが舐めにくいだろ」
「アヤ。手、どけてくれないとおっぱいにキスできない。いい子だから大人しく、ね」
「片手が足を支えるので塞がってるんだ、協力しろ。アヤ」
「そうそう。スヲンの言うとおりだよ、アヤ」
ねじれた体が再び正面に座り、手をそれぞれ奪われるかわりに胸に二人の顔が埋まってくる。ちゅっと可愛い音がして、次いで訪れた強い刺激にアヤは声を殺して天を仰ぐ。
「~~~ふ、ッ…ぅ…ァッ」
右胸にロイのブロンドがかかり、左胸にスヲンの黒髪が触れている。その二人の頭部の向こう側には同じくランディの髪がかかり、その下では好きなように舌で味わっているに違いない。
唇で吸い上げ、歯で甘く噛み、舌で弾き、固く尖ったそれらの根元を指でつまんで離さない。縫い付けられたように動かない体は繊細な愛撫を受け入れ、穏やかな波に沈む腰を浮かせて快楽に打ち震えていく。
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半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
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