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第一章 異世界のような現実

第十話 告白

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「あからさまにがっかりした顔をされるとまいるな。どうしたの、今日は彼氏とデートじゃなかったの?」


そういえば、週末デートを誘われたことを思い出す。
付き合っている人がいるからと断った手前、いかにも仕事だった恰好を見られるのは少しつらい。


「ふられた?」

「違います」

「怒った顔も可愛いね。ねえ、予定がないならこのあと付き合わない?」

「付き合いません」

「じゃあ、彼氏が来るまでお茶でもしない?」

「しません」

「意外と断るじゃん。ノーって言わない子かと思ってた」


そう言いながら肩を抱いてくるのは、さすがセイラ情報「手が早い」があてはまる。
しかも結構強引に引っ張っていくから足がもつれて、バランスが崩れてしまう。


「おっと、あっぶね」


抱きとめられて、その違和感に突き飛ばそうとしたところで、アヤは見事なまでに固まった。


「あ、キング……じゃない。ロイさん、こんにちは」

「ハリソン、こんにちは。随分可愛い子を連れているね」

「ロイさんこそ、スヲンさんとランディさんと休日までご一緒ですか?」


なぜ、こんなタイミングで出くわすのか。
ハリソンの腕のなかから、三人と対峙する状況になった現実を呪いたい。元凶の男はなぜか腕の力を弱めてくれず、アヤはすがるように三人を見つめてみたが、なぜか彼らも助けてくれようとはしない。


「じゃあ、俺たち。今からデートなんで」

「は?」


連行しようとするハリソンに驚いて、アヤはやっと自分の声を聞いた。


「デートなんてしません」

「ちょ、いきなり何大きな声、出してるの?」

「やめて。私はあなたとデートしない。好きな人がいるって言ったでしょ」


段々イライラしてきた。この状況にも傍観を決め込んだ恋人たちにも、目の前の男にも。人の気持ちを待たずに振り回す現状が、疲れた脳に拍車をかける。


「付き合ってるの、だからあなたとは無理。私に触れていいのは―――」


ハリソンの腕の中から逃げるように視線を動かす。その動きに気づいたハリソンも状況を飲み込んだらしい。


「まさか、付き合ってる人って」

「―――そうよ、悪い?」

「だれ?」


ロイたちの方を一緒に見つめていたから、ハリソンはてっきり理解してくれたと思ったのに、当然違った。「だれ?」その質問にアヤは固まる。


「だれって……全員に決まってるでしょ」

「全員って、あの三人全員?」

「そうよ」


しばらくじっと見下ろしてきたと思った次の瞬間。ハリソンはアヤを手放してお腹をかかえながら笑いだした。


「一人ならまだしも、全員ってありえないよ、アヤ。嘘をつくならもう少しマシな嘘をつきなよ」

「私が誰とどういう付き合い方をするかなんて、あなたに関係ないじゃない」

「じゃあ、なに。ポリアモリーってやつ?」

「ぽり…え?」

「そこにいる全員を好きって本気で言ってるの?」

「仕方ないでしょ。だって……好きになっちゃったんだから。私が一番信じられないと思ってる……でも、どうしようもないの。ロイとスヲンとランディの三人が私には必要なの。三人を同じくらいに大好きなの、誰も選べないけど、他の人は誰もいらない」

「そういう冗談、ロイさん一番イヤがるんだけど」

「冗談じゃないってば」


ハリソンが笑いをやめて、本当に憐れんだ目を向けてくる。頭のおかしいやつと思っているのだろう。そう思われても、もう吐いてしまった気持ちをなかったことにはできない。


「あ…っ…アヤ、ほら。ロイさんたちに謝ろう?」

「やだっ、触らな……────」

「アヤに触るな」

「────……い、で」


ロイの匂いが全身を包みこんでいる。
もう、それだけで泣いてしまいそうだった。


「ハリソン、そういうわけだから。賢いキミならわかるよね?」

「……っ」


ロイの低音にハリソンは一瞬黙って、戸惑いを瞳に滲ませてはいたが、静かに数回うなずいた後、走って消えていった。その足音を聞いていたアヤは次の瞬間、唇に深いキスを落とされて目を瞬かせる。


「アヤ、やばいよ。自覚してほしいとは思ったけど、あんな告白されるなんて思ってなかった」


同一人物かと疑いたくなる変貌ぶりを驚いている暇はない。


「ロイ、そこをどけ。俺にもキスさせろ」

「ちょ、ランディ。乱暴」

「…ぁッ…~~ん……」

「ふたりとも、ここは道の往来だからほどほどにしろよ」


ロイの腕からランディの腕に引っ張られた体は、二人のキスを受けて目を回す。それをいかにも正当な理由を口にしたスヲンの腕に助けられたが、やはりそのままキスを落とされる羽目になった。


「それじゃあ、約束通り外してあげる」


マンションに入るなり、服を全部脱がされた後、例の貞操帯を外すためにしゃがんだロイに太ももをキスされる。
場所はなぜか脱衣所。
洗面台の鏡に背を向けて、アヤはロイの頭を見つめていた。


「……んっ…」


カチャリと可愛い音がして四日ぶりに自由になった下半身は、火曜日の夜を懐かしむように愛蜜を滴らせていた。


「ンッ…ぁ…恥ずかし…ぁ」

「アヤ、ちゃんと立って」

「ダメっ、ロイ…汚いか…アァ」


仁王立ちの股の間にロイの顔が埋まっている。
ただでさえまともに洗うことが出来なかったソコを舐められるなんて耐えられない。好きだと自覚したせいで、羞恥心が半端なくあがっているのに、そんな風に舐められると足が震えて立てなくなる。


「準備できた…って、ロイ」


浴室から顔をのぞかせたランディの声が呆れた息を吐き出す。


「やだ…ランデぃ…ぁ…見な…で」

「見ないでって、それは無理だな」

「…んっ…ふ、ぁ」


抜けた腰が洗面台の足元で股を開いてロイの頭を押し付けている。なんとか両腕が踏ん張って上半身を起こしているが、ぴちゃぴちゃと小さく響く水の音は恥ずかしげもなく響いていた。言い訳のしようもない。
それでも、感じる顔を見られるのも、この状態を見られるのも全部が恥ずかしくてたまらない。


「ロィ…ぁ…~っく、イクだめダメッァあ」


ついに腕の力まで抜けてアヤはずり落ちる。ランディが面白そうにそこから見つめていた。ロイの頭を押さえつけているのか、のけようとしているのか。腰を微弱に揺り動かしながら右手をロイの頭に置き、左手の甲で唇を噛み締めて喘ぎをこらえる姿はさぞ面白く映っただろう。


「はぁ…っ…はぁ」


久しぶりに与えられる絶頂に好意が加わるだけで、熱がいつもよりも高く感じる。


「ほら。風呂行くぞ」


ランディがお姫様抱っこで浴槽まで運んでくれる。名残惜しそうにロイが唇を舐めていたが、それには気付かないふりをしてその胸板に顔を埋めた。


「あれ、タトゥー?」

「ん、ああ。これか」


上腕部分を二周する蛇のような細い鎖模様。背が高くて筋肉質、短い黒髪に黄緑の瞳。彫りが浅いわけでも深いわけでもないのに、通った鼻筋と野性的な雰囲気がランディの男らしさの特徴。中東系の人には髭を生やしている人も多いが、ランディは生やしていない。たぶん、似合う。
そのうえ鎖蛇のタトゥー。
人生において一番出会う確率が低そうなのがランディかもしれない。そうだとすれば、この腕のなかにいるのがなんだか奇跡のように思えてくる。


「そんなに珍しいか?」

「あっ、ごめんなさい」

「好きなだけ触ればいい。全部アヤのものだ」

「……んっ…」


愛しそうに顔を寄せて囁かれると心臓に悪い。そのままキスを交わして連れてこられたそこに、今度はスヲンがいた。


「ようやく来たね。ロイは?」

「精神統一中じゃねぇの?」

「堪え性がないな。アヤとそこに座ってて」


何もかもが大きい部屋はなぜか巨大な浴槽まで設置されている。
いや、これはプールか。一瞬そう疑ったが、おそらくジャグジーと呼ばれるものだろう。それでもシャワーだけで洗い流していた最近の風呂事情を思えば、改めてみるここの規模の大きさにいちいち驚く。


「スヲン…ぁ…自分で洗え…ッる…」

「アヤ、動かない」


ランディに背を預けるように座った先で、スヲンの指が足の爪先から滑り上がってくる。
セイラ情報によればアメリカと韓国のハーフだというスヲンは、顔立ちや肌の色などは韓国に近い気がする。そしてムダ毛がないきめ細かい肌に割れた腹筋。造りモノみたいに思えるのに、せっせと身体を洗ってくれるスヲンは生きてる。
スヲンも身長が高くて手も大きいから洗ってくれるのは気持ちいいが、やはり恥ずかしい。


「アヤ、緊張してるの?」

「……だっ…て」

「もう全部見られてるのに、恥ずかしいんだ」


閉じた足を簡単にこじ開けてくる手つきに逆らえない。というか、スヲンには従ってしまう。


「少しだけ剃っておこうか」

「…ぅ…ふぇ!?」

「動かない」


どこからかカミソリをもったスヲンの手が躊躇なく近付いてくる。心の準備など一切与えてもらえないまま、アヤは後ろからランディに膝を持ち上げられて乙女の花園が伐採されていくのを見つめていた。


「えー、全部剃ったの?」

「いや。整えてるだけ」

「じゃあ、よかった。ボクはアヤのふさふさしたの可愛くて好きなんだよね」

「こんな感じでいいだろ?」

「オッケー、オッケー。あれ。アヤ、のぼせちゃった?」


27にもなって美形に剃られるとは思ってなかった羞恥に、顔を赤らめないでいられる精神力がほしい。


「照れてるだけだよな?」

「……ふ…ぅ…」

「もっと色んなことしてるのに、アヤってば可愛いね」


耳元で囁くランディもそうだが、ロイまで入ってくるとさすがに圧迫感がある。なぜかボディソープを手にとって泡立て、手の指先から丁寧に洗ってくれるが、いかんせん。この状態で好きに動かれると少しツラい。


「アヤ、動くな」


再度スヲンに怒られてアヤは唇を噛み締める。それをランディに耳元で笑われて、ロイに指を絡ませられて、ただ早く終わってくれることだけを祈っていた。


「終わったから少し流すが、アヤ、危ないからああいうときは動いてはいけない」

「……っ、はい」

「それに風呂に入るのに、そんなに身体を硬くしていたら意味がない」

「………」


最適解がわからない。
リラックスとはほど遠い現状に、それは無理な相談だとアヤは黙り込む。好きな人が一人でも緊張するのに、それが三人もいれば単純に三倍。
彼氏と一緒にお風呂なんて、この年で未経験なわけでもないのに、なぜかこの三人といたら心臓がおかしくなる。


「アヤがそれだけ意識してくれてるってことだよね。ボクは嬉しいよ。ほぐしがいがある」

「お前が言うと死刑宣告だな」

「ひっど。ランディだって言いながらアヤの胸揉んでるくせに」

「だってこうすると、な。いい声で鳴く」

「はいはい、二人で遊ぶな。アヤがのぼせる」


六本の手で全身洗われる体験は初めてで、逃げたくても、泡が滑ってうまくいかない。そのうえ性感帯を知られている。
彼らからすれば拾ってきた子猫を三人で洗う程度の苦労しか負っていないだろう。
楽しそうに、好き勝手にいじってくる。


「やッ、ランディ。そこ、お尻…」

「知ってる」

「アヤ、泡を流すから目をつぶって」

「スヲ…待っ…ぅ…ンッ…」

「ほら、逃げられないんだから。じっとしなくちゃ」

「ァッあ…ロイ、そこばっか…り…ぅ」

「アヤ、流すよ。泡が目に入るから両手で顔を押さえて、そう」

「…くッ…~~ぅ、あ…はぁ…」


全身ずぶ濡れで仕上がる頃には、身体に力なんて入らなくなっていた。原因の三人は、余裕の表情で囲んでいる。それでも決定打を得られていない身体は、疼きだけが高まって、熱さが抜けてくれない。
手を伸ばせば容易に触れられるそれで、奥深くまで滅茶苦茶にされたい衝動にかられる。


「物欲しそうな顔。ねぇ、アヤ。いれていい?」


ロイの言葉に素直にうなずいたのは、願ってもない申し出だったから。それなのに、一人を相手にすれば必然的に全員を相手にする羽目になる。


「では、その間に俺たちのを洗ってもらおうかな」

「そうだな」


手にボディソープを塗りたくられ、右手をランディ、左手をスヲンの手が合わさって泡だっていく。そのまま導かれた下半身には、すでに固く棒立ちになったモノがあり、アヤは言われなくても自然にそこへ手を這わしていた。


「綺麗に洗ったはずなのに、アヤのここぬるぬる」

「…っ…ンッ…ぁ」

「それにスヲンが剃ったからつるつる滑る」


割れ目を遊ぶように往復するロイが後方から当たってくる。
早く入れてほしくて腰を振る姿を知っているはずなのに、おかまいなしに腰を掴んでロイは好きなように感触を楽しんでいた。


「……ろ…ぃ」

「んー、なぁに。アヤ」

「お願ぃ…ッァ…いれ、て」

「なにを?」


背中に胸板を押し付けて囁くロイの顔は見えないが、たぶん相当意地悪な顔をしているに違いない。反射的にスヲンとランディのものを握ってしまったが、見下ろしてくる瞳を見る限り、きっとロイも大差ないだろう。


「なにって…ァッ…」

「アヤは、なにをどこに入れてほしいの?」


恐る恐る首だけで振り返って、アヤは息をのむ。
ただでさえ綺麗な顔をしているのに、蒸気と水に色気が相まって、見てはいけない生物に遭遇した気持ちにさせられる。こんな相手に卑猥な言葉を羅列して、告げろというのか。


「……無理…私には出来ません…ッ」


思わず定型文みたいな言葉を吐き出した声が震える。


「無理じゃない、でしょ?」


わかってて問いかけてくる悪魔が、わざと入り口をつつくような真似をして催促していた。


「わからないようなら教えてあげようか?」

「こういうんだ」

「………ぅ……」


スヲンとランディまで悪ノリしはじめる。三十間近になって、こういうところは少年のままなところが本当によくない。極めつけに、甘えた声で「お願い」を口にされると、もう心は折れるしかなかった。
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