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第二章 共通の知人

第十七話 溺れる器

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「……ッ、アヤとキスさせろ」


病室のベッドは静寂のなかでよく響く。ギシギシときしむその音が声を出さなくても周囲にバレてしまいそうだというのに、アヤは律儀に「静かに」を守ってスヲンに手を離されても無言でランディの唇を正面から受け止めていた。


「はぁ…はぁ…ッ…んぅ」


コンドームの中にランディの液体がどくどくと放出されていくのを感じながら絡ませ合う舌が気持ちいい。散々激しく打ち付けてきたくせに、壊れ物を扱うように優しい手で頬についた髪を取り払い、頭を撫でてくれる手にもっと甘えたくなる。


「ランディ…っ…らんでぃ」


腕をランディの首に絡ませて、離れたくないとキスをする。
それなのにランディは腰を抜いて、白濁の液体が溜まるそれごと身体を離した。離れ間際、目尻にキスをするついでに耳に吹き込まれた「愛してる」と同義の言葉が熱い。


「ぁ…愛し…ッ私、も…っ…スヲン?」


ランディの代わりにそこに立っていたスヲンがベッドにあがってくる。仰向けから横を向くようにスヲンに身体の向きを変えられるなり、伸びてきたロイの手に頭を撫でられて、そのまま顔を寄せるように誘導される。


「ランディって本当、そういうところ抜け目なくてムカつくんだけど」

「っん…ぅ…ン」

「それがランディだろ」

「ァアッ…ふ…っぁ」

「こら、アヤ。離しちゃダメだって、ちゃんと咥えてなきゃ」

「どっちも奥までいけるよな?」


左足を高く持ち上げられてスヲンの肩に乗せられる。ベッドの上で座るロイを口で奉仕しながら開いた足の中央にスヲンが埋められていく。反射的に息を吐いたアヤの顔は、ロイの手が後頭部を支えたことで逃げ道をふさがれる。


「~~~ッ、ぁ…んむ…ぅ…ぁ」


輸送が開始されたスヲンの律動に揺られてロイに刺激を与え続けるのは難しい。
それでも一生懸命にほおばってしまうのは、単純に喜んでほしいからだろう。自分が気持ちよくさせられている分だけ、彼らにも満足してもらいたい。いや、もしかしたらそれ以上に気持ちよくなってもらいたいと望んでいる。


「なんだ、アヤ。もう他の男か?」


ロイとスヲンに身をゆだねるアヤの背中にランディの唇が語り掛けてくる。愛蜜や唾液がぶつかり合う音に混ざって聞こえてくる軽いリップ音は、おそらく背中や肩にキスマークを付けようとしている。


「妬けるな」


這い上がってきた気配が、乱れていた髪をまとめて、耳にかけるついでに付け加えてきた低音にアヤはわかりやすいほど敏感に反応した。


「…っ…アヤ。締めすぎ」

「ランディ、ずるい。ボクもその声欲しい」

「ロイが持ったらアヤが可哀想だろ?」

「そう言いながら、ずっとアヤの耳元で喋るのやめろ」


スヲンとロイの両方に非難の目で見られたのかもしれない。
ランディのキスがまた肩から背中に戻り、そのままかぶさるように左の乳首に吸い付いた。


「っくそ…ッ…ランディ」


これはスヲンが苦しそうに吐き出した声。欲望が一度落ち着いたランディには余裕があるのだろう。それがわかるからこそ、スヲンとロイの苛立ちがますます膨れ上がっていく。
一番の被害者は自分だと声を大にして叫びたいのに、アヤは与えられ続ける刺激に声をくぐもらせるだけで、体の自由が一切ない状況に翻弄されるしかない。


「…ンッ…ぁ…んンァ…む…」


ぐちゅぐちゅという音の海にいると、時間も感覚も溶けたように無くなっていく。
研ぎ澄まされた世界がその先にある光を掴もうと躍起になって、全身でオスを誘う色香を放つ。


「はぁ…ンッ…はぁ…ぁ…ァッ」


口から抜けたロイがまだ目の前でそそり立っていた。妖しく照らし出されたそれが、今度はいつ中に入ってくるのか、想像だけで欲情が刺激される。しかし、まだ中にはスヲンが入っている。
どこまでも奥へ。ちらりと視線だけでスヲンを盗み見たアヤは、その瞬間、じっと熱い視線を注がれていたことに気付いて、また蜜を溢れさせた。


「……スヲ…っン…」


左足を肩から降ろされて、半分寝返りを打ったような形で左足だけ曲げられる。右足に乗る形でベッドに体重をかけたスヲンの竿が少し角度を変えて、アヤの鳴く場所を深くついた。


「ァッ、そ…れ…んにゃ…ぁアッ」

「ここを押すとアヤは猫になるな」

「なん…にゃ…ッぅ…ぁ…ヤッ」

「逃げるな。その代わり、好きなだけ鳴いていい」

「…~~~ッ…ぁ…ぅ、にゃ」


さっきは声を出すなと言っておいて、今度は声を出していいという。
よくわからないルールの意味を探ろうとスヲンを見ても、形のいい唇で微笑まれるだけで、明確な答えを与えてもらえない。それなのに、変な鳴き声が出る場所はスヲンが刺激してくるたびに神経を震わせて、アヤの快楽を絶頂へ昇らせていた。


「ィくぅ~~にゃ…ヒッ、ぁ…にゅ…ぁ」


そもそもランディとロイが上半身側を陣取るせいで逃げられるわけがなかった。
あだ名が「子猫」になった由来。
目を閉じてこの状況を知るのであれば、三人の男に保護された猫といえるのかもしれない。しかし現実はそう甘いものではなく、けれど特別に甘い官能の世界だった。


「ランディにいかされて、スヲンにいかされて、可哀想なアヤ」

「ロイに目を付けられたのが一番の不幸だろ」

「いえてる」

「酷いな、ふたりとも。そう言うなら、ボクだけのアヤにしてくれてもいいんだよ?」

「それはないな」

「そうだ…ッ、ランディ。今度は何した」

「ん?」


輪の中で絶頂に沈むアヤが再び緊張を表現したことで、スヲンがランディの行動を咎める。本人はしれっと「何でもない」といった顔をしているが、その大きな手はアヤのお尻に添えられていて、そのうちの二本がアヤの中に埋められていた。


「ああ、アヤ。大丈夫だよ。ランディが意地悪したんだね」


よしよしとなだめてくれるが、ロイの顔には「いいぞ、もっとやれ」という言葉が見える。


「なに、ボクには指をくれるの。いいよ、美味しく食べてあげる」

「~~~ッぁ、にゃっ…ちが…ぅ、ァッ」

「スヲン、アヤが泣いてる」

「誰のせいだよ…ったく、どいつもこいつも……アヤ、来い」


脇から抱え上げるように近付いてくるスヲンにアヤはすがりつく。
半分ベッドから落ちていた体は、ベッドに寝かせられるように落ち着いて、そのままスヲンだけに抱き着いた。


「スヲン…ッぁ、スヲン」

「はいはい。そんな声出さなくても聞こえてるよ」


感じていたくせに被害ぶる声をスヲンはよしよしと慰めてくれる。それが嬉しくて、アヤは密着するスヲンの肌に額をすり寄せるが、スヲンは何を思ったのか、そのままアヤの身体を折り曲げるほど深く足を持ち上げ、ほぼ真上を向いた穴に直接自身を叩きつけた。


「ッ…ァッ…ぁ」


何をするのかと、混乱するアヤの顔をスヲンの嬉しそうな笑みが覗き込む。


「俺以外に感じた罰と病院では静かに、な。アヤ」

「すぉ…ンッ…ぅ」


そこからはスヲンが欲望を吐き出すまで口付けをしながら腰を叩きつけられた。ギシギシとベッドの軋みは激しさを増し、振り落とされないようにしがみつくスヲンの腕に深く爪痕を刻んだ気がする。
それでも、あまり記憶は正確ではない。
息を切らせて汗ばんだ肌を互いに溶け合わせるころには、スヲンの腕の中で完全に溶けきっていたし、どくどくと放出される精液の熱さに体が震えていた。


「…ぬ…ぁ…~~っ…」


抜けていくのでさえ敏感に感じてしまう。
離れないでほしいのに、余韻にひたる暇もないのか。息をついたスヲンが場所をあければ、最後のひとり。ロイがそこにやってくる。


「激しくされちゃったね。そんな目でスヲンと見つめ合ってたの?」


そんな目とは、どんな目だろうか。力なく首をかしげれば、ロイの手は頭を優しく撫でて唇に触れる程度のキスをくれる。


「ちょっと休憩しようか、アヤ。後ろ向いて」


言われるままうつ伏せになり腰の下に分厚い枕を差し込まれる。腰を休ませてくれるつもりだろうか。両足を閉じて、少しうとうとした睡魔に襲われそうなそのとき、アヤは休憩の意味を知ってロイに抗議の声をあげた。


「ヒッぅ…ヤッ、ぁ…ん~~~」


閉じた両足の上にまたがり、固く腫れ上がった自身の竿を膣ではないもうひとつの穴に差し込んで来ようとする。
足から裂けてしまいそうなほど痛いのに、酷使された体は抵抗を忘れて徐々に受け入れていく。鼻から、口から、抜ける限り息を抜いて整えてみても浮かんでいく涙に視界は歪み、声はかすれて音にならない。


「大丈夫だよ。ゆっくりゆっくり入れてあげるからね」

「……ァッ…はぁ…~~ぅ…ぁ…」

「偉いね、アヤ。もう三分の一入ったから、あともう少し」


あともう少しの基準が国際クラスになると変わるのかと問いたくもなる。
息は苦しく、鼓動がおかしい。背中に浮き出た汗は焼けるほど熱い患部と連動しているのか、普段排出する機能がマヒしたようにロイを迎えている。
「痛い」「熱い」そう訴えていた気がするのに、ロイは無視して完全に埋まってくる。数秒が数分に、数分が数時間に感じられる頃、ようやく埋まったロイに対してアヤは完全に機嫌をそこねていた。


「可愛い子猫ちゃん、こっち向いて」

「ッや」


埋まったまま動かないロイにはありがたいが、許す気はさらさらない。
いつの間にか右側にスヲン、左側にランディが腰かけていたが、彼らも同罪だとアヤはうつ伏せなのをいいことにシーツに顔を押し付けていた。


「…ぁ…動いちゃ、だ…め…」

「でも、ほら。アヤが顔をあげてくれないから寂しくて」

「~~っふ、ぁ…動かな…」


腰に手を添えてグルグルとかき混ぜるように先だけを動かす。随分器用だなとは思うが、ロイの演技に負けるわけにはいかない。


「もぅ…抜いて…ッぁ…抜ぃ、て」


いやいやと顔をシーツにこすりつけるアヤに、困ったような息がみっつ。
ぎゅっとシーツを掴んでいた手にランディとスヲンの手がそれぞれ重なるが、アヤは「抜く」ということがどれほどの刺激を持つのか、そのときになってやっと理解した。


「~~~~ッぁあ、ヤッ…抜かないで、ぁっ、違…っ」

「抜かないでほしいんでしょ?」

「入れなぃ…そ…ぁッ…ろ、い」

「んー。わかんないなぁ。ゆっくりいれて、ゆっくり抜くの?」


こんな感じ?と可愛い声が背中から降り注いでくるが、自分の声にそれどころではない。ぞわぞわと体感したことのない刺激が全身を切り裂いてくるようで、それなのに絶頂を味わうときのような妙な快楽が隠れている。


「ゆっく…ァッ、いやぁ…ぁ…ぅ」

「早く抜いて、早く入れる?」

「ふっ…ぁ…アッぁ…熱ぃ…あ、ダメッ」

「ゆっくり抜いて、早く入れるってのはどう?」

「だか、りゃ…ぅ…にゃ、ァッ」

「ここでも猫になっちゃうんだ。可愛いね、アヤ」

「違ぅ…にゃに…言っ…ァッ~~~ぁ」


提案しているようで好きなように動くロイを止められるなら止めたい。それなのに、体は初めての快楽を味わおうとしているのか、好奇心に支配されて出口を見つけようと奮闘している。
気持ちよくなんか、なりたくないのに。


「ッ、や…ァ、怖ぃ…ヤッァ」


ひんひん鳴いていれば優しい彼らのことだから、いつか止めてくれると思ったのに、全然その気配はない。むしろ加速していく愛撫と律動に戸惑いしか生まれない。


「…んっ…ぁ…アッ…」


繰り返される長い時間の果てに、声の質が変わったことに気付かれればそれが最後。


「やっ…ぁ…ンッぁ、ぁ…ふ、ァッ」

「すごくそそられる顔してる」


息を吐くために横を向けた顔にスヲンが映る。自然に零れた涙を指でぬぐって、頭を撫でてくれるその手に甘えられることを知っている。


「スヲ…ン…ァ、ぅ~~~あっ」

「口の中も突っ込んだら気持ちよさそう」

「ぁ…ぁ…ふ、にゅ…ッ…ん」

「シーツに乳首こすりつけて、自分で気持ちよくなろうとしてるのか」


褒めるような口ぶりと態度で慰められると、何が正常で、何が異常かわからなくなってくる。たしかに無意識に乳首をシーツにこすりつけていたが、指摘されて止めることももう出来ない。


「スヲンが意地悪言うから、アヤがまたすねちゃった」

「俺のせいか?」

「照れてるだけだろ」


動くことをやめないロイと同じ場所からランディの声が聞こえてくる。
腰を浮かせたロイの下に腕を伸ばして、何をしようとしているのか。期待に溢れた下半身は、わずかに足を広げてランディの指を受け入れる。


「糸引いてる」


あえて言葉にされなくてもわかっている。
ランディが広げた割れ目は、下を向いていても蜜を垂らし、乳首同様赤く色づいたクリトリスを枕に押し付けて快楽を得ていたのだから、知っている。


「ッん、ぁ…ァッ…ぅ」


いったいどこまで淫乱になればいいのか。それなりに経験を重ねてきたはずの年齢なのに、まだまだ知らないことがたくさんある。彼らの手で変えられていく身体が、染まっていく身体が、それも悪くないと従順な態度を示していた。


「~~~~ッぁぁアアッァツ」


スヲンとランディが突起物を指で摘まんだせいでアヤの快楽がはじけ飛んだ。
ロイの遊走だけが変わらずにまだ続いているが、確実にそこにも快楽の糸が結び付けられたような気がして狂いそうになる。


「アヤはとうとうお尻でもいける子になっちゃったね」


本当にその通りだと逃げたくもなる。際限なくおかしくなっていく身体を止めることも、なだめることもできないまま、受け入れるだけの器はあまりにも小さい。


「いくッぁ、ぁ~~にゃ、ぁ…ぅ、アッ」

「まだいくの。いいよ、我慢しないでいっぱいいきな」

「ァッぁ…イクっぁいく、ァ、アァアッも…やだぁ」

「すごく気持ちよさそうなのに、イヤなの?」

「だって…イッてるの…に…ァッ、ぅ、アッまた…ぁっ」

「アヤ、可愛い。じゃあ最後は一緒に行こう、ね?」


たぶん、もう戻れない。知らなかった頃にも、彼らと出会わなかった頃にも。
アヤはロイが白濁の液体を注ぐ熱さに悶えながら、見下ろしてくる三人の瞳に焼き付けるようにその嬌声を響かせた。
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