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第14話★宿敵が現れましたわ

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ここで、エリーの日課をおさらいしておこう。
午前七時、レリアが起こしにくるので二度寝をしたいと、ごねて、怒られる。
七時半、自分で顔を洗い、髪を梳かし、ドレスを着て、仕上げをレリアにしてもらう。
八時、朝食。ご飯でも文句を言わなくなった反面、味付けに口を出すようになり、料理長にレシピ案を伝える。そのとき、父のヒューゴが感激で涙を流す姿を目撃したが、無視した。
朝食後からお昼までは家庭教師付きの勉強となる。母国の歴史を始め、母国語以外の言葉や歴史、文化、最先端の自治問題まで。もちろんここでも怒られる。散々、自分に厳しい教師をやめさせてきたので、優しいはずだが、教育を本職にする彼らが本領を発揮すると恐ろしい。
そんなわけで、大抵は泣かされるか、喧嘩して帰ってくるエリーもお昼を食べて笑顔を取り戻し、午後一時には、英才教育に戻る。歩き方、お辞儀の仕方、マナー、音楽、ダンス。午後の三時にティータイム。最近は自分でお茶をいれ、前半の講義の余裕次第ではお菓子作りも手伝うようになった。
ティータイムのあとは、家業について。パク鉱山や工場、あとは名産である茶畑への視察は、年齢が二桁を越えてからのため、今は、パクの活用法や卸し先について学ぶ程度になっている。あとは遊んだり、怒られたり、いたずらしたり、褒められたり。
午後七時、夕食。好き嫌いはいけないとレリアに怒られる。
午後八時、お風呂。お気に入りの入浴剤を切らしたと喚くものの、お花を浮かべて入ってみればという案を受け入れて、おおはしゃぎする。最近は、よく、屋敷内に笑い声が響くようになった。
午後九時、絵本を読んでもらいながら三体の人形と就寝。寝相は最悪なので、時々、レリアが布団をかけに戻ってきている。
そうしてまた、朝を迎える忙しい毎日。けれど、不思議と充実していた。
朝早く目覚めた日は、獣舎の使用人と鶏小屋に卵を取りに行く日もある。再三告げるが、エリーが望んで行くのではない。
プリンを食べたいとワガママを言いたいが、すんなり聞いてもらうための妥協策としてお手伝いがあるだけの話。つまり、エリーにとっては打算と計算のうえで成り立つ行為。ところが、これがエリーにとっては、一筋縄ではいかなかった。


「お嬢には、ちょいと難しいんじゃねぇかな」

「いいから早く開けなさい」

「だけど、妖獣のゴンザレスは特に女嫌いで」

「卵くらい、私だって集められるわ」


放し飼いの鳥小屋は朝から色んな声が聞こえてくる。木製で出来た小屋のなかには卵が転がっていて、エリーの視線はじっとそこに向いている。けれど、使用人がいうように、そこには他より三倍大きな鳥が一羽いるが、エリーを見るなり鋭い嘴で、威嚇の眼光を放っている。


「おっ、お嬢様。さすがに、今回はお止めしますわ」

「何よ、レリアは弱虫ね。私がとった卵なら普段の何倍も美味しいプリンが出来るに違いないのよ」

「ですが、あのゴンザレスとかいう鳥。明らかにお嬢様を敵対視してますわ」

「たかが鳥でしょ。私に傷をつけたら焼き鳥にしてやるんだから」


仁王立ちの勢いが、小屋に入った瞬間に崩れ去ったのも無理はない。ここで、怒声と罵声を浴びせて戦い勝てればよかったのだが、箱入り娘のエリーはゴンザレスにつつかれて、三秒足らずで大泣きした。


「許せませんわ。鳥の分際で、この私に傷をつけるなんて。焼き鳥ですわ。丸焼きにしてやりますわ」

「お嬢。妖獣は貴重種で、王族から賜った鳥です。どうか怒りをおさめてくだせぇ。アーノルド王子に顔向け出来なくなります」

「ぅ……うぅ……覚えてらっしゃい。こうなれば、絶対、あの卵を取ってみせますわ」


手当てを受けて回復したエリーは、悪役令嬢の素質らしく、執着心が高く、負けず嫌いを発揮して、その日から対ゴンザレスを目指して早起きを始める。


「おーい、ゴンザレス。また今日もお嬢が遊びにきたぞ」

「クォカーーー」

「遊びにきたのではありませんわ。そんなに暇ではありませんのよ。私はただ、あの忌まわしい鳥の卵がほしいだけですわ」

「はい、お嬢。お嬢用のかご」

「ありがとうございます」


頭を下げて、お礼を口にする姿が定着するまでのいざこざは、ここでは省く。省かなくてもわかるだろうが、後方でレリアの目が光っている以上、高慢な態度は即刻排除されていく。
かごを片手に鳥小屋に挑む令嬢。シュールで想像のつかない光景だが、現実だから仕方がない。ともあれ、勝敗は今日も決まってゴンザレスであり、エリーは鳥の羽を全身につけて、鳥小屋を後にした。
そして不運にも、その姿を帰宅したばかりの母に知られた。
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