【R18】双璧の愛交花 -Twin Glory-

皐月うしこ

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第漆章:怒り狂う男たち

01:夜叉と人間(後半)

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「俺たちの胡涅に何をした」


同時刻。白銀の夜叉の一対である炉伯も、足元に保倉の名を持つ男を敷きながらぶちギレていた。
こちらは息子の将充に対してだが、窓ひとつない簡素な造りに男女がもつれあった情事の残るベッドがひとつ、部屋に充満する藤の残り香に苛立ちが天元突破したのだろう。問答無用でベッドの上にいた将充を蹴り倒すと真上から喉元に白刃をたてて、炉伯は問いかけていた。


「胡涅になにをした?」

「なっななんぁな、どっどこから入っぅ、わぁ!?」

「胡涅はどうした?」

「おっおおおお落ち着いて、こっこれは不可抗力で」


押し倒されるなら女がいいなどと、先ほどまで正しくそれを実行していた口は裂けても言えない。瞬間冷凍されそうな恐怖は、青い瞳がにらんでくるせいだと思いたい。
がくがくと男に押し倒されて震える今、ここが、冷凍庫になってしまったのでなければそう思いたい。


「さ……さささ寒い」

「護符の効力を破るのに力を使っちまったからな」


部屋が一瞬にして氷漬けになっているのは、そういうわけか。と、納得できればいいが、霜とつららが見えるベッドに仰向けになった状態では、無防備に心臓を差し出すことしかできない。
哀れな男が、襲撃してきた青い瞳にできることはひとつ。問いかけに答えるだけ。


「胡涅ちゃんは」

「お前が俺の女の名を気安く呼ぶな」

「ぎゃぁぁあ、ごめんなさいぃぃい」


幻覚ではない鋭い角を持つ夜叉、顔の下半分を布で隠しているが、まだ鋭い牙が見える口元の方がよかったかもしれない。
怒り狂う青い瞳に見下ろされて、平常心など保てるわけがないと、真っ青な顔であわてふためく将充の態度に、炉伯のこめかみに青筋が増えた。


「見苦しい。いっそ、死ぬか?」

「ふっふふふ藤蜜さん、は、いっいぬみとかいうわわわわ若い男と消えましたァ゛ひぃ」


顔の真横。
ざくっとイヤな音をたてて日本刀がめり込んだのは、ベッドのマットレス。


「胡涅に何をした?」

「たったた体調が悪そうだったので、父に言われた通りに、吸引させただけです」


ガタガタと震える手で差し出される吸引器。真下から差し出されたそれに顔を近づけて、炉伯は顔をしかめる。
それは一度だけ見覚えがあった。


「蠱惑草(こわくそう)か」


また面倒なものをと炉伯は吸引器を奪い取って、鼻から下を覆う布の中でそれを嗅ぐ。


「いや、違うな」


似て非なるものだと炉伯は眉を寄せる。


「なんだこれは」

「ぼ、ぼくが煎じた、く、薬で」

「お前が?」


青い瞳と視線を合わせることが恐ろしいと、将充は目を強く閉じながら首を縦に振っていた。
怯えて震える必死な態度に、炉伯も話が進まないと思ったのだろう。それでも話してもらわなければならないと、将充の胴体をまたぐようにしゃがみ、わざとその顔を覗き込んだ。


「何を煎じた?」

「せっ、仙蒜(せんひる)という草で、他に特別な材料は何も」


その回答に何か思案することでもあるのか。炉伯は静かに将充と吸引器を見比べている。


「強制的に発情させて犯すつもりだったか?」

「は、なっ、なんてこと言うんですか。犯されたのは僕のほうですよ!?」

「先に原因を探りにきて正解だな。これだから将門の血は厄介だ。やはり数珠を無視して顕現したのは、てめぇのせいか……ったく、胡涅が好きなくせに、惚れた女以外に抱かれてんじゃねぇよ」

「そんなことを言われても、こっちも何がなんだ…ッ…ひぃ、すみません、すみません」

「いちいちビビるんじゃねぇ。狗墨と消えたと言ったな?」

「はっ、はい、すみません!!」

「はぁ。面倒なことを仕掛けやがって」


炉伯は突き刺した日本刀を引き抜くと、それを消し、どこか遠くに視線を向ける。
もう終わりだと思ったのだろう。
藤蜜みたいに、忽然と現れたものは忽然と消えるのだと安心したのだろう。
将充はホッと息を吐いて上半身を起こしたそこに、しゃがんだ炉伯の顔があって盛大な悲鳴を上げていた。


「なっなな、こん、今度はなんですか!?」


美形を大迫力の近接で拝んだ衝撃で、声が裏返るのも無理はない。
ほんのり頬を赤らめてしまうほど、迫る炉伯の存在感は圧巻だが、伸びてきた大きな手は将充の喉を掴んで、再びベッドへと押さえつけていた。


「で、将門之助。お前は胡涅と御前、どちらを抱いた?」


血を這うほど低く唸る声は、獣が噛みつく前の恐怖を与えてくる。
殺される。
どちらの名を答えても殺される。
本能は死を覚悟して硬直し、記憶を真っ白に塗り替えて泡を吹いて気絶していた。


「………やはり殺すか」


炉伯は自分が首を絞めて凄んだせいで気絶している将充を見下ろして、少しばかり思案する。
中身が藤蜜であり、藤蜜が主体であれば、狙われた男に拒否権がないことを知っている。しかも藤蜜は、将門之助を寵愛しており、その子孫である将充を狙っていた。
それでも許しがたいものはある。


「朱禅なら当に首と胴は分かれてただろうよ」


だけどそこが自分の偉いところだと炉伯は笑う。


「さあ、起きろ。将門之助。殺す前にやってもらうことがある」


たたき起こされた将充にとって、そこは地獄か天国か。
そこには日本刀も角もない、スーツを着込んだ美しい男がいるだけで、白髪と青い瞳に「炉伯」だと認識できたものの、頭はやはり現実逃避を願って「夢」などと混乱を起こしている。けれどすぐに理解しただろう。人間の姿だからといって、青い瞳を持つ夜叉の怒りが消えたわけではないのだと。
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