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第漆章:怒り狂う男たち
01:夜叉と人間(前半)
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「また貴様か」
うんざりした朱禅の声。その隣には、うんざりした顔の炉伯がいる。
二人の四肢に、がんじがらめに巻き付く木の根。
その発生源は、くたびれた白衣の男。
こめかみに青筋を浮き上がらせた朱禅と炉伯は、胡涅を見送ってすぐ、待機場所として与えられた駐車場で停車するなり、保倉昌紀に襲われていた。それは突然の襲撃で、コンクリートはもとより車ごと無数の木の根で貫いた保倉の攻撃は、明らかにふたりの命を狙うものだった。ただ、狙ったからといってやすやすと討ち取れる相手ではない。
どういうわけか、朱禅も炉伯も車体の外にいて、無傷で保倉をにらみつける。そこを木の根が四肢を目指して巻き付いてきただけだが、双方、狼狽えていない事実が命を保証している。
「一応、聞いてやる。俺たちを攻撃する意図はなんだ?」
炉伯の声が、棒読みといってもいいほど抑揚のない声で昌紀に問いかける。
昌紀は「意味などない」と口にしながら、朱禅と炉伯に巻き付かせる木の根の力をぐっと強めた。
「貴様と遊んでいる暇はない」
これは朱禅の言い分で、同意しかないと炉伯もうなずく。そして、同時にピクリと眉を動かすと、ひくひくと口角を震わせた。
「数珠が反応しやがった」
「胡涅はなぜ、こうも目が離せんのだ」
二人の怒りは昌紀ではなく、建物の内側。あえていうなら、主人であり、恋人であり、生涯を誓った胡涅といっていいだろう。
視線だけで建物ごと破壊しそうな勢いで二人の顔が怒りに歪んでいく。
美形は怒ると怖いというが、彼ら二人が夜叉というなら、まさしくその通りだと誰もが納得する形相で朱禅も炉伯も血筋を浮き上がらせている。
「悪いな、保倉。我らは行く場所ができた」
「戯れなら、お前らの作る愚叉相手にやってろ」
バキバキと木の根が破壊されていく。けれど、木の根は破壊されるほど強度を増し、太く強く根をはって朱禅と炉伯の自由を奪っていく。かつて屋敷の地下に囚われた時のように、それは二人の自由を許さない。つまり、保倉は難なく二人に近づくと、長方形の短冊に似た護符を朱禅と炉伯の額にそれぞれ貼り付けた。
「しばらく眠っていてもらおう。堂胡様はああいうが、必要であれば胡涅様に貴様らの血を混ぜる」
まるで電池の切れたおもちゃのように、意識を眠らせた朱禅と炉伯に保倉の声は届いていない。そのとき白衣のポケットに入れていたのか、振動した携帯を取り出して、その画面を見た昌紀の顔が興奮して目を見開いていく。
「なんと……っ……身児神が顕現した、だと」
これは堂胡様に知らせなければと急き切った様子で画面を操作し、まずは、自分の目でデータを分析したいと息子から採取される血の検査結果を待った。
今は便利な世の中。
現場に足を運ばなくても、双子夜叉の前に待機しながら現状を把握することができる。もしも身児神が胡涅の体を借りているのであれば、ますます双子夜叉から目は離せないと昌紀の気は引き締まっていた。
「なにをしているのだ、あいつは」
昌紀の苛立ちは、一分も一秒も待てないとばかりに画面を見つめている。
本来なら採血など一番最初に終えているはずが、すでに胡涅が検査室に入ってから四十分がたつ。さすがに遅いと足を運ぼうとしたところで、携帯が再び振動し、検査結果が送られてきた。
「……ぉ……おおおお」
この興奮はなにものにも代えがたいと、昌紀は堂胡に連絡をする。いや、しようとした。それが出来なかったのは、バキバキと木の根が不快な音を立てて地面に崩れ、額の護符を手で引きちぎる二体の夜叉が目覚めたせい。
「やはり将門之介の護符は効く」
「何分意識が飛んだ?」
「数分だと信じたいが、洒落にならんぞ。炉伯、なまったか?」
「朱禅も人のこと言えねぇだろうが。油断してんじゃねぇよ」
ふるふると水浴びを終えた犬のように頭を振り、肩を回し、各々に悪態付きながら朱禅と炉伯はそこにいる。
昌紀は堂胡に連絡を取ろうとしていた携帯をひとまず白衣のポケットにいれ、再度、双子夜叉へと意識を向けた。今、この二人を好きにさせるわけにはいかない。そのわずかな変化に気付いたのか、炉伯と朱禅の瞳が怪訝に傾く。
そして現状を把握したらしい。
「おいおい、勘弁してくれよ。俺らの数珠を身につけさせてんだぜ?」
「御前とて、これは許せん」
胡涅の失態も二度目となると、朱禅と炉伯も慣れたような態度を示す。といいたいところだが、現実はそうもいかない。
怒りのあまり笑い始めた赤と青の肩の震えに気付くなら、世界はもっと平和だろう。
「胡涅の気配が消えたな」
「狭間路に隠れたか。将門が何かしたか?」
「護符のせいで詳細まで感じ取れないのが腹立たしい」
「戻れば匂いでわかる」
「隠れただけならいいが、閨(ねや)にこもられたらたまらねぇ」
先ほどの笑みを瞬時に消して、ほの暗い嫉妬と怒りの混ざった瞳が同時に深い息を吐き出す。それは重く、冷気をまとって地上に落ちた。
「さて、どうしてくれよう」
朱禅の声が、地を這うように聞こえたのもそのせいに違いない。その燃えたぎるような赤い瞳の奥に、ひとことでは言い表せない感情をみて、炉伯も同意しかないと声を落とす。
「ったく、護符なんざ面倒以外の何物でもねぇな。まあ、数珠を頼りに、ひとまず御前が隠れそうな場所を探りにいくしかな……ッ」
そこまで会話していた二人の姿が噴煙の中に消える。正確には空と地面、両方から、穴だらけにする勢いで貫かれた無数の木の根に消されていた。
「炉伯、貴様は胡涅を追え」
過去の状況を思えば、二人が同時に向かったところでエサになるだけだと理解する。
よくわからない植物の種は夜叉の血に反応するのか、保倉の命令通りに動き、朱禅と炉伯から夜叉本来の姿をこの世に引きずり出した。
「わかった」
日本刀で切りつけて、互いに巻き付く植物から脱出した二人は、別行動を決めたらしい。そうはさせないと保倉はお得意の植物で攻撃するが、何度も同じ手は味気ないと炉伯の気配はすぐに消えた。
「なっ、どこへ行った!?」
先ほどまで目の前にいた存在が消える。忽然とできた空白を認識できず、植物は駐車場のコンクリートに穴をあけたが、すでに穴だらけなのだから気にすることはない。
「どこ。とは、おかしなこと」
二本の巻き角と深紅の瞳を持った朱禅が息を吐く。
前髪を緩やかに揺らし、鼻から下を覆う口布を揺らし、しゃらんと鳴る耳飾りや腰飾りを揺らし、左手に髪と同じく白刃に光る刀を垂らして、コンクリートを突き破った植物上に立ちながら、朱禅がそこで笑っている。
「我らが眼中にあるのは胡涅のみ」
悪寒が走る。
恐怖と畏怖に全身が震える。いや、地面が揺れているのか。見えない重力に押し潰されるように朱禅を中心に地鳴りが押し寄せ、植物たちが一瞬で消し炭に変わっていく。
「なっ、なぜだ」
「なぜ。それは何に対する問いだ?」
あとは首を跳ねるだけと、悠然と近づく朱禅を保倉は見上げる。
いつの間にか尻餅をついていた。
気付いたときには朱禅の姿がすぐそこにあった。
「貴様が勝利を疑わぬ植物のはなしであれば、見たとおり。我らには何の害もない」
「二十五年前はそうではなかった。取巻草(とりまきそう)は、夜叉の捕縛に有効なはず」
「馬鹿か、貴様は。わざと捕まる必要のない場面で、貴様の道楽に付きやってやるほど、我らは悪趣味ではない」
「わざとだと?」
では先ほどの四十分ほどは何だったのかと、昌紀は見上げる風景にある夜叉に疑問を抱く。
それは朱禅も理解したのだろう。少し考える素振りをして、それから一人納得した顔で髪を揺らすと「数珠のせいだ」と忌々しそうに眉をひそめた。
「御前が無理やり我らの力を抑えたのと良いタイミングだった」
「御前……身児神のことか」
「そうだ。先ほどは御前の干渉があったが、二十五年前は、あえて捕らわれてやった」
それは何のために。声にならない保倉の問いかけに、赤い瞳が悠然と見下ろす。
「山となった王に代わり、御前の身柄と藤蜜を迎えると言ったことをもう忘れたか?」
まだ二桁に満たない年月だと、朱禅はあきれた顔で保倉を踏みつけた。
「まあ、つがいの蜜を得た今の我らは王にも勝るだろうが」
くつくつと笑うのは愉悦だろう。朱禅は心底嬉しそうな顔で「刃を交えてみたいものだ」と口角を歪めている。
「さあ、次は貴様が答える番だ」
「……ぐ」
「我のつがいに何をした」
答えなけれは切り殺すだけだと、赤の瞳は刃物片手に答えを待つ。
嘘ではない。見下ろす赤い瞳が物語っている。実際、朱禅は声にだして「我は気が長い方ではない」と宣告していた。
数秒。保倉は苦しみに顔を歪めたが、すぐに口角を上げて「埋めた」と短い声を吐き出した。
「身児神の身柄などもうない。胡涅様の心臓に、藤蜜姫から採取した夜叉核は埋まっている」
「それは六年前に聞いた」
早口で捲し立てる男の言葉など微塵も興味がない。
当に知った情報など、何の価値もないと赤い光が鋭利に変わる。
「我が聞きたいのは、我らが迎えにきた御膳は元より、胡涅が十八で受けた手術とやらの話ではない。つい数分前について聞いている」
白銀の夜叉は血に飢えた白刃で、保倉の首を狙い続ける。
赤い瞳は戯れすら許さず、刹那の時間さえも惜しいと圧倒的な恐怖で保倉を見下ろした。
「今一度問う、我らが胡涅に何をした」
うんざりした朱禅の声。その隣には、うんざりした顔の炉伯がいる。
二人の四肢に、がんじがらめに巻き付く木の根。
その発生源は、くたびれた白衣の男。
こめかみに青筋を浮き上がらせた朱禅と炉伯は、胡涅を見送ってすぐ、待機場所として与えられた駐車場で停車するなり、保倉昌紀に襲われていた。それは突然の襲撃で、コンクリートはもとより車ごと無数の木の根で貫いた保倉の攻撃は、明らかにふたりの命を狙うものだった。ただ、狙ったからといってやすやすと討ち取れる相手ではない。
どういうわけか、朱禅も炉伯も車体の外にいて、無傷で保倉をにらみつける。そこを木の根が四肢を目指して巻き付いてきただけだが、双方、狼狽えていない事実が命を保証している。
「一応、聞いてやる。俺たちを攻撃する意図はなんだ?」
炉伯の声が、棒読みといってもいいほど抑揚のない声で昌紀に問いかける。
昌紀は「意味などない」と口にしながら、朱禅と炉伯に巻き付かせる木の根の力をぐっと強めた。
「貴様と遊んでいる暇はない」
これは朱禅の言い分で、同意しかないと炉伯もうなずく。そして、同時にピクリと眉を動かすと、ひくひくと口角を震わせた。
「数珠が反応しやがった」
「胡涅はなぜ、こうも目が離せんのだ」
二人の怒りは昌紀ではなく、建物の内側。あえていうなら、主人であり、恋人であり、生涯を誓った胡涅といっていいだろう。
視線だけで建物ごと破壊しそうな勢いで二人の顔が怒りに歪んでいく。
美形は怒ると怖いというが、彼ら二人が夜叉というなら、まさしくその通りだと誰もが納得する形相で朱禅も炉伯も血筋を浮き上がらせている。
「悪いな、保倉。我らは行く場所ができた」
「戯れなら、お前らの作る愚叉相手にやってろ」
バキバキと木の根が破壊されていく。けれど、木の根は破壊されるほど強度を増し、太く強く根をはって朱禅と炉伯の自由を奪っていく。かつて屋敷の地下に囚われた時のように、それは二人の自由を許さない。つまり、保倉は難なく二人に近づくと、長方形の短冊に似た護符を朱禅と炉伯の額にそれぞれ貼り付けた。
「しばらく眠っていてもらおう。堂胡様はああいうが、必要であれば胡涅様に貴様らの血を混ぜる」
まるで電池の切れたおもちゃのように、意識を眠らせた朱禅と炉伯に保倉の声は届いていない。そのとき白衣のポケットに入れていたのか、振動した携帯を取り出して、その画面を見た昌紀の顔が興奮して目を見開いていく。
「なんと……っ……身児神が顕現した、だと」
これは堂胡様に知らせなければと急き切った様子で画面を操作し、まずは、自分の目でデータを分析したいと息子から採取される血の検査結果を待った。
今は便利な世の中。
現場に足を運ばなくても、双子夜叉の前に待機しながら現状を把握することができる。もしも身児神が胡涅の体を借りているのであれば、ますます双子夜叉から目は離せないと昌紀の気は引き締まっていた。
「なにをしているのだ、あいつは」
昌紀の苛立ちは、一分も一秒も待てないとばかりに画面を見つめている。
本来なら採血など一番最初に終えているはずが、すでに胡涅が検査室に入ってから四十分がたつ。さすがに遅いと足を運ぼうとしたところで、携帯が再び振動し、検査結果が送られてきた。
「……ぉ……おおおお」
この興奮はなにものにも代えがたいと、昌紀は堂胡に連絡をする。いや、しようとした。それが出来なかったのは、バキバキと木の根が不快な音を立てて地面に崩れ、額の護符を手で引きちぎる二体の夜叉が目覚めたせい。
「やはり将門之介の護符は効く」
「何分意識が飛んだ?」
「数分だと信じたいが、洒落にならんぞ。炉伯、なまったか?」
「朱禅も人のこと言えねぇだろうが。油断してんじゃねぇよ」
ふるふると水浴びを終えた犬のように頭を振り、肩を回し、各々に悪態付きながら朱禅と炉伯はそこにいる。
昌紀は堂胡に連絡を取ろうとしていた携帯をひとまず白衣のポケットにいれ、再度、双子夜叉へと意識を向けた。今、この二人を好きにさせるわけにはいかない。そのわずかな変化に気付いたのか、炉伯と朱禅の瞳が怪訝に傾く。
そして現状を把握したらしい。
「おいおい、勘弁してくれよ。俺らの数珠を身につけさせてんだぜ?」
「御前とて、これは許せん」
胡涅の失態も二度目となると、朱禅と炉伯も慣れたような態度を示す。といいたいところだが、現実はそうもいかない。
怒りのあまり笑い始めた赤と青の肩の震えに気付くなら、世界はもっと平和だろう。
「胡涅の気配が消えたな」
「狭間路に隠れたか。将門が何かしたか?」
「護符のせいで詳細まで感じ取れないのが腹立たしい」
「戻れば匂いでわかる」
「隠れただけならいいが、閨(ねや)にこもられたらたまらねぇ」
先ほどの笑みを瞬時に消して、ほの暗い嫉妬と怒りの混ざった瞳が同時に深い息を吐き出す。それは重く、冷気をまとって地上に落ちた。
「さて、どうしてくれよう」
朱禅の声が、地を這うように聞こえたのもそのせいに違いない。その燃えたぎるような赤い瞳の奥に、ひとことでは言い表せない感情をみて、炉伯も同意しかないと声を落とす。
「ったく、護符なんざ面倒以外の何物でもねぇな。まあ、数珠を頼りに、ひとまず御前が隠れそうな場所を探りにいくしかな……ッ」
そこまで会話していた二人の姿が噴煙の中に消える。正確には空と地面、両方から、穴だらけにする勢いで貫かれた無数の木の根に消されていた。
「炉伯、貴様は胡涅を追え」
過去の状況を思えば、二人が同時に向かったところでエサになるだけだと理解する。
よくわからない植物の種は夜叉の血に反応するのか、保倉の命令通りに動き、朱禅と炉伯から夜叉本来の姿をこの世に引きずり出した。
「わかった」
日本刀で切りつけて、互いに巻き付く植物から脱出した二人は、別行動を決めたらしい。そうはさせないと保倉はお得意の植物で攻撃するが、何度も同じ手は味気ないと炉伯の気配はすぐに消えた。
「なっ、どこへ行った!?」
先ほどまで目の前にいた存在が消える。忽然とできた空白を認識できず、植物は駐車場のコンクリートに穴をあけたが、すでに穴だらけなのだから気にすることはない。
「どこ。とは、おかしなこと」
二本の巻き角と深紅の瞳を持った朱禅が息を吐く。
前髪を緩やかに揺らし、鼻から下を覆う口布を揺らし、しゃらんと鳴る耳飾りや腰飾りを揺らし、左手に髪と同じく白刃に光る刀を垂らして、コンクリートを突き破った植物上に立ちながら、朱禅がそこで笑っている。
「我らが眼中にあるのは胡涅のみ」
悪寒が走る。
恐怖と畏怖に全身が震える。いや、地面が揺れているのか。見えない重力に押し潰されるように朱禅を中心に地鳴りが押し寄せ、植物たちが一瞬で消し炭に変わっていく。
「なっ、なぜだ」
「なぜ。それは何に対する問いだ?」
あとは首を跳ねるだけと、悠然と近づく朱禅を保倉は見上げる。
いつの間にか尻餅をついていた。
気付いたときには朱禅の姿がすぐそこにあった。
「貴様が勝利を疑わぬ植物のはなしであれば、見たとおり。我らには何の害もない」
「二十五年前はそうではなかった。取巻草(とりまきそう)は、夜叉の捕縛に有効なはず」
「馬鹿か、貴様は。わざと捕まる必要のない場面で、貴様の道楽に付きやってやるほど、我らは悪趣味ではない」
「わざとだと?」
では先ほどの四十分ほどは何だったのかと、昌紀は見上げる風景にある夜叉に疑問を抱く。
それは朱禅も理解したのだろう。少し考える素振りをして、それから一人納得した顔で髪を揺らすと「数珠のせいだ」と忌々しそうに眉をひそめた。
「御前が無理やり我らの力を抑えたのと良いタイミングだった」
「御前……身児神のことか」
「そうだ。先ほどは御前の干渉があったが、二十五年前は、あえて捕らわれてやった」
それは何のために。声にならない保倉の問いかけに、赤い瞳が悠然と見下ろす。
「山となった王に代わり、御前の身柄と藤蜜を迎えると言ったことをもう忘れたか?」
まだ二桁に満たない年月だと、朱禅はあきれた顔で保倉を踏みつけた。
「まあ、つがいの蜜を得た今の我らは王にも勝るだろうが」
くつくつと笑うのは愉悦だろう。朱禅は心底嬉しそうな顔で「刃を交えてみたいものだ」と口角を歪めている。
「さあ、次は貴様が答える番だ」
「……ぐ」
「我のつがいに何をした」
答えなけれは切り殺すだけだと、赤の瞳は刃物片手に答えを待つ。
嘘ではない。見下ろす赤い瞳が物語っている。実際、朱禅は声にだして「我は気が長い方ではない」と宣告していた。
数秒。保倉は苦しみに顔を歪めたが、すぐに口角を上げて「埋めた」と短い声を吐き出した。
「身児神の身柄などもうない。胡涅様の心臓に、藤蜜姫から採取した夜叉核は埋まっている」
「それは六年前に聞いた」
早口で捲し立てる男の言葉など微塵も興味がない。
当に知った情報など、何の価値もないと赤い光が鋭利に変わる。
「我が聞きたいのは、我らが迎えにきた御膳は元より、胡涅が十八で受けた手術とやらの話ではない。つい数分前について聞いている」
白銀の夜叉は血に飢えた白刃で、保倉の首を狙い続ける。
赤い瞳は戯れすら許さず、刹那の時間さえも惜しいと圧倒的な恐怖で保倉を見下ろした。
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